オテロ
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第四幕その二
第四幕その二
「恵み溢れる聖母マリア。貴女様は多くの妻達、乙女達から選ばれました。その貴女様から生まれた主よ。罪ある者の為に祈って下さい。弱く虐げられた者にも力ある者にも」
祈りは続く。
「不幸なる者の為にも侮辱に額を垂れる者の為にも邪悪な運命の下にいる者達に対しても。祈りを救いを御願いします。どうか」
そして最後に深い祈りを捧げた。それが終わってから立ち上がり寝台に入り眠りに入る。暫くすると部屋の中にオテロが入って来た。まずはテーブルの上に剣を置きそれから蝋燭を少し躊躇いを見せてから消した。それから寝台に近付きデズデモーナを見る。唇を噛み締めながら彼女の眠っている顔を見る。暫く彼女の顔を見たまま考え込んでいたがやがてその唇に三度接吻をした。それが終わってから顔を上げた。するとデズデモーナが目を覚ました。
「オテロ様?」
身体を起こしながらオテロに対して問う。オテロはその彼女を見ているうちに顔を見る見るうちに険しく不吉なものにさせていくのだった。
「祈りは済んだか」
「お祈りですか」
「そうだ。御前が何か罪を思い出したら」
彼は言う。
「神の恵みを願いすぐに祈るがいい」
「何故ですか?」
「急げ」
オテロはまた言い詰める。
「わしは御前の心まで殺したくはないのだ」
「殺す・・・・・・」
「そうだ」
闇の中で目が血走っていた。憎しみに燃えていた。
「わかれば。祈れ」
「そんな・・・・・・私は何も」
「御前の罪を考えるのだ」
憎悪に満ちた声で述べた。
「御前の罪をな」
「私の罪を」
「そうだ。それは何だ」
「愛したことです」
それしか考えられなかった。デズデモーナには。
「それ以外は何も・・・・・・」
「そうだ、愛だ」
憎悪に満ちた声で今愛だと言った。
「御前はそれ故に死ぬのだ」
「では貴方を愛したから私を殺すと仰るのですか?」
「御前はカッシオを愛した」
オテロの言葉だ。
「そんな、それは・・・・・・」
「さあ、死ぬのだ」
有無を言わせぬ言葉だった。オテロはそれ以外に言葉を知らないかのようだった。
「今すぐここで」
「今日だけでも」
そうすればわかると思った。だが。
「駄目だ」
憎悪がそれを拒んだ。
「今すぐだ」
「一刻だけでも」
「駄目だ」
やはりそれも拒む。
「ほんの一瞬でも」
「駄目だ」
これも駄目だった。
「お祈りを捧げるその間は」
「駄目だ!」
遂に叫び。そしてデズデモーナの首に両手をかける。
「死ね!今すぐここで!」
「オテロ様、どうして私を」
「黙れ、黙れ!」
寝台の上で倒れていくデズデモーナの上で叫ぶ。その両手で彼女の首を絞める。デズデモーナはそれを抵抗することもなく受けるだけだった。
「ここで死ね。わしの手で!」
「オテロ様・・・・・・」
デズデモーナは意識を失った。死んだと思った。そう思ったオテロは顔を上げた。次にベッドから出る。そのうえで肩で息をしながら呟くのだった。
「墓場のように静かだな」
だがその静寂は一瞬だった。扉を叩く音が聞こえてきたのだ。
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