| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第18話 何事にもアフターケアーは大事

「いらっしゃいませぇ~」

 陽気な雰囲気の似合う喫茶店の中で似つかわしくないテンションの低い間延びした声が響く。そして、その店内にはこれまた店の雰囲気に似合わない感じの店員が店内に居た。
 銀髪の天然パーマで死んだ魚の目をした体全体で堕落しきった感じのやる気の欠片も感じさせない店員が店内に居た。
 誰もが分かると思うが、その店員は勿論坂田銀時こと銀さんその人であった。明らかに店の雰囲気と銀さん自体がかなりミスマッチを奏でている。入ってきた客達も流石に店の雰囲気にどう対応したら良いのか困り果てる始末となっていた。

「ちょ、ちょっと銀さん! 店の雰囲気ぶち壊してるから! 笑顔で接客してくれないと困るからさぁ」

 流石に客の放ちだす空気を察したのか恭也が現れて駄目だしを言い放つ。が、それに対しても銀時自身全く意に返そうともせずであり。

「あんだよぉ~。俺ぁこのダルダルしたノリで今までやってきたんだからさぁ。今更駄目だしとか有り得ないんじゃねぇのぉ? アサキムさんよぉ」
「だから中の人関連の名前で言うんじゃねぇよ! 何度言ったら分かるんだよ」

 どうやら銀時の中では恭也は既に緑川とそれに関連すると言う名で通っているようだ。下手すると何処か偉い人達に怒られそうで結構ヒヤヒヤ物だったりする。

「あ~、何か駄目だしされちまったからめっさ疲れちまったわぁ。ちぃっとばっかし休憩に入っから後宜しく頼むなぁ。ヒ○ロ・ユイ」
「だから中の人ネタ使うなってんだよ! 後なんでそんだけで休憩入ろうとしてんだ! あんた仕事入ってからまだ30分しか経ってないだろうが! 何処探してもないぞ、勤務時間1時間未満なんてさぁ!」
「良いんだよぉ。何故なら俺は主人公なんだからよぉ。何時までもこんなバイト風景とか出されても読者は飽きちまうのがオチなんだから良いんだよぉ其処はさぁ。アニメとかだとたった3分しか経って無くても実際は3時間位経ったってのとか良くあるんだしさぁ、其処は巻きで行こうや。巻きでさぁ」

 等と意味不明な事をほざきながら逃げようとする銀時。しかし、そんな銀時の襟首を掴み上げる恭也。

「逃がすと思ったかぁ! お前のせいで家はかなり赤字が出てるんだからなぁ! その赤字を取り戻すまで絶対に逃がさないから覚悟しておけ……」

 台詞を言い終わる前に恭也は違和感を感じた。掴んでいたその手に本来感じられる重みが全く感じられない。それに疑問を感じた恭也は手元を見る。其処には本来居た筈の坂田銀時の姿は何処にもなく、代わりに先ほどまで銀時が羽織っていた翠屋の名前の彫られていたエプロンが其処にあるだけであった。

「あ、あの天然パーマアアァァァァァ! 何処行ったあああぁぁぁ!」

 お昼時の喫茶店からしてみれば正に稼ぎ時の翠屋内にて、完全にぶち切れた緑k……基、恭也の怒号が響きまくるのであった。




     ***




 翠屋のバイトから逃げ出した銀時は外で同様に翠屋のバイトを抜け出してきた新八、神楽と合流を果たした。
 そしてユーノは神楽と共についてきた定春の頭の上に乗っかっている。そうしないと定春に見つかって美味しく齧られてしまうからだ。

「銀さん、バイトは上手く抜け出せましたか?」
「あぁ、問題ねぇ。後腐れなくしっかり抜け出してきたぜ。そう言うお前等は?」
「僕と神楽ちゃんは仮病を使って抜け出しました」

 どうやら二人共本日のバイトをエスケープした模様だ。しかし、果たしてそんな事をして大丈夫なのだろうか?
 以前の話を見ている人ならお分かりだろうが、実はこのメンバーは翠屋の料理をタダ食いしてしまったのだ。それだけなら謝れば何とか済むだろうが、何を隠そうそれを知った銀時達は謝るどころか食い逃げを慣行したのである。
 が、勿論そんな事を許す訳もなく、恭也の手により御用となってしまった。
 その後、食った分の支払いをする為に翠屋で働く羽目となったのだが、元からやる気の欠片もないこいつらがまともに仕事など出来る筈もなく、仕事はグダグダなのは当たり前として、注文の品は食い荒らす上に調理中の食材にすら手を出す始末。
 結果として店の経営は赤字の日々を繰り返す羽目となり、返って支払額が上乗せされる始末となり、結果として現在までバイトを続ける羽目となっていた次第であり――

「もう良いってんだよ。何時までもんな辛い過去話語ってんだよ。もう見たくねぇんだよ! 何時までも後ろ向いてんじゃねぇよ根腐れしてぇのかぁ!?」
「はいはい、分かりましたから……それで、これから僕達は何をすれば良いんですか?」
「決まってんだろうが! こないだ逃げてったあの金髪変態女の捜索だよ。あんにゃろうとっ捕まえて一辺しばき倒してやらにゃ俺の気が納まらねぇんだよぉ!」
「嫌、その発言止めてくんない? かなり危ない路線行っちゃってるから。下手したら薄い本みたいな展開になっちゃう危険性もあるからさぁ」

 青ざめる新八を他所に、怒り心頭の銀時と神楽なのであった。事実、二人が怒り心頭になるのも無理はない。
 銀時はその金髪変態女……基、フェイトに一張羅を台無しにされた挙句ボコボコにされた経歴があり、神楽も神楽で大事な妹分でもあるなのはを誘拐された為に腹の虫が収まらない次第なのである。

「あぁ、もう! 何か想い出してきたら余計に腹立ってきた。おいユーノ! あんにゃろうの事探し出すとか探知するとかしろやぁ! 今すぐあの野郎叩きのめさにゃ俺の気が納まらねぇ!」
「すみません、流石に相手が魔力反応を放ってくれてないとどうしようもないんですが……」
「んだよ使えねぇ奴だなぁ。てめぇはそれだから何時まで経ってもフェレットなんだよ。ちったぁ本気見せてみろや!」
「あれ? 何だろう……目から涙が止まらないや。何でだろうかなぁ?」

