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遊戯王GX ~水と氷の交響曲~

作者:久本誠一
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ターンEX 真紅のロードを歩む龍

 
前書き
アンチ転生者に対するアンチ回。我ながらひねくれたもの書いたなあ、と思う。誤解があったらなんですが、別に僕は転生モノも転生者狩りモノも分け隔てなく好きです。

それとシンクロ・エクシーズ出ます。ターン〇〇のナンバリング外だから仕方ないね。 

 
「でさ、僕思う訳よ。『ハチャメチャ』って言葉あるじゃん?あれって後半のメチャが滅茶苦茶のメチャなのはまあわかるんだけど最初の『ハチャ』って何者?いや、そもそもあれってハチャがメチャするからハチャメチャなの?ハチャをメチャるからハチャメチャなの?」

 夜、レッド寮の一室。ここ数日セブンスターズ側の動きもなくつかの間の小休止的な日々を送っていた清明たちは、なんとはなしに清明の部屋に集まってダベっていた。いくらデュエリストとはいえ、一年三百六十五日二十四時間千四百四十分八万六千四百秒の全てをカードの話ばかりして過ごしているわけではない。たまには違う話もする。ちなみに、今絶好調で喋り続けているのは清明。意外かもしれないが、こういった死ぬほどくだらない話はだいたい彼から振り始めることが多い。

『バーカ。ハチャメチャってのはな、もとはと言えば古代アトランタル語で「混乱」を意味するハンチャンってのと「台無し」を意味するメンチャルルって言葉をくっつけたのが語源で、さらにそれが日本に伝わって訛ったから「ハチャメチャ」になったっていう逸話があるんだよ。お前ら高校生にもなってそんなことも知らんのか』

 そして、その手の話題に真っ先に返事を返すのがユーノ。なんだかんだいってこの二人もいいコンビである。もっとも困ったことに、

「ええ!おいユーノ、それマジかよ!なあ万丈目、お前は知ってたか?」
「騙されるな十代!そんな話、この万丈目グループの俺ですら聞いたこともないぞ!」
『おお、嘘だぞ。んなもん一から十まで出まかせに決まってんだろ』

 その答えの9割方は無駄に手の込んだ大嘘なのだが。それで誰も気にしない辺りおおらかというかのんきというか、とにかくそういう所なのだろう。

「それと十代、前々からずっと聞きたかったことがあるんだけど」
「え、俺?どうしたんだよ、急に改まって」
「うん。ワイルドマンってさ、名前から言ってター〇ン的な野生児モンスターだよね。なんで大都会のスカイスクレイパーで攻撃力上がっちゃうわけ?あれビジュアル的には1000ポイント下がったって文句言えないでしょどーみても」
「そんなこと俺に聞かれてもなぁ………」

 別に酒が入っているわけではない。これでも清明本人は全くの素面である。だけどセリフ内容は酔っ払いが絡んでるのと大差ない。どれどれ俺が答えよう、とまたもや出まかせを口にすべくユーノが口を開きかけたその時、玄関がガチャリと開いた。とりあえずこれで話を切ることができる、とその場の全員が微妙にほっとした顔になる。

「みんなー、ただいまッスー」
「ちゃんと帰ってきたんだなー」

 そして入ってきたのが、翔と隼人。別に大した用事があったわけではない、じゃんけんに負けたから下の階まで行って戸棚の奥に押し込まれている大徳寺先生秘蔵のかりんとうをこっそり持ってくる役目を押し付けられただけだ。ちなみにこのかりんとうを見つけたのも清明である。変なところだけ目ざといのも彼ならではといったところか。

「あ、お帰り~」
「早速みんなで食おうぜ!」
「遅かったな」

 その後もあーだこーだと色々なことに対して文句を言い続ける清明を尻目に急須から湯呑に熱い番茶を入れて一口すすり、ほーっと一息つくユーノ。どうやって急須やら湯呑やらを掴むことができたのか、そもそもなぜお茶を飲むことができるのかなどは永遠の謎である。そして、そんな二人を呆れ半分に見つめるほかのメンバーたち。こんな感じで、レッド寮の夜は今日も更けていく。










 時はさらに飛び、草木も眠る丑三つ時となる。さっきまでの皆もとっくに眠りについていて、今動くものはいなかった。………たった一人を除いては。

「うし、これでいいか。じゃ、行ってくるぜ」

 そう小声で同居人に呟いて声の主、ユーノは自分の腕にデュエルディスクを装着して窓を開け、ひょいっとそこから外に飛び出した。

「よっ………と」

 そして空中で減速し、ふわりと足から着地する。どうやら体がある時の癖でつい窓を使ってしまったらしいが、そもそも壁抜けができる彼にとって今の行為に意味はない。

「うし、誰も見てねーだろうな」
『私が見ていた。ところで、今夜の話だが。私もついていこうか?』
「よっ、チャクチャル。まあお前はむしろ見ててもらわないと困ったことになるからいいや。それと悪いけど、今夜は留守番頼むわ」
『だが……』
「頼むわ。俺が何とかするつもりで入るけど、万一って言葉もあるからな。地縛神が守り神やってくれるんならこっちも安心できるってもんだ」

 一瞬の沈黙。だが、先に折れたのはチャクチャルアの方だった。

『わかった。指一本触れさせないし、何一つ見せない。それが頼みたかったんだろう?』
「ははは、さすがによくわかってらっしゃるもんだ。………んじゃ、な。結界は任せたぜ。それと、これも預かっててくれ。万一の時は、そのまま清明の奴に受け渡しとけよ」

 そう言って投げ渡したのは、デッキの魂ともいえる霧の王のカード。そのカードをわざわざデッキから抜くということはそれだけ事態を深刻にとらえているということなのだろうが、軽く伸びをし、ゆっくりとレッド寮に背を向けて森の中に入っていくユーノの背中にそんな深刻な色は見られない。その後ろで、レッド寮の建物がシャチをかたどった青い炎に包まれた。本来はダークシグナーがシグナーと戦う際に勝負がつくまで出られないようにするためのものだが、裏を返せばそれはデュエルが終了するまで何人たりとも入ることができない鉄壁の結界となるのだ。
 ユーノはひたすら歩き続ける。どこへ向かっているのかはともかく、少なくともその足取りに迷いは一切ない。そして、どれほど歩き続けただろうか。歩き続ける彼の後ろ姿に、声をかける影がいた。

「よう、転生者。こんな夜中にどこまで行く気だよ」
「あー?わざわざそっちから出向いてくれるたぁご苦労なこったな、このストーカーの盗撮魔。さっきからじろじろじろじろ人の部屋覗いてやがって、バレバレなんだよバーカ」

 お互いに嫌味たっぷりの口調でにらみ合う二人。今度先に口を開いたのは、ユーノの方だった。

「まあいいさ。お前の用件はある程度予想できるけどな、あえて様式美ってやつに従って聞いといてやる。………一体何の用だ?」
「テンプレ通りに答えてやるよ。今すぐここで消えろ、この屑転生者が!」

