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ストライクウィッチーズ1995~時を越えた出会い~

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第八話 カモミールティー

 
前書き
影絵PVで有名な「Bad Apple!!」のアレンジバージョンが、某有名SF小説に引用されてビックリした今日。
最近読んでる本がSFばっかりな気がしないでもなかったり・・・
あ、8月は少し更新が途切れがちかもしれません。墓参りとかもあるので。 

 
「ん……あれ、わたしは……?」

 目が覚めてみると、そこは基地の医務室だった。
 清潔なシーツと、鼻の奥がツンとする薬の匂い。壁にかかった古めかしい振り子時計は、ちょうど七時を指していた。窓の外はすっかり暗くなっていて、今が夜だという事を和音に教えてくれる。

「そっか……わたし、魔法力切れで倒れたんだ」

 徐々に和音の頭が覚醒し、記憶が蘇ってくる。
 アフターバーナーを全開にして基地に帰投した和音は、極度の疲労と魔法力の消耗によって意識を失ってしまったのだ。
 誰かいないのだろうかと和音が辺りを覗った時、不意に医務室のドアがノックされて、お盆を手にした一人のウィッチが入って来た。

「――ようやく気がついたんですのね。まったく、扶桑のウィッチはお寝坊さんですこと」
「あ、クロステルマン中尉……」

 やってきたのは、お盆を手にしたペリーヌだった。そういえば、いつかもこんな風なことがあったなぁ、と思い返しながら、和音はベッドから起き上がろうとする。

「病み上がりの体で無理をするものではありませんわよ」
「ですが、クロステルマン中尉……」

 なおも和音が食い下がると、ペリーヌはフッと微笑んでから言った。

「ペリーヌ、で構いませんわ」
「あっ……ええっと、それは、その……」
「あら? それとも命令される方がお好みかしら?」
「……いえ、結構です、ペリーヌさん」

 素直でよろしい、と頷いて、ペリーヌはベッド脇のサイドテーブルに盆を乗せる。よく見ると、そこに乗っていたのは見るからに高級そうなティーセットだった。

「……昼間は、貴女に助けられてしまいましたわね」
「えっ?」
「正直、あのままでは共倒れでしたわ。本当にありがとう」

 涼やかな眼差しが和音を覗き込み、そっと微笑んで和音の髪を撫でた。

(わ! わわわっ!! ペリーヌ中尉!?)

 ベッドで半身を起こしたままの和音は思わず頬を赤くしてしまう。が、幸いにも室内は薄暗く、ペリーヌが気がついた様子はなかった。

「あ、あの! 宮藤さんはどうなりましたか?」
「もちろん無事ですわ。まったく、野生動物のような生命力ですのね、貴女よりも早く目を覚ましましたわよ?」

 そう言うと、ペリーヌは慣れた手つきでティーセットを取り上げ、凝った装飾の施されたポットから、温かな湯気の立つ何かをカップに注ぐ。一体なんだろう、と首をかしげる和音に、ペリーヌはカップを差し出した。

「ペリーヌさん、これは?」
「カモミールティーですわ。実家のハーブ園から取り寄せましたの」
「なんというか、かわったお茶ですね」

 手渡されたカップをおっかなびっくりで受け取り、「これ一杯で一体いくらするんだろう?」などという庶民臭さあふれる感慨に浸りつつ、促されるままに一口飲んでみる。

「あ……すごい」

 喉を伝い落ちて胃におさまった瞬間、優しい温かさがじんわりと体を包んでゆくではないか。
 ハーブティーにある種の薬効があるという事は、知識としては知っているものの、体験するのはこれが初めてであった。

「カモミールティーには安眠の効果がありますのよ。今日は疲れたでしょう? もうお休みなさい」
「ぁ……はぃ……」

 早くもリラックス効果が出始めたか、それとも溜まりに溜まった疲労の所為か、和音の瞳がトロンとしてくる。それを見たペリーヌが、さりげない仕草で和音をベッドに横たえ、そっと毛布を掛け直してやる。

