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オテロ

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第四幕その四


第四幕その四

「黙っていろ」
「いえ、言うわ」
「黙っていろ」
「どうしたのよ、あんた」
 エミーリアもまたイヤーゴの素顔を知らなかった。しかしそれでも言うのだった。
「言うわ。奥様の為に」
「だから黙っていろ」
「あのハンカチは私が拾ってそれを主人に頼まれて渡したものです」
「何っ!?」
 それを聞いたオテロの顔が曇った。
「どういうことだ、それは」
「ですからその後は」
「くっ・・・・・・」
 イヤーゴはエミーリアに怪訝な顔で問うオテロの後ろで歯噛みしていた。そしてここで言うのはカッシオだった。
「私はそのハンカチを部屋で」
「ますますわからん。何なのだ」
「閣下!」
 ここで扉に兵士の一人が飛び込んで来た。
「どうした」
「大変なことです。ロデリーゴ殿が最後に仰ったのですが」
「うむ」
 その兵士の言葉を一同聞く。だがイヤーゴはその中で何とかその場から逃れようとしていた。陰険な悪魔の顔で。
「イヤーゴ殿がデズデモーナ様との縁を取り持つからと。カッシオ様を暗殺されよと。手伝うからと」
「そういえば」
 カッシオがまた声をあげた。
「あの時刺客は二人いた。それでは」
「では、だ」
 オテロはここで全てがわかった。
「わしにデズデモーナのことをそそのかしたのは」
「あと閣下」
 またカッシオがオテロに言う。
「私は。ビアンカという女と」
「それでは」
「そうだ。あんたが」
 エミーリアもまた。全てがわかった。また血相を変えてイヤーゴを見る。
「全部。仕組んで」
「違う!」
「そうじゃないかい。全部!」
「黙れ!」
 遂に感情を爆発させた。剣を抜きそれで自分の妻を切り捨てた。そのうえで逃げようとする。しかし。
「馬鹿だった」
 オテロは俯いて呟いていた。
「馬鹿だった。わしは馬鹿だった」
「閣下・・・・・・」
「だが。あの男は逃がさん」
 しかし目は生きていた。顔を上げるときっとイヤーゴを見据える。
 側の兵士に顔を向ける。そして彼に言った。
「槍を渡せ」
「槍をですか」
「そうだ。これで」
 兵士から槍を受け取ると。それをイヤーゴに向かって投げた。槍はイヤーゴの背を貫きそのまま心の臓まで貫き通した。イヤーゴは前に倒れていく中で最期の呪詛の言葉を漏らした。
「おのれ・・・・・・」
「悪魔は死んだ」
 モンターノはそれを見て呟いた。
「実直な顔は仮面だったか。全ては」
「閣下」
 ロドヴィーゴが今槍を投げたオテロのところに来て。静かに告げた。
「申し訳ありませんが」
「何を言われるか」
 しかしオテロはその彼に対して言うのだった。
「例えまだほかに武器を持っていたとしてもわしを恐れる者はいません」
「それはどういう意味ですかな」
「オテロの旅は終わったのです」
 そう彼に告げると静かにデズデモーナのところに歩み寄った。苦渋に満ちた顔で妻の死に顔を見ている。
「何と蒼ざめていることか。疲れてもの言わず美しくそれでいて不運の星の下に生まれた女よ」
 妻へのことアだった。
「清らかな女。汚れのないその生涯の様に冷たく天に昇る女、デズデモーナよ」
 そう妻の亡骸に告げると。懐から剣を出した。皆が止める間もなくその剣を己の胸に突き刺すのだった。
「閣下!」
「何故!」
「言った筈。わしの旅は終わった」
 ベッドに倒れ込む。その中での言葉だった。
「デズデモーナ」
 前にいる妻び呼び掛ける。
「最期に口付けをしたな。今また再び、わしの最期に・・・・・・」
 何とか妻に近寄ろうとするがそこで力尽きた。ロドヴィーゴがその彼のところに歩み寄り自分の手でその目を閉じさせオテロとデズデモーナの手を握り合わさせた。人々はその二人の亡骸を囲んで静かに胸で十字を切るのだった。二人の魂の鎮魂に。


オテロ   完


                  2008・4・10
 
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