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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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マザーズ・ロザリオ編
転章・約束
  剣士の選択

 
前書き
ユウキ登場!そして……!? 

 


24層パナレーゼ

「……………」

巨大な湖の中心にある主住区の外れでレイは大太刀を抜き放って右手で持ち、眺めていた。左手でサブアームの小太刀《蜻蛉》を持ち上げ、その上に大太刀《蓮華刀・紅桜》を重ねる。

深紅の峰に白い刃、炎を表すかのような紅の唐紋様。
芸術品を思わせるその姿に隠された3つ力。

堅牢なる盾。  焼尽の衣。  そして―――、


「『焔鎧・参式、《紅…「あ、いた!」…うおぁ!?」

背後からいきなり声を掛けられ、驚きのあまり両手の刀を取り落とす。2振りの刀が纏っていた赤いライトエフェクトはガラスが割れるような音と共に雲散霧消し、刀は元の輝きに戻った。

「……ったく、何だよ?」
「何だよってあんた。もう時間よ」
「……おっと」

思いの外長く夢想の状態にあったようだ。迎えに来たリズ達に謝ると、拾った大太刀を背に背負い、小太刀を羽織の中にしまった。

「ん………待たせたな。行こうか」





途中でイチャラブしていたキリトとアスナを拾い、《絶剣》が決闘場にしているという小島にやって来る。
小島の丘にそこそこ大きな樹が根を下ろし、その根の一角に多くのプレイヤーが集まって歓声を上げている。

「もう始まってるみたいね」
「まさか倒されたりしてないだろうな……」

輪を作っている集団の空きスペースに全員が着陸した時、丁度1人のプレイヤーが落下してきた。

墜落のショックから暫く大の字に伸びていたサラマンダーの男はフラフラしながら立ち上がると両手を大きく振りかぶって降参した。デュエル終了のファンファーレと大きな歓声、拍手。
すげえ、これで67人抜きだぜ、誰か止めるやついないのかよ、と誰かが言うのを聞きレイはひゅう、と口笛を鳴らした。
確かセラに絡んできた人数は50人を越えたところで止んだらしい。単純に考えれば絶剣は彼女以上に話題を呼んでいるという事だ。

さてさて、どんなヤツかとレイは無造作に視線を上空の勝者に向けた。
勝者が螺旋軌道を作りながら下降するにつれ、そのシルエットの細部が明らかになる。インプ特有の紫がかった乳白色の肌。長く伸びたストレートの髪は濡れ羽色の艶やかなパープルブラック。胸部分を覆う黒曜石の軽量戦士用のアーマーは柔らかな丸みを帯び、その下のチュニックと、ロングスカートは青紫色、腰には黒く細い鞘。

「…………っ!?」

脳がその姿を認識した瞬間彼の思考が勝手にある名前、姿を浮かび上がらせる。

「……そんな、筈は」

何故《彼女》がここに?いや、アバターの姿はランダムだ。天文学的数字にはなるが《彼女》と同じ顔が出来る事もあるかもしれない。
しかし、その思考は別の記憶によって即座に打ち消された。

(……可能では、ある。元々アレはナーヴギアの……)

「……くん、レイ君ってば!」
「ん……ああ。何だ?」
「どうしたの?そんな怖い顔して」
「え……。……いや、何でもないよ。それよりほら、行ったらどうだ?」
「……うーん、私、もっと大柄の筋肉マッチョを思い浮かべてたから、まだ心の準備が…「無問題」…って、わあ!?」



話を逸らす意味も含めてアスナをひょい、と持ち上げると輪の内側に軽く放る。

「あ、お姉さん、やる?」

ニコッと笑いかける《絶剣》をさりげなく観察し、再度受けた衝撃を表に出さず中央に渋々進み出ていくアスナに手を振りながら自分を納得させた。


―――間違い、無いあの笑顔を忘れる筈がない。


彼にだけ分かりうるこの世で最も()()()笑み。

昔はその笑みを見ると顔が綻んだ。しかし、《本物》はその数倍は美しく、愛らしい。

「……機は熟せり。いや、ちょっと早すぎかな?」

ため息がちに呟いた彼はまだ知らない。この《再会》が『始まり』であり―――、





彼にとっての『終わり』である事を……。









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熾烈極まる打ち合いの果てに、《絶剣》はついにOSSを使い、アスナを下した。

