戦国異伝
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第百三十一話 二人の律儀者その十
「いや、壮観ですな」
「ははは、それがしには過ぎた者達です」
家康は彼等については笑って答えた。
「優れた者達です」
「頼りにして宜しいでしょうか」
「是非共」
家康は今度は確かな笑みで返した。
「我等の武を思う存分御覧に入れてみせましょう」
「そうですか、それでは」
「越前に入った時はお任せ下さい」
鳥居が己の拳で自身の胸をどんと叩いて誇らしげに言う。
「必ずや大暴れしてみせましょう」
「おお、そう言って頂けるとは」
「我等は口下手ではありますが動きは確かです」
こう言うのだ。
「殿と共に槍働きを御覧に入れましょうぞ」
「さすれば」
「越前に入った時が楽しみですな」
鳥居は槍は手にしていないが既にそれを期待している顔だった。
「朝倉の兵、どれだけいようとも」
「倒されると」
「北陸の武士は粘り強いと聞いています」
このことには定評がある、越前も北陸にあるからというのだ。
「いや、どれだけのものか楽しみですな」
「それがしは宗滴殿と戦ってみたいですな」
榊原は如何にも楽しげに彼の名前を出す。
「天下一の老将、その武勇の程を」
「いやそれはそれがしが」
「それがしがでござる」
その榊原に本多と井伊が焦る様に言って来た。
「宗滴殿と戦をするのはそれがしです」
「是非それがしにお任せ下さい」
「いやいや、それはならんぞ」
榊原はその二人にいささかむっとした顔で返した。
「あれだけの御仁、戦うとなるとだ」
「ですからそれがしが」
「四天王の一人として」
「わしも四天王だぞ、殿の槍として向かうのじゃ」
「待て、三人共大概にせよ」
はやる三人を酒井が止めた、様に見えた。
「宗滴殿のお相手は四天王筆頭であるわし以外にはおらんではないか」
「いやいや、酒井殿のお手をわずらわせる訳にはいきませぬ」
「やはりここはそれがしが」
「それがしが行きます」
「ふむ、これは困ったのう」
家康はその四人を見て苦笑いで言う。
「誰を行かせるべきか」
「徳川家が猛者揃いなのは知っていますがお見事ですな」
秀長はその四天王を見て唸った。
「相手が宗滴殿でもですか」
「血気盛んで武勇があり」
そうした者達だというのだ。
「しかも頼りになり申す」
「左様ですな」
「この者達と何時までも共にいたいです」
家康は石川が間に入ってやっと収まった四天王、そして他の家臣や足軽達まで見てそのうえで言った。
「それがしの願いの一つです」
「ですか、ではその願いが適わんことを」
秀長が優しい笑顔で述べた、
「それがしからも願わせて頂きます」
「ではそうして下され」
「そうさせてもらいます」
越前に向かう途中で話した彼等だった、織田軍十万は徳川家の一万とも合流し越前に向かう、その兵は順調に進んでいた。
しかしその彼等を見てだ、闇の者達はこう話していた。
「兵を伏せておくか」
「ですな、近江の西に」
「東には浅井がいる」
このことも話される。
「東に行くことはない」
「若狭から丹波を進んでは遅くなる」
「この道もない」
道のことも話される。
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