沖縄料理
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第五章
「あんな騒がしいのこっちじゃ無理だよ」
「無理?」
「基地だのアメリカ軍だの、こっちはそれよりもこうしたの食って平和に過ごしたいんだよ」
「まさか、それは」
「やっと日本に戻ったんだ、もうこのまま美味いもの食ってさ」
「何もしないのか」
「何かする必要あるかい?」
親父は言おうとする良馬に言い返した。
「今のままで幸せに暮らしていけるからな」
「今で満足か」
「充分だよ、俺だけじゃなくて殆どの奴がそう思ってるだろ」
「殆どか」
「ああ、そんな基地反対とか言ってるよりも美味いもの作って食う」
親父は自分の言葉に内心唖然となっている良馬に語っていく、ただ彼が唖然となっていることには気付いていない。
「それでいいんだよ」
「沖縄の人はそう考えているのか」
「ああ、そうだよ」
親父は良馬に笑って答えた。
「そりゃ活動家みたいな考えの人もいるけれどさ」
「活動家、か」
「けれど大抵は違うんだよ」
良馬がその活動家だとは気付かないまま話していく、気付いても話していたかも知れないがそれでもである、
「普通の沖縄人はな」
「そうか」
「仕事して家庭の面倒見てな」
それでだというのだ。
「趣味もあるし」
「趣味か」
「それで美味いもの食って、その中で一番大事なのはな」
「美味いものか」
「そうだよ、美味いものだよ」
それを食べることがだというのだ。
「それを食うことが一番大事だろ」
「そうなるか」
「兄さんだって好きな食べものあるだろ」
「ラーメンが好きだ」
他には天丼が好きだ、後はジャガイモにもやしを炒めたものといったものだ。彼とて好きなものはあるのだ。
「あれはいいな」
「ああ、ラーメンの店なら沖縄にもどんどん出来てるよ」
「そうか」
「兄さんも今度食いに行けばいいさ」
「いや、ラーメンもいいが」
それよりもだと、ここでこう言う良馬だった。
「沖縄の料理がな」
「それがいいんだな」
「ステーキも食った、タコライスも食った」
「それでゴーヤチャンプルやそーきそばもだよな」
「これもかなり美味いな」
良馬は白く何か発酵したものも食べていた、それの味もいいというのだ。
「何だこれは、チーズでもないな」
「ラフテーだよ、それはさ」
「ラフテー?」
「ああ、豆腐を発酵させたものでな、それも沖縄の料理だよ」
「そうか」
「泡盛と合うだろ」
「ああ」
飲んでいる酒は泡盛だ、かなり強いが美味い。それは彼に合っているのか日本酒よりもどんどん飲める。
「いい感じだな」
「沖縄には他にも一杯美味いものがあるぜ、それを知りたいかい?」
「知りたくなった、本当にな」
良馬は親父に真剣な顔で答えた、そうしてだった。
沖縄料理に本格的にのめり込んでいった、それから月日は流れ。
彼は本土から来て二年目で沖縄料理店の見習いに、それこそ皿洗いからはじめて転職し長じて調理師免許も取り沖縄料理の居酒屋の親父になった、那覇の繁華街に店を構え知り合った結婚した女房と共にその店を経営している。
その中でだ、観光に来た大学生の観光客に笑顔で言った。
「どうだい、沖縄料理は」
若い頃の名残が残る顔でカウンターで様々な沖縄料理を食べるその客に対して尋ねる。
ページ上へ戻る