戦国異伝
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第百三十話 南蛮具足その七
「それであの家は動く」
「主の浅井長政を動かせずとも」
「それは土台無理でもですな」」
「父親はともかく息子は切れ者じゃ」
これが彼等の長政への評だ。
「そうおいそれとはな」
「仕掛けてもですな」
「かかりませぬな」
「あの者はな」
とにかく長政は駄目だというのだ、仕掛けるには。
「織田信行にしろ不意に仕掛けたからこそいけた」
「はい、あの男も切れますが何も気付かないうちに仕掛けました」
「だからいけました」
「それに武は不得手でしたし」
これも影響していたというのだ。
「気は大したことがありませぬ」
「しかし浅井長政は政以上に武に秀でた者」
長政は政もそれなりであるがやはり武の者だ、自ら戦の場に立ち戦い兵達を率いて勝つ男なのだ。その彼だからだというのだ。
「そうおいそれとはな」
「仕掛けてもかからぬ」
「我等の術に」
「しかも鋭い」
この辺りも信行とは違う、信行は知識や教養の者であり直感は信長や長政に比べれば鈍い、そこが違うのだ。
その彼だからだったというのだ。
「いけたがな」
「浅井長政はそうはいかぬ」
「だからこそですな」
「あの者ではなく」
では誰かというと。
「父親じゃ」
「浅井久政ですな」
「あの者に仕掛けますな」
「浅井家には二人の主がおる」
浅井家の特徴だ、とはいっても戦国の世ではままあることだ。
「隠居させられたあの者じゃ」
「隠居させられていても父は父」
「それ故にですな」
「浅井長政は親孝行でもある」
このことも影響していた、長政は確かに父を無理に隠居させたがこれは止むを得ずしたことだ、彼は極めて孝行者なのだ。
そしてそれ故になのだ。
「あの隠居させたことを今も後ろめたく思っておる」
「だから二度とですな」
「父親の言葉には逆らわぬ」
「今も気を使っていますし」
「その父親を篭絡すれば」
「それは既に」
「我等がしております」
闇の中からすぐに二人が言った。
「後はあの者に言わせるだけです」
「その口で」
「では後はじゃな」
「駒を動かすだけです」
「将棋の駒を」
つまりその駒こそがだった。
「王が二枚あるのはかえって面白いですな」
「仕掛けがいがあります」
「よし、では任せた」
その中央の声も応えた。
「織田の十万の兵も袋の鼠にすれば滅ぼすのはたやすい」
「ですな、幾ら数が多くともです」
「戦は囲めばそれで終わりです」
「後は我等も加わり始末するだけ」
「それだけですな」
「その通りじゃ。我等も動く」
浅井久政を動かすだけではなく、というのだ。
「よいな」
「はい、さすれば」
「その様に」
「ここで何としても滅ぼしておく」
信長を、というのだ。
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