銀河転生伝説 ~新たなる星々~
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第10話 ダレダン星域会戦
宇宙暦807年/帝国暦498年 6月6日。
この日、銀河帝国の新帝都フェザーンにある獅子の泉宮殿で銀河帝国第38代皇帝アドルフ1世ことアドルフ・フォン・ゴールデンバウムと旧ロアキア統星帝国の第六皇女メルセリア、第七皇女オルテシアとの結婚式が行われた。
第六皇女メルセリアはこの年19歳。
第七皇女オルテシアは17歳と若干若い。
対するアドルフは31歳。
歳の差が大きいように見えるが、皇族・貴族社会ではこの程度の年齢差の結婚は良くあることである。
むしろ、20歳、30歳の年齢差も珍しく無い。
故に、気にするものなど誰もいなかった。
<アドルフ>
フハハハハハハハ、嫁が一気に2人も増えるとは俺のツキもまだ尽きちゃいないな。
ていうか絶賛フィーバー中だぜ。
嫁が8人に子供が10人。
くくっ、今の俺を止められる者は誰もいない!
あ、マリ姉さんと妹のマリナがいました、スイマセン。
コホン、気を取り直して……。
見ろよ、日頃から『おっぱいぷるんぷるん』とか『ちくしょーめ~!』とか『大っ嫌いだ!』とかほざいてる俺と同じ名前のチョビ髭のおっさんも祝福してくれているじゃないか!
えっ?
そんな人何処にもいなって?
…………
ま、まあ何だ、見間違えか変な電波を受信したんだろ……たぶん。
ん?
なんか見慣れない奴等が何人かいるな。
誰だあいつら?
…………ああ、旧ロアキア貴族ね。
道理で見た覚え無いハズだわ。
メルセリアとオルテシアが俺と結婚したことで、旧ロアキアの貴族達も正式に銀河帝国の貴族として認められることになる。
貴族の数ばかり増えてもやっかいなだけなのだが……さすがにあの広大な旧ロアキア領の統治は銀河帝国だけでは手に余る。
そういう意味では認めざるを得ないってわけだな。
まあいい、せっかくの結婚式だ。
今日くらいは、くだらん事を考えてないで楽しむとしよう。
* * *
宇宙暦807年/帝国暦498年 6月24日。
銀河帝国のグリルパルツァー艦隊8000隻はエルダテミア共和国を構成する4星系の1つ、ダレダン星系を攻めていた。
「敵軍の掃討、完了しました」
「よし、このまま惑星ヘイルガットへと侵攻し主要施設を破壊する。全艦……」
「所属不明の艦隊接近。数、およそ8000」
「あれは……ティオジア連星共同体の連星艦隊です」
「ティオジアだと!? 何故連中が介入してくるのだ?」
「おそらく、エルダテミア共和国が共同体に加盟したとかいう理由だと思いますが……」
そんな中、オペレーターから新たな報告が入ってくる。
「戦艦ザッフィーロ確認!」
「ザッフィーロ?」
「連星艦隊の総司令官、レオーネ・バドエル元帥の旗艦です」
「総司令官自らが出てくるとは。それほどの価値がこの国にあるとも思えんが……それにしても、連星艦隊などと呼称しても所詮は寄せ集めに過ぎないようだな」
目の前の連星艦隊が分艦隊ごとに艦形がまったく違う事から、グリルパルツァーは寄せ集めの混成軍と判断した。
ティオジア連星共同体は規格の共同化を図ってはいるものの、それは新規に建造される艦艇以降のことであり、発足後数年しか経過してない現状では艦艇は所属国ごとにバラバラであった。
そうである以上、それらの艦艇を一括して運用するのは容易なことではなく、寄せ集めという判断は間違ったものではない。
ただ、グリルパルツァーの誤算はその艦隊を率いる人物たちが並では無いことを知らなかったことだろう。
そのツケを彼は身を以って思い知ることになる。
「おもしろい、バドエルとやらがどれほどのものか……試してやろう」
そう言って、グリルパルツァーはほくそ笑む。
