戦国異伝
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第百三十話 南蛮具足その五
幕臣達の殆ども彼についていったのも見送った、そのうえで殆ど誰もいなくなった御所の中で呟くのだった。
「これでは余が都の留守役ではないか」
「武門の棟梁でなくですな」
「それですな」
「うむ、そうじゃ」
こう天海と崇伝に述べたのである。
「右大臣のな」
「既に全ては決まっていましたし」
「今や天下のことは右大臣殿が仕切られています」
二人の僧達はここ義昭に言う。
「これではまさに右大臣殿が天下人です」
「公方様を差し置いて」
「その様なことは許されぬ」
義昭は恨みが籠った声で言った。
「決してな」
「では右大臣殿をどうされますか」
「これからは」
「どうにかして頭を抑えねばな」
こう二人に言う。
「そう考えておるが」
「ではそのことについてお任せさせて頂きますか」
「我等に」
「御主達にか」
「はい、そうです」
「我等に」
二人の僧達は口々に言う。
「右大臣殿につきましては」
「そうさせて頂けるでしょうか」
「そうじゃな」
義昭は二人を見た、今場にいるのは彼等三人だけだ。その二人の言葉を受けてそのうえでこう答えたのである。
「任せるとしよう」
「有り難きお言葉、それでは」
「必ずやよきようにしましょう」
「天下を治めるのは誰かじゃ」
義昭はあえて鷹揚な口調で言ったが妙に似合っていない、空威張りが見て取れる。
「それは余じゃ」
「はい、武門の棟梁であられる公方様です」
「公方様が治められるべきです」
「幕府があり将軍である余がおるのじゃ」
それならばというのだ。
「その余が治めずして誰が治める」
「まさにその通りです」
「近頃は誰もわかっておらぬ様ですが」
「右大臣とで武家じゃ」
武士ならばというのだ。
「余に従うべきなのじゃ」
「どうも右大臣殿はわかっておられませんな」
「それが何かと出ておられます」
「余は使われるのではない」
では何かというと。
「使うのじゃ」
「右大臣殿といえど」
「存分にですな」
「その世をないがしろにすることは許さぬ」
決してだというのだ。
「では右大臣のことは頼む」
「さすれば」
二人は同時に頭を垂れてそうしてだった。
義昭の前から姿を消してすぐにだった。
闇の中でこのことを話した、すると。
その闇の中から別の二人がこう彼等に答えたのである。
「ではそのことは任せてもらおう」
「我等にな」
応じた答えだった。
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