 気がつくと定春の上で涙を流すユーノの姿があった。が、そんなユーノの事などお構いなしに銀時達は走り続けた。
 目的地も行く宛も決まってないまま。




     ***




「本当に、今更だけど信じられないよねぇ」

 プレシア・テスタロッサの元から帰って来たなりいきなりのこれである。発言主はアルフであり、その彼女の目の前にはアルフに向い背中を向けているフェイトの姿があった。
 フェイトの背中には先ほどまで痛々しく残っていた鞭の跡が綺麗さっぱり消え去っていた。痛みも殆どない。寧ろ今まで以上に健全な状態になったと言える。
 また、その言葉はフェイト自身にも言えた。彼女も信じられなかったのだ。
 あれだけボロボロだった体が一瞬の内に元通りになっているのだから。
 そして、そんな二人の目の前には、すっかり元気になったなのはの姿があり。

「本当に御免ね。何か皆に迷惑掛けちゃったみたいで……」
「う、ううん! そんな事ないよ」

 謝罪の言葉を述べるなのはにフェイトは首を横に振って返答した。発端は帰ってからの事である。
 弱りきったなのはとボロボロのフェイトを抱えてマンションに帰って来たまでは良かったのだが、結局その後どうする事も出来ず二人一緒に寝かせる事しか今のアルフには出来なかったのだ。
 出来る限りの治療を施そうと医療器具を持ってきた際、アルフは見た。眠っているフェイトの手がなのはの体に触れた途端、眩い光が触れた手を通じてフェイト全体を覆っていく光景を。
 そして、その光が止むと、フェイトの傷は全て消え去っており、体も健康体になっていたのだ。
 更に驚くべきことに、今の今まで高熱で倒れていたなのはが回復し、今ではこうして普通に歩けるようになっている次第なのだ。

(あの時のあれって、もしかして治療魔法とか?)
(違うと思う。なのはは魔法の経験が殆どないから、でも、魔力の類は感じられたよ)

 二人共首を傾げる始末であった。見ての通りなのはには魔法経験は殆どないと言える。あの銀時達と同じ江戸の町出身の人間が自分達と同じ魔法を使えるとは到底思えない。
 だが、確かにフェイトは感じた。なのはの中に魔力の類がある事を。一体どう言う事なのだろうか?

「ねぇ、フェイトちゃん」
「何?」

 調理の仕込みをひと段落終えたなのはがフェイトの前に歩み寄り声を掛けてきた。その時のなのはの顔は今までの明るく聡明な顔から一変して真剣な面持ちになっていた。

「何で、フェイトちゃんはお父さんと戦ってるの?」
「何でって、なのははお父さんに酷い目に遭わされてるんでしょ?」
「ううん、そんな事ないよ。確かにお父さんは金銭感覚は絶望的だし、稼いだお金は皆ギャンブルや甘い物につぎ込んじゃうし、普段は一日中だらけっぱなしだし、本当にどうしようもない駄目人間だけど、私にとっては大事なたった一人のお父さんなんだ」

 フェイトは改めて実感した。自分の中で映っていた銀時と、なのはが語る銀時が全く違うと言う事に。余りにも違い過ぎる銀時の父親像。
 フェイトの中での銀時は暴虐の限りを尽くす最悪のDV親父だと思っていた。
 しかし、なのはが語る銀時、それは多少情けない部分はあるけれど、それでも優しいたった一人の父親だったのだ。全ては、フェイトの勘違いの末に起こった空しい戦いだったのだ。
 だが、最早今更退くに退けない。今のフェイトにとって、なのはは代え難い必要不可欠な存在となってしまった。なのはなしではもうフェイト自身やっていけない程に。
 全てが勘違いから始まった戦いだったとしても関係ない。例え、そのせいでなのはを傷つける結果になったとしても、フェイトは銀時達と戦う事を止めはしないだろう。

「フェイトちゃん。一度お父さんとお話しようよ。きっと分かり合える筈だよ」
「御免、それは出来ない……君にとってあの男は優しい父親かも知れないけど、私にとって、あの男は敵だから」
「そんな……」

 結局、なのはの言い分はフェイトには聞き入れては貰えなかった。なのはにとって、銀時もフェイトも、大事な存在だ。その双方が互いに争いあうのは正直言って見ていられない。
 だが、闘う術のないなのはにはどうする事も出来なかった。

「大丈夫、なのはは私が守るから」
「フェイトちゃん」
「だから、だから……ずっと此処に居て。私は、なのはと一緒に居たいから」

 なのはの手を握り、フェイトは言った。思いのままの言葉を言い放った。心優しいなのはに、その願いを払い除ける事は出来なかった。
 フェイトは大事な友人だし、それに命の恩人でもある。そんな彼女の願いを無碍には出来ない。何とも心苦しい心境となってしまった。




     ***




「はぁ……一体どうしたら良いんだろう?」

 結局、フェイトの説得は失敗に終わった。誤解は解けたものの、徹底抗戦の意思は変わらずなままだった。
 その上、フェイトの口から一緒に居たいと言う大胆発言をされてしまってはそれ以上無理な事が言えなくなってしまった。
 そして、今なのはは溜息をつきながら、一人近くの公園のベンチに座っている次第なのであった。
 どうすれば二人が戦うのを止めてくれるのだろうか?
 考えれば考えるほど方法が分からなくなり、結果としてドツボに嵌ってしまったのである。

「もぉう、フェイトちゃんもお父さんと同じで頑固だからなぁ。どうしたら良いんだろう?」

 二人の頑固者に板挟みにされて苦しむなのは。しかしそれを相談する相手も居ない昨今、結局一人で答えを見つけ出さねばならないのだが、相変わらず答えなど見つけられず結局ドツボのままだったりする。
 答えが見つからず、結局溜息を繰り返す事となってしまった。しかし、幾ら溜息をつこうとも、幾ら悩みドツボに嵌ろうとも、答えが自ずとやってくることなど有り得ない。答えは自分で見つけねばならないのだ。

