ストライクウィッチーズ1995~時を越えた出会い~
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第十四話 ロマーニャの街①
前書き
アニメ本編に準拠するような流れになって来てしまいましたね。
まあ、押さえておきたい原作のポイントってのもありますし。
来週からまた出かけなくてはならなくなるため、連続更新です。
どうぞ。・・・まあ、読んでる人はそんなにいないと思いますが(・ω・`)
――ロマーニャ基地 午前
人騒がせなジェットストライカー『Me262』が本国に送還されて数日が経ったある日。連日のように続いた芋料理にすっかり飽き、バルクホルンの体力も回復した頃。食材や身の回りの生活雑貨を揃えるべく、街へ買い物に行こうという話が持ち上がった。
「そうねぇ、ネウロイの襲撃予報からも外れているし、この前も戦闘があったばかりだから、いいタイミングかも知れないわね」
買い物に行こうと話を持ち出したのは、実はリーネだった。
ジェットストライカーを回収しに来たカールスラントの連絡機が置いていった大量のジャガイモが最近のメインになっていたのだが、さすがにそれにも飽きがきて不満が出るようになっていたのだ。それならば、と言う事で、新鮮な野菜などの食材を確保しつつ、身の回り品などを揃えてはどうか、という話になったのである。
「うむ。さすがにこうまで芋続きだとなぁ、これ以上は私も正直飽きていたところだったんだ」
「す、すみません。坂本少佐……」
「リーネが気にすることじゃない。昨日の昼に出してくれたコロッケはなかなか絶品だったぞ」
こうして、部隊長二名の承認の下、ロマーニャの町まで買い出しに行くことが決定したのだが、問題は人選である。
「とりあえず、ロマーニャを案内するためにルッキーニさん。それから、大型トラックの運転にシャーリーさんを連れていく必要があるわね」
談話室に集まった部隊の皆を見ながら、ミーナが指示を出す。いくら非番とは言え、ピクニック気分で全員が基地を空けるわけにはいかないのだ。最低限の人間は、基地に残しておく必要がある。
「ま、トラックの運転ならわたしに任せてくれよ」
「ロマーニャはあたしが案内するからね!!」
やる気満々の二人は置いておくとして、残るメンバーを決めなくてはならない。
なにしろ全員分の買い物をするのだ。シャーリーとルッキーニだけでは無理がある。
「ふむ、ではあと二人を買い出し班にして、残りは基地待機にしよう」
「そうね。買い物は一度にまとめて書き出しましょう」
坂本の提案に頷いたミーナはしばし黙考し、ややあってから顔を上げた。
「――じゃあ、沖田さんと宮藤さんに願いするわ」
「ええっ!! わたし達でいいんですか?」
「お洗濯とかあるんじゃ……」
遠慮する二人にミーナは笑うと、
「沖田さんはまだこの基地の中しか出歩いたことがないでしょう? せっかくなんだからたまには羽を伸ばしてもいいと思うわ。それに、食材や必需品には宮藤さんが詳しいでしょう?」
なるほど、確かにミーナの言う通りかもしれない。
そうとなれば話は早い。さっそく確認の希望を聞きだしてメモにまとめていく。
「そうだな……うむ、せっかくだから501共用のラジオを買おう。最近はナイトウィッチ同士のラジオが流行っているらしいからな」
と、これは坂本の希望。個人での買い物は特に無いようである。
「お菓子!! お菓子がいい!!」
「お前に必要なのは目覚まし時計だろうハルトマン!!」
お菓子を所望するのはエーリカで、頑として却下するのはバルクホルンだ。
苦笑いしつつ、和音はメモ帳に確認の希望をまとめていく。宮藤は厨房に戻って食材の確認をしているところだった。表ではシャーリーがトラックをガレージから出してきている。
「ピアノ! ピアノがいい!!」
「……エイラ、それはいくら何でも無茶なお願いよ」
確認の細かい要求を何とか書き留めると、表から大きなクラクションの音がした。
「おーい、こっちは準備できたぞー!!」
「やっほー!! わたしのロマーニャ!!」
窓から身を乗り出すルッキーニを危なげなく引き戻しながら、シャーリーが手を振っている。
メモ帖をポケットにねじ込むと、ちょうど厨房から出てきた宮藤と一緒にトラックへ向かう和音。なぜかリーネが心配そうな顔でこちらを見ていたが、和音は特に気にしなかった。
「楽しみだね、和音ちゃん」
「そうですね。わたしもロマーニャは初めてです」
「さぁて、しっかり掴まってろよ二人ともっ!!」
「いっけぇ!! シャーリー!!」
やがて二人を乗せたトラックは勢いよく発車し、見る間に小さくなっていく。
安全運転とは程遠いハンドルさばきに一抹の不安を覚えつつ、坂本らは和音らを見送ったのだった。
――ロマーニャ市街
「うわぁ!! ロマーニャって大きいですね!!」
「すご~い!! 横須賀なんかよりずっと都会だよ!!」
嵐のようなシャーリーの運転に耐える事数十分ほど。三途の川を渡りかけた宮藤と和音だったが、それもロマーニャの街に着くまでの事。息も絶え絶えでトラックから降りた二人は、目の前に広がる美しい街並みにしばし言葉を失った。
「ま、欧州でも有数の都市だからな。ルッキーニの故郷なんだぞ?」
「これが私のロマーニャだよ!! ね? すっごく綺麗でしょ!?」
