グラールの神機使い
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
3-2
自分の部屋に戻り、座ることもできず、ただ部屋の真ん中につっ立っていた。
落ち着いて考えるのが怖い。今だっていろんなことが頭の中を巡っていて、パニックになりそうなのだ。
俺は第1部隊リーダーで、あいつは第9部隊という一風変わった部隊の隊長だった。
あいつは、アラガミにやられそうになった俺を助けてくれた。
あいつは、帰投のヘリが墜落してパニクる仲間を纏めて戦った。
あいつは……。
「おーい、アツシ」
扉の向こうからの声で、我に返る。
「あぁ、入っていいぞ」
音を立てて扉が開くと、見慣れた黄色い服を着た少年が立っていた。
「コウタ……」
「聞いたよ、リュウジさんが……」
第一部隊のムードメーカー、藤木コウタ。
必要以上に他人に気を配る彼の事だ、リュウジの話を聞いて、真っ先に俺のところに来たのだろう。だが……
「仕方ない、よな。こんな職業なわけだしさ、いつ死んでもおかしくないから、さ」
「……あぁ」
「アツシ、本当仕方ないけど、でも……」
そこでコウタは黙ってしまい……
「……ごめん」
出て行った。
「……………」
彼も理解したのだろう。今の俺に、どんな言葉をかけても、無駄だと。
「……あぁぁぁぁぁっ!」
青空が映る画面を、殴りつけた。画面にヒビが入り、しばらくのノイズの後、映像が止まる。
何故だ? 何故いつも俺達は奪われる側にいる。全てに打ち勝つためにゴッドイーターになった、実際あいつは勝ち続けてきた。それでも生き残ることが叶わないなど、ふざけている。
どうすればいいんだ。どうすることが正しいんだ。それを教えてくれるあいつは、もういない。
それが、さらに絶望感を積み重ねた。
「クソッ、クソッ、クソッ、クソォォォォッ!」
何度も、何度も、何度も何度も何度も画面を殴りつける。こんなことをしても意味はないとわかっているのに。
それでも、何も抑える事はできなかった。]
第9部隊。
極東支部でも真新しく、最も実績を上げてるであろう部隊。
所謂、「生え抜き」部隊だ。
あのリュウジや、行き場を無くしたリンドウさん、謎の神機使いエリ……マスク・ド・オウガなんかが所属している。
まだまだ人数も少ないが、どいつもこいつも化け物みたいな奴ばかりだ。
その中でもリュウジは、特に秀でた存在だった。
臨機応変、実力派の神機使いとしては、恐らく極東支部最強……いや、世界中の神機使いで、間違いなく最強だったろう。
あいつがMIA(作戦行動中行方不明)になり、ビーコン反応が消えるなどとは、もはや信じられない事だ。
それでも奴は……死んだのだろう。
「………」
殴り疲れたのか、泣き疲れたのか、それともどっちもか。気づけば、画面のある壁にもたれかかって眠っていたようだ。しかも、思い出していたのはやはりあいつのこと。
あいつがいた部隊は、今後どうなるのだろう。よくてリンドウさんが新隊長、悪くて解散だろうか?
「リュウジ……お前が死んでどうするんだ。お前の変わりなんて、この世には……」
「アツシ、いるか」
再び、扉の前から声がした。今度はコウタではない。落ち着いた、女性の声だ。
「……ツバキさんですか? どうぞ」
コウタの時と同じように、音を上げて扉が開く。書類を片手に持ったツバキさんがそこにいた。
「どうかしたんですか?」
「特例が降りた。お前に、ミッションを依頼したい」
「……特例、俺に?」
「お前には、荒鉄リュウジの捜索を行ってほしい」
「!」
俺は思わず立ち上がっていた。
「……リュウジは死にました。貴方たち上層部がそう言った。今更何が言いたいんですか?」
「奴は死んでいない。生きている可能性がある」
「ふざけるな!」
俺はまた画面に拳を叩きつけた
「リュウジは死んだ……何を見ても明らかでしょう!? 分かりやすい嘘の希望を持たされるくらいなら、絶望した方がマシた!」
「生きていると言っているのだ!」
ツバキさんの大声に、思わず怯んでしまった。
それをいい事に、ツバキさんは更に続けた。
「奴の腕輪のビーコンが消えた地点は、贖罪の街、教会エリアだ。あそこは建物内部の為、遺体が残れば雨風に晒される事はない」
そして1つのファイルが俺に手渡される。
俺は黙ってそれを開いた。
「それは教会内の探索結果だ。奴のビーコンが消えた地点では、奴の遺体、神機、腕輪は愚か、服の切れ端一枚見つかっていない。捕喰されたとしても、ここまで何もないのは異常だ」
「神機は、アラガミに突き刺さったままになってるんじゃないんですか?」
「奴がそんなヘマをする人間だと思うか?」
「……思いませんね」
「そういう事だ。だが、これは上層部が判断した結果を無視した、言わば命令違反だ」
俺が驚いてツバキさんを見ると、信じられない事にツバキさんが頭を下げていた。
「これは、私の個人的な依頼だ。頼む」
ページ上へ戻る