「とりあえず、もう一度フェイトちゃんに相談してみよう。此処で私が諦めたら意味ないからね」

 自分自身にそう言い聞かせるかの様に頷き、ベンチから立ち上がる。気持ちを改めて再度フェイトに説得を試みようと決めたのだ。
 そんな時、突如空が割れるような音が辺りに響いた。思わずなのはは両耳を塞ぎ、音のした頭上を見上げる。
 すると、頭上には突如半透明の膜が姿を現し、それを周囲に覆っていく。この光景には見覚えがあった。
 そう、あの時、銀時達と夜の町に繰り出した時と同じ現象が起こっていたのだ。
 となれば、何処かでまた戦闘が起こり出したのでは?
 完全に出遅れた事になのはは焦りを感じ出す。こうしている間にも銀時とフェイトがまたぶつかりあっているかも知れないのだ。
 止めなければならない。これ以上、大事な人達が傷つけあうのを見たくない。そうなる前に何としても止めたかった。
 突如、地面から何かが動き回る感覚を感じ取る。地震にも思えたが違った。まるで自分を中心に揺れが集中しているような感じだった。その揺れ方にも独特な感覚があった。
 まるで、巨大な根の様な物が蠢いているような感覚だった。そして、その主は突然目の前に姿を現した。
 それは正しく巨大な根だった。木の根が幾本も集まり、やがて姿を成していく。
 常人よりも遥かに巨大な木の姿となった化け物が突然なのはの前に姿を現したのだった。




     ***




「は~、だりぃ~」

 向こう見ずで気の向くまま歩き続けた結果がこれである。銀時達は散々無計画な歩きを続けた結果収穫がゼロのまま歩き疲れてしまった。今銀時達が居るのはビル街の片隅にある公園の一角だ。
 公園と言ってもそれでいて中々背の高い木々が多く、下手すると迷子になりかねない。
 そして、そんな公園の片隅にあるベンチに銀時はだらしなく座り込んでしまったのであった。

「何だらけてるんですか銀さん。早く探しましょうよ」
「うっせぇよ! 手掛かりもなしに探し回れるかってんだよ! もう銀さんの足は鉛みたいに重くなっちまったんだよ。今の銀さんの足だったら余裕で釘とか打てるんじゃねぇの? 嫌、マジでこれ有り得るからさぁ」

 呆れ果てる新八を他所に、銀時はだらしなく項垂れていた。そんな銀時に対し新八は溜息しか出来ないでいる。確かに、側から見るとだらけている様にも見える。
 が、実際一番辛い思いをしているのは銀時に他ならないのは新八も良く知っている。
 大切な娘をむざむざ誘拐されてしまった。その事実が銀時の心を未だに強く締め付けていると思うと、新八も強くは出られないで居たのだ。

「おぉい、何か手掛かりなり何なりねぇのかよぉウノ君よぉ~」
「だから僕はユーノですってば……すみません。サーチを掛けてるんですけど、一向に引っ掛からなくて」
「んだよ、使えねぇなぁ」

 容赦なく切り捨てるかの様に言い放つと、再度銀時はだらしなく項垂れて茜色に染まりだしていく空を眺めていた。先ほどまで青色だった空も日が傾くにつれて茜色に染まりだしている。後数時間もしたら夜になるのは目に見えている事だろう。

「あ~あ、結局今日は収穫なしかよ。これじゃ折角バイト抜け出してきた意味ねぇじゃねぇか」
「それ僕達も同じですよ。ってか、文句言うなら銀さんも一緒に探しましょうよ。そんなとこでだらけてたって出て来る物なんてゲップ位なもんですよぉ」
「うっせぇよ。今の俺の口はなぁ、滅茶苦茶糖を求めてるんだよぉ。どっかで糖を補給しねぇと俺の体がもたねぇんだよぉ~、ぱっつぁんよぉ」

 だらしなさに加えて情けなさも付加され始めている始末であった。流石にこのままでは見るに耐えない。だが、やはり銀時を元気付けるには新八では無理にも思えてきた。
 やはり、銀時を元気付けられる存在は彼女一人なのだろう。

(こんな時、なのはちゃんが居たら一発で銀さん元気になるんだけどなぁ)

 普段であれば、なのはがこんなだらけた銀時を見た途端熱湯を掛けて叱咤している筈だ。そして、毎度御馴染みの親子喧嘩に発展し、何時しか銀時はモチベーションを取り戻して行動を起こす。これが普段の光景なのだ。
 だが、今此処になのはの姿はない。その為元気のない銀時を元気付ける存在が居ないのだ。

「銀ちゃん、何時までも堕落しっぱなしなんて情けないアル。それでもジャンプの主人公アルかぁ? ジャンプ主人公らしく此処ら辺で元気パワー爆発するべきアルよぉ」
「うっせぇよゴラァ! 酢昆布臭ぇんだよぉ。今の俺はマジで気力50以下なんだよぉ。気力50って言ったらあれだよあれ。ダイ○スとかでこれだと全く使い物にならねぇんだからなぁ。それと同じ状況なんだよぉ今の俺はよぉ」

 確実に意味の分からない言動を言い訳にしている始末だった。普段だったら返し言葉をする筈なのにこんな遠まわしな言い訳をしている。まぁ、普段からそんなだったとは思われるが、今の銀時からは普段ある筈の覇気が感じ取れないでいる。
 正しく今の銀時は本当の意味で生気の抜けた抜け殻同然とも言えた。

「いい加減にしろよ銀ちゃん! これ以上だらけたまんまだと定春の餌にして私が主役になってやるアルよぉゴラァ!」
「ったくうっせぇなぁ。耳元で怒鳴るなってんだよ、鼓膜破れるだろうが! それによぉ、こんな何も情報がないって言うのにいちから探し続けるのなんか面倒なんだよぉ。RPGでレベル上げするの位面倒なんだよぉ!」

 神楽の言葉などガン無視なまま情けない事を言い続ける銀時。もう江戸の時の銀時以上のだらしなさっぷりであった。必死にモチベーションをあげようとしている神楽のそれも無駄な努力で終わろうとしていた。
 仕舞いには神楽の両手が微妙に震え始めている。流石に我慢の限界に達したのだろう。後数秒もしたら神楽の鉄拳が銀時の顔面に叩きつけられるのは火を見るより明らかな事であった。
 しかし―――