両手をいっぱいに広げて自慢するルッキーニだが、なるほど確かにすばらしい都市だ。これが果たして欧州有数の激戦区の都市なのだろうか? 石造りの街並みや道路、あちこちで響く呼び込みの声。人も、物も、戦時下とは思えないほど活発に行き来している。
「さぁ、今日はピクニックに来たわけじゃないんだぞ? ミーナ隊長から軍資金を預かって来たから、各自で手分けして買い物をしよう。集合場所は、あそこの噴水前だからな?」
「分かりました、シャーリーさん」
「ルッキーニちゃんをお願いしますね、シャーリーさん」
じゃあトラックを停めてくるから、そう言い残してシャーリーとルッキーニは行ってしまった。さすがに往来のド真ん中に軍用の大型トラックを停めるわけにはいかないのである。地理の案内はルッキーニがいるから、駐車場所も見つかるだろう。
「じゃあ、二人で手分けしてさがそっか、和音ちゃん」
「いえ、それでは迷子になってしまうかもしれませんし、一緒に行きましょう」
「そうだね。行こう、和音ちゃん」
「はい!!」
ズシリと重い軍資金の入った財布をしっかりと握りしめ、宮藤と和音は街の大通りへと入ってゆく。普段は見かけない東洋人の二人連れ―未来人が若干一名―を物珍しそうに見やる人もいたが、そこは古来よりウィッチの街。和音たちがウィッチであることを知ると、ブリタニア語で親切に道を案内してくれた。
「親切な人たちでよかったね~」
「ですね。わたしもブリタニア語を勉強してよかったです」
「あれ? 和音ちゃん語学苦手なの?」
「ええっと、その……まあ、なんと言いますか、人には向き不向きというものがありまして……」
頬をかきつつ言う和音は、唯一語学だけが大の苦手だった過去がある。
先ほどの道案内の際にも、スラスラと滑らかな口調でブリタニア語を操る宮藤を見て大層打ちのめされていたりするのだ。
(一体いつブリタニア語を勉強したんだろう……?)
やはり習うより慣れろと言う事なのか……とどうでもいいことで頭を悩ませていると、宮藤が通りの向かい側で手を振っていることに気がついた。
「どうしたんですか、宮藤さん」
「あのね、さっきのおじいちゃんが、この先に青物市場があるって」
「なるほど、食材の調達ですか」
和音はしばらく考え込む。どのみち、一度に全ての買い物を済ませることはできない。何度かトラックを往復することになるだろう。だったら、先に見つけた青物から買ってしまおう。
「じゃあ、行ってみましょうか」
「そうだね!!」
お爺さんに礼を言って、二人は大通りを進んでいく。
手にした編み籠を揺らしながら、二人はロマーニャの街を歩いて行った。
「この辺に駐車しておけばわかるだろ……よっと!!」
ようやく大きなトラックを駐車できる場所を見つけたシャーリーは、ドアを開けてトラックから降りる。ちょうどそこは、集合場所の噴水広場からもよく見えるところだった。
「ねぇねぇシャーリー、鍵掛けとかなくてもいいの?」
「ん? ああ、そしたら宮藤達が入れなくなっちゃうだろ? それに、軍のトラックに堂々と盗みに入るような間抜けなんていないさ」
ここはウィッチの街だしな、と付け加え、すっかり退屈していたらしいルッキーニを抱きかかえると、シャーリーはメモ帳を取り出して買い物を確認していく。
「えっと……食材は宮藤達で、わたし達が買いに行くのは……」
ポケットから取り出したメモ帳を目で追おうとしたその時、ルッキーニがシャーリーのジャケットの裾を強く引っ張った。
「どうした、ルッキーニ」
「シャーリー!! あそこ!!」
強い口調で言うルッキーニの視線の先をみると、そこには一台の高級車が停まっていた。
滅多に見かけるものではないが、それがどうかしたのだろうかとシャーリーが訝しんだ時だった。
「あっ!! アイツら!!」
「誘拐だ!!」
いきなり車のドアが開いたかと思うと中から一人の女の子が飛び出してくるではないか。さらにその女の子をスーツ姿の男性が3名ほど追いかけている。必死に逃げる女の子の表情からは危機感がありありと感じられた。
「わたしのロマーニャで好き勝手なことさせないんだから!!」
「あ! こら待てルッキーニ!!」
言うが早いか、ルッキーニはまるで猫のような俊敏さで道路を横断し、女の子が走って行った路地の奥に入ってしまう。あわてて後を追いかけようとするシャーリーだったが、ちょうどそこへ荷物を満載にしたトラックが通りかかり足止めを食らってしまう。ようやく横断できるようになった時にはもう、ルッキーニも女の子もどこにも見当たらなかった。
「これはヤバいぞ……!!」
どうにも不穏な事件に首を突っ込んでいるらしいことを直感したシャーリーは、急いでトラックへと取って返す。とりあえずルッキーニを追わなくては話にならない。もう買い物どころの騒ぎではなかった。
「宮藤達はどこだ? アイツらにも手伝ってもらわないと無理だな……」
何しろロマーニャは広い。加えてルッキーニの故郷なのだ。家の庭も同然に勝手を知り尽くしているだろうことは想像に難くない。探すのは骨が折れそうだった。
己のカンだけを頼りに走り出したシャーリーは、嫌な予感に胸騒ぎが止まらないでいたのだった――
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