 激昂して怒鳴る少年に対し、ユーノの態度はあくまでも冷静だった。そうかやっぱりか、いつかこうなるのはわかっていたぜといわんばかりに冷静に、皮肉たっぷりの口調で話しかけていく。

「消えろ、ねえ。一体どーゆー了見だ?俺シンクロもエクシーズも出してねえぞ?」
「はっ、シーラカンスがGX時代にあるとでも?原作で明日香以外が白夜龍を出したのか?万丈目のドラゴンデッキだって漫画版混じってんだろうが。わかったか屑野郎、お前らのせいで原作はもう十分以上にメチャクチャなんだよ。だからさっさと消えちまえ」
「メチャクチャのメチャはハチャメチャのメチャ、だな」
「は?一体何の話だ」
「うんにゃ、こっちの話。それで?要するにお前は俺が許せない、と?」

 それは、彼なりの最終通告。もっとも彼にとっては、ここで話し合いで済むならそれもそれで悪くない、といった程度の認識であり最初から実力行使する気満々だったのだが。そんなことを考えているとは知る由もない少年……いや、転生者狩りの返事は案の定、右腕のデュエルディスクの起動だった。

「ああそうだ、この原作破壊者め。もういい、お前とは話すつもりもない。転生者、お前はこの場でこの俺、富野が消し去って最初からこの世界にいなかったことにしてやる!」
「そもそも俺、転『生』者じゃねーんだけどな。幽霊だし。しかしこれ、傍から聞いてりゃ完全に俺が悪者だな。ふむ、なら悪者っぽくやってみるか。………さあ、よからぬことを始めようじゃないか!」

「「デュエル!!」」

「先攻は俺だ!俺は手札のハンマー・シャークを召喚!そしてその効果で、自分のレベルを下げてフィッシュボーグ-アーチャーを守備表示で特殊召喚するぜ」

 ハンマー・シャーク
効果モンスター
星4/水属性/魚族/攻1700/守1500
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。
このカードのレベルを1つ下げ、
手札から水属性・レベル3以下のモンスター1体を特殊召喚する。

 ハンマー・シャーク ☆4→3
 フィッシュボーグ-アーチャー 守300

 この時彼がふと思ったのは、とりあえず封印してあるエクストラデッキに眠る白黒のカードたちだった。実際チューナーとそうでないモンスターがそろったこの状況ならばレベル6のシンクロモンスターも、ランク3のエクシーズモンスターも出すことができる。どうせこいつはそのカードのことを知ってるから問題ないだろうし使っちまおうか、そんな気持ちが一瞬頭をよぎったのだ。だが、彼はそんな考えを頭を軽く振ることで追い出そうとする。ここはGXなんだ、エクストラの連中には悪いけど大人しくしててもらおう。そう自分に言い聞かせ、彼はターンを譲り渡す。

「俺はこれでターンエンドだ」
「けっ、その程度かよ。それじゃあこっちも潰しがいってもんがないぜ。俺のターン!相手の場のモンスターが俺の場のモンスターより2体以上いる時、このカードは特殊召喚できる!来い、魔導ギガサイバー!」

 冨野の場に現れたのは、ハングリーバーガーとほぼ同じ時期とかなり昔からあるカードでありながら今でもある程度単体で実戦級の力を持つ、人間大のサイズの黄色を基調とした派手な色の鎧に身を包んだ戦士。

 魔導ギガサイバー 攻2200

「さらに手札から、レベル2のフォース・リゾネーターを通常召喚だ」

 フォース・リゾネーター 攻500

 フォース・リゾネーターの登場に対し、ユーノは少し嫌な予感を感じる。たった今彼がわざわざ口にした『レベル2の』という部分がどうも引っかかったのだ。そして、その嫌な予感は現実のものになる。

「レベル6の魔導ギガサイバーに、レベル2のフォース・リゾネーターをチューニング!赤き王者が立ち上がる時、熱き鼓動が天地に響く。防御に回る臆病者に、生きる価値など欠片もない!シンクロ召喚!叩き潰せ、レッド・デーモンズ・ドラゴン!」
「っ!!」

 ☆6+☆2=☆8
 レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000

「お前が何で今のターンで何もしなかったのか。俺にとってはどうでもいい、とにかくこの場は一刻でも早くゴミを叩きのめすのみ!行け、レッド・デーモンズ!ハンマー・シャークに攻撃、灼熱のクリムゾン・ヘルフレア!」

 禍々しい顔つきの、まさに悪魔竜と呼ぶにふさわしい見た目のドラゴンが吐き出したブレス攻撃が、一瞬にしてハンマー・シャークの姿を消し炭にしてしまう。

 レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000→ハンマー・シャーク 攻1700(破壊)
 ユーノ LP4000→2700

「ぐわあああっっっ!!?」

 ソリットビジョンのはずのその炎の余波をまともに受けてしまい、その痛みに思わず叫ぶユーノと何か言うこともなく破壊されるフィッシュボーグ-アーチャー。ユーノはすぐに立ち上がったが、このデュエルがリアルダメージを受ける闇のゲーム状態になることをまるで考えていなかった自分のうかつさに舌打ちする。そして今のダメージからざっくり換算し、ライフが0になるまであの威力のダメージを受け続けたら相当ヤバいことになるな、と頭の隅でぼんやり考える。

 レッド・デーモンズ・ドラゴン
シンクロ・効果モンスター
星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2000
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカードが相手フィールド上に守備表示で存在するモンスターを攻撃した場合、
そのダメージ計算後に相手フィールド上に守備表示で存在するモンスターを全て破壊する。
自分のエンドフェイズ時にこのカードがフィールド上に表側表示で存在する場合、
このカード以外のこのターン攻撃宣言をしていない自分フィールド上のモンスターを全て破壊する。

「メイン2でおろかな埋葬を発動、このデッキのモンスター1体を墓地に送る効果でフレア・リゾネーターを墓地に。カードを3枚伏せてターンエンド。どうした?もっともっと抵抗してみろよ。どうせお前は消えるんだからさ」

 ユーノ LP2700 手札:4 モンスター:フィッシュボーグ-アーチャー(守) 魔法・罠:なし
 冨野 LP4000 手札:0 モンスター:レッド・デーモンズ・ドラゴン(攻) 魔法・罠:3(伏せ)

