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オテロ

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第三幕その一


第三幕その一

                第三幕  ハンカチの罠
 城の大広間。奥にテラスがあるこの豪奢な部屋の執務用の机にオテロは座っている。その横にはイヤーゴが毅然として立っている。その彼に一人の将校が報告していた。
「以上です」
「そうか」
 オテロはまず彼の言葉に頷いていた。
「遂に来られたのだな」
「間も無くこちらに来られます」
 将校はこうも述べた。
「大使御一行が」
「はい」
 またオテロの言葉に応えてきた。
「その通りです」
「よし、わかった」
 オテロはオテロとしてその将校の言葉に応えた。
「では下がれ」
「わかりました」
 将校は敬礼をして応えその場を後にした。これで終わりだった。
 オテロは彼を見届けるとイヤーゴに顔を向けた。彼はそのイヤーゴに対して問うのだった。
「それでだ」
「先程のお話ですか」
「そうだ」
 イヤーゴに対して頷く。
「カッシオを呼ぶのだな」
「そうです」
 イヤーゴは誠実な顔でオテロに対して頷いてみせた。
「ここに連れて来たならば」
「どうするのだ?」
「その時はお任せ下さい」
 賢者の顔を見せる。だがこれもやはり仮面なのだ。
「私めにそれで宜しいでしょうか」
「わかった。それでは」
「それでですね」
 イヤーゴはさらにオテロに話を続ける。
「総督は」
「わしはどうすればいいのだ?」
「お隠れになって下さい」
 そうオテロに告げてみせた。
「あのテラスのカーテンの裏にでも」
「むっ、確かに」
 そのテラスの方を見て言うオテロだった。
「あの場所は。隠れるには都合がいい」
「はい。ですから」
 誠実を装ってオテロに話し続ける。
「あちらに。それで宜しいですね」
「わかった。ではな」
「はい」
 またオテロに頷いてみせてから一つスパイスを混ぜるのだった。
「彼の仕草をよく御覧になられて下さい」
「うむ」
「ハンカチもまた」
 それがスパイスだった。しかもそれは胡椒よりも効くスパイスだった。それをオテロに振りかけたうえでようやく話が終わった。イヤーゴが敬礼をして部屋を後にしたがそこでまた出て来たのはデズデモーナだった。彼女はおずおずとオテロのところに来て彼に対して声をかけるのだった。
「オテロ様」
「どうした?」
 まずは普通の顔でオテロに応えた。
「御機嫌は如何でしょうか」
「うむ。いい」
 こう答えてはみせる。
「いつも通りの美貌だな」
「有り難うございます」
 オテロのその言葉に穏やかな笑顔で微笑む。
(しかしだ)
 彼は心の中で思うのだった。
(よからぬ企みを持つ優しい悪魔が美しい象牙色の小さな爪を持っているのだ)
 デズデモーナのことである。
(祈祷や熱情に優しい物腰を装いながら)
「それで私は」
 またデズデモーナは言うのだった。
 
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