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ラ=トスカ

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第二幕その二


第二幕その二

「司教、ローマは如何ですかな」
 黒い髪に灰色の瞳の男がカードを切りながら向かいの白い髪と鳶色の瞳の男に問うた。
「満足しておりますよ、カプレオラ男爵。噂に違わぬ素晴らしい都です」
 司教はニコリと笑って言った。
「そうでしょう。この街は一度住むと離れられなくなります。この街に虜になってしまって」
 切り終えたカードを司教に配る。
「モンペリエをジャコビーニに追われた時はどうなるかと思いましたが。一生ここに住むのも悪くないですな」
「そうでしょうとも」
 カードを手に取る。
「唯一つ不満がありますが」
「それは何です!?」
 ピタと手が止まる。
「カードで勝てない事です」
 それを聞いてカプレオラ男爵は思わず噴き出してしまった。
「ハハハ、これはちょっとしたコツがあるのですよ」
「コツ・・・・・・・・・!?」
「はい。賭け方がありましてね。その通りにやれば勝てるというものです。実は私もある方に教えて頂いたのですが」
「どの様な賭け方ですか?そしてそれをご存知の方は一体どなたですか?」
「はい、それは・・・・・・」
 その人物の名を言おうとした時二人の座るテーブルの横を誰かが通り過ぎた。
「あ、さっき通り過ぎられた方です」
 見れば赤い炎の様な色の上着とそれと全く同じ色のズボンを身に着けた小柄な男である。髪は茶がかった金である。後ろ姿なので確かな年齢は解からない。
「!?」
 その後ろ姿を司教は何処かで見た様な気がした。だがよく思い出せない。
「どなたですか?」
「ザラストロ伯爵という方です。ついこの間ワイマールから来られた方でしてね。まだ四十程ですが様々な事に造詣の深い方でいらっしゃいますよ」
「成程」
 ふとある人物の事が脳裏に浮かんだがすぐに打ち消した。
(そんな筈が無いな。あの方はもうこの世にはおられぬ)
 フランスで誰もが知る人物、だが何処に生まれどのようにして育ちどうやって生きているのか誰も知らなかった男。霧の様に何処かへ去りそして姿を現わさなくなった。森羅万象ありとあらゆる事を知りどんな事も器用にこなした男。ある者は彼を錬金術師と言いある者は彼を山師と言った。その男の名は歴史の謎の部分にしかと刻まれている。
 大広間の中で貴族達が遊びに興じたり談笑したりしている。戦いに勝利を収めそれを祝うとあってどの者の顔も晴れやかである。
 ただ例外もいる。茶の髪と瞳をした細身で中背の男が何やらせわしなく歩き回っている。
 名をジュゼッペ=アッタヴァンティという。アンジェロッティの妹の夫であるアッタヴァンティ候である。
 この人物の評判はパッとしない。凡庸で小心な人物であり風采も冴えない事から宮中でも忘れられがちである。美人で頭も良い夫人とは全く不釣合いな人物とよく陰口を叩かれている。善良であるが消極的で人付き合いも不得手でありかつ無気力な人物の為彼と親しい者も少ない。
 何やらそわそわと歩き回っている。何か気になる事でもあるのだろうか。不意に誰かに呼ばれた。
 「侯爵、どうなされました」
 アルトゥーロ=カヴァラドゥッシ伯爵である。ゼノアでの武勲により王妃から直々に勲章を賜ったのだ。
「あ、伯爵、どうしてここに?」 
「オルロニア公爵夫人に頼まれ事がありまして。侯爵を呼んで頂きたいと」
 王妃付きの女官である。金髪碧眼の長身の美女であり頭の回転が早い。王妃の側近である。
「どちらです?」 
「こちらです」
 大広間を出て廊下を挟んで前にある階段の前に夫人はいた。何やら意味ありげな微笑を浮かべている。
「侯爵をお連れ致しました、マダム」
「有り難うございます、伯爵」
「どう致しまして。では私はこれで」
「ご武運を」
 アルトゥーロ=カヴァラドゥッシは二人に一礼し階段を降り宮殿を後にした。すぐ馬に乗りマレンゴに向かった。
 
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