少年は魔人になるようです
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第26話 姫と騎士は離れてしまうようです
Side 愁磨
『造物主』が(対外的には)倒された十三時間後、俺達『紅き翼』は真の英雄、
『正義の魔法使い』として、オスティアで戦争終結記念式典に参加していた。
『正義の魔法使い』何ぞと言う下らん称号を寄越してきたのは、無論元老院。
式典前に俺は勿論皆も受け取らなかったのだが、式典時に発表されてしまい、
民衆と言う民主主義最強兵器を使って俺達に渡して来た。
(『流石に、ここで不安を煽る行動は避けるべきだよなぁ……。』)
(『こればっかりは、仕方ないわね~。』)
(『・・・かっこわるいから、・・・いらない・・・。』)
と念話家族会議を終了させ、仕方なくメダルだの諸々を受け取る。
「さすが愁磨なのじゃ!妾の夫なだけはあるのじゃ!!」
テオさん?ここは公の場だから目立つし、
そういう発言されますと後々面倒になってしまうのですが?
「ハァ……。テオ、あんまり困らせるな。」
「む、すまぬ。愁磨が困る事はせんのじゃ!」
素直な良い子なんだけどな~~・・・。如何せん皇女だから世間ずれがな。
それに、アリアとの折り合いも悪いと来た。年が近いのがいかんのかなぁ・・・・?
「と、ところで愁磨。しゃがんでくれんと届かないのじゃ……。」
テオを見てみると確かに、背伸びしてプルプルしてる。
・・・・なにこれ可愛い。今すぐお持ち帰r・・・・アリアが怒ってるからやめようか。
「ん、これで良いか?」
「うむ、よし。」
俺がテオからメダルを貰っている間に、ノワールはアリアから、
アリアはエルザさんから貰っていた。
立ち上がり振り返ると、そこにいる人達は拳を上げ、声を挙げている。
「……ま、偶には良いかな?」
ひとりごちると、バッ!!と拳を振り上げる。と、歓声が更に大きくなる。
『お姉さまーーーー!!』とか『けっこんしてくれーーーー!』
とか聞こえるのは聞き間違いだろう。
「おお、忘れる所じゃった。」
と、テオが袋状になっている袖から巻物を取り出す。
「コホン。あーあー、『静粛に、静粛に!!』」
拡声魔法(風+音魔法の応用)で声を式典会場全体に行き渡らせる。
「『ヘラス・ウェスペルタティア・メガロメセンブリアの名に於いて、
『皆殺しアーカード』、『微笑みの漆黒菩薩』両名に掛かっている賞金、
それぞれ5000万Dp、2000万Dpを永久凍結すると共に、英雄として
『正義の魔法使い』の名を授ける!!』」
一旦区切ると、こちらを向き『すまぬ』、と目で謝ってくるテオ。
「(好きでやってるんじゃないのは、分かってるから。)」
テオに聞こえる精一杯の小声で、なるべく安心出来るように言ってやる。
テオは頷くと、続きを読みだした。
「『『皆殺しアーカード』改め愁磨・P・S・織原。
貴公には『白帝』の称号を、
『微笑みの漆黒菩薩』改めノワール・P・E・織原。
貴君には『黒姫』の称号を。
そして、アリア・P・W・織原。貴君には、『狼幼姫』の称号を与える!』」
称号って言うのは、『正義の魔法使い』・『悪の魔法使い』の中でも
本当に力のある者に与えられるモノだ。
俺とノワールは『悪の魔法使い』のに上書きされて、アリアは新たに貰ったって所か。
まぁ、そんな事はどうでも良いんだ。
「テオ、すまないが、俺の称号をもう一回言ってみてくれないか?」
「む、なんじゃ?聞き逃したのか?」
「いいから、もう一回頼む。」
俺の言葉に首を傾げながらも、テオはもう一度その名を言う。
「じゃから、愁磨には『白帝』の称号が与えられるのじゃ。」
「ク、クククククククククククククククククク……………。」
「(ビクゥ!) ど、どうしたのじゃ?」
ああ、漸くだ・・・漸く・・・・・。
「男の称号を手に入れた………。」
『白き死神』『殲滅白雷の白雪姫』『返り血染紅の雪の精』『嗤う不死女王』
『皆殺しアーカード』、戦国時代では『白姫』・・・・・・。
ハッキリしないor女の称号のみという、まさに公式が病気状態だった。
「しかし!!今ここに『白帝』と言う名を手に入れたぁぁぁああああ!!