グリルパルツァーの階級は大将。
1個艦隊の指揮を任されてはいるが、その数は8000隻と上級大将の15000隻の半分程度である。
だが、ここで勝てば昇進はほぼ間違いなく、真の意味で1個艦隊を指揮できる。
彼にこの機会をみすみす逃す選択肢は無かった。
――戦艦ザッフィーロ 艦橋――
連星艦隊総旗艦ザッフィーロの艦橋では、総司令官レオーネ・バドエル元帥が先手必勝とばかりに攻撃命令を下そうとして副官に止められていた。
「閣下、さすがにいきなり攻撃するのはマズいと思うのですが」
「ちっ……そうだな、連中に警告を発しろ。『エルダテミア共和国はティオジア連星共同体に加盟した、直ちに軍を引け』とな」
グリルパルツァー艦隊に向け警告電が発せられる。
「彼らは大人しく従ってくれるでしょうか?」
「あのロアキアを下すほどの国家がこっちの言い分を素直に認めると思うか? だいたい、連中はエルダテミア共和国の独立を認めてねぇ。そう簡単には退かんだろ」
「銀河帝国軍より返信、『エルダテミア共和国なる国家の独立を銀河帝国は認めておらず。直ちにこの宙域より撤退せよ、さもなくば殲滅する』以上です」
「だろ?」
「仰るとおりでした」
そう会話している間にも、ティオジア軍に撤退の意思無しと判断した帝国軍が砲撃を始める。
「敵、撃ってきます!」
「こっちも攻撃開始だ。俺たちの強さをいけすかねー帝国のやつらに思い知らせてやろうぜ!」
戦いの幕が切って落とされた。
* * *
ダレダン星系に展開する帝国軍とティオジア軍の戦力は共に8000隻。
両艦隊の司令官であるグリルパルツァー、バドエル共に優秀な指揮官であったが、分艦隊司令の力量にはバドエル艦隊に分があった。
守勢に関しては鉄壁ミュラーに匹敵する実力を持つユリアヌス・ドルキヌス中将。
機動性に富んだ艦隊運用を得意とするダーフィット・ロン・カルデン中将。
攻守のバランスが良く、用兵の妙に長けるネルジュワール・ラミン中将。
銀河帝国であれば1個艦隊を任されても不思議ではない面子である。
開戦後2時間が経過したところで、最初に仕掛けたのは帝国軍であった。
「右翼を伸ばして敵を半包囲せよ」
グリルパルツァーの構想としては、右翼を伸ばして敵を半包囲下におき、その後左翼を前進させて敵右翼を拘束することで徐々に戦力を削り取って行くものであった。
だが、その構想は未完に終わる。
「頼むぜ、おっさん」
『まかせておけ』
そう答えたのはティオジア軍左翼を任されているカルデン中将である。
彼の指揮下にある2000隻の艦艇は元々アルノーラ軍に所属していた艦艇であり、アルノーラ軍は高機動戦術に定評がある国であった。
そして、元アルノーラ王室近衛艦隊副長という肩書を持つカルデンは当然ながら機動戦を得意としていた。
「全艦全速、敵に我々の速攻を見せつけてやれ!」
オレンジ色に染め上げられた戦艦ドライベルクの艦橋で叫ぶカルデンは、その能力を遺憾なく発揮し、見事帝国軍右翼の頭を押さえることに成功した。
「く、早いな。艦隊運動では敵に分があるか」
そう言って、グリルパルツァーは作戦の失敗に落胆した。
彼自身、『敵が自分たちより優れているわけが無い』と心に驕りがあったのは否めない。
「(このまま中央を突くか……いや、ここで攻勢に出るのは危険すぎる。右翼の頭を押さえられている現状、失敗すれば敵の包囲に曝されてしまう)」
そうグリルパルツァーは考えたが、実はこれによって勝機を逃していた。
このとき、カルデン分艦隊は帝国軍右翼の頭を押さえるため突出しており、バドエルの本隊との繋ぎをユリアヌス中将の分艦隊が担っていた。
つまり、一時的にバドエルの本隊が手薄になっていたのである。
グリルパルツァーがここで中央を突いていれば、数の差は3000対2000。