「いい加減にしろよこの駄目人間があああぁぁぁぁ!」

 そんな誰もが予想していた事を裏切るかの様に、銀時の顔面を殴りつけたのはあの新八だった。思いっきり顔面を新八に殴られた銀時の顔は梅干の様に中心がめり込んだ感じになってしまい顔のパーツの殆どがそのめり込みの中に消えてしまうと言うなんともシュールな絵面となってしまっていた。

「な、何すんのぉ新八くぅん? 君こんな事するキャラじゃなかったよねぇ? 明らかに自分のキャラ設定ぶち壊してるよねぇ?」
「うぜぇんだよ! 何時までもだらけてんじゃねぇよこの駄目親父! 父親がそんなんでどうすんだよ! あんたそれでも父親かよ!」
「あんだとぉ!」

 流石に其処まで言われたら銀時でも怒る。ベンチから立ち上がるなり目の前に居た新八の胸倉を掴みあげて睨みを利かせる。普段だったらすくみ上がる新八が容易に浮かぶだろう。
 だが、今の新八は全く怯む様子はない。寧ろ敢然と銀時を睨んでいた。

「おい、何だその言い草はよぉ。俺が今どんだけダルンダルンなのか分かってるのかぁゴラァ!」
「分からねぇよ! 少なくともこんな状況でそんなだらけられるてめぇの気持ちなんて分かりたくもねぇわ!」
「なっ、ため口!? お前何時からため口なんてはしたない話し方するようになったの? お父さん悲しいんですけどぉ」
「いい加減にしろよ! あんたがそんなだらけてる間、誰が辛い思いで待ってると思ってるんだよ! あんた、なのはちゃんの事考えた事あんのかぁ?」
「……」

 新八のその言葉を聞いた銀時は黙り込んでしまった。返答する言葉も返す言い訳も、その一言で掻き消されてしまったのだ。

「今、なのはちゃんはずっと銀さんが来るのを待ってるんですよ! それなのにあんたがそんな調子でどうするんですか? 今あの子を助けられるのは銀さんしか居ないんですよ? 銀さんがしっかりしなきゃ、今銀さんがしっかりしなきゃ……」
「ぱっつぁん、もう良い」

 声のトーンが下がり、そっと新八の肩に銀時は手を乗せながらそう言った。明らかな変化を感じ取った新八が銀時を見る。其処にはさっきまでのダルダルだった銀時は何処にも居らず、その目も何時しか輝きを取り戻していた。

「ぎ、銀さん!」
「やれやれ、人生の半分も生きてないアイドルオタクに教えられるなんざぁ、俺もまだまだ若造だぜ。嫌、シャバ造だなこりゃ。あんがとよ新八。お前のその一言で何か吹っ切れたみたいだぜ」

 普段以上にすっきりした顔の銀時が其処にあった。空は茜色に染まりだし、今にも夜へと移行しようとしているのに、何故か銀時を見ているとその背景が青空に見えてしまっていた。
 これは目の錯覚なのだろう。その筈なのだ。だが、それでも新八には見えた。
 晴れ渡る青い空、その空の上でさんさんと輝く太陽。そして、それに照らされて輝く銀髪の天然パーマの侍。
 今、銀時は此処に来て初めて輝いたと言えるのだ。その輝きを前に、新八や神楽、そしてユーノらもまた元気を取り戻していた。

「やる気を出してくれだんですねぇ? 銀さん!」
「あたぼうよぉ! 何時までもだらけてられっかってんだ! 銀さんはなぁ、基本だらけてるのが仕事だが、やる時ぁやる男なんだよぉ!」
「それでこそ銀さんです! それでこそ、僕が頼りにしてた銀さんなんですよ!」

 戻った! 輝いている銀時が戻って来た。新八は何よりも嬉しかった。異世界に飛ばされ、連絡する手段を失いほぼ孤立状態に陥り、更には強力な魔導師が敵対して苦戦の毎日。そんな毎日辛い日々の中で俺掛けていた心が、今音を立てて元通りになっていくのが感じ取れたのだ。

「まさか、こんな所で会うなんてね」
「あん!?」

 声がした。聞き覚えのある、そして忘れようにも忘れられない声だった。その声のする方へと、銀時達は視線を動かした。
 それは、丁度上の方にある木々の天辺。其処の頂きにてたちながらこちらを見下ろしているのは漆黒のマントを羽織り同様に黒いバリアジャケットを身に纏ったフェイトであった。
 そして、その隣にはこれまたアルフがついていると言う何時もながらの図式であった。

「おぉ、良い所に来たじゃねぇか。丁度俺達も今からお前等に会おうと思ってた所だったんだぜぇ」
「そう、私としてはもう二度と貴方とは会いたくなかったんだけどね」
「上等じゃねぇか! 降りて来いや糞ガキ! その曲がり切った根性叩き直してやっからよぉ!」
「私以上に捻じ曲がった貴方なんかに直せるとは思えないけどね」
「んだとぉ!」

 互いに売り言葉に買い言葉を連呼し続けていく。そうしている内に互いのボルテージが徐々に向上していく。やがては、お互い我慢の限界に差し掛かり……

「ざけんなこの糞ガキィ! 今すぐケリつけたらぁ!」
「望む所よ! 今日こそお前を倒して後顧の憂いを断つ!」

 何時そんな難しい言葉を覚えたのか?
 とにかく、そんな感じでお互いが激しくぶつかり合おうとした正にその時であった。
 突如ガラスの割れる音が辺り全体に響き渡った。その音量は凄まじい量であり、その場に居た殆どの者が耳触りな不快感を覚えると同時に不快な顔をしていた。
 一同が耳を抑えながらもその音のした場所に視線を合わせる。それは皆、一括して空の上であった。真上に位置する場所。其処を中心にして周囲を覆い尽くすかの様にして半透明な膜が形成されていく。
 その膜は巨大なドーム型に象られていき、その場に居た銀時達を余裕で飲み込むほどの大きさに出来上がってしまった。
 まさか、魔力結界?
 魔法関連の知識を持つ者達は皆そう判断した。そう、この手の類は魔力結界に他ならない。そして、それが発動したと言う事は即ち、この付近にジュエルシードが点在している事を意味してる。