「抵抗、ねえ。その前に一つ聞かせろや。てめえ、何のつもりでシンクロをしやがった?ここがGXだってわかってんのかコノヤロ」

 ユーノの質問の意味は、転生者を嫌っているらしい彼が真っ先にシンクロ召喚をしたことに対する純粋な疑問。その問いに、彼は笑って答える。

「はっ、確かにそうだな。だけども、これは力だ。お前らみたいな転生者をさっさとぶち倒すために俺に許された正義の力だ。何も考えずにシンクロやエクシーズを持ち出して原作をぶっ壊すお前らとは訳が違うんだよ訳が」
「許した、ねえ。嘘くさい話だぜ。まあ、そっちがその気なら俺だってやらせてもらうぜ。お前ら、久しぶりの出番だけど腕は鈍ってねえだろうな!」

 そう言って服の胸ポケットから、15枚のカードを取り出す。気のせいかそのカードたちはまた戦えることを楽しんでいるようにも見えて、思わず口の端に笑みが浮かぶ。それは、彼が自分の霊体としての人生でやるべきことをはっきり自分で決めたしるしでもあった。

「なんだ、お前も出すのか?所詮お前も転生者、でかい口叩いてもエクストラ頼みなことには変わりないな」
「なんとでも言えよ。俺はもう死んじまってるから今更どうこう言わねえが、清明の奴にはまだ未来ってもんが残ってんだ。だから、俺はあいつを守り抜く。あいつだってダークシグナーになったりなんだかんだでわりとハードな人生送ってんだ、間違ってもお前らなんぞの好きにはさせんよ。あいつには、ありったけのハッピーエンドを届けてやるさ。俺のターン!ブリザード・ファルコンを召喚。そしてレベル4のブリザード・ファルコンに、レベル3のアーチャーをチューニング!七つの海を凍てつかせ、敵を貫け奇跡の槍よ。シンクロ召喚!神槍一閃、氷結界の龍 グングニール!!」

 ☆4+☆3=☆7
 氷結界の龍グングニール
シンクロ・効果モンスター
星7/水属性/ドラゴン族/攻2500/守1700
チューナー+チューナー以外の水属性モンスター1体以上
1ターンに1度、手札を2枚まで墓地へ捨て、
捨てた数だけ相手フィールド上のカードを選択して発動できる。
選択したカードを破壊する。

 アーチャーが3つの緑に光る輪になり、その中をブリザード・ファルコンが通り抜けていく。富野には知るよしもないが、その白を基調とした落ち着いた色合いの竜は、ユーノが存命中に初めて手に入れたシンクロモンスターである。特に融合ギミックは取り入れてなかった彼のデッキにおいて、生まれて初めてエクストラデッキに入れたカード。そんな思い出深いモンスターだっただけに、ソリットビジョンにより立体化したその姿を見つめる彼の瞳はまるで普段の清明のように、実に無邪気に輝いていた。

「いくぜ、グングニールの効果発動!俺は2枚の手札を捨てて、レッド・デーモンズと伏せのうち俺から見て右側にある方を破壊する!ゼロ・スピア!」
「甘いぜバーカ、トラップ発動!強欲な瓶の効果で、カードを1枚ドロー!」

 グングニールが翼をはためかせ、フィールドに吹雪を巻き起こす。その寒波はレッド・デーモンズ・ドラゴンを一瞬で身動きしない氷像にし、それが地面に落ちて粉々に砕けちった。

「くっそ、手札一枚は空撃ちになったか。もったいないけど、このまま突っ切るぜ!グングニールで直接攻撃、スピア・ザ・グングニル!」

 おそらく全国のグング使いが攻撃させるときに一番多く言われているであろう攻撃名を受け、氷結の竜が巨大な槍のような形をしたエネルギー波を打ち出す。それは富野の体を貫き、彼を5~6メートルほど吹っ飛ばした。

 氷結界の龍 グングニール 攻2500→富野(直接攻撃)
 富野 LP4000→1500

「このまま立ち上がってこなきゃ俺の勝ちなんだろーけど……あ、起きた。ま、あれだけえばっといてこんなあっさり倒れられたら拍子抜けなんだけどな。カードを1枚伏せてターンエンド」
「調子に乗るなよ転生者!正義は必ず勝つってことを教えてやる!ドローしてトラップ発動、ロスト・スター・ディセント!甦れ、レッド・デーモンズ!」

 ロスト・スター・ディセント
通常罠
自分の墓地に存在するシンクロモンスター1体を選択し、
自分フィールド上に表側守備表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、
レベルは1つ下がり守備力は0になる。
また、表示形式を変更する事はできない。

 レッド・デーモンズ・ドラゴン 守2000→0 ☆8→7

「なにが正義だバカヤロウ。つーかこのタイミングで蘇生ときたらまさか!」
「さすがに察しがいいな、その通りだよ!もう一枚のトラップ発動、スカーレッド・カーペット!このカードはどちらかの場にドラゴン族のシンクロがいる時に墓地のリゾネーターを2体まで特殊召喚するカードだ!そして俺が蘇生させるのは、もちろんレベル2のフォース・リゾネーターとレベル3のフレア・リゾネーター!」

 フォース・リゾネーター 攻500
 フレア・リゾネーター 攻300

 赤黒い悪魔の竜の両脇に、雷と炎をまとって現れる2体のリゾネーター。単体では大した力を持たない彼らだが、今この場においてはステータスも低くレベルもそう高くない彼らの存在が脅威となっていた。

「レベル8のレッド・デーモンズ・ドラゴンに、レベル2のフォース・リゾネーターとレベル3のフレア・リゾネーターをダブルチューニング!赤き王者のプライドが、神も悪魔もねじ伏せる。天地を統べる偉大な魂!シンクロ召喚、出でよ、スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン!」

 2体のリゾネーターが口上に合わせてそれぞれのレベルの数と等しい赤く光る炎の輪になり、レッド・デーモンズ・ドラゴンを包み込む。そしてその中から、デュエルモンスターズ史上最強ドラゴンの一角と名高い(レッド)を超えた真紅(スカーレッド)の竜。

 ☆7+☆2+☆3=☆12
 スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン 攻3500→4800

「ふふふ、スカーレッド・ノヴァの特殊効果だ。このカードの攻撃力は、俺の墓地のチューナーの数×500ポイントアップする………さらにフレア・リゾネーターがシンクロ召喚に使われた時、そのモンスターの攻撃力は300アップする。貴様のグングニールなんて雑魚じゃ、逆立ちしたってかなわねえよなぁ?」

 攻撃力4800のスカーレッドに対し、グングニールは2500。この攻撃を受ければユーノのライフはたった400にまで減ってしまううえ場にカードがなくなってしまうのだが、彼は不敵な笑みを崩さない。それがなにか策があってのことか、はたまたただのハッタリかはその表情からは読み取れないのだが。

「気に入らねえなあ、その顔。お前も転生者ならそろそろ自分が主役や主人公なんかじゃないってことに気付いて絶望してみろよ。どうせ勝てねえんだって、そろそろ認めてみろよ!」