「うーん、すっごくいいね!お姉さんに決ーめた!!」

……相変わらずのマイペースではあったが。
その後、


「ねぇ、キリトいいの?」
「え?何がだ?」
「アスナ、何だかよく分からないけど拉致されたわよ?」
「うむ……まあ、大丈夫だろ。なあ?レイ」
「……俺に振られてもな。まあ、大丈夫じゃないか?」
「の、のんきな……」

絶剣の突然の退場にポカンとしていた回りの面々も釈然としないながらも解散していく。一方、俺達は突如として出来た暇な時間を使って素材集めでも行こうという事になり、一端三々五々に解散した。
一度《森の家》に戻るというキリトとユイに追随しながら俺は考え事に耽っていた。
何故、《彼女》はこの世界にやって来たのか、目的や動機、何より今、何を考えているのかを知りたかった。

―――直接話したい。謝りたい。あの日、あの時、身勝手な理由で彼女に重荷を背負わせた事を、約束を守れなかったことを……。

「にぃ?どうかしましたか?」
「え、ああ……。ちょっと考え事さ」
「どうしたんだよ。さっきから考え事ばかりして……」
「……………」

そんなに顔に出ていただろうか?だとすれば皆に余計な気を使わせる事になり、居心地悪いこと甚だしい。

「……調子悪いんだったら、今日は落ちるか?」
「……いや、大丈夫だ。すまない。…………少し、話を聞いてくれないか?」
「何だよ?珍しい」








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Sideアスナ


「……あのね、ボクたち、この層のボスモンスターを倒したいんだ」
「は……はあ!?」

意表を突くその言葉に思わずアスナは素っ頓狂な声を上げてしまった。
連れてこられた層は最前線27層主住区《ロンバール》。そこにあるごく普通の宿屋に《絶剣》ユウキの仲間達はいた。

「ボスモンスターって、迷宮区の一番奥にいるやつ……?時間湧きのネームドモブとかじゃなくて?」
「うん、そう。1回しか倒せない、アレ」
「うーん……そっか、ボスかぁー」

話を聞くところには、もう少しで各々が忙しくなり、皆で一緒に遊べなくなるそうだ。アインクラッドのボスを1パーティーで倒せば全員の名前が《始まりの街》にある石碑に名前が残る。
そこに名前を残すのがユウキ達の目的なのだそうだ。

ふと、ある顔が頭に浮かんだ。

旧アインクラッド攻略の際、数多の絶望的状況をことごとくひっくり返した大太刀使いの顔だ。強力なボスモンスターをアスナを含めたたった7人で戦うとして、彼は何と言うだろうか?



―――決まってる。不敵に笑いながら断言するだろう。『余裕だろ』、と。



25層や26層もチャレンジして、ダメだったらしい。プレイヤー強さは十分なはず、ならばアスナの役目はそれを効率化することだろう。
また、こんなおかしな出会いもまたVRMMOの醍醐味でもある。そして何より――胸の奥に仄かな、しかし確固たる予感がアスナに言っていた。――この出会いは何かを変化させる、と。

「……やるだけ、やってみましょうか。この際、成功率とかは置いといて」

アスナは顔を上げて、いたずらっぽく微笑みながら言った。途端、ユウキが可憐な顔をまぶしいほどに輝かせ、仲間5人が歓声を上げる中、アスナの両手を強く包み込んだ。

「ありがとう、アスナさん!最初に剣を撃ち合った時から、そう言ってくれると思ってたよ!」
「私のことは、アスナって呼んで」

微笑みながらそう応じると、ユウキもにっこりと笑って叫んだ。

「ボクもユウキでいいよ!」

その笑顔にアスナは記憶のどこかが刺激されるのを感じた。








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騒ぎが1段落すると、アスナはずっと疑問に思っていた事をユウキに向かって口にした。

「そう言えば、ユウキは、デュエルで強い人を探してたんだよね?」
「うん、そうだよ」
「それなら、私より強い人はいっぱいいたと思うんだけどなあ。特に、黒ずくめで片手直剣使いのスプリガンの事とか、憶えてない?」
「あー……うん、憶えてる。確かにあの人も強かった!……でも、ダメかな」
「な……なんで?」
「ボクの秘密に気づいちゃったから」

ユウキは不思議な笑みを浮かべると、それ以上話そうとしなかった。その『秘密』はユウキの突出した強さに関係するものだと思われたが、追及はしなかった。

代わりにアスナは少し気になった事を聞いてみた。

「あのさ、ユウキ。変なこと聞くけど私達って初対面だよね?」
「え、うん。どうして?」
「私、何処かでユウキを見た気がするんだよね。最近じゃなくて、結構前に」
「……気のせいじゃないかな?ボクはアスナを見たことない……あ、もしかしてナンパなの?」
「ち、違うよ~!」

