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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
  紅髪の武将

クーの背に乗ったリーファ達を待っていたのは、地獄絵図だった。

ぼだぼだ、と空高くからこれでもかと言うほど降る────

寸断された、サラマンダーの死体。

システムが認知する度合いを超えているのだろうか、死亡してから明らかに数秒の時間が経っているのに、重戦士達の亡骸はエンドフレイムに包まれない。ただ、打ち捨てられた彫像のようにそこに放って置かれているだけだ。

あまりの光景に、リーファは口元を押さえる。

吐き気がした。

この光景が、アミュスフィアに見せられるデジタルコードの塊だと、にわかには信じられなかった。

半分本能的に空を仰ぎ、そして今更のように気が付く。

サラマンダーが降ってくる、その上空。

眩しいほどの青空の中に翅を広げて静止する、血色のフードコートと闇色のロングマフラーを着込むケットシーの少年。

リーファの位置からは、背を向けられて顔は見えないが、それでもその小さな背中からは見えざる圧力のようなものが放射されているように感じた。反射的に、身を引いてしまう。

それでだろうか、空中に浮かぶもう一人の存在に気付いた。

炎の色の短髪を剣山のようにツンツンと逆立て、浅黒い肌に猛禽に似た鋭い顔立ち、逞しい身体を、ひと目で超レアアイテムと知れる赤銅色のアーマーに包み、背にはキリトに優るとも劣らぬ巨剣を装備している。

真紅に光るその双眸は、通常の時ならば背筋を凍らせられるほどのプレッシャーを放っていただろうが、今はそこには光がない。

放心したかのように、ギリギリのところで浮かんでいるという状態だ。

その奇妙な沈黙の中でクーの背からすとんと降りたリーファは、シルフと思しき集団に駆け寄る。

見渡すと、すぐに特徴的な衣装の人物が見つかる。

「サクヤ」

小声で声を掛けると、そのシルフは呆然とした表情で振り向き、さらに眼を丸くした。

「り、リーファ?どうしてここに───?い、いや、そもそもこれは一体────」

彼女がこんなに取り乱すところは初めて見たなぁ、と思いながら、リーファは口を開いた。

「簡単には説明できないのよ。まぁだけど、その時間はどうやらゆっくり取れそうだけどね」

「……何がなにやら…………、サラマンダーが集団で襲ってくるわ、ケットシーの《終焉存在(マルディアグラ)》がそれを薙ぎ倒すわ…………」

うぅ、と頭を抱えるシルフの心中を思いやりながら、リーファは改めてサクヤ────現シルフ領主の姿を見やった。

女性シルフとしては秀でた長身、黒に近いダークグリーンの艶やかな直毛を背に長く垂らし、その先を一直線にピシリと切り揃えている。

肌は抜けるように白く、切れ長の眼、高い鼻筋、薄く小さな唇と言う美貌は刃のような、という形容詞がふさわしい。

身に纏うのは、前合わせの和風の長衣。帯に無造作に差してあるのは、カグラの持つ長刀もかくやというほどの大太刀だ。裾から覗く真っ白な素足に、真紅の高下駄を突っ掛けている。

一目見れば忘れられないその姿は、領主選挙での得票率が八割に近いのも頷けるほど印象深い。

もちろん、その得票の全てが美貌によるものではない。

領主の多忙さゆえにあまり狩りには出られず、数値的ステータスは高いとは言えないが、デュエル大会では常に決勝に進むほどの剣の達人でもあり、公正な人柄で人望も厚い。

視線を動かすと、その隣に立つ小柄な女性プレイヤーの姿が眼に入った。

とうもろこし色に輝くウェーブヘア、その両脇から突き出た三角形の大きな耳はケットシ-の証だ。

小麦色の肌を大胆に晒し、身にまとうのはワンピースの水着に似た戦闘スーツ。両腰に、巨大な三本のツメが突き出たクロー系の武器を装備している。

スーツのお尻の部分からは縞模様の長い尻尾が伸び、本人の緊張と混乱を表してかぴくぴくと震えている。

横顔は、睫毛の長い大きな眼、ちょっとだけ丸く小さな鼻、多少愛嬌のありすぎるきらいはあるが、こちらもALO基準に照らせば驚くほどの美少女ぶりだ。

直接まみえるのは初めてだが、彼女がケットシー領主のアリシャ・ルーだろう。サクヤと同じく、圧倒的な人気で長期の政権を維持している。

並んで立つ二領主の後ろをちらりと見ると、白い長机の左右にシルフとケットシーが六人ずつ、揃って呆然とした顔で立ち尽くしていた。

無論ケットシーは全員初めて見る顔だが、シルフは執政部の有力プレイヤーばかりだ。念のため確認したが、やはりシグルドの姿はない。

そこまでを見てリーファは、ん?とサクヤの言葉の中で理解不能な単語に引っ掛かりを覚えた。

「サクヤ、まるでぃ………何だって?」

「え?あぁ、《終焉存在(マルディアグラ)》というのは、ケットシーのフェンリル隊隊長に与えられた二つ名のことだ。その実力から、ケットシーの最終兵器とも呼ばれている…………」