 それはとても奇妙なことなのだが、この場で冷静さを欠いているのはピンチが間近に迫っているはずのユーノよりもむしろ絶対的優位に立っているはずの富野の方だった。
 彼は思う。彼にとって転生者とは、これまで星の数ほど消し去ってきた存在がそうであったように、ここまで追い詰めれば絶望的な表情を見せるはずだった。原作では存在しない展開。自分だけの特権だと、そう思い込んでいたシンクロモンスター。白黒の枠を持つそのモンスター群を『自分だけが』使いこなせるから、そう信じていて事実そうであったからこそ原作のキャラ相手に無双を続けられる。だからそれを使う自分は彼らにとって数か月、下手をすれば十数年ぶりに出会った対等な条件で戦う相手となる。彼に言わせれば転生者にとってGXとは、例えるならばぬるま湯のような世界なのだ。シンクロもエクシーズも転生者以外は存在すら知らないゆえに、計り知れないほどのアドバンテージを持ち続けることができる世界。そんなところにずっと浸かっていれば、どれほどデュエルを続けようと本人の腕が鈍っていくのは必然のはずだった。それに初めて気が付いた彼らの顔が絶望にゆがむのを見ながら叩き潰してやるのは、仕事というよりむしろ自分の楽しみであった。なのに、この男はどうだろう。あの笑い顔に腹が立つ。なんで絶望しないんだ。そんな理不尽な怒りが彼の体を駆け巡り、頭にかぁっと血がのぼる。二ヤリ、とユーノが悪い笑みを浮かべたのさえ見ていなかった。

「スカーレッド・ノヴァでグングニールに攻撃、バーニング・ソウル!」

 スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン 攻4800→氷結界の龍 グングニール 攻2500(破壊)
 ユーノ LP2700→400

 ユーノ LP400 手札:1 モンスター:なし 魔法・罠:1(伏せ)
 冨野 LP1500 手札:2 モンスター:スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン(攻) 魔法・罠:1(伏せ)

 結論から言えば、ユーノの狙いは富野の頭に血をのぼらせること。早い話、先ほど笑って見せたのは単なるブラフである。そういう意味では狙いどおりにいったのだが、それをするために彼が受けたダメージはさっきとは比べ物にならない。清明は闇のゲームについて『ダメージ量は痛みに比例しない』という法則を見つけた気になっているが、実際にはそれは違うことをユーノは薄々感づいていた。彼の説はこうである。いわく、

『痛みはそれをもたらすカードの質に比例する』

と。わかりやすく例を挙げると、黒炎弾の2400ダメージとレッドアイズの攻撃による1000ダメージで感じる痛みは黒炎弾のほうが多いもののそこまで変わるわけではない。だがこれはどちらも同じレッドアイズの攻撃及び必殺技カードによるダメージだったからである。ここでいうカードの質とは、決してレアリティのことではない。使用者の愛着やそのカード自体の持つ力のことである。彼のメインデッキでいうと精霊体になれる霧の王にチャクチャルア、それとシャーク・サッカーあたりの攻撃が闇のゲームでは格別に強いだろうか。
 そして、レッド・デーモンズ・ドラゴンの進化体であるスカーレッド・ノヴァ・ドラゴンの攻撃は当然進化前よりはるかに熱くて痛い。さっきの痛みとは5階建てビルの屋上と地下の駐車場並みに違う。衝撃に耐えきれなくなった彼の体が吹っ飛んでいき、辛うじて受け身こそとったものの体はもうボロボロの状態である。

「いよっこいせ、っと!」

 それでも彼には、負けられない理由がある。言い返したいセリフがある。だから、悲鳴をあげる体のあちこちをきっぱりと無視して立ち上がった。立ち上がっただけでなく、なるべくピンピンしているように聞こえるよう声音を調整して声を張り上げる。

「お前のフィールはその程度か、ってな……あのな富野さんよ、お前は一つ間違ってるぜ。まずここがGXである以上、主役は十代に決まってる。ここまでオーケー?だけどな、それとは別に主人公ってのがもしいるとするなら、そいつは俺じゃねえ。死んじまったのに主人公やってられんのはどこぞの不良霊界探偵ぐらいのもんだぜ。俺の役目はあくまでもサポーター、遊野清明って人間の人生を全力で助けてやることだけだよ。俺がダメになった以上、せめてあいつにはまともに長生きしてほしいんでな。とどのつまりはそういうことさ」
「けっ、口ではなんとでもいえるからな。つまらん屑の言い訳なんて聞いてやるほど暇じゃないぜ!」
「そりゃ残念。今、俺けっこういいこと言ったっぽかったのになー。まあいいさ、俺のターン!手札から魔法カード、サルベージを発動。この効果で、墓地の攻撃力1500以下のモンスター2体……ペンギン・ナイトメアとブリザード・ファルコンを手札に加えるぜ。モンスターをセットして、ターンエンドだ」
「なら俺のターン!はっ、どうせそのモンスターはペンギン・ナイトメアだろぉ?忌々しいが、確かにスカーレッド・ノヴァ・ドラゴンといえどもバウンスには弱い。かといって何もしなかったら結局スカーレッドはバウンスされる………なら、こうしてやればいいだけのことよ!魔法カード、クロス・ソウルを発動!」

 クロス・ソウル
通常魔法
相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。
このターン自分のモンスターをリリースする場合、
自分のモンスター1体の代わりに選択した相手モンスターをリリースしなければならない。
このカードを発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。

「この効果で、お前の邪魔なセットモンスターをリリース!そして召喚、パワー・インベーダー!」

 小さい頭に不釣り合いな大きさの体を持つ自称インベーダーの悪魔が、太い腕に不釣り合いなほどちっちゃい手で腕を組む。

 パワー・インベーダー 攻2200

「クロソのデメリットで、俺はこのターンバトルフェイズできねえからな。カードを1枚伏せて、ターン終了だ」

 ユーノ LP400 手札:2 モンスター:なし 魔法・罠:1(伏せ)
 冨野 LP1500 手札:1 モンスター:スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン(攻)、パワー・インベーダー(攻) 魔法・罠:2(伏せ)

「俺のターン、ドロー!あ()つつ……」

 カードを引いた瞬間に走る痛み。意志力だけでそれを抑え込み、引いたカードを確認する。

「永続魔法、強欲なカケラを発動。モンスターをセットして、ターンエンドだぜ」

 強欲なカケラ
永続魔法
自分のドローフェイズ時に通常のドローをする度に、
このカードに強欲カウンターを1つ置く。
強欲カウンターが2つ以上乗っているこのカードを墓地へ送る事で、
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 それは、先ほどのターンとほぼ同じ動き。ひたすら守りを固めに行く彼の姿を、富田は嘲笑う。

「おいおい、デカい口叩くわりにはずーいぶん消極的なデュエルじゃないか。なら、こっちは攻撃的に生かせてもらうぜ?バトル!パワー・インベーダーで伏せモンスターを攻撃!」

