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【パズドラ】殴って、青龍カリンちゃん!

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【パズドラ】殴って、青龍カリンちゃん! 五話 ~ヘラ降臨~

「ぴえーっ!」
「うわー。やっぱりいつ見ても可愛いね! 可愛いね!」
「えー、私あんまり好きじゃない……」
「どうして? こんなに可愛いのに」
「だって、ダンジョンのボスやってた時にいっぱい見てきたじゃん。それに私たちの攻撃を半減するから嫌い」
 最終進化したセイレーンとリリスをボックスから出して、自宅の庭でしばらく遊ばせていた。
 一緒に呼んだ道化龍・ドラウンジョーカーを、セイレーンは体をあちこち触っている。可愛いからというのもあるのだろうが、その目は珍しいものを見る時の眼差しだ。
 それも仕方ない。世の中色々なモンスターがいるとはいえ、ドラウンジョーカーはとてもドラゴンとは思えぬ奇妙な格好をしている。
 顔はピエロのような化粧をしていて、黒が基調な丸いフォルムにはオモチャを連想させるようなカラフルに彩られている。装飾めいた体の一部分からはミステリアスさが感じられる。セイレーンはドラウンの背中についているパペットや、片方は闇夜、もう片方は夜明け前の色合いで作っている翼を物珍しそうに見たり触ったりしている。
  しかし、ビジュアル的な意味で人魚を仲間にしたかった俺としては、セイレーンの体やアメジストみたいなロングヘアーを触りたい。リリスもいい。明らかに誘っているとしか思えない、ベルトを巻きつけたようなファッション、いかにも小悪魔という感じのツノや翼や尻尾も興味があるが、触れたら手に持っている大きな鎌で八つ裂きにされそうなので自制している。というか、二人とも幼い体型をしているので、犯罪臭がぷんぷんするから困る。……年齢的には大丈夫だと思うのだが。
「ぴえーっ! ぴえぇーっ!!」
「わ。ごめんなさい! ……やっぱりこれって目玉なんだ。ボタンみたいだけど」
「なるほどー、次戦う時は目玉を狙えばいいのね」
「ぴ、ぴえっ!」
「ちょっとリリスちゃん、そんないじめないでよぅ……」
「アンタも一歩間違えればイジメになると思うけど……」
 今日、こいつらをボックスから出したのには理由がある。出しておけと言われたのだ。
 こいつらが必要だってことは、これから何するかというのはおよそ想像がつく。リリスとセイレーンはダンジョンに潜るくらいしか分かっていないようだが。
 しかし、いい加減気づいてほしいものだ。この禍々しい夜空に、草木のざわめきに。ただごとではないんだ、と。
 まぁ、あいつが現れないと、まとまった話もできない。そろそろ来てもいい頃合いだが……。
「おい、ここだ」
 声が聞こえた方向を振り向く。自分の横にある木、その枝に絡みつく蛇がこちらを見ていた。
 やっと現れたか。俺は声をかける。
「遅いぞ、オーディン。それにその姿はなんだ? いつものダンディーな姿はどうしたんだよ」
「冒険者の目を盗むためだ。私もこの時期になると忙しくてな。あちこち引っ張りだこになるので、この姿をとる必要がある」
「多忙の中ご苦労様。引っ張りだこの中、俺を選んでくれるのは光栄だな」
「我が主のためだ。冒険者は、他の冒険者とのつながりを保たねばならぬのでな」
「でも、つながりだって選ぶだろ? あんまり使えないやつと仲良くしたって仕方ない」
「我が主は誰彼構わず交流を深めるのが信念。好き嫌いはしない。だからこそ、毒も飲んでしまうのだがな」
「なんか嫌なことでもあったのか?」
「今日は特に多い。己の実力を過信する人間のために動くことほど滑稽なことはない。こっちはやられ損だ」
「俺のことはどう思う? ヘラは倒せそうか?」
「ヘ、ヘラぁっ!?」
 ここでやっと、リリスは気づいたようだ。セイレーンはドラウンばかりに気を取られている。