サクヤの言葉は、リーファはもう半分聞いていなかった。

なぜなら、サクヤの言葉にあったフェンリル隊というのは、リアルで言えば一国家の軍隊と並び立つものだからだ。

ケットシーの最終戦力と呼ばれているのは、主に二つ。

天空を支配する飛竜に手綱を通した竜騎士(ドラグーン)隊。

地を駆け、大河をも一跳びに越える巨狼を従える狼騎士(フェンリル)隊。

切り札として厳重に秘匿され、スクリーンショットすら流出したことのない伝説の戦士達。レンの実力から、かなりの手練れとは思ってはいたが、その一隊の長と言うのはさすがに完全なる想定外だった。

改めて視線を、これまでとは少し異なる色合いで台地南端の上空、二人の対極的なプレイヤーに向けたとき、方針の体と言った大柄なサラマンダーが弱々しく口を開いた。

「………なるほど、貴様がケットシーの《終焉存在(マルディアグラ)》。いつも放浪ばかりしている酔狂な奴だとは聞いていたが、まさかこんな小僧だったとは、な…………」

その声も見た目に違わず、地の底から響いてくるような重低音だが、やはり欠片も覇気というものがない。

まぁ、これだけ仲間を引き連れて楽勝だと思っていた領主暗殺が失敗したとなれば、その心中は押して図るものだが。

「こっちも驚いたよ。ウチの領主を狙うなんて言うんだから、どれだけの軍隊を率いてくるかと思って来てみたら、三桁にも昇らないハエの群れ…………」

ぞく、と。リーファの背筋に冷水をぶち込まれたような感覚が走った。

遥か上空に浮かぶレンの身体から、壮絶なまでのプレッシャーが解き放たれた。

直接こちらを見ていないどころか、顔すら見えていないのにこの圧力。みし、と膝が嫌な音を響かせる。

そして、その圧力を真正面から向けられている大柄なサラマンダーの顔は、遠目に見てもみるみる青ざめていく。

「なめてるの?」

ついに栓を外したかのように、レンの体から明確な異常が溢れ出た。

小柄な身体から、漆黒よりもまだ黒い、闇の底のような真っ黒な瘴気が滲むように溢れ出てきた。

ビリビリ、と台地に立ち尽くすリーファの足元に生えている背の低い草が、放射状に倒される。

「ま、かの《猛将》を寄越して来るんだから、モーティマーのおじさんも少しは本気だったのかねー」

「俺を………知っているのか?」

「ユージーンでしょ?その無駄にでっかい剣で有名になった、ただの雑魚」

ここで初めて、ユージーンという名前らしいサラマンダーの顔に呆然以外の感情が浮かび上がった。それは恐らく、憤激と呼ばれるものだろう。

ぎりり、と砕かんばかりに噛み合わされる歯の音がここまで聞こえてくる。

そして、ここで隣のサクヤがそうか、と小さく呟いた。

「ユージーン。どこかで聞いたことがあると思ったら、サラマンダー領主《モーティマー》の弟………リアルでも兄弟らしいがな。知の兄に対して武の弟、純粋な戦闘力ではユージーンのほうが上だと言われている。現在ALOの最大勢力である、サラマンダー最強の戦士………ということはつまり────」

「全プレイヤー中最強…………?」

「ということになるかもしれん。それに、あの両手剣。レジェンダリーウェポンの紹介サイトで見たことがある。《魔剣グラム》…………」

サクヤの言葉に答えたかのように、上空ではサラマンダーがじゃりん!と音高く抜剣するところだった。

「聞けば貴様はワイヤーなどと言うふざけた武器を使うらしいな」

「へぇ、よく知ってるんだね」

どこかとぼけたようなレンの言葉を、サラマンダーは完璧に無視して口を開く。

「確かにこの戦いは俺の敗北だ。だからと言って、意地汚く足掻くほど俺は恥知らずでもない。しかし────」

ぎらり、と双眸を輝かせてサラマンダーはレンをねめつける。

「せめて貴様だけは、必ず殺す………!」

その言葉に対して、レンの表情は全く見えない。しかし、リーファは如実に感じた。レンは、笑っている。

「いいね。そう言うヒト、僕は好きだよ。…………《体術》だけで充分かと思ってたけど、さすがにそれじゃあおじさんに失礼だよね。だから────」

すーっと、レンの体を包む雰囲気が変わったのを感じた。

何と言ったらいいのだろうか。それまでと全く体勢は変わっていないのに、身体に芯が通ったとでも言うのだろうか。それまでは、力が入っていないようにだらりと垂れていた四肢が、ほんの少しだけ鎌首を上げている。

一瞬の沈黙。

瞬間の刹那。

張り詰めたその空気の中でレンは、一人で高らかに、どこか歌うように

「本気で行く」

宣言した。

瞬間、両者の激突音が響き渡った。 
 

 
後書き
なべさん「始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「いよいよユージーン登場か~」
なべさん「頑張ってもらいたいよね、おじさんには」
レン「なぜそんなに投げやりなんだ」
なべさん「サァネェー」
レン「…………はい、自作キャラ、感想を送ってきてください」
──To be continued── 
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