さぁ讃えよ愚民共よ!!!俺の名を言ってみろおおおおおおおおおおおお!!!」
「「「「「「「「白帝さまあああああああああああああああああ!!!」」」」」」」」
「フハハハハハハ!勝ったッッ!第三部完ッッッッ!!!」
いや、何に勝ったか知らんけどな。
「(……私が既に『黒翼氷帝』って言う二つ名貰ってる事知ったら、
死んじゃうんじゃないかしら?)」
「(・・・・言っちゃ、メ・・・・・。)」
―――――さって。遊びはここまで、かな?
(『ノワール、アリア。ちょ~っと一仕事行ってくるな。』)
(『はぁ…。何だかんだ言って、結局は助けたいのね。』)
(『・・・パパ、がんばって。アリカ・・は、わたしが・・まもるから・・・。』)
(『うんうん、ありがとうなアリア。頑張ってな。ノワール、エルザさんは任せたぞ。』)
(『ハイ、行ってらっしゃい。』)
さて、おバカな姫様の先回りしておきましょうかね。
Side out
Side エルザ
式典が終わって数時間。
見下ろす街は・・・・・いえ、世界中がお祭り状態になっているわ。
でも、私は楽しむ事なんて出来ない。なぜなら――――
「エルザ!!こ~んなとこにいたのかよ。探しちまったぜ。」
――今、一番居て欲しくて、来て欲しくない人が来てしまった。
「態々探さなくても良かったのに……。皆と楽しんできたら?」
「うっ、あのいや、だな…………ああもう!!ンな事どうだっていいだろ!」
怒られちゃったわ。
と、ナギも縁の方に来て街を見下ろす。
「………お前と居たかったんだよ…………。」
・・・・・・・・そんな事、言わないで欲しいわね。
頼りたくなっちゃうじゃない・・・。
「…なぁ、エルザ。俺らに隠してる事、あるんじゃねぇのか?」
私の体が自然と反応し、僅かに震えてしまう。
「隠し事なんてあって当然だしさ、洗い浚い話せなんて言わねぇけどよ。
せめて、少しくらいh「ナギ。」」
ナギの言葉を遮る。―――そうしないと、頼ってしまうから。
「……ちょっと、後ろ向いてくれないかしら?」
「あ、え?……良いけどよ。」
振り向いたナギの背中は思っていたよりも小さくて、
でも、やっぱり・・・・頼りがいがあって。
トスッ
「お?え、ちょ、エルザ?///」
ナギの背中に顔を押し付けながら抱きつく。
「――――ギ―――」
「え?今なんて――」
「――ナギ、ナギ……ナギ……………。」
「エ、ルザ……?」
ナギ、ナギ。――ナギ、ナギナギナギナギナギ・・・・。
私の・・・、私が、初めて愛した男性―――――。
「―――ぃしてるわ、ナギ。」
トン、とナギから離れる。
「い、今なんて言った、エルザ?」
「ごめんなさい、ナギ。」
「……エルザ?」
「―――気安く話し掛けるな、痴れ者が。
妾はウェスペルタティア王国が女王、エルザ・ウェスペリアーナ・プレミロディオルじゃぞ。
英雄『紅雷の騎士』とて、礼儀を欠くで無いわ。」
バサッ、とマントを翻しナギ殿から離れる。
「ちょ、ちょっと待てよエルザ!!」
――――――――――――!!
バシンッッ!!
「うお!?ちょ、なんだ、これ!おい、エルザ!!」
妾は風・雷・光の結界魔法で空気中に不可視の一室を作りだす。
「案ずるな、五分もすれば解除される。」
言い残し、責務を果たす為に歩き出す。
「エルザあああああああああああああああああああああ!!!」
ナギ殿の叫びを背に、階段を下りて行く。
悲しみに浸っている時間など無い。もうすぐ、この王国は滅ぶ。
「故に、妾は自分の使命を――(スパァン!)きゃう!?」
思い耽っていると、う、後ろから誰かに叩かれました。
「だ、誰ですか!?無礼ではありませ―――」
「責務とかくっだらねェ事言ってんなよ、エルザさん。」
怒りながら振り向くと、そこには愁磨さんがいました。
Side out
Side 愁磨
「随分男を弄んでますなぁ、お姫様。」
「しゅ、愁磨さん?何故ここに―――!!