「フェイト、今は此処でいざこざしている場合じゃないよ!」
「分かってる!」

 一時戦いを中断し、アルフとフェイトは上空へと舞い上がる。ジュエルシードが発動したと言う事となれば今は急いでそれを封印する事を第一としなければならない。時間を掛ければ掛けるほど被害が増してしまうからだ。
 結界内であれば被害は関係ないが、もし結界の外へ出てしまっては大惨事になってしまう。そうなる前に片を付けねばならないのだ。
 だが、その考えは銀時達もまた同じであった。下を見れば大型犬である定春に跨り空を飛んでいる自分達と同じ速度で移動をしている。どうやら弱体化の影響は定春には関係ないようである。その証拠に定春は江戸の時と何ら変わりない様子でもあった。

「あいつ等も来る!」
「気にする事ないよ。あいつ等じゃロストロギアの相手なんて出来ないし、第一ジュエルシードを見つけたとしても封印出来る奴が居ないんだしさ」

 アルフが言うのも最もだった。現状では銀時達ではロストロギアの相手はきついし、ジュエルシードの封印も行えない。魔力を持たず、そしてデバイスを持っていない彼等など物の数ではないのだ。
 だが、それでもあの三人が揃った場合は無視出来ない強さになる。幾ら弱体化してても三人の連携に巻き込まれれば被害は免れない。
 しかし、それも三人揃わなければ意味のない話でもある。それがあいつ等の強さでもあり、また弱点でもあった。

「反応が近い、此処だ!」

 魔力反応の増大を確認し、それに最も近い地点へと降下する。それと同時に茂みから定春に乗った万事屋メンバーも飛び出して来る。到着はほぼ同時であった。そして、その反応の主を見たのもほぼ同時であった。

「な、なんだぁこりゃぁ!」

 いの一番に声を発したのは銀時であった。彼が声を発するほど目の前に居たのは信じられない代物だったのだと言える。
 目の前に居たのは巨大な木であった。一言にそう言える代物だった。だが、只の木じゃないのは先ほどの言動で分かる通りだ。
 その木は生きているのだ。まるで生き物の様に動いているのだ。
 遠目から見るとそれは木に見えるだろう。だが、近づいてみるとそれは巨大な根の集合体である事が分かった。巨大な根が合わさり、一本の巨木と成しているのだ。
 その姿は脅威を感じられ、同時に醜悪さも感じ取れる代物だった。

「フェイト、これって……」
「膨大な魔力を感じる。こんな巨大なの、今まで見た事ない!」

 長い間この地でロストロギアと戦ってきたフェイトでさえ、目の前の存在には度肝を抜かれていた。魔力の大きさと体の大きさ、それらをとっても目の前のそいつは破格なサイズだったのだ。
 そして、それはそのままその怪物の強さとなる。

「アルフ、やるよ!」
「正気かい? あんな怪物私達だけじゃ対応しきれないってぇ!」
「でも、やるしかない。あれが結界の外に出たらそれこそ大変な事態になる。そうなる前に、此処で片を付ける!」

 言うなり今度は目の前の木の怪物に向かいバルディッシュの刃を傾けた。それに呼応してアルフもまた両拳を握り締めて構えを取る。

「ぱっつぁん! 神楽! 俺達も負けてらんねぇぞ!」

 銀時もまたフェイト達に遅れまいと定春から降り、腰に挿しておいた木刀を抜き放つ。新八や神楽も同様であった。定春から降り、各々の得物を手に持つ。それぞれが臨戦態勢を取ったのを感じ取ったのか、木の怪物が雄叫びを挙げる。天をつんざく程のやかましい雄叫びだった。
 思わず耳を塞ぎたくなる思いがしたが踏みとどまった。此処で弱みを見せれば一気に持っていかれる。怯む訳にはいかないのだ。
 最初に動いたのは木の化け物だった。自身の体の一部でもある木の根を地面から突き出し、それを鞭の様に振るってきたのだ。フェイト達と銀時達に向かい巨大な木々を容赦なく振るってきた。
 その一撃を開戦の合図と判断したのか? 一斉に鞭を避けつつ散開する一同。相手が巨大な敵ならばその一撃は強大であろう。しかし、その分素早さが犠牲になっているのが世の常だ。
 その弱点を突けば良い話だ。
 
「撹乱戦法なら私の得意分野……負けはしない!」

 上空を旋回しつつ、フェイトは高速で木の化け物の周囲を飛び回った。木の化け物は余程フェイトが目障りに感じたのだろう。無数の木の根を突き出しフェイトを叩き落そうとしだす。だが、高速で移動するフェイトの前に、巨大な木の根は対応しきれないらしくしどろもどろするだけであった。
 更にフェイトの動きは複雑さを増す。最初は木の化け物の周囲を円の動きで飛び回っていただけだったが、今度は木の化け物やその化け物が放った木の根の間を飛び交う様に飛び回りだす。その動きに木の根が釣られて後を追いかけ出す。それこそフェイトの狙いだった。
 複雑な動きに対応出来る筈もなく、気がつけば無数の木々が雁字搦め状態となってしまい全く身動きが出来なくなってしまった。
 全ての木々が巻き込まれてしまい丸腰状態となった木の化け物は必死に雁字搦めになった根を解こうと四苦八苦している。完全な無防備状態だった。

(掛かった!)

