SAO――とある奇術師は閉ざされた世界にて――
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一章 一話 とある殺人鬼たちの集い
前書き
いきなり物騒なタイトルだと思った人もいるかもしれませんが大丈夫です!
名前負けですから···
鳥が好きだった。
親が売れないサーカスの団長で、日々を乗り切るのも精一杯、という暮らしをしていたからかもしれない。
多分、自由になりたかったのだと思う。
苦しい生活と、俺の自由を蝕むサーカスから。
タダで使える貴重な人員だということで、毎日下働きの手伝いをさせられた。
家に帰れば誰かいる、なんてこともなかった。両親はサーカスを続けるために、分刻みのタイムスケジュールをたてていたから。家には大抵誰もいなくて、俺は洗濯や自分の分の食事の用意、ホコリまみれとなっている両親の部屋の掃除などの家事に追われた。
おかげで俺の働きぶりは近所に広まり、子ども主夫などと呼ばれるようになり、商店街などでも随分と良い思いをさせてもらったし、道に出たら知らない人にも声をかけられた。
だが、そんなことでは俺の胸の乾きは潤わなかった。
サーカスのせいで遊園地にも行ったことがない。友達と野球をしたこともない。
学校で友達が楽しそうに、休みに家族で旅行に行ったことや、放課後にしたらしい野球の話を聞いて、何度隠れて泣いたことか。
サーカスの息子ということでもともと浮いていたところに、付き合いが悪いという属性が付け加えられ、俺の居場所は学校にはなくなった。
かといっても家には誰もいないし、サーカスの人達も良くはしてくれたが全員俺より二十歳は年上だった。
結局居場所は見つからず、また泣いた。
幾度となく[サーカスを辞めて]と親に言いそうになった。
けれどもサーカスのことを幸せそうに語る親を見たら、そんなこと口には出せなかった。
とはいえ、根っからサーカスが嫌いだった訳でもない。
むしろ、ある一点において、サーカスは俺に貴重なものを与えてくれた。
空中ブランコだ。
高い天井から吊り下げられたそれに登るとき、俺は自由になれた。翼さえあるように感じた。あこがれた、鳥になれる気がした。
なんとなく、俺が今生きているのはブランコのおかげだという気がする。
ただ眺めていることしかできなかった鳥に近づけたことで、なんとかなると思えたのかもしれなかった。
だが、この世界に鳥はいない。
このデスゲーム、”ソードアート・オンライン”―SAOに存在するのは、ポリゴンデータで構成されるオブジェクトと、ポリゴンデータで作られたいびつなモンスター達、そして、これもまたポリゴンデータで作られた、本物の命を抱えたプレイヤー達だけだった。
人との出会いには良し悪しがある。
一生モノの友人と出会うのは勿論プラスだし、当たり障りのない会話をしただけでもプラスだ。
そうカウントしていくと、人生大抵の出会いがプラスになる。
いやー、幸せ幸せ。
では、ゲームオーバイコール現実での死を表すSAOにおいて、殺人快楽者―レッドプレイヤーに出会うのは・・・
「ゲヒャヒャヒャ!」
最早人間を捨てたとしか思えない笑い声をあげて、長身のプレイヤーがクローを突きだしてくる。
胸部を正確に狙ったその一撃を、俺は右手に握る片手剣で切り払う。
「うおっ」
思ったよりも重い。俺の剣が押し返され、その余波でHPが軽く削れる。
敵の連撃が続く。左右の手に装備された爪が俺に殺到する。
クロー使いには珍しく筋力重視のビルドらしい。敏捷極振りの俺の筋力値では防ぎきれない。
防戦一方の俺は、だんだん戦いの舞台である迷宮区の小部屋のその端に追い詰められていく。
受けきれなかった分のダメージで、ジリジリとHPが減っていく。
「ゲヒャヒャヒャ!」
狂った様に叫ぶレッドプレイヤーが更に攻撃の手を強める。
ついに俺のHPバーが50%――イエローに入る。
命が後半分しかない。その事が明確に感じられる。
「ゲヒャヒャヒャ!どうしたァ!反撃してみろよォ」
いうないなや、奴は右の手を大きく後ろに回す。
デカイのがくる!