 パワー・インベーダー 攻2200→??? 守1800(破壊)

 ソリットビジョンのカードがダメージ計算のため表側になる瞬間、冨野は自分が完全にはめられたことを悟った。そのカードには「ペンギン・ナイトメア」の文字が描かれていたのだ。

「最初のモンスターがファルコン、だからさっきのはブラフ……!だが、まだだ!トラップカード、亜空間物質転送装置を発動!スカーレッドをエンドフェイズまで除外する!」

 亜空間物質転送装置
通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
このターンのエンドフェイズ時までゲームから除外する。

 完全に頭に血が上っていた故の、痛恨のミス。だがそれに気付いても諦めず、自分にできる最善の一手を取るあたりは伊達に転生者狩りをしているわけではない、ということだろう。奇妙な形の機械が作動し、スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンの姿が異次元へと消えていく。

「さくっと退場してもらえりゃ万々歳だったんだが、思ったよりやるじゃねえか!ペンギン・ナイトメアの効果で俺は、パワー・インベーダー……いや、お前が最後に伏せたそのセットカードをバウンスする!」

 ユーノがバウンスするカードをギリギリになって変えた理由は、全くの勘だった。彼のデュエリストとしての本能が、あのカードはヤバい、とささやいたのだ。

「ちっ、俺はもう一度このカードをセットして、エンドフェイズ。スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンが帰還してターンエンドだ。もっとも、フレア・リゾネーターの効果はリセットされてなかったことになるがな」

 スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン 攻3500→4500

 ユーノ LP400 手札:1 モンスター:なし 魔法・罠:強欲なカケラ、1(伏せ)
 冨野 LP1500 手札:1 モンスター:スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン(攻)、パワー・インベーダー(攻) 魔法・罠:1(伏せ)

「どーでもいいけどお前さん、そのさっきからブレまくりなキャラはどうにかなんないのかね。ドロー、強欲カウンターが一つ乗ってシャクトパスを守備表示で召喚。ターンエンドだぜ」

 シャクトパス 守800

「シャクトパス?しつっこいカード出しやがるぜ。でもな、そんなもんぶっ潰してやる!パワー・インベーダーでシャクトパスに攻撃!」
「シャクトパスの特殊効果!執念深い鮫の呪いを受けてみろ!」

 パワー・インベーダーがダダダッと走ってきておもむろにシャクトパスを掴むと、なんとそのタコ足部分をぶちっとまとめてちぎってしまった。痛そうだな、とちょっと顔をゆがめるユーノの前でその胴体から引き離されたタコ足がもぞもぞと動き出し、インベーダーの全身をギリギリと締め付ける。

 シャクトパス
効果モンスター
星4/水属性/魚族/攻1600/守 800
このカードが相手モンスターとの戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
このカードを装備カード扱いとしてその相手モンスターに装備できる。
この効果によってこのカードを装備したモンスターは
攻撃力が0になり、表示形式を変更できない。

 パワー・インベーダー 攻2200→0

「だからどうしたってんだよ!スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンでダイレクトアタック、バーニング・ソウル!」
「まだまだぁ!リバース発動、バブル・ブリンガー!レベル12のスカーレッド・ノヴァ・ドラゴンは攻撃できねえぜ!」

 無数の泡が吹き上がり、炎の塊になって突撃するスカーレッド・ノヴァ・ドラゴンを押しとどめる。攻撃は止めたはずなのにユーノへ炎の余波がまた襲いかかり、服の端が少し焦げてしまう。

「バブル・ブリンガー……レベル4以上のモンスターの直接攻撃を完全に封じるトラップか。しつっこいったらありゃしない………カードをセットしてターンエンドだよターンエンド」

 ユーノ LP400 手札:1 モンスター:なし 魔法・罠:強欲なカケラ(1)、バブル・ブリンガー、シャクトパス(パ)
 冨野 LP1500 手札:0 モンスター:スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン(攻)、パワー・インベーダー(攻・シャ) 魔法・罠:2(伏せ)

 とりあえずこのターンを乗り切れたことに対して気づかれないようにほっと息を吐くユーノ。これから反撃だ、と気合を新たに入れなおす。

「俺のターン!強欲カウンターが2つ乗ったカケラを墓地送りにしてもう2枚ドローするぜ」
「ちょっと待て!ドローする前のスタンバイフェイズにトラップカード、闇霊術-欲を発動!パワー・インベーダーをリリースして2枚ドローするが、そのドローフェイズに引いたカードはトラップか?」

 闇霊術-欲
通常罠
自分フィールド上の闇属性モンスター1体をリリースして発動できる。
相手は手札から魔法カード1枚を見せてこのカードの効果を無効にできる。
見せなかった場合、自分はデッキからカードを2枚ドローする。

「いや、どっちにしろこれは見せないぜ」

 問いには直接答えず、ちょっと迷うふりをしてから効果を通すユーノ。ここら辺の駆け引きは清明も割と得意であり、間違ってもトラップかどうかを直接言うようなまねはしない。もっとも、相手を惑わすことの演技力にかけてはユーノの方が一枚も二枚も上手なのだが。

「なら、欲の効果でドローする」
「んじゃ改めてメイン1、カケラを墓地に送って俺もドローだ。………よし、やる価値はあるか。貪欲な壺を発動、墓地のハンマー・シャーク、ブリザード・ファルコン、ペンギン・ナイトメア、シャクトパス、オイスターマイスターをデッキに戻してもう2ドローする。そして墓地のフィッシュボーグ-アーチャーの効果発動、手札から水属性の超古深海王シーラカンスを墓地に送ってレベル3のこのカードを召喚。さらに手札からもう1体レベル3モンスター、オイスターマイスターを通常召喚する。そしてレベル3のアーチャーとマイスターでオーバーレイ、2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。七つの海の水中に、回れ発条弾けろ機雷!エクシーズ召喚!稼働しろ、発条機雷ゼンマイン!」

 2体のモンスターが光になって絡み合いながら飛んでいき、宇宙のような場所に吸い込まれていく。そしてその中心から爆発が巻き起こり、外国のお菓子並みに派手な色合いの背中に巨大なゼンマイが付いたモンスターがスカーレッド・ノヴァ・ドラゴンの前に立ちふさがった。その体は目の前のドラゴンよりはるかにちっぽけだったが、ユーノはこのモンスターが耐え切れることを知っている。知っているからこそ、この場を任せたのだ。

 発条機雷(ぜんまいきらい)ゼンマイン
エクシーズ・効果モンスター
ランク3/炎属性/機械族/攻1500/守2100
レベル3モンスター×2
フィールド上のこのカードが破壊される場合、
代わりにこのカードのエクシーズ素材を1つ取り除く事ができる。
この効果を適用したターンのエンドフェイズ時に1度、
フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。

