戦国異伝
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第百三十一話 二人の律儀者その九
「ただ、それは丹羽殿だけでは出来ませぬな」
「ことを為すにですか」
「はい、考えられたのは丹羽殿にしても」
「あとは佐吉や桂松がしました」
「石田殿と大谷殿ですか」
「それにです」
蜂須賀はもう一人の名前を出そうとする、だがここで秀長を傍に見てそのうえで家康に彼を指し示して紹介したのだ。
「この者もです」
「確か羽柴殿の」
「はい、羽柴秀長と申します」
秀長は己から名乗った。
「何度かお会いしていますな」
「そうでしたな、これまでにも」
「羽柴秀吉の弟です」
秀長はまた自ら言った。
「あらためて宜しくです」
「でしたな。羽柴殿が出来る方なのは知っていましたが」
「いや、弟もなのです」
蜂須賀は秀長を指し示したまま笑って話す。
「あの丸根と鷲津の時もおりました」
「何と、あの時あの砦に」
「おりました」
秀長はここでも自ら言った。
「いや、徳川殿の攻めは厳しうございました」
「何の、弟殿の守りも見事でしたぞ」
「お褒めに頂き何よりです」
「織田家はまことに人が多いですな」
家康は唸りもした、己が言葉に出したことに対して。
「七百六十万石を支えるのは人ですな」
「これは武田信玄殿のお言葉ですが」
秀長はあえてこの言葉を出した。
「人は城、人は石垣、人は堀」
「全ては人ですな」
「殿もそうお考えです」
織田家も城は多くある、だがそれは戦以上に政を考えたものになろうとしているのだ。
「殿は人を多く求めておられます」
「常にですな」
「ですから我等も用いて下さっています」
百姓の出の彼も兄の羽柴も今や万石取りだ、羽柴に至っては十万石を超える大身にさえなっている。
その彼がここで言うのだ。
「それが何よりの証です」
「そうなりますな、それがしはそのことも見習わねば」
「徳川殿もです」
秀長はその家康の顔を見て述べた。
「必ずや」
「大きくなりますか」
「そう思います、共に天下を目指しましょうぞ」
「それがしは泰平を求めています」
「天下泰平ですか」
「この乱れた天下が収まり民が幸せに暮らせる世にしたいですな」
家康は遠くを見ていた、そのうえで出す言葉は。
「その力になりたいです」
「全くです」
秀長も彼のその言葉に頷く、頷いたその時に。
今度は羽柴だった、彼が家康のところに来てこう言って来た。
「徳川殿、ご不満はありませぬか」
「いえ、何も」
「それならいいですが何かあれば何でも仰って下さい」
同盟者である家康を気遣っての言葉だった。
「何でもしますので」
「いえいえ、お気遣いなく」
「徳川家の方々に不自由はさせませんので」
「ご心配には及びませぬ、我等もです」
「徳川殿だけでなく」
「我等家中は今で充分満足しておりますので」
「それならいいですが」
羽柴も家康のそのl言葉を聞いてまずは頷いた、そのうえで彼の後ろにいる徳川の黄色の軍勢を見て言った。
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