ぶ、無礼であろう、貴様!妾を誰だと思っておるn(デシッ)あぅぅぅ……。」
女王モードになったエルザさんにチョップをかまし、再び通常モードに直す。
「似合わね―ンだからやめとけって。
エルザさんは何時も通りにこやかに笑ってりゃ良いんだよ。
まぁ、今はどうでもいいか。ほら、時間ねえんだから早くしろよ。」
額を押さえながら「?」と言う顔で俺を見てくる。
「?じゃねえよ。ここら一帯落ちちまうんだから、とっとと避難させんぞ。」
「な、なんでそれを!?ま、まさかアリカが―――」
「アリカは知ってるだろうが誰にも言わねえだろうよ。
個人情報だから秘密にしないといけないのです。」
埒が明かないので、エルザさんを抱え転移する。
「あ、愁磨さん!エルザ陛下を―――陛下!!?」
「よっす、クルト。ガトウはどうした?」
俺が転移した避難誘導本陣(?)近くに、丁度クルトが居た。
「え、えと、師匠なら中で指示を出していますが。」
「了解。俺は先に貧民島の人達避難させっから、お前らは五分以内に出発して
避難誘導始めとけ。」
「ハ、ハイ!分かりまs……ど、どうして愁磨さんが!?」
「クルト。その情報は今必要な事か?」
「あ――、いえ!失礼しました!!では僕は師匠に伝えて来ます!!」
クルトは一瞬言葉に詰まるも、直ぐに立て直し走って行った。
うん、クルトはタカミチより判断早いし行動力もあるんだけど、如何せん効率主義的だからな~。
そこら辺を上手くしてやればかなり有能に―――っと、
今はそんな事言ってる場合じゃないか。
「あーと、エルザさんはなるべくデカイ島に降りてくれ。
『王家の魔力』は魔力無効内でも使えるんだったよな?」
「え、ええ。魔力の代わりに使えば良いだけだから。
魔力より制御が難しい分、効果は上がるし……。」
「あ、護衛はすぐにノワールが合流するから、船に乗って先に行っててくれ。
魔法使いは使えねぇから、全員避難所の手当に回してくれ。
後、アリカにはアリアとリルを付かせてるから、安心して良いよ。」
えーと、後は何もないよな?あっても勝手にやってくれるだろ。
「じゃ、健闘を祈る!!」
エルザさんの返事を待たず、貧民島に転移する。
「さって、とりあえず全員集めましょうかね。」
完全崩壊まで3時間、猶予は約2時間、要避難民数不明。
―――まぁ、すっげーめんどくせぇが。
「力を持ったからには、少しは使っても罰は当たらんよね、うん。
『形態変化:モード≪黄猿≫」
某海賊王世界に出てきた、光の能力を装備する。
「行きますかね。―――まぁ、適当にさ。」
キンッ
と短く音を立てて、俺は住民収集に向かった。
Side out
Side アリカ
愁磨が義姉君の所に行ってから、間もなく一時間。
何処から話を聞いたかは知らぬが、オスティアが崩壊する事を知っておった。
ノワールとアリアには話して、私には話さぬとは・・・!
「あら、アリカも同罪でしょう?フフフ。」
・・・先程、アリアと珍妙な生き物を連れて来たノワールが言っておった。
と言う事は、愁磨も私が知っておった事は当然知っておった訳で・・・。
愁磨も、話さなかった私に腹を立てていたのじゃろうか・・・?