「ゼンマイン?おいおい、まーた守り固めかよ。こっちはちゃっちゃと終わらせてえってのによ!」
「なんとでも言いやがれ!悪いなゼンマイン、久しぶりの出番がこんな役目で。すまん」

 謝るユーノに対し、気にするな、と言いたげに首を振るゼンマイン。もしかすると、このモンスターにも意志があるのかもしれない。ただの偶然と言ってしまえばそれまでだが、なんとなくユーノにはそんな気がした。

「俺はカードを2枚伏せる。これでターンエンドだ!」

 おそらくは、次のターンが正念場。ゼンマインの破壊耐性は優秀だが、それだって時間稼ぎに過ぎない。だが、もし何らかの手段でレッド・デーモンズ・ドラゴンが再び出てくるようなことがあれば自身の攻撃力と効果を合わせてわずか1ターンで突破されてしまう。ユーノは今のターンで、あの手札でできることはすべてやっておいた。あとは、富野の引きにすべてがかかっているのだ。

「俺のターン、ドロー!来たぜ来たぜ、死者蘇生を発動!俺の墓地からレッド・デーモンズ・ドラゴンを蘇生させてやる!」

 レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000

 よりにもよってこの場で富野が引いたカードは、デュエルモンスターズの豊富なカードプールにおいてもにおいても最高峰の蘇生カードである『死者蘇生』。この効果により完全蘇生された悪魔の竜が、再び夜空に吼える。だが、ユーノはあくまでも表情を崩さない。もっとも、富野の方もそんな暇は与えなかったのだが。

「さらに手札の速攻魔法、サイクロンを発動!さっきから鬱陶しかったバブル・ブリンガーはここでお別れだ!」

 このカードにはもう少し残っていて欲しかったな、とちょっと不安になるユーノ。だが、このおかげで伏せカードには手を付けられなかったんだから結果オーライだろう、と気持ちを切り替える。ユーノはただゼンマインを出して時間を稼ごうとしているのではない。待っているのだ。この伏せカードを使うことのできる状況を。

「レモンで攻撃して素材全部引っぺがして……スカレで破壊。ただ、それだとこのターン中にダメージ通んねーんだよなぁー。だから俺は、こういう手を使ってやるよ!最後の手札、地砕きを発動!このカードは相手の場で一番守備力の高いモンスターを破壊するカード、この効果でゼンマインの素材を一つ取り除いてやるぜ!」

 空から巨大な握りこぶしが振り下ろされ、ゼンマインを殴りつける。その一撃に耐えながら、ゼンマインはユーノに対してもう一度頷いて見せる。ユーノもそれに対して覚悟を決めたように頷き返し、口を開いた。

「俺はゼンマインの効果でオーバーレイユニットを………使わねえ!ゼンマインはこれで破壊だ!」
「何!?」

 富野にとって、その行動はまったくの想定外。破壊耐性を使わなかったことで、ゼンマインが握りこぶしに押しつぶされて地面にクモの巣状の亀裂が走る。防御が無駄と知り、自分の負けを認め大人しく覚悟を決めたのか。だが、そういうことではない。ユーノはまた笑って見せた。実際、このターンに起きたすべての行動は彼の想定内だったのだ。

「そしてゼンマインが破壊されたことで、このリバースカード、ヘイト・クレバスを発動!堕ちろ、スカーレッド!」
「へ、ヘイト・クレバスだとぉ!?スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンは効果破壊されないが……」
「わかってんだろ?『墓地送り』にさせてもらうぜ!」

 ヘイト・クレバス
通常罠
自分フィールド上に存在するモンスター1体が
相手のカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、
相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して墓地へ送り、
その元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 これが彼の秘策。ゼンマインをさっさと除去してこのターンで決着をつけるためにレッド・デーモンズ・ドラゴンを呼び戻し、さらに除去カードまで使ってくることに賭けた逆転の一手だった。だが、まだデュエルは終わらない。

「まだだぁ!リバースカード、生贄の祭壇を発動!スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンをリリースし、攻撃力分のライフを回復する!墓地に送れなけりゃ、クレバスは空撃ち!ダメージは発生しないぜ!」

 地面がパックリと割れ、その中に落ちていくスカーレッド・ノヴァ・ドラゴン。だが完全に地中に呑みこまれる寸前、その姿が光になって富野の中に吸収された。

 生贄の祭壇
通常罠
自分フィールド上のモンスター1体を選択して墓地に送る。
このモンスターの元々の攻撃力分のライフポイントを回復する。

 富野 LP1500→5000

「嘘だろ!?」
「惜しかったな、転生者!レッド・デーモンズ・ドラゴンで直接攻撃!灼熱のクリムゾン・ヘルフレア!」

 レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000→清明(直接攻撃)

「くっそ、リバースカードオープン!メタル・リフレクト・スライム!」
「攻撃だ攻撃!しつこいんだよ、なんでさっさと潰されねえ!」

 銀色に輝くスライムが両腕でブレス攻撃を受け流したが、代償としてあまりの高熱のためかその体がどろどろに溶けてしまった。

 レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000→メタル・リフレクト・スライム 守3000

「守備全滅のデモン・メテオでどのみち破壊………でもなんとか耐えきった、か」
「くそ、ターンエンド」

 ユーノ LP400 手札:1 モンスター:なし 魔法・罠:なし
 冨野 LP5000 手札:0 モンスター:レッド・デーモンズ・ドラゴン(攻) 魔法・罠:1(伏せ)

「俺のターン!参ったなこりゃ……まさかクレバスが防がれるとはな。でも、そうこなくっちゃ面白くないぜ!氷弾使いレイスを守備表示で召喚、ターンエンドだ。すまんな、レイス」

 氷弾使いレイス 守800

 さっきのゼンマインと違い、このレイスには時間稼ぎとしての意味しかない。ヘイト・クレバスが防がれた以上、何とかして時間を稼ぐしか今の彼にできることはないのだ。もっとも、そんな態度はおくびにも出さないのだが。

「俺のターン、ドロー!くそ、なんでモンスターが来ねえんだよ!リバースカード、紅蓮魔竜の壺を発動!カードを2枚ドロー!」

 紅蓮魔竜の壺
通常魔法
自分フィールド上に「レッド・デーモンズ・ドラゴン」が
表側表示で存在する場合のみ発動する事ができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。
このカードを発動する場合、次の相手ターン終了時まで
自分はモンスターを召喚・特殊召喚する事はできない。