 思わず心の中で賞賛した。今の状態なら何の問題もなく奴を倒せる。高速でフェイトは木の化け物の背面へと回りこみ両手でデバイスを持ち替えた。
 この化け物に小手先の攻撃など通用しない。やるなら一撃必殺で仕留めるしかない。そして、その好機は今を置いて他にないのだ。
 
「やったね! 幾ら図体がでかくたってフェイトのスピードにゃ敵わないってぇ!」

 側から見てるアルフもこれはフェイトの楽勝だと踏んでいた。しかし、そのフェイトが木の化け物に向かい切り掛かろうと突っ込んで行った時、声が響いた。

「馬鹿野郎! 突っ込むな! 罠だ!」
「え?」

 銀時の怒号が響いた。だが、その時には手遅れだった。突如、背面だった筈の場所がポッカリと開いたのだ。
 言うなれば縦一文字に真っ二つに分かれたと言って良い。木の化け物が自らの体をニ分割に分けたのだ。
 そして、その分かれた体の丁度真ん中に空振りしたフェイトは招かれてしまった。

「あ……あぁ!」

 気がついた時には全てが手遅れだった。フェイトの左右に分かれた木の化け物の断面。其処から先ほど放っていた根よりも更に細く柔軟に動く根が飛び出してきたのだ。
 それも、ついさっきフェイトが捌いた数の二倍、いや、十倍は軽くある程の量が飛び出してきた。
 その大量の根が一斉に無防備な状態のフェイトに襲い掛かってきた。
 
「くっ、はああぁぁ!」

 一心不乱にデバイスを振り回し細い根を断ち切っていくが、数が多すぎた。物の数分と経たない間に最初にフェイトの手足が封じられた。
 更にそんなフェイトを雁字搦めにするかの様に根が次々と覆いかぶさっていく。

(だ、駄目だ……力が違いすぎて、抜け出せない……それに、この根……私の魔力を……吸収して……)

 意識が朦朧としだしてきた。体全体を細い根が覆い尽くしていき、遂には先ほど二つに分かれた木の化け物がまた結合していったのだ。
 捕えた獲物(フェイト)をその体内に押し込んで。

「フェイトォ!」
「野郎、初めっから自分じゃ速度で勝てないって踏んでたからあの戦法に出やがったんだ」

 銀時の推測だった。しかし、その推測に対しアルフが異を唱え出す。

「そんな、ロストロギアにそんな知識がある筈ないよ! せいぜい只暴れ回るだけだってのに、一体なんでそんな狡猾な戦法が出来るってんだい?」
「俺が知るか!」

 知らないことは知らない。だが、少なくとも分かる事がある。それは、こいつは只強いだけじゃなく知恵もあると言う事。
 本来なら力だけの脳たりんならそれ相応の戦い方がある。だが、今のこいつは力強さに加えて知恵も回ると言う大層厄介な代物となっている。
 しかも、素早い相手に対する対応もお手の物だと言える。どうやら先ほどの巨大な木の根はフェイトを油断させる為のデモンストレーションだったようだ。
 罠に掛かっていたのはどうやらフェイトだったらしい。

「とにかく、このままじゃあの化け物にフェイトが食われちまう! 何とか助け出さないと」
「つったってどうやって出すんだよ! 下剤でも飲ませるのか?」

 正直攻撃の要であった筈のフェイトが居なくなった為に戦力は大きく下がってしまった。しかも、それを感じ取ったのか木の化け物が先ほど以上に激しく木の根を振るい始めた。
 数も威力も速度も、先ほどの比較にならない程だった。
 
「野郎! 種隠ししてやがったなぁ!」
「種隠し? 手品とかアルかぁ?」
「ボケるんなら状況見てからボケろ! 今ツッコんでる余裕とかねぇんだよ!」

 押し寄せて来る木の根をかわしながら銀時は怒鳴りつける。ならば新八はどうか?
 それも同様だった。銀時ですら必死に避けてるのだから当然新八はもっと必死にそれを避けている。

「くそっ、私の魔力弾じゃ話にならないし、接近戦じゃ逆にこっちが食われちまう! 一体どうしたら良いんだい!?」

 アルフの戦法は接近戦が主だ。無論魔力弾も使えるが牽制程度にしかならない。
 そんな程度の威力ではあの木の怪物に打撃を与えられそうにない。
 もっと決定打のある武器が必要なのだ。
 だが、決め手である接近戦を挑めばフェイトの二の舞になってしまう。下手に挑めないのだ。
 無論それは銀時達にも言えた。銀時達はアルフとは違い遠距離攻撃方法がない。接近戦しかないのだ。
 だが、それを行えばやはり結末は同じ。しかも彼等には身を守るバリアジャケットがない。食われれば一瞬の内に消化されてしまうだろう。

「おい、犬っころ! 中の(フェイト)は大丈夫なのか?」
「バリアジャケットが身を守ってくれるだろうけど、あんなデカブツの体内なんだ、もって数分が限界だよ!」
「洒落んなんねぇぞこりゃぁ――」

 正に厄介この上なかった。銀時達の十八番である接近戦を封じられた上に、無数の木の根が大量に襲い掛かりこちらの足も封じて来る。力の上に知恵も回るという厄介極まりない輩を相手に銀時達も苦戦を強いられていた。

「銀さぁぁん! どうすんですかぁぁ! このままじゃ僕達揃ってあの怪物のご飯にされちゃいますよぉ!」
「バッキャロー! 何が悲しくてあんな不細工な怪物の胃袋に収まんなきゃなんねぇんだよ! 俺ぁ死ぬ時が来たってあんな奴の胃袋の中だけは御免だからなぁ!」

 弱気になる新八に向かい銀時が怒鳴る。確かに御免被りたかった。だが、このままではどの道皆揃って怪物の餌になるのは確実だ。

「くそっ! こうなったら――」

 何を思い立ったのか、木の化け物に向かい突っ込もうとしだすアルフ。しかしそれを後ろに居た銀時が止めた。肩に手を置いてそれを止めたのだ。

「おい、馬鹿犬! 何する気だよ?」
「犬じゃない! このままじゃフェイトが死んじゃう。そうさせない為にも助け出すのさ!」
「正気か? お前まで食われちまうだろうが!」
「良いさ。私が食われてフェイトが助かるんなら。それで良い」
「お前――」

 その時のアルフの顔は重く沈んでいた。銀時にはその顔が何を意味しているのかすぐに理解出来た。アルフは死ぬつもりなのだ。
 フェイトを何とか助け出し、自分が奴の餌になる代わりにフェイトを助けようとしている。それが銀時には理解出来た。
 理解した銀時は苛立ちを隠そうとせず乱暴に頭を掻き毟った。

「馬鹿野郎! てめぇが死んで、その代わりにあいつが助かったとしても、そんなの意味ねぇだろうが!」
「ある! 私は使い魔だ。主を死なせたら意味ない。命を賭してでもフェイトを助けなきゃ、フェイトの使い魔になった意味がないんだよ!」
「それでアイツが喜ぶと思ってんのか? お前を賞賛してくれると思ってるのか?」

