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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
  黒狼の背にて

レコン、長田慎一と現実世界での会話を終え、ALOに帰還したリーファをまず初めに驚かせたのは、やはりと言うかどこかへと雲隠れしていたクーの存在だった。

ルグルーほどの大型中立域でも、さすがにクーほどの大型モンスターを従えているテイマーはそうはいないらしく、行き交う人々の視線が痛い。たまにクーと目線が会ったりしたプレイヤーは、ひっと軽い悲鳴を上げて逃げ出していく。かわいそうに。

さらに、事情を説明しようとレン達のほうを向くと、本人達はさっさとクーの背に跨り始めていた。

「え、ちょ………」

「事情は分かってるよ、リーファねーちゃん。だから行こ、助けにね」

淡々とレンはそう言った。

世界樹に行く。そう言っていたのにも関わらず、さらりと、当たり前のようにそう言った。

それでもリーファは一つだけ、どうしても納得できないことがあった。キリトのことだ。

「で、でも。これはシルフとケットシーの問題なんだよッ!関係のないキリト君まで巻き込むなんて………」

リーファがそう言うと、紅衣の少年は苦笑した。

後ろのカグラが、聞こえていないフリをしているキリトを横目で睨みながら口を開いた。

「私たちもそう言ったのですがね。どうも、この方は自らトラブルに巻き込まれたいらしいです」

「え………、何それ、マゾ?」

「ち、違う!」

マゾなんかに認定されたら堪らないとばかりに、両手を振って一生懸命言い訳をまくし立てる黒衣のスプリガンの姿を見ていたら、不思議とリーファの身体から余計な力がスーッと抜けていくのを感じた。

だから笑って、リーファは言った。

「うん。ありがとね、キリト君」

応えは無言の頷き、そしてレンが茶目っ気たっぷりに言う。

「さぁてと。それじゃ発車するよー。お乗りの方はお早く願いまーす!」

慌ててこちらに伸ばされたカグラの手を取り、クーの背に跨る。

ツヤツヤの黒毛は、予想に反してふっかふかだった。それに、肌触りも良い。まるで高級な羽毛布団のようだ。

「わ、すっごーい」

歓声を上げるリーファに、すかさずレンが釘を刺す。

「リーファねーちゃん。はしゃぐのもいいけど、ちゃんと掴まってないと振り落とされるよ」

それにはいはーいと生返事を返しながら、リーファはレンに浮かんできた疑問をぶつけてみる。

「そういえばレン君。何で走っていかないの?レン君のスピードだったら余裕で着けると思うのに」

「僕はリーファねーちゃんたちを背負ってあのスピードを維持できるほど、筋力値に自信はないからねー。だからクーに乗せたほうがいいかなって思って」

大丈夫かな、とそれでもリーファが不安そうな声を発すると、紅衣のケットシーは髪の色と同じ漆黒の猫耳をピクピクッと動かし、どこか自慢げににやりと笑った。

「だいじょーぶだいじょーぶ。だって────」

全員が背に乗ったのを確認したのか、漆黒の巨狼はぐぐっと足に力を入れ、背中に跨るリーファ達も大きく揺れた。

そして─────

───────────────ッッッッッ!!!!!

鼓膜が消し飛ぶような轟音とともに、リーファ達の身体が完璧に横向きになった。

直前に、半ば本能的にクーの体毛をしっかり掴んでいなかったら、今頃遥か彼方へと吹き飛ばされていたことだろう。それほどの加速力。

周囲のテクスチャは完全に溶け崩れ、放射状となって後ろへと流されていく。地面を見れば、ただの茶色い絵の具を塗りたくった絵画のようになっていて、非日常感半端ない。

舌を噛まないように気を付けながら、リーファはひゃっほーい!と完全にハイテンションになっているレンに、吹き荒ぶ風の音に負けないようにしながら懸命に叫んだ。

「れ、れれれレン君!!ここ、これホントに、だいじょぶ!!?」

「えー、何がー?」

こんな局面でものんびりとした口調を崩さない彼に、リーファは腹立ち紛れに叫ぶ。

「じ、時間的な意味で!!!」

「あー、大丈夫だよ。リーファねーちゃん、マップって出せる?」

突然の問いに、リーファは思わず前傾姿勢になっていた体を起こし、左手を振る。現実世界で、この速度の中でそんなことをすればまず間違いなく空気抵抗とかそこら辺の問題があっただろうが、この世界ではそんなことはもちろんない。