多分、こいつの本気の一撃は、俺の筋力値では防げない。敏捷型の例にもれず、装甲も紙並みだ。
だがーーー
「敏捷型の底力、なめんじゃねぇ!」
奴の体を支点に半時計回りにスピン。後ろに回り込む。
目標を失ったクローが大きく空を切る。
その大きすぎる隙を――突く!
右手の剣を腰の位置に持ってくる。
システムがそのモーションを感知したのが分かる。
刹那
「はあああっ!」
俺の渾身の連撃がはじまる。
青く染まった剣線が、高速で打ち出される。
片手剣六連撃”バーチカルタクティカル”――システムによるアシストで、通常の数倍の威力、速度の斬撃をはなつ、"ソードスキル"と呼ばれるそれが、レッドプレイヤーの背中に六芒星の傷痕を残し、そのHPバーを
――削りきった。
男が、恐怖によるものか、目を大きく見開く。
この人類初のフルダイブVRMMORPG"ソードアート·オンライン"は、さすがは仮想世界の実現を唄うだけあって、律儀に現実の世界を再現している。
さすがにプレイヤーの浮き出る血管や、細かい毛の一本一本を再現するには至っていないが、食料アイテムを放置していると腐るし、攻撃を受ける瞬間に後ろに跳べばダメージを減らせる。しかもデスゲームが始まってからはプレイヤーは皆現実での姿に強制変更させられているという徹底ぶりだ。
まあ、結局はその流れで着けちゃったのだろう。ゲームオーバーと同時にプレイヤーの脳を焼ききるための大容量バッテリーを。
ソードアート·オンラインは"ナーヴギア"というハードでプレイされる。
頭に被り、脳から体への信号をインターセプトすることでプレイヤーは仮想世界でキャラクターという借り物の体を自在に操ることができるのだ。
今はその機能が災いして、現実の俺達は指一本動かせず横たわるしかない訳だ。よって、ナーヴギアは自分の手では外すことができず、死と隣合わせの生活を余儀なくされているのだ。
では、現実で誰かがナーヴギアをひっぺがせばいいのでは――?
そんな期待もできない。
何故なら、その場合もうざったい大容量バッテリーがご活躍なさられるから。
そいつは、ゲームオーバーおよび、外部の人間が無理にナーヴギアを外そうとしたとき、脳に高電圧の電流を流し、焼ききってしまうのだ。
もちろん、そんな情報が全て嘘という可能性もある。
とはいえ、さすがに無害なゲームから出られないのに、一年も放置というのもあり得ないだろう。
そんな感じで今はSAO内部でも、ゲームオーバーイコール死、というのが通説となっている。
そんななかでも、いや、そんななかだからこそ、レッドプレイヤー達は殺人を続けた。
目の前の奴は死ぬ前の恐怖に染まったあの顔がいい、などと抜かしやがったが、自分の顔が恐怖に染まってりゃ世話ねえ。
まあ、人が死ぬのは好きでも、自分の死ぬのは嫌って、身勝手な考えなのだろう。
「ヒ、ヒィィ」
先ほどまでとはうってかわった、威勢の欠片もない声をあげながら、奴は俺の足下でしばらく体を慌てふためかせていたが······
その動きが止まって·····彼はポリゴン塊となり、もうすっかり聞きなれた爆砕音を残して四散した。
奴は今、現実世界からも同時にゲームオーバーした訳だ。
それを無感動に見送り、部屋の中央に向き直る。
目に写るのは、赤く染まった三つのプレイヤーカーソル。残った三人のレッド達。
普通に考えてかなりマズイ状況だが、俺はあえて笑みを浮かべる。
「本当に・・・・・・ついてるよなぁ」
社会のゴミをまとめて四つも掃除できるなんて、本当についてる。
後書き
·····なんか、思ったよりもダークヒーロー的な雰囲気が出てきてしまった感じです。
ここまで読んで引いた人も、さきを読んで下さったらうれしいです。
感想とか、お願いします。
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