 銀時のその言葉が深く突き刺さった。フェイトの心情を一番理解しているのはアルフだ。そして、こんな事をしてフェイトがどんな思いをするかも知っている。

「あのガキの事だ。自分の代わりにてめぇが死んだって知った日にゃぁ、死ぬほど後悔するぞ。『あそこで私が油断しなければ、アルフは死ななかったのにぃ!』っとか言って三日三晩泣き喚くだろうさ」
「わざわざ裏声にすんな! キモイわ! そんなの分かってるよ。でも、このままフェイトを見殺しになんて出来ないんだよ! それに、どうにかして奴を倒す切欠を作らなきゃいけないんだ!」
「ちっ!」

 軽く舌打ちすると、銀時はアルフを押しのけて前に出た。そんな銀時目掛けて太い木の根が唸りを上げて襲い掛かってきたのだ。
 だが、銀時は微動だにしない。片手に持った木刀に渾身の力を込め、それを受け止めた。
 苦心の顔を浮かべながらも歯を食いしばり、銀時は巨大な木の根を抑えつける。

「あんた……何で?」
「か、勘違いすんなよ! 別にてめぇのご主人様を助ける為に力を貸すんじゃねぇんだからなぁ!」

 強がりを言っているようだが、かなり踏ん張っている為か声が重くなっている。

「お~い、何か無理してない? 声が重いよぉ~。無理してんじゃないのぉ?」
「うっせぇよ犬娘! こちとら折角カッコいい台詞言おうと必死になってんだから邪魔すんじゃねぇ! あ、でもちょっとやばいかも? 銀さんパワーダウンしてるからこのままだとちょっぴりヤバイかもぉ?」

 段々と後方に押され始めだした。見栄張って飛び出したは良いが力が入らないので徐々にパワー負けし始めたのだ。
 そんな時、左右から新八と神楽、そしてその後ろから定春も加わりだす。
 全員が一丸となって木の根を押さえつけだしたのだ。

「ア、アルフさん! 僕達が押さえつけてる間に!」
「あの金髪女を助けに行くアルよぉ!」
「あんたら……」

 思わずホロリとなりそうになる心境をグッとアルフは堪えた。今は泣いてる場合じゃない。銀時達が身を挺して道を作ってくれたのだ。その思いを無駄にする訳にはいかない。

「有り難うよ! あんたらの死は無駄にしないからねぇ!」
「勝手に殺すなぁ!」

 後ろから銀時達の怒声が響くが無視する。今すべき事は決まっているからだ。銀時達に木の根は集中している。その隙に化け物の体内に居るフェイトを引きずり出すのだ。
 方法としては、恐らくあの木の化け物はフェイトの時と同じく縦に分裂して自分も取り込もうとする筈だ。その瞬間に体内に囚われているフェイトを取り出して逃れる。
 と、言うのがアルフの描いた筋書きだったりする。
 そのアルフの筋書き通りに木の化け物はアルフの接近を感知し自身の体を縦に分割しだした。

「今だ!」

 それを好機と見るや、アルフは一気に突貫した。二つに分かれた体の丁度中央辺りに細い根で覆いつくされた場所がある。恐らくあそこにフェイトは居る筈だろう。無論、その前に自分までもがあの細い根に捕まってしまっては元も子もないのだが。

「いけぇ、狼女ぁぁぁ! 早くしろぉ! こっちだってそうそう長くはもたねぇんだからなぁ!」
「急かすんじゃないよ! こっちだって今必死なんだからさぁ!」

 遠くで銀時達の悲鳴が聞こえる。恐らくそうそう長くはもたないだろう。急がねばならない。でないと、細い根に加えて今度は太い根まで襲い掛かってくる事になるのだから。

「うおぉぉぉぉぉ!」

 雄叫びを挙げながらアルフは突っ込んだ。目の前の細い根の塊に向かい魔力を込めた拳を叩き込む。流石に強度はそれ程でもないらしく細い根は容易く砕き、千切れていける。だが、如何せん数が多い。
 果たして間に合うかどうか?
 ――えぇい、こうなったら当って砕けろだ!
 覚悟を決め、アルフは自身の中にある魔力をありったけ両拳につぎ込んだ。次々と目の前の根を千切って行く。どれ程千切った後だったか。
 木の根の中から少女の手らしき物が姿を現した。その手を掴み、思い切り自分の方へと引っ張る。
 出て来たのはフェイトだった。かなり魔力を吸い取られたのだろう。すっかり弱り果てており意識を保っているかどうかも怪しそうに見える。

「フェイト、頑張るんだよ! こんなとこで死ぬんじゃないよ!」

 意識のないフェイトを必死に励ましつつも、木の化け物から遠ざかろうとする。だが、そんなアルフとフェイトに襲い掛かってきたのは、地面から現れたまた別の木の化け物だった。

「う、嘘っ!」

 正しく度肝を抜かれたとはこの事だった。一体だけかと思われていた木の化け物がまさかもう一体現れたなんて。
 更に続々と地面が割れ、其処から木の化け物が姿を現す。その数は総勢で5体。
 あの強大な木の怪物が一気に5体も現れたのだ。

「おいぃぃぃぃ! 幾ら何でも出すぎだからぁぁ! 何これ? 出血大サービスゥゥゥゥ!」
「言ってる場合じゃないだろうが! 何とかこの場を切り抜けないとマジで不味いからさぁ!」

 切り抜けるとは言った物の、既に回りを木の化け物に取り囲まれてしまっている現状では逃げる事も出来そうにない。その上、フェイトは今だ意識が朦朧としている状態だし、かと言ってアルフ自身も相当疲弊してしまっている。
 当然銀時達にこの化け物を倒す力がある筈がない。正に万事休すであった。
 銀時達に抵抗する力がないと悟ったのか、木の化け物が徐々に距離を詰めだし始める。壁の隅に追い込まれた鼠を追い詰める猫の如くじわりじわりと薄気味悪く距離を詰めてくる。
 本来なら一気に殲滅できる距離であるにも関わらず相手は一向に襲い掛かってくる気配がない。
 