はぐらかした感じでは無かったので、会ったことは無いのだろうと思うが、それならばこの違和感はいったい………。だからアスナはふと思い付いた《そうかもしれない》心当たりを口にした。

「ねぇ、ユウキ。じゃあさ、私じゃなくて、《けい》って名前に聞き覚……!?」

突如、ユウキが立ち上がってアスナに詰め寄る。「《けい》!?けいって、もしかして『みずきけい』!?」
「……知ってるの?」
「どこ、何処に居るの!?」

何かを渇望するような、今まで見たことのない気迫にアスナは気圧されるばかりだった。








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Side螢

―チチッ……

アミュスフィアの電源を落とし、フラフラと立ち上がると部屋の奥の本棚、その一番上に手を伸ばす。
アインクラッドから帰ってきてから1年。昔は写真が一枚しか無かったその棚は今では多くの写真が飾ってある。それには現実世界のものや仮想世界のもあるが、中に写っている、何よりも大切な仲間達はどれも笑っていた。

「……ごめんな、木綿季」

謝らなければならない。彼女と離れ、彼女の居る世界との離別を選んだにも関わらず、今自分が信じられないほど幸せだということを。彼女が辛い思いをしていた時に助けるべき立場の俺は別の世界で笑っていたことを。
優しいあの子の事だ。そんな事と言って笑うだろう。偽りの笑みで。

「ごめん……」

床に膝を突き、手に持った写真の額縁を握る。
暫くそのままで居ると、突然机の上にある携帯が鳴った。





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「―――と、言うわけで明日奈さんが今夜泊まるそうです」
「よろしく~」
「……帰れ」

夜もそろそろ更けて来た午後10時。出掛けていた沙良と共に現れたのは結城明日奈。
御歳18になる年頃の女の子である。しかも彼氏持ち。

「む、何でよ」
「彰三さんが心配してる」

俺が手に持った通話状態の携帯を指差すと、明日奈は《閃光》の名に恥じない速業で携帯を奪い取ると、通信を切った。

「オイコラ、この不良娘!何しやがる」
「……お兄様に『家出』で不良扱いされる謂われは無いと思いますよ?」
「ぐっ……」

それを突かれると何も言えない。明日奈から携帯を取り返すと彰三さんに掛け直しながら部屋に戻る。

「どうやら反抗期みたいですね……」
『はぁ……。分からないでもないが、僕は京子さんに何て言ったらいいんだい……』
「まあ、雪も降り始めたみたいですから……沙良に任せますよ」
『ああ、すまないね。お母さんに例の件、考え直すように私が言っておくと伝えてくれ』
「例の件、ですか?……ああ、いや、いいです。伝えます。お休みなさい」

ため息と共に通話を切り、部屋に入る。携帯を置いて彰三さんの伝言を伝えるべく居間に戻ろうと扉の前に立つと、丁度それを叩く音がした。

「螢君、ちょっと良いかな?」
「……扉越しなら」

暫しの沈黙の後、僅かに了承の返事が返ってきたので、俺は扉に背を預けるようにして床に座った。

明日奈の話は先程の『例の件』についてのようだった。

明日奈はもうALOにログイン出来ないかもしれない事、学校を変わらなければならない事。
そして……あの世界の時のように、誰にも頼らない、自立した強さが欲しい事を吐露した。

「……そうか」
「……誰にも、和人君にも言わないでね」
「もちろん」

だからこそ俺に話したのだろう。誰でも良かったのなら、まず和人に相談すべきことだからだ。
つまり、明日奈は自分の問題だから、自分で何とかしたいと思っているのだろう。
だから俺も今は明日奈に何も言わない、俺は応援するだけだ。

「……彰三さんが、お母さんに話してみるそうだ。だから、明日奈ももう一度お母さんと話してみるといい。相手が心を閉ざしているのなら、自分が開くしか無い。………お前は《心の強さ》でSAOをクリアした剣士だ」

明日奈にしか言えないことを、明日奈を理解出来ていない人物に伝える。

何と難しい事だろうか。

たが、明日奈は乗り越えるだろう。





沈黙が続き、やがて扉の向こうで明日奈が動く気配がした。立ち去るのかと思い、俺も立ち上がった時、明日奈の口から意表を突く言葉が発せられた。





「ね、螢君。ユウキの事、教えて欲しいな」



 
 

 
後書き
次回乱闘。
レイ君がひゃっはー!な回です。

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