『曹徳の奮闘記』改訂版
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第九十四話
前書き
軍船の砲弾は信管を抜いています。
砲撃戦はパイレーツオブカビリアンのような展開だと思って下さい。
「そろそろ作戦開始ね」
「うむ、魏軍の監視に見つからないようにしなければな。見つかれば仲は終わりだな」
「………」
冥琳の言葉に雪蓮は黙っていた。
「どうした雪蓮?」
「……美羽には悪い事したなと思っているのよ」
「……それは雪蓮のやるべき事を託したからか?」
「あ、バレた?」
「……判るに決まっているわ。私と雪蓮の仲よ? 何年の付き合いだと思うの?」
「そう……冥琳、私は後悔していないわよ。あの子に託したのは正解だと思うわ」
「……雪蓮がそうなら構わない。蜂蜜蜂蜜と言っていた子があんなに成長するとはな……」
「長門といたからよ」
「……何故だか不思議と判るな。当たり前の事だがな」
「策殿、準備は出来ておるぞ」
そこへ祭が準備完了を告げにやってきた。
「判ったわ。後は長門の水軍が来るのを待ちましょ」
その頃、俺が率いる水軍は魏軍が停泊している烏林湾まで後少しで到着するところだった。
「後方の二番船に連絡。砲撃準備」
「了解、砲撃準備ィッ!!」
右舷に設置された四斤山砲に砲弾を装填する。ちなみに、今の四斤山砲は中世の戦列艦や海賊船のように砲身を台座に設置している。
「準備完了ォッ!!」
よし後は烏林湾に……。
「烏林湾ですッ!! 烏林湾が見えましたッ!!」
「周囲に警戒船は?」
「……あります。小舟ですが四艘います」
小舟なら構わないな。
「砲撃を優先する。目標、敵魏軍軍船ッ!! 呉軍船は狙うなよ」
砲手が照準をした。
「右舷一番砲、撃ちぃ方始めェッ!!」
そして遂に砲撃が始められた。初弾は命中して火災は上がってはいないが、喫水線部分を狙うようにしてあるので浸水しているのはまず間違いないと思う。
「一番砲、次弾装填ッ!! 続いて二番砲撃ェッ!!」
続けて二番砲が射撃を始めた。二番砲の砲弾は一番砲の砲弾より離れて命中した。
「軍船が傾き始めていますッ!!」
浸水した影響で目標の軍船は徐々に傾斜していく。あの様子だと沈没は間違いないな。
「目標を変える。目標、破壊した軍船の左に停泊している軍船ッ!!」
「照準完了ォッ!!」
「撃ェッ!!」
再び射撃を始める。そして二番船から五番船も砲撃を始めて、魏軍の軍船を一隻、また一隻と沈めていく。
「雪蓮達はと……」
魏軍の周りを見ると、艦隊の両端で火災が起きていた。
「雪蓮め、やっているようだな」
「投げろ投げろッ!! 火矢を次々と射てッ!!」
両端に展開していた元呉軍船団の元呉軍兵士達は魏軍の軍船に向かって次々と球体の陶器を投げていた。
この球体の陶器の中身は魚油である。元呉軍兵士達は陶器を投げて魏軍の軍船を油まみれにさせた。
そこへ火矢が突き刺さって停泊していた軍船はあっという間に火が回って炎上している。
「ぎゃあァッ!?」
魏軍兵士達は火を消そうとするが逆に火炎に飲み込まれていき統率は完全に崩壊している。
「華琳様ッ!! このままでは船団は全滅しますッ!! 陸に上陸して退避しましょうッ!!」
「……やむを得まいわ。全軍、船を捨てて陸地へ逃げよッ!!」
華琳はそう決断し、生き残っている魏軍兵士達は次々と軍船から退船していく。
しかし、火の回りが早く逃げられずに焼死する兵士達もいた。熱さから逃れるために水の中に飛び込む兵士もいたが、鎧が重く酸素を求めて海面に泳ごうとするが力尽きて沈んでいく者もいた。
そして夏候淵が何かを見つけた。
「湾内に王の旗の軍船……王双が向かってきますッ!!」
「……私を見つけたようね」
華琳は苦笑した。
「華琳様、殿は私が務めます」
夏候淵がそう言ってきた。
「分かったわ。頼むわよ秋蘭」
「御意」
「必ず来るのだぞ秋蘭」
そして夏候淵は僅か三百の手勢を率いて小型の軍船で長門の軍船に向かった。
「左から小型軍船ッ!! 全部で七艘ですッ!!」
「足止めだな。舵このまま、右砲戦用意ッ!!」
四斤山砲に砲弾を装填して小型軍船に照準をした。
「一番撃ェッ!!」
一番砲が火を噴き、小型軍船に直撃して乗っていた魏軍兵士達を吹き飛ばした。
「く、我々が蟻のようだな……」
小型軍船の先頭を航行する秋蘭はそう呟いた。そこへ二番砲が撃って至近弾となる。
「浸水ッ!!」
「王双軍に当たるまで持ちこたえればいいッ!!」
長門の軍船は四艘を沈めたが残り三艘は軍船に取りついた。
「乗り込めッ!!」
「ちぃ、夏候淵の野郎……弓隊射てッ!!」
俺は舌打ちをしつつ弓隊に射撃をさせる。乗り込もうとする魏軍兵士を一人ずつ射殺していく。
それでも夏候淵以下十数人が乗り込んできた。
「夏候淵ッ!! 最早魏軍の負けだ、素直に降伏してくれ」
「……断る。我が魏は華琳様の野望を達せられるまで倒れるわけにはいかんのだッ!!」
「ッ!?」
「伏せろ長門ッ!!」
そう言って夏候淵は俺に矢を放ったが、焔耶が咄嗟に俺の頭を伏せてくれた。矢は後ろにいた兵士の喉に命中して兵士は息絶えた。
「済まん焔耶ッ!!」
「今度、何か奢るんだなッ!!」
ほんとに……焔耶は最高だな。
「焔耶……」
「……ん、分かった」
俺は焔耶に小声で用件を伝え、焔耶も判った。
「行くぞォッ!!」
焔耶が夏候淵に突進する。
「くッ!?」
夏候淵は素早く矢を構えて焔耶に狙いを定めるが、その刹那に焔耶は思いっきり飛んだ。
そして今が好機ッ!!
俺は牙突の要領で一気に突進して夏候淵の前に出た。
「なッ!?」
「暫く倒れとけッ!!」
俺は左拳を夏候淵の鳩尾に叩き込んだ。
「ガハッ!?」
夏候淵はそのまま前から崩れるように倒れるが俺は咄嗟に夏候淵を抱き抱えた。
そして夏候淵の両手を後ろに回して捕縛するのだった。
後書き
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