「ぎ、銀さん……これってもしかして?」
「野郎、おちょくってやがらぁ……俺達が対抗出来ないって知って優越感に浸ってるってかぁ?」

 悔しいがその通りだった。たった1体だけでも相当キツイ相手だと言うのにそれが一気に5体も現れる。しかも逃げ道を塞がれた状態ではどうする事も出来ない。正しく手足をもがれた達磨(だるま)同然であった。

「もう駄目だぁぁぁ! このまま僕達あの化け物の養分にされちゃうんだあぁぁぁ!」
「冗談じゃねぇぇぇ! 俺ぁまだ結野アナとあんな関係やこんな関係になってねぇんだぞ! それなのにこんな所でくたばって溜まるかあぁぁぁ!」
「ヘルス、ヘルスミーーー!」

 天を仰ぎ、無情にも声を発する一同。しかし、幾ら泣こうが叫ぼうが助けが来る筈などない。茜色の空が今か今かと食われていく銀時達をあざ笑っているかのようでもあった。
 ――あれ? 何だあれは。
 ふと、天を仰いだ銀時が見つけた物。それは天空から降り注ぐ数個の黒い物体だった。雨かと思われたがそれにしては粒が大きいし色も違うし、何より数が少ない。
 それが徐々に降下していく内にそれの全容が分かった。それは只の粒じゃない。鉛球だ。
 それも、とても口径の大きな鉛球である。言うならば、何か巨大な砲塔、そう、バズーカとかに使われそうな奴。

「何でこんな所にバズーカ砲が降って来るんだあぁぁぁぁ!」

 それがそうだと気付いた頃には手遅れだった。地面に命中したバズーカ砲は破裂し、爆散し、辺りに炎を撒き散らした。それは丁度木の化け物に命中し、大多数の木の化け物を焼き焦がし、黒い炭へと変化させていく。

「い、一体……何がどうなったんですか?」
「俺が知るか!」

 全く訳が分からなかった。突如上空から降り注いだバズーカ砲により木の化け物が黒こげになっていく。しかも、その炎は木の化け物に塞がれてる為かこちらに飛び火してくる様子は見受けられない。どうやら助かったようだ。

「お~い、旦那~、生きてますかいぃ~」

 声が響いた。何処か聞き覚えのある間延びした、やる気のあんまり感じさせられないちょっと苛立つ感じの声だった。そして、そんな声を聞いていの一番に神楽が反応しだす。そうなるとその声の主が自ずと分かってきた。

「あぁ、生きてるよ。ついでに消火してくんない? 暑くて敵わねぇんだけど、これじゃまるでサウナじゃねぇか」
「良かったじゃねぇか。天然のサウナなんざ滅多に味わえる代物じゃねぇだろうが。この際一生味わってろよ」
「あぁん!?」

 今度は銀時が反応しだした。何処か棘のあるような強面の声が聞こえてきた。その声の主もまた覚えがある。
 そうこうしている内に炎も大分納まり、その過程で声の主の姿が現れた。其処に居たのは三人の男だった。
 皆一様に黒い制服に身を包み腰に刀を挿している。そして、三人共その肩には大口径のバズーカ砲を担いでいる。
 
「おぉ、万事屋ぁ! 無事だったかぁ? 勢い余って飛び火して焼き天然パーマが出来たんじゃないかと心配したぞぉ」
「こ、近藤さん! それに土方さんや沖田さんまで!」

 新八が驚く。そう、其処に居たのは銀時達の世界で言う警察の役割を成している武装警察【真選組】のメンバーである。
 真ん中に居るのがその局長である近藤勲。名前からしてあの人を連想させるが絶対に言ってはいけない。
 因みにこの人、剣の腕や指揮能力、カリスマ性やその他諸々で秀でているのだが、いかんせんストーカーの癖があるらしく毎回新八の姉に付きまとっては鉄拳制裁を食らっている凄いのか凄くないのか分からない人である。
 右に居るのはその片腕でもある副長の土方十四朗である。この人も某あの人を連想させるが全くの別人なのであしからず。
 んで、この人はやっぱり鬼の副長と呼ばれており軍規に厳しく自他共に鬼と呼ばれている前線のリーダー的存在でもある。
 が、極度のマヨラーな上にお化けビビリな気質がありやっぱりこの人も凄いのか凄くないのか微妙な人間と言える。
 最後に左に位置するのが真選組一番隊隊長の沖田総梧。甘いマスクのつぶらな瞳とは裏腹にかなりの剣の腕前を持っており舐めて掛かるととんでもない目にあう。この人もあの人を連想させるが絶対に言っちゃいけません。
 因みにこいつはかなりのドSでありしかも野心家な面もあるらしく度々副長の土方の命を狙っている。
 神楽とは何故かライバル関係になってるらしく顔を合わせる度に喧嘩をする始末。
 まぁ、言ってしまえば万事屋メンバーとはある意味で深い関係を成している存在とも言える。

「おい、何でてめぇらがこんなとこに居んだよ? 300字以内で述べやがれコノヤロー!」
「てめぇこそ何でこんなとこに居んだぁ? 300字以内で述べやがれ」

 早速顔を合わせるなり銀時と土方がそれぞれメンチを切りあっている。この二人本当に仲が悪いようであり。

「ちょっとちょっと、今は喧嘩しないで下さいよ。近藤さん、一体どうして此処に来てるんですか?」
「おう、実はこれにはちと理由があってなぁ――」

 近藤が新八達に事情を説明しようと説明内容を整理している。が、其処へ突如沖田が割り込んできた。

「おぉっと、残念ながら此処で時間切れでさぁ。続きはまた次回って事でぇ」
「おぉい、何カメラ目線してんだぁ沖田くぅん? これ因みに小説だからさぁ、俺達顔映ってないよ」
「え? マジですかぃ? 折角気合入れてモヒカンヘアーで来たってのに」
「嘘ついてんじゃねぇよ。後そんな悪趣味な髪型やるなよ。絶対にファンがドン引きするからよぉ」

 とまぁ、そんな感じでこいつらがこっちの世界に来た理由などの云々についてはまた次回にお話する事にします。
 正直そろそろ纏めないと偉い量になりそうなので此処らで一旦締めさせて頂きます。




     つづく 
 

 
後書き
次回【マヨネーズとタルタルソース、どっちが好み?】お楽しみに 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