「なんだ、今更気づいたのか」
「ヘラって、あの暗黒の女神でしょ? そんなのに、なんで私たちが挑まなきゃならないのよ!」
「オーディンに相談したら、お前らがいいって言うからだよ」
「はぁ!? 意味分かんない!」
「知恵者のオーディンが言うんだから大丈夫だろ。な、オーディン?」
「厳密には『セイレーンとリリスがいれば大丈夫』ではない。『セイレーンとリリスがいないと無理だ』ということだ」
「それ、どういうことよ?」
「他のメンバーで行ったら確実に負ける、ということだ」
「……正直にありがとう。まぁ、だからお前に相談したんだけどさ」
「さて、後二体分入れられるが、どうする?」
「あぁ、ちょっと待ってろ」
 俺は自室にもどり、候補のモンスターを呼んできた。
「なんアルか、このおっさん」
 戻った頃にはオーディンは蛇からもどり、人の形で待っていた。シブい顔立ちに、戦闘向きだという高貴な服装。暑い日にも絶対外さないマフラー。どれも緑で統一されていた。よかった、今日は緑色だ。ブルーな時のオーディンは戦いにおいても強くないからな。今日は機嫌がよくなさそうだが、これなら心配いらない。
「おっさん言うな。これでもかなり若作りしているんだから」
「余計なお世話だ」
「こいつは命護の青龍・カリンだ。最近のお気に入りで、水・木・闇が揃ってるから一応連れてきた」
「ふむ。その横にいるのは、紅蓮の女帝・エキドナか」
「はーい。また私が必要な感じ?」
 エキドナは蛇のような下半身で人型の上半身を持ち上げ、見下すかたちで閃光のような金色の長髪をかすかに揺らし、炎をまとった双剣でジャグリングしている。自分は絶対に必要とされている確信に満ちた目つき。その態度に見合うほど、彼女は頼りになる。
「エキドナはほぼ確定でいいと思うが、どうかな?」
「そうだな、エキドナは連れて行くべきだ」
「ん? どこか行くアルか?」
「あぁ、ちょっとヘラぶちのめしに行くんだけどさ」
「アイヤー! ヘラって、あのヘラアルか!? 我も行きたい!」
「あぁ、俺としても連れて行きたいところなんだが、どうかな?」
「やめとけ。体力が足りん」
「そうか。残念だが、仕方ない。体力となると虹の番人がいいかな?」
「それなら勝機はあるだろう」
「ちょ、ちょっと! 体力がないって失礼ネ! そんなこといったら、そんなチームじゃ火力足りないアルヨ!」
「貴様は火力も足りん」
「はぁ!? 我の火力見たアルか? ヘラなんて一発で――」
「無理だ」
「納得出来ないネ! 最近体なまってて、ボックスから呼ばれてやっと使ってくれる思ったら!」
「オーディン、お前は何も言わなくていい」
「その通りネ!」
「こういうのは俺が言わなくちゃいけない。カリン、すまんな。今日はボックスの中に戻ってくれ」
「……え?」
「すまんな、ボックスから出しといて」
「…………お兄さんの、馬鹿」
 カリンはうつむいて、ボックスの中へ戻っていった。そして入れ替わるように、虹の番人が出てきた。
「あれ、虹の番人、なんで出てきたんだ?」
「フォフォフォフォ」
「なるほどなー。カリンがそんなに……」
「フォフォフォフォ」
「まぁ、それは後で俺がどうにかしておくよ」
「フォフォフォフォ」
「あぁ、これからヘラ倒しにに行くんだよ。それでお前の力を借りたくてな」
「フォフォフォフォ」
「頼もしいな。そう言ってくれると助かる」
 モンスターの言葉も理解できる、というのは冒険者にとって当たり前のことだ。しかし、一般人が見たらシュールなんだろうなぁ。
 なんでも虹の番人はカリンによって呼び出されたらしく、ひどく落ち込んでいたらしい。俺がボックスに近づくのも嫌だから、わざわざカリンが虹の番人を呼んだ。というふうに虹の番人は考えているらしい。なんだ、この察しの良さは。
 それで虹の番人はカリンをひどく心配していているようだ。レインボーの鎧で全身をかためているオッサンという、明らかにネタ要員みたいな見た目をしているくせに、無駄な紳士っぷりをアピールしやがって。