「――お休みなさい、沖田さん。よい夢を」
「………………」

 安らかな寝息をたてはじめた和音を見て安心したのか、ペリーヌはカップを片付けてそっと医務室を後にする。一部の隙も無いその立ち居振る舞いは、まさしく貴族の鑑であるかのようだった。





 ――翌朝

「おはよう、和音ちゃん」
「おはようございます、宮藤さん」

 すっかり体力を回復した和音は、朝食を摂りに食堂へとやって来ていた。
 本日の朝食は和食のようで、食堂には味噌汁の香りが漂っている。おまけに箸まで全員分が用意されていて、扶桑人ではないのに箸が使えるのか、と和音は軽く衝撃を受けた。

「気分はどうかしら? 沖田さん」
「あ、ペリーヌさん」

 先に食堂に来ていたと思われるペリーヌが、見事な金髪をかき上げながら挨拶する。
 てっきり洋食贔屓と思っていた和音だが、ちゃっかり「ぺりぃぬ」と書かれた湯呑を手にしている辺り、和食も嫌いではないのかもしれない。もっとも、湯呑に入っているのは紅茶なのだが。

「昨夜はありがとうございました。カモミールティー、美味しかったです」
「べ、別に! 部隊の一員として当然の事をしたまでですわ! これも高貴なる者の義務でしてよ!」

 ぺこり、と頭を下げた和音に、ペリーヌは頬を赤く染めてそっぽを向いてしまう。滅多に見せないペリーヌの姿に、居並ぶ一同は唖然とするが、当事者である2人は全く気がついていない。

「む、沖田少尉。体はもう平気なのか?」
「バルクホルン大尉、おはようございます。体はもう平気です」

 和音が席に着くと同時に、バルクホルンが食堂に入ってくる。早寝早起きを信条とする彼女にしては珍しく遅いが、その原因は彼女の小脇にがっしりと抱えられていた。

「う~、まだ眠いよトゥルーデ……あと72時間……」
「何を言っているハルトマン! もう朝だ! いい加減起きろ。ほら、せっかくの朝食だぞ?」
「……朝ご飯じゃなくて朝お菓子がいい」

 ぬぼー、っとした表情のままバルクホルンに抱えられているのはエーリカだった。
 これで全員が食堂に揃ったことになる。

(あれ……?)

 しかし、そこで和音はふと奇妙な違和感に気がついた。
 和音の記憶が確かなら、第501統合戦闘航空団の隊員数は11名だった筈だ。なのに、今ココには自分を除いて9人しかいない。――2人足りないのである。

「あの、坂本少佐」
「どうした、なにか気になるのか? 沖田」
「ええっとですね、人数が足りないような気がするんですが……」

 やや遠慮気味に和音がそう言うと、坂本は一瞬面食らったように眉を寄せ、ややあってから合点がいったように小さく頷いた。

「ああ、それはエイラとサーニャだな」
「えいらとさーにゃ?」

 なにそれ絵本? と思った和音は首を捻る。
 すると、横からミーナが助け舟を出してくれた。なぜだろう、ミーナもペリーヌと同様に「みぃな」と書かれた湯呑を手にしている。……流行り、なのだろうか?

「スオムス出身のエイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉と、オラーシャ出身のナイトウィッチ、サーニャ・V・リドビャク中尉ね。主に夜間哨戒を担当してもらっているから、この時間には起きてこないのよ。沖田さんは、まだ会ったことがなかったかしら?」
「はい、お名前だけなら存じ上げているのですが……」

