戦国異伝
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第百二十九話 一月その八
「では今日文が届かねば」
「その時は」
「明日の朝じゃ」
まさにその時だというのだ。
「都に向けて出陣じゃ」
「既に兵は整っておりまする」
丹羽が応える、織田家において米と言われ欠かせぬ者と言われている彼がである。
「明日の朝、殿が出陣を仰れば」
「それでじゃな」
「四万の兵が既に岐阜にあります」
丹羽が集めさせた、数万の大軍の集結と武具、兵糧の調達を何ごとなく済ませていたのである。これは都の信行も同じだ。
「さすれば」
「今日一日じゃ」
あくまで待つ、信長はこう言いはする。
「待つぞ」
「はい、それでは」
「今日は」
「早く寝ることじゃ」
信長は笑って家臣達、明智達にも告げた。
「明日は早いやも知れぬ、酒は飲まぬ様にな」
「では茶も」
「それもですな」
「茶を飲むとどうしても目が冴えるからのう」
信長は酒は飲めぬが無類の茶好きでよく飲む、だからこその言葉だった。
「わしも今日は早く寝る、寝ている間に文が来ればよし」
「しかし来なければ」
「その時は」
最早言うまではなかった、それでだった。
信長は穏やかな笑みでこう述べたのである。
「竹千代と猿夜叉には気苦労をかけるのう、この見返りは必ずしよう」
「徳川殿にももうお話をしております」
また丹羽が述べてきた。
「明朝文をお送りします」
「猿夜叉は動かぬな」
「はい、浅井家からの文を受け取っています」
この戦は傍観するとだ、長政から言って来たのだ。
「左様に」
「竹千代は後で合流するか都から近江に向かう時にじゃな」
合流するというのだ。
「そうなるな」
「ですな」
「猿夜叉は兵は動かさぬが政で動いてくれる」
信長は長政の考えを理解していた、必ずそうしてくるとだ。
「わしにしても朝倉家は完全には滅ぼすつもりはない」
「では懲らしめて」
羽柴が問う。
「それで、ですな」
「あの八十万石をどうするかはそれから考えるがな」
義景の命も朝倉家もだというのだ。
「滅ぼすつもりはない」
「左様ですか」
「あと出来ればな」
信長の表情がまた変わった、今度言うことは。
「宗滴殿と手合わせしたいのう」
「あのご老人とですか」
「そうされたいのですか」
「うむ」
これが信長の望みだった、子供の様な笑みを浮かべて語る。
「そうも思っておる」
「戦わずに済めばよいといっても」
「それでもですな」
「そうじゃ、そうも思う」
矛盾すると言えばするがそれでもだというのだ。
「宗滴殿の様な御仁とな」
「古くから朝倉家を支えてきた英傑ですな」
柴田が確かな声で応える。
「自他共に厳しく確かなお心を持つ方とか」
「武だけでなく文、政も比類なき方とか」
村井も宗滴について語る。
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