バドエルの首を取れなくても、後退を強いることは出来たハズである。
「左翼はどうなっている?」
「敵右翼の強かな反撃にあい膠着状態です」
帝国軍左翼は2500隻。
ティオジア軍右翼の2000隻に対して数で有利なはずであった。
「敵の方が一枚上手ということか……左翼のあの機動性といい、敵は優秀な中級指揮官を揃えているようだな」
数において互角である以上、それを指揮する司令官や分艦隊司令の力量によって優越が左右される。
現状、分艦隊司令の力量ではティオジア軍に軍配が上がっているようであった。
「敵中央、突っ込んできます!」
「何だと!」
突如、ティオジア軍中央にあったバドエルの直属部隊が高速で帝国軍中央へと突撃を仕掛けてくる。
不意を突かれたことも影響して帝国軍中央は混乱に陥った。
「なんというスピードだ……だが、数ではこちらが上。敵の先頭へ砲火を集中して勢いを削いた後、押し返せ」
「閣下、右翼部隊が……」
帝国軍中央がバドエル隊への対処で両翼との連携が崩れた隙を突いて、ユリアヌス中将の部隊が帝国軍右翼へと攻勢を掛けている。
「く、敵の狙いは始めからこれだったか!」
ようやくバドエルの狙いに気づいたグリルパルツァーであったが、時既に遅し。
戦況はティオジア軍に傾いていた。
「このままでは分が悪い、全軍を後退させて陣形を立て直せ」
グリルパルツァーも無能ではない。
このままでは遠からず右翼部隊が壊滅するであろうことは容易に予測できた。
そして、それを回避するにはある程度の損害を覚悟でいったん後退し、崩れた陣形を再編するしかないことも。
だが、今回は相手が悪過ぎた。
「おっと、逃がしはしねーよ」
バドエルは突型陣をとって帝国軍中央部へと突撃する。
「このままでは食い破られます!」
「(く、このままでは……)」
「直撃、来ます!」
一発のビームがグリルパルツァーの旗艦エイストラに直撃し、エイストラの推進力を大幅に奪い去った。
「こんなことが……」
直後、新たなビームの直撃を受けたエイストラは爆沈。
グリルパルツァーも戦死した。
エイストラの撃沈はバドエル艦隊旗艦ザッフィーロの艦橋からも確認できた。
「敵旗艦、撃沈」
オペレーターの報告に周囲から歓声が上がる。
「やりましたな」
「ああ。だが、まだ戦いは終わっちゃいねぇ。ここで叩けるだけ叩いておくんだ!」
旗艦を失って壊乱状態にあるグリルパルツァー艦隊に対し、バドエルは容赦なくたたみ掛ける。
このまま行けばグリルパルツァー艦隊の全滅も時間の問題であったが……
「後方より敵艦隊。数8000」
「何だと!」
「推定接触時間は?」
「およそ、3時間です」
「まだ多少時間はあるようですが……」
「いや、これだけやれば十分だ。直ちに撤収に入れ」
かつて、ヤン・ウェンリーは名将の戦いぶりについてこう述べていた。
『明確に目的を持ち、それを達成したら執着せずに離脱する』
今まで積み上げて来た戦果だけではなく、そういった意味でもバドエルは名将と言えた。
6月24日23時10分。
クナップシュタイン艦隊が救援に駆け付けたことでバドエル艦隊は撤退。
グリルパルツァー艦隊は全滅を免れたが、残存艦艇は4000隻と実に半数を失っていた。
この戦いは、新天地戦争(銀河帝国呼称)が始まって以来、初めての銀河帝国軍の敗北であったと歴史に記されることになる。
==今日のアドルフ==
アドルフは哲学書を読んでいる。
と見せかけて、それは表紙が偽造されたエロ本だった。
無論、後でメイド長であるマリアン・フォン・アントワープにバレて折檻されたのはお約束である。
…………
やっぱり駄目だ、この男。
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