 ふう、と一息つくユーノ。少なくともこれで、さらにモンスターが出てくることはない。このターンでの敗北は免れたわけだ。

「そしてレッド・デーモンズ・ドラゴンでレイスに攻撃!灼熱のクリムゾン・ヘルフレア!」
「アブソリュート・パワーフォースは使わんのか。………熱っ!」

 レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000→氷弾使いレイス 守800

「レイスはレベル4以上のモンスターとの戦闘では破壊されないけど」
「デモン・メテオ!」

 レイスの姿が炎に包まれ、次の瞬間には破壊される。

「カードを3枚伏せてターンエンドだ。いい加減無駄な抵抗ってのはやめろよ畜生!」

 ユーノ LP400 手札:1 モンスター:なし 魔法・罠:なし
 冨野 LP5000 手札:0 モンスター:レッド・デーモンズ・ドラゴン(攻) 魔法・罠:3(伏せ)

「ドロー!よっしゃ、魔法カード、クロス・ソウル発動!レッド・デーモンズ・ドラゴンをリリースして、氷帝メビウスをアドバンス召喚!」

 氷帝メビウス 攻2400

「さらにメビウスがアドバンス召喚に成功したことで、その特殊効果発動!お前から見て右から2枚の伏せカードを破壊する、フリーズ・バースト!」
「なに、俺のミラフォ2段重ねが!?」
「ミラフォは仕事しねーからなー。クロソのデメリットで俺はバトルフェイズができんから、どうしようもなくターンエンドだ」
「エンドフェイズにカード発動、破滅へのクイック・ドロー!」

 破滅へのクイック・ドロー
永続罠
お互いのプレイヤーはドローフェイズ開始時に手札が0枚だった場合、
通常のドローに加えてもう1枚ドローする事ができる。
このカードのコントローラーは自分のターンのエンドフェイズ毎に
700ライフポイントを払う。
この時にライフポイントが700未満だった場合、ライフポイントは0になる。
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードがフィールド上から離れた時、
自分は3000ポイントダメージを受ける。

「そして俺のターンが訪れる。クイック・ドローの効果で2枚ドロー!俺の場にモンスターがいなくて貴様の場にモンスターがいる時、サイバー・ドラゴンは手札から特殊召喚できる!」

 サイバー・ドラゴン
効果モンスター
星5/光属性/機械族/攻2100/守1600
相手フィールド上にモンスターが存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。

「そしてアステル・ドローンを通常召喚。アステル・ドローンは特殊効果により、エクシーズ召喚時のみレベル5として扱える!俺はレベル5扱いのドローンとレベル5のサイバー・ドラゴン2体でオーバーレイ!2体のモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築!玩具の意思が一つになる時、新たな時代のネジが巻かれる。エクシーズ召喚、発条装攻ゼンマイオー!」

 発条装攻(ぜんまいそうこう)ゼンマイオー
エクシーズ・効果モンスター
ランク5/風属性/機械族/攻2600/守1900
レベル5モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、
フィールド上にセットされたカード2枚を選択して発動できる。
選択したカードを破壊する。

「ヴォルカじゃないだけマシか……ちっくしょ、メビウスもすまん!ここは堪忍してくれ!」
「そしてアステル・ドローンもう一つの効果により、カードをドローする。ゆけ、ゼンマイオー!メビウスを破壊しろ!」

 発条装攻ゼンマイオー 攻2600→氷帝メビウス 攻2400(破壊)
 ユーノ LP400→200

「そしてカードを1枚セットし、エンドフェイズにクイック・ドローの効果で700のライフを払う………ターンエンドだ」

 富野 LP5000→4300
 ユーノ LP200 手札:0 モンスター:なし 魔法・罠:なし
 富野 LP4300 手札:0 モンスター:発条装攻ゼンマイオー(攻) 魔法・罠:破滅へのクイック・ドロー、1(伏せ)

「俺のターン!ありがたいことにクイック・ドローの効果は俺も受けられるからな。カードを2枚ドロー!」

 ゼンマイオーは高い攻撃力に加え、セットカードならなんでも破壊する能力を持つ。つまり、中途半端な防御策では何かする前に破壊されてしまうのだ。その、かなりギリギリの状況で引いた2枚のカードを見る。ありがたいことにどうやら彼のデッキは、まだ彼を負けさせる気などみじんもないようだ。

「俺は手札の、オイスターマイスターを召喚!カードをセットして、ターンエンド」

 オイスターマイスター 守200

「いい加減にしろっての!クイック・ドローの効果で2ドロー、そしてゼンマイオーの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使うことで、俺の場の伏せカードとお前の伏せカードを破壊する!」

 ゼンマイオーの体の周りをぐるぐる飛び回っていた2つの光の球のうち1つがゼンマイオーの胸に吸い込まれ、右腕のドリルとハサミ型のゼンマインにうりふたつの左腕がそれぞれ伏せカードめがけて飛んでいく。だが虚しいことに、その攻撃はどちらのカードにも当たらなかった。

「俺はその効果にチェーンして、ブラック・アローを発動!これでゼンマイオーは貫通能力を得るぜ!」

 ブラック・アロー
通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
エンドフェイズ時まで、そのモンスターの攻撃力は500ポイントダウンし、
守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
選択したモンスターが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの元々の守備力分のダメージを相手ライフに与える。

「悪いが、俺もゼンマイオーの効果に合わせてカード発動!フィッシャーチャージでオイスターマイスターを弾丸にして、ゼンマイオーを破壊する!んでもって一枚ドロー!」

 フィッシャーチャージの発動に合わせてオイスターマイスターがフィールドを爆走してそのままの勢いでゼンマイオーにタックルを仕掛けると、よろめいたゼンマイオーの体にちょうど戻ってきたドリルが突き刺さり、そのままオイスターマイスターを巻き込んで爆発する。そしてユーノの場には、いつも通りちょこんとたたずむ牡蠣が一つ。

 フィッシャーチャージ
通常罠
自分フィールド上の魚族モンスター1体をリリースし、
フィールド上のカード1枚を選択して発動できる。
選択したカードを破壊し、デッキからカードを1枚ドローする。

 オイスタートークン 守0

「ぐぐぐ………もう抵抗すんなよ、この腐れ野郎がぁ!手札のクロック・リゾネーターを召喚して、オイスタートークン撃破!」

 クロック・リゾネーター
チューナー(効果モンスター)
星3/地属性/悪魔族/攻1200/守 600
このカードがフィールド上に表側守備表示で存在する限り、
このカードは1ターンに1度だけ戦闘またはカードの効果では破壊されない。

 クロック・リゾネーター 攻1200→オイスタートークン 守0(破壊)

「700払ってターンエンド………なあ頼むぜ、いつまで俺にいらん手間かけさせるんだよ。さっさとサレンダーして消えちまえ」

 富野 LP4300→3600
 ユーノ LP200 手札:1 モンスター:なし 魔法・罠:なし
 富野 LP4300 手札:1 モンスター:クロック・リゾネーター(攻) 魔法・罠:破滅へのクイック・ドロー

「消えちまえだあ?やなこったバーカ。なぜなら、そのでかい面はこのターンで吹き飛ばしてやるからだ!クイック・ドローの効果は使えないから普通にドロー、死者蘇生を発動!甦れ、シーラカンス!」