「よし、そろそろ行くか」
 こうして、ドラウンジョーカー、虹の番人、エキドナ、セイレーン、リリス、オーディンで、ヘラが待つダンジョンへと向かうことになった。

 オーディンのアドバイスのおかげで、道中の敵たちに苦労はしなかった。
 オーディンとドラウンジョーカーのおかげで相手の攻撃はほとんど効かない。大きなダメージを受けても、エキドナが相手の行動を止めたり、虹の番人の防御で隙を作り、セイレーンやドラウンが回復することで全滅は免れる。しかし、基本防戦一方なので、そこはリリスの毒やオーディンのグングニールで補う。ドラウンジョーカーでは攻撃を半減できない火・木・光属性のモンスターを先に倒すことさえ心がけていれば、雑魚相手に手こずることは本当になかった。
 どんどんダンジョンを進んでいき、ついに最深部……ヘラのもとへとたどり着いた。
「よくここまで来れたわねぇ」
 ついにヘラのご登場だ。俺はその姿を前に、一瞬意識を失いかけた。
 これまで見てきたモンスターとは明らかに格が違う禍々しいオーラは足の先から赤い髪の毛の一本一本までにじみ出ている。悪魔であることを示すかのようなツノ、翼、尻尾、肌色。それらは典型的な形をしているが、それはつまり象徴的であるということだ。悪魔らしい悪魔。その根本を作っているのが、今目の前にいるヘラなのだ……って、ヘラって確か女神だよね!? なんで悪魔みたいな格好してんの!?
 まぁ、そんなことはどうでもいい。俺が一番ヘラに着目しているのは……。
 彼女は、ナイスバディということだ。
 出ているところは出ていて、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。それに加えてややムチムチ。エロい。淫魔のリリスよりもエロい。というかリリスは淫魔のくせに乙女チックな性格をしている。この間、肩をつかんだくらいで「ひゃあっ! ちょ、ちょっといきなり触らないでよ! ケダモノ!」と言って俺を殺しかけた。淫魔のくせに……。
 冒険者なら誰もが夢見る。エロい女の子を仲間にすることを。そして、ようやく願いが叶うのだ。
「ちょっとぉ~。そこの人間の顔が気持ち悪いんだけど……アンタたちの飼い主?」
 呆れたような顔でヘラが俺を指さす。ジト目もいいな……じゃなくて、ついニヤけてしまっていたのか。これでは仲間に示しがつかない。俺は急いで真剣な顔つきに整えた。でも、ジト目のヘラもいいなぁ……。ぐへへ。
「え、えぇ……なんというか、ごめんなさい。ちょっとお兄さん! しっかりしてよ!」
「フォフォフォフォ」
「な、なんだよ……そんな顔してないって……」
「いーやー、しーてーまーしーたー! なによ、まったく」
「い、いいから! さっさと始めるぞ! とりあえずリリスは毒撒け!」
 俺の合図で全員が戦闘態勢に入る。なんだかんだいって、素直に言うことを聞いてくれるやつばかりだ。
 リリスの使い魔の蛇がヘラに噛み付く。遅効性なので一見効いていないように見えるが、長期戦になる今回では非常に有効だ。
「ふん、こざかしい。こんなので私を倒せると思っているの、か、し、ら!」
 ヘラが手に持っていた不気味なほど強力な魔力を放った。暴走した暗黒のパワーはダンジョンを四方八方破壊しつくし、戦う前の何倍もの広さになっていた。瓦礫が俺たちに振りかかる。
 しかし、ドラウンとオーディンが被害を最小限に抑えてくれたおかげで、全員ほぼ無傷で済んだ。オーディンが守りに使った体力をセイレーンが癒してくれる。
「ちっ、私に挑むだけはあるわね。手間がかかる奴らは嫌いだわ」
 こちらが優勢。だけどこれがいつまで続くものか……。倒される要素は限りなくないが、倒せる要素も薄い。防戦一方。ドラウンはセイレーンのサポートをすべく回復の準備をしているし、オーディンはグングニールにパワーを込めている。セイレーンも回復に忙しく、なかなか攻撃できない。虹の番人も周囲の状況を把握しながら、自分の出番を確認しつつの攻撃になる。リリスとエキドナは攻撃力が低い。