 活動時間帯のズレに加え、和音がこちらの時代に来てからわずか一週間程度。
 さすがに夜間哨戒組と直接顔を合わせる機会はなかった。

「まあ、サーニャとエイラに会うのは当分先だろうな。ところで沖田。今日はお前に客が来ることになっているぞ」
「わたしに、でありますか?」

 意外そうな顔をする和音。それはそうだろう。知り合いも血縁もいないこの時代に和音を訪ねてくる人間など、憲兵団くらいしか思いつかないのだから。

「心配しなくても平気よ。来るのは私の上司だから」
「ミーナ中佐の上司、というと……」

 部隊の隊長がミーナである以上、その上官となれば必然的に軍の上層部に絞られてくる。あまり関わり合いになりたくない類の人間がウヨウヨしているところだ。が、坂本とミーナの顔に不安そうな色はない。

「なに、お前のジェットストライカーの事で相談があるだけだ。安心しろ」
「はぁ……」
「午後にはこちらへ到着の予定だ。今日はネウロイの襲撃予報も出ていない。各自、好きに過ごしてくれ」

 そう言って坂本が締めくくる。
 炊き立てのご飯を味わいながら、和音はやってくる『お客』の事ばかりを考えていた。





 ――ロマーニャ基地 司令室

「沖田和音少尉、参りました」
「どうぞ、開いているわ」

 午前の訓練を終え、シャワーを浴びて身だしなみを整えた和音は、やってくる『お客』のため基地の司令室にやって来ていた。特に心配する必要はないといわれてはいたが、それでもやはり不安は募る。

「もうじきいらっしゃる筈よ。しばらくそこで待って居て頂戴ね」
「は、はい……」

 所在なさげに室内を見渡す和音。落ち着いた調度品で飾られた司令室は、きっとミーナの趣味だろう。机に山と積まれた書類の束が、隊長職の重責と苦労を無言で物語っている。
 いったいどれくらいそうしていただろうか、にわかに扉の向こうが騒がしくなり、司令室の扉がノックされる。

「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐、ご在室でしょうか? 閣下が到着されました」

 扉の向こうから聞こえたのは若い男の声だった。従卒か、あるいは衛兵の誰かだろう。カリカリと書類にペンを奔らせていたミーナが顔を上げ、「すぐにお通しして」と告げる。僅かな沈黙があった後、今度はノックもなしに大きく扉が開け放たれた。



「――やぁ、君がミーナの言っていた〝未来から来たウィッチ〟かい?」



(こ、この人は……まさか!?)

 地厚のフライトジャケットに黒のレザーパンツ。
 切れ長の眼差しを優しげに眇めながら、首から提げたライフルスコープを弄ぶ。
 一目しただけでエースと分かるほどの風格を漂わせているのに、一切の力みを感じさせないその立ち居振る舞いは、まるで女優か何かのようだ。

「初めまして。カールスタント空軍中将、アドルフィーネ・ガランドだ。よろしく頼むよ、沖田和音少尉殿」

 さりげなく差し出された手を夢心地で握りつつ、和音はまるで幽霊にでも出会ったかのように呆然としたまま、促されるままに席に座る。


 ――カールスラント空軍ウィッチ隊総監 アドルフィーネ・ガランド中将
 それが、和音を訪ねてやって来た『お客』の正体だった。
 
 

 
後書き
【元ネタ&用語解説】 めちゃくちゃ久しぶりのコーナー。今回はガランドさん。

『アドルフィーネ・ガランド』

カールスラント空軍ウィッチ隊総監にして、第44戦闘団司令。階級は少将。
多くの撃墜スコアを持つエースであると同時に、現場の状況を気にかけてやれる有能な指揮官。
ウィッチの中でも最も高い地位に居る人といえばこの人。ちなみに坂本に魔眼の扱いを教えた人でもあったり。アニメ第2期での501歳結成に際して大きく便宜を図ってくれた。
ジェットストライカーに興味があり、わざわざそのために部隊を指揮下に置いている。
なぜかリーネにご執心らしく、隙あらば貰おうとしているのだとか。
元ネタは元ドイツ空軍のパイロット「アドルフ・ヨーゼフ・フェルナント・ガランド」
ナチス色が少なく、戦後も悠々自適の生活を送った生粋の飛行機乗りだったそうな。 
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