 先ほど富野が使いユーノをピンチに陥れた必殺の蘇生カードが、今度はユーノのデッキの核となるモンスターを呼び寄せる。その効果を知っている富野が、体を固くした。

 超古深海王シーラカンス
効果モンスター
星7/水属性/魚族/攻2800/守2200
1ターンに1度、手札を1枚捨てて発動できる。
デッキからレベル4以下の魚族モンスターを可能な限り特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃宣言できず、効果は無効化される。
また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが
カードの効果の対象になった時、
このカード以外の自分フィールド上の魚族モンスター1体をリリースする事で
その効果を無効にし破壊する。

「シーラカンスの効果はわかるよな?海王の咆哮がモンスター3体蘇生なら、こっちはモンスター4体展開だ!あえて言うなら、さしずめ深海王の咆哮ってところか?来い、竜宮の白タウナギ、ヒゲアンコウ、ハリマンボウ、ゼンマイシャーク!」
「く……そんな……!」

 竜宮の白タウナギ 攻1700
 ヒゲアンコウ 攻1500
 ハリマンボウ 攻1500
 ゼンマイシャーク 攻1500

「いくぜ!レベル4の白タウナギ、ヒゲアンコウ、ゼンマイシャークでオーバーレイ!3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。七つの海を噛み砕く、最凶の牙が獲物を喰らう。エクシーズ召喚!やっちまえNo.32!海咬龍シャーク・ドレイク!」

 三体のモンスターが光となって絡まり合い、先ほどのような爆発を起こす。そして魚の尾びれのような形のものが出てきたかと思うと、その姿が変形してこれまた凶悪な面構えのモンスターになった。そしてこのカードを出した瞬間、ユーノの左手の甲に『32』と読める光が浮かび上がったのだが………当の本人はちょっと見ただけでああやっぱりか、と思うのみだった。地縛神の痣だって出てきたんだから、今更ナンバーズの刻印ごときで驚きはしないのだろう。

「シャーク・ドレイクでクロック・リゾネーターに攻撃!デプス・バイト!」

 No.32 海咬龍シャーク・ドレイク 攻2800→クロック・リゾネーター 攻1200(破壊)
 富野 LP3600→2000

「ぐあああああっ!」
「シャーク・ドレイクの効果発動!モンスターを戦闘破壊した時、オーバーレイ・ユニットを一つ使ってそのモンスターの攻撃力を1000下げた状態で特殊召喚!そしてこのターン、もう一度だけ攻撃ができるようになる。いいか富野サンよ、俺も清明も絶対お前らなんかに狩られたりなんてしねえからな!わかったらさっさと帰れ、デプス・バイト2連打!」

 クロック・リゾネーター 攻1200→200
 No.32 海咬龍シャーク・ドレイク 攻2800→クロック・リゾネーター 攻200(破壊)
 富野 LP2000→0





「はー、終わった終わった………おい富野サンよ、生きてるかー?」

 デプス・バイトを受けて吹っ飛ばされたっきりピクリとも動かない富野を見てちょっと心配になってきたらしく、慌てた様子で声をかけるユーノ。幸い意識はあったらしく、ポツリとつぶやくのが聞こえた。

「………んで……だよ………」
「うん?」
「なんでなんだよ……なんで、なんでお前らはそんなに普通に生きてられるんだよ……」
「ふむ、なんか奥深そうな話だな。どれどれ、おにーさんに相談してみ?」

 さすがに言わないかな、たダメもとで聞いてみたのだが、富野は返り討ちにあったことがよほどショックなのか、抵抗もせずにすんなり話し出した。自分ももとは転生者だったこと、レッド・デーモンズ・ドラゴンの使い手(シグナー)としてジャックの代わりに5D’sの世界に生まれたのに、なぜか原作通りに事が進まなかったこと、他のシグナーたちが戦いの中で一人また一人と倒れていくというありえない展開を経てついに世界そのものが滅んでしまったこと。

「おいちょっと待て。さらっととんでもねー爆弾発言してくれちゃったわけだけど、なんでそれが転生者狩りに繋がるんだよ」
「ああ、それは今から話すところだ。俺はその後もしばらく、一人ぼっちで守れなかった世界をうろついてた。そこで、ある男にあったんだ」
「ある男?」
「ああ、シルクハットにマントをつけた男が、いきなり俺の前に出てきたんだ。そりゃあびっくりしたさ、もう人間どころか動物すら何一ついなくて、ビルの残骸とかから缶詰を持ち出しては食うだけの生活だったんだからな。とりあえず新しい缶詰を開けて差し出したんだけど、それを無視して俺に聞いたんだよ。君はこんな結末に納得がいってるかい、ってな。その時言われたセリフは全部覚えてるぜ。君という転生者がいなければ、この世界も原作通りのハッピーエンドで終われたはずだ。ああもちろん、君を責めるつもりはない。ある意味、これは不可抗力のようなものだ。だがもし、君がこの世界に対して責任を感じているなら、君と同じ過ちを繰り返す人を止める仕事を頼まれてくれないか。ってな」
「それが、転生者狩りってわけか。転生者を潰して、原作通りに物事を進ませれば」
「ああ。そうすれば、世界が滅ぶことは絶対にないからな。だから、俺はもうあんなことになった世界を見たくないからずっと戦ってきたってのに………」

 ふー、とユーノは息をついた。どうやら自分が最初に思ってたよりも、話は大きなものらしい。シルクハットにマントの男?転生者狩り?やれやれ、と思いながら、東の空を見る。水平線の向こうから、朝日が昇ってくるのが見えたのだ。朝焼けを少し眺めてからもう一度富野の方を振り返ると、そこにはもう、誰もいなかった。

「んなっ……!おい富野、テメーどこ行きやがった!?」

 慌てて叫び、周囲を見回すユーノ。後ろからいつの間にか近づいてきた足音に気が付いて警戒しながら振り返ると、黒いシルクハットに黒いマントといういかにもな格好をした怪しい男が一人。

「お前か、さっき富野が話してた変な奴って?お前らのせいでえらい迷惑だぜ」

 ユーノの言葉は、質問ではなく確認。それと文句。並みの人間ならたまらず目をそらすような敵意をぶつけられてなお、怪人の歩みは止まらない。そのままユーノから5メートルほど離れた位置までまっすぐ歩いてきて、無言のまま全身をすっぽり包んでいたマントから手を出してデュエルディスクをセットする。

「………話すつもりはさらさらない、か。いいぜ、どうせ授業受けるのは清明なんだから俺は遅刻の心配もねえ。一試合も二試合も同じことってもんよ」

 そう言いつつ、自分もデュエルディスクを構える。その後何が起きたかは、誰も知らない。 
 

 
後書き
一言:元々クレバス発動で終わりにする予定でした。 
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