表示されたメニューウインドウから、マップのボタンを押す。

出てきた簡易マップは、おそらくリーファがこれまで見たどのマップよりも高速で動いていた。

ALOでのメニューから呼び出せる簡易マップは、基本的に自分が現在いる座標より約二、三百メートルほどを表示する。

しかし、今それは目まぐるしくスクロールされていた。当然のことながら、リーファは欠片も手を触れていない。

ほえー、と声も出せずに驚いていると、突然視界が開けた。

顔を上げると、先程まで目と鼻の先にあった洞窟の地面は跡形もなく消え去り、五百メートルほど下に広大な草原が広がっていた。

へっ?と振り向くと、フリフリ揺れるクーの尻尾の遥か彼方に、みるみる遠ざかっていく洞窟の出口が見えた。

どうやらクーは、走る勢いを緩めず、山脈の中腹に開いた出口からカタパルトよろしく飛び出したらしい。

「え?ちょっと待ってレン君!」

「なーにー?」

「クーって飛べたの?」

この上なく真剣な声で放たれたリーファの言葉を聞いた途端、視界の隅でキリトがさっと顔を青くするのが見えた。

そして、リーファのその問いに対する答えは、あまりにも短かった。

「いいやー」

相も変わらず間延びしたその言葉が放たれた次の瞬間、とうとうクーの運動エネルギーが尽き、仮想の重力がその巨体を引き摺り下ろし始めた。

まるでこれから地面に衝突する隕石の上に乗っているかのような感覚。

それに堪らず悲鳴を上げながら翅を広げようとすると、横からカグラが抑えた。

「今はなりません」

訳を聞く間もなかった。

地面は見る間に近付いてきていて、リーファは来るべき衝撃に耐えるべく目を硬く閉じた。

しかし────

「あれ?」

衝撃は来なかった。

恐る恐る目を開けると、そこには洞窟の中と変わらぬ姿で走り続けるクーがいた。つまりこの黒狼は、あの高さからの落下による衝撃をその四肢だけで完全に受け止めたと言うことなのだろうか。

強靭な四肢が地面を蹴るごとに、乗っている背を通して心地良い振動が伝わってきて、妙に気持ちがいい。

─────って

「寿命が縮んだわよ!!」

詰めていた息を思いっきり吐き出しながらリーファはレンに詰め寄って、頬をつまんでむに~っと引っ張った。

「時間たんひゅく時間たんひゅく。ひょれに、あにょまま走っへはらいつ着くかわかった物ひゃなかったからねーっていひゃいいはい!いい加減離ひてリーファねーはん」

間延びした声で悲鳴を上げるレンをたっぷり楽しんだ後で手を離してやる。

しばらく患部をさすりながら、こちらを恨みがましそうな目で見てくるレンを横目で睨み返しながら、リーファは改めて周囲を見回した。

眼下には広大な草原が広がり、所々に湖が青い水面を煌かせている。それらを結ぶように蛇行する河が流れ、さらにその先には────

「あっ…………」

リーファは思わず息を呑んだ。

雲海の彼方、朧に浮かぶ巨大な影。

空を支える柱かと思うほどに太い幹が垂直に天地を貫き、上部には別の天体にも等しいスケールで枝葉が伸びている。

「あれが………世界樹か…………」

隣で、キリトも畏怖の念のこもった声音で呟いた。

山脈を越えたばかり────と言ってもすでに遠ざかり始めているが────のこの地点からは、まだリアル距離置換で二十キロメートル近く隔たっているはずのその大樹は、すでに圧倒的な存在感で空の一角を占めていた。根本に立てばどれほどの光景となるのか想像もつかない。

一同はしばらく無言で世界樹を眺めていたが、やがてカグラが冷静かつ涼やかな声で言った。

「それで、レン。領主会談の場所とは、どの辺りなのですか?」

「お、おぉ。それ聞きたい」

「あっ、うん。えーと、今抜けてきた山脈は輪っかになって世界中央を囲んでいるんだけど、そのうち三箇所に大きな切れ目があるんだ。サラマンダー領に向かう《竜の谷》、ウンディーネ領に向かう《虹の谷》、あとケットシー領に繋がる《蝶の谷》。んで、会談はその《蝶の谷》の内陸側の出口でやるってことだから…………」