 ヘラが攻撃して、ほぼ全員で守りの体勢を整える。これが何十回も繰り返された。
 はたから見たら波がなくてつまらないだろう、この戦い。しかし、こちらは一回ミスをするだけで命取りになる。そんな状況が何時間も続いているのだ。全員の疲労感はマックスを超えているはずだ。
「おい、何をぼーっとしている! 早く私の回復をするんだ!」
「む、無理です! 魔力補給速度が追いつかなくて――」
「大丈夫よ。私がヘラを石みたいにしたから。しばらくセイレーンちゃんは休んでなさい」
「ありがとうございますぅ……」
「よく頑張ったわね。いい子いい子」
「え、えへへ……」
「それで、オーディンさん。グングニールの準備はまだかしらね? せっかく私が動きを止めたんだし、今がチャンスだと思わない?」
「うむ。パワーも十分込められた。ただの的になっている内に打ち込むのが得策だろう」
 そういって、オーディンはグングニールをヘラに向かって投げる。
 見事に心臓を貫いたそれは、命中したところから光の力を弾けさせ――。
 ヘラを文字通り、打ち砕いた。
 勝った。
 ついに、勝ったのだ。
 長かった戦いが終わったのだ。
 眩しさが収まると、ヘラがいた場所に金色の卵を発見した。

「それでは、私は主の元へ戻る。今日最後の仕事だったが、なかなか楽しかったぞ」
 そういって、オーディンは去っていった。今度は蛇にはならず、愛馬を呼び出して、華麗に走る。
 今日はとても疲れた。初めて、神を自力で手に入れたのだ。喜びと疲労が渦を巻いた気分で自宅を目指す。
 そういえば、カリンのご機嫌をとらないとなぁ……。これも骨が折れそうだ。
 自宅が見えるところまで歩くと、消したはずの明かりがついているのに気づいた
 泥棒か? いや、泥棒にしては大胆すぎる。それなら俺のモンスターが勝手にボックスから出てきたのかな?
 玄関の前まできて、ドアノブに手をかける。
 あぁ、今日は疲れているから、どうか面倒なことじゃありませんように――。
 ぱんぱぁーん!
 ドアを開けると、クラッカーを持ったエプロン姿のカリンが出迎えてくれた。
「ヘラ降臨クリア、おめでとうネー!」
「……あ、ありがとう」
「んー? なんでそんなにテンション低いアルか? もしかして、クリアできなかったアルか?」
「いや、クリアはできたけど……ちょっと、びっくりしたっていうか……。カリン、大丈夫か?」
「こまけぇことは心配しなくていいネ! お兄さんがクリアしたんだから、それは我にとっても嬉しいことアル。ささ、お祝いパーティの準備できてるアル。早くしないとケーキが冷めちゃうネ!」
「今は温かいケーキなのかよ……」
 ……どうやら、俺が思っていたよりカリンは強い子だったようだ。
 彼女は、決して明るさを失ったりしない。水のような清々しさをいつまでも持ち続ける。
「それじゃ、新入りの分のケーキはあるんだろうな?」
「もっちろん! ささ、みんな中に入って!」
 もうお腹がペコペコだと言わんばかりに、今日のチームメンバーが我先にとリビングへと向かっていく。レディーファーストなのか、虹の番人だけは一番最後になるまで待っていた。残ったヘラが中に入るまで。
「あなたがヘラアルか? どうしたネ。早く中に入るよろし」
「いや、私は明るいところ苦手だから……」
「そんなの、ダンジョン出身ならみんなそうネ。じき慣れるアルヨ。さぁさぁ!」
 そういって、カリンはヘラの手を掴み、強引に家の中に連れて行った。
「まったく、本当に元気いっぱいだな」
「フォフォフォフォ」
 虹の番人は笑った。その仮面の下はきっと、幸せに包まれて――、
 って、最後はお前が締めるの!? 
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