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オテロ

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第二幕その三


第二幕その三

「閣下」
「何だ」
「嫉妬には用心なさいませ」
「嫉妬にか」
「それは陰気で青黒く盲目の猛毒を持った悪蛇です」
 よく知っているからこその言葉であった。
「その毒で激しい苦痛が胸を引き裂くのです」
「恐ろしい毒だ。いや」
 ここでオテロは一旦考えを変えた。
「悪戯に疑うことは何の役にも立たない」
「その通りです」
「疑う前に調べ、疑いの後に証拠をだ。そして証拠の後で」
 言葉を続けているうちにふと呟いた。
「わしは最高の法律を持っているではないか。愛というものを」
「なりませんぞ、閣下」
 また囁く。止めるのはこの場合逆効果と見抜いたうえで。
「そう話されることは。ですが」
「ですが」
「誠実で高貴なお育ちの方はえてして騙されやすいもの」
「まさか」
「いえ、そうです」
 また言うのだった。
「奥様の御言葉をよく聞かれることです」
「デズデモーナのか」
「そう、細かく。一言で信頼を取り戻しもすれば疑いを証拠立てることになります。さあ」
 指差す後ろで歌声が聞こえる。そこにいるのはデズデモーナだった。庭の大きな中央のアーチのところにいる。周りにはキプロスの乙女や子供達がいる。彼等は楽器を奏で歌っているのだった。
「奥様、この曲はどうでしょうか」
「ええ、いいわ」
 デズデモーナは優雅に笑って彼女達に答える。そこに水夫や島の男達も来て歌いだす。優雅さと勇壮さがミックスされた。
「そよ風が吹く時歌が暢気に流れてきて」
「貝や真珠、珊瑚を捧げ」
「花を胸から雨の様に」
「まなざしの光り輝くところ」
 デズデモーナは優雅に彼等の曲を聴いて優美に微笑んでいる。オテロもそれを見て満足そうに微笑んでいた。
「いい歌だ。妻に相応しい」
「全くです」
 イヤーゴも善き批評家になりその歌を評する。
「和む歌ですな」
(しかしだ)
 心の中では別のことを語るのがイヤーゴであった。ここでも。
(それももうすぐ終わりだ。俺は御前等のこの甘い調べを打ち砕いてやる)
 歌が終わりデズデモーナは彼等に菓子や花、それに金貨を贈り物として与えその場を立った。そして彼等やエミーリアと共に先を進むとオテロの前に来たのだった。
「こちらにおられましたのね」
「うむ」
 ここでは顔を変えずに妻に応える。
「今は仕事の休憩にな」
「左様でしたか。ところで」 
 デズデモーナは安心しきった顔でオテロに言ってきた。
「貴方の御不興を蒙った方の御願いを持って来たのですが」
「わしのか。誰だ」
「カッシオ様です」
 優雅な笑みと共にオテロに述べる。
「御存知ですね」
「無論だ。ところでだ」
 イヤーゴの言葉を思い出しながら妻に問う。
「さっき樹の下でそなたに会っていたのは彼だな」
「はい」
 何の隠し事もなく応えた。
「あの方の真剣な御願いを聞きましてそれで私も御願い致します」
「駄目だ」
 しかしオテロは彼女の言葉を一言で断った。
「今は駄目だ」
「何故ですか?」
「どうしてもだ」
 怪訝な顔になった妻にまた告げた。
「わかったな」
「オテロ様」
 デズデモーナはここでオテロの顔が強張り額から汗が流れていることに気付いた。目の光も不吉に揺れ動いていた。
 
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