紅衣のケットシーの言葉に導かれるようにリーファはぐるりと視線を巡らせると、北西の方角を指した。

「あっちにしばらく言ったとこだと思う」

「了解。残り時間は?」

「おそらく二十分かと」

「会談を襲うつもりなら、サラマンダーはあっちからこっちへ移動するわけか………」

キリトは南東から北西へと指を動かした。うーん、とレンが唸る。

「僕達より先行してるのか、微妙なとこだねぇ」

「このスピードならば、大丈夫ではないですか?」

カグラはつっと視線を周囲に向ける。

クーの巨体はますます加速し、いまや漆黒の弾丸と化していた。時速にして直すと、軽く二百キロか三百キロ近く出ているのではないだろうか。

「うーん、それでも相手の先行具合にもよるわね」

「急ぐしかない、か。ユイ、サーチ圏内に大人数の反応があったら知らせてくれ」

「はい!」

こくりと頷き交わし、レンがクーの背を一度叩くと、漆黒の巨体はぐわっと身体をたわめて一層の加速に入った。










「それにしても、モンスターを見かけないなぁ?」

草原の草を薙ぎ倒しながら漆黒の風と化すクーの背に乗りながら、キリトが口を開いた。

「あ、このアルン高原にはフィールド型モンスターはいないんだ」

「へぇ、だから会談をわざわざこっち側でするんだね」

「なるほど、大事な話の最中にモンスターが湧いちゃ興醒めだしな………。でも、この場合はありがたくないな」

「どういうこと?」

レンが訊くと、キリトはニッと悪戯っぽく笑う。

「《トレイン》でもして、モンスターの大群をサラマンダー部隊にぶつけてやろうと思ったんだけどな」

《トレイン》というのは、ネットゲームの非マナー行為の名称だ。

フィールドに生息するアクティブなMobは大抵、己の攻性化範囲(アグロレンジ)に入ってきたプレイヤーをシステムに規定された時間または範囲まで無限に追いかけ続ける。

しかし、これには抜け道があって、あるワンプレイヤーを追っている最中に別のプレイヤーが、その対象プレイヤーとの距離よりも近くに出現した場合だ。

これを都合よく利用すると、追ってきたMobを他プレイヤーになすりつけると言う事になってしまう。当然ながら、なすりつけられた側は堪った物ではない。

「………よくそんな事考えるわねぇ。サラマンダーは洞窟で襲ってきたとき以上の大部隊っぽいから、警告が間に合って全員でケットシー領に逃げ込めるか、もしくは揃って討ち死にか、どっちかだと思うわよー」

間延びした声で言った後、リーファははたと考え込んでしまった。

その対象はもちろんレンのことだ。

この紅衣のケットシーが、かなりの実力者なのは今更疑う余地もないが、それでもこの少年には謎が多すぎると思う。

ルグルー回廊での、あの橋の上で謎のノームに放たれた壮絶の限りを尽くした一撃。空間すらも捻じ曲げ、破壊したあの一撃。

GMでもない一般プレイヤーでは決して放つことはできないあの攻撃の正体は一体何なのだろうか。

悶々と考えていたリーファは、意を決してレンに対して口を開いた。

「ね、ねぇレンく────」

しかし、その言葉が最後まで放たれることはなかった。なぜなら、キリトの肩に座って耳を澄ませているように眼を瞑っていたユイが

「プレイヤー反応です!」

叫んだから。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました。そーどあーとがき☆おんらいん!」
レン「やっとユージンーンのおじさんとの戦闘だね、次回は」
なべさん「そうだな。まぁだけど、あのおっさんが持ってるグラムの能力が、果たして中、遠距離戦用のワイヤーにどう立ち向かうか。そこがわかんねーとこだよな」
レン「確かに。あれは接近戦だからこそ活かされるものだからなー」
なべさん「ま、なんとかするか」
レン「むしろしろ」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてください!」 
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