「・・・・・・・パパは、アリカm・・・の事、おこってなかったよ。」
と、アリアに慰められる。
「そ、そうかの……?ありがとう、アリア。気が楽になった。」
頭を撫でてやると、アリアは頬を少しだけ赤くする。相変わらず可愛い娘じゃ。
と、アリアと一緒に残った竜?のリルが首を擡げる。
「・・・きたの?」
「キュル!」
「わかった。・・・アリカ・・は、ここでめいれい?出しててね。≪翼獣霊王≫。」
アリアは先日の戦争の時の姿になり、リルと一緒に甲板に向かう。
「・・・安心して。周りの船も、皆も・・・・アリカママも、護ってあげるから。」
「え………。」
「・・り、リル。傍に、ちゃんと付いててね///」
「キュルィィィ~~♪」
「・・・うるさい///」
声を掛ける間もなく、アリアはドンッ!!と飛んで行ってしまった。
じゃが・・・・・。
「フ、フフフフフ………。」
「あ、アリカ様……?」
いかん、部下が怯えておる。
「コホン。行くぞ!直ぐに崩壊が始まる!!我らが民を一人残らず救い出すのじゃ!!」
外を見ると、既に義姉君の船団が進んでいる。
義姉君は、恐らく・・・・・。じゃが、今は優先事項が違う。
「一人も死なせるな!無駄にして良い命など存在せん!!」
そして、一つの島が落ち出した。
Side out
Side エルザ
「7番艦までは全て王島へ当たれ!
8・9・13から19番艦はハイル島へ、15・16・20から27番艦はワンド島へ行け!
その他の艦は順次、手前の島から当たれ!街毎にニ艦ずつ付くのじゃ!!」
愁磨さんから言われた5分では準備出来なかった物の、
30分で艦隊準備・配置・命令系統の決定をしたんだから、大丈夫よね?
「陛下!!それだと貧民島が手遅れになる可能性が!」
と、部下に穴を突かれるが―――
「心配ない!既に『白帝』殿が向かっておる!!」
「なら問題ありませんね!!」
・・・・女王より信頼度が高いって、どう言う事なのかしら・・・?
あの時飛んで行った攻撃を見てしまっては、頷くしかないのだけれど・・・。
(『もしも~し、こちらノワール。聞こえるかしら?』)
と、ノワールさんから念話が届く。
(『ノワール殿か。聞こえるが、どうした?』)
(『……シュウの術式だから、元老院の狗には聞こえないわよ。』)
(『あ、そうですか?もう、愁磨さんのせいで変え損なってしまったから、
部下と話すのが辛いです。』)
(『その嫌味には、謝罪と叱咤を一緒に送るわね。それで、進捗状況はどうかしら?』)
(『ええ、悔しいですけれど、愁磨さんのお陰で避難は間に合いそうです。っと!!』)
ガイィィィィン!!!
「皆の者!妾と『黒姫』殿が守る!!慌てずに戦艦に乗り込むのじゃ!!」
と言っても、守りは殆どノワールさんとアリアちゃんがしてくれているし、
一番手のかかる貧民島は愁磨さんが行ってくれている。
アリカには指令系統を纏めて貰っているし・・・
この家族だけで帝国をも・・・いえ、確実に世界を治められそう。
(『そ、なら良いわ。そっちの状況は常に聞こえるし、狗に噛まれるしんp』)
『ゴルェおらああああああああああああああああああああああ!!』
ノワールさんの喋っている途中で、凄まじい大声の通信が入ってくる。
『おい、エルザ!これはどう言う事だよ!!』
ナギ・・・・。あなたは、いつまで私を困らせるの・・・。
「見ての通り、世界を救う代償に自らの国を滅ぼしたのじゃ。
心配せずとも、妾も遠からぬ内に地獄に落ちる。」
『な、何で話さなかった!!俺がいれば――――』
「自惚れるな。戦いしか能の無い者が居ても邪魔なだけじゃ。」
『ック…!待ってろ、今そっちに行ってやる!』
「馬鹿者が、今来ても魔力の使えぬそなたでは邪魔になるだけじゃ!
っ、ええい鬱陶しい!(ガィン!)アルビレオ!そこにおるじゃろう!!」
ナギと話していても理性的な話しが出来ないので、アルに話す。
通信しながらの魔法行使は楽ではないのよ!
『ハイハイ、居ますよ。』
「逃亡生活中に使った飛行舟にも対抗呪文を施しておる!」
『ええ、m『もう乗ってるってーの!!』』
「ならばここから一番遠い島に行き、岩の破壊と民の誘導を。
救助活動が終了し次第、そなた達は二度と戻ってくるな。」
『なっ!そりゃどう言う事だ!!』
「これ以上話しても無駄じゃ。こうしている間にも民が危険に晒されておる。
通信終了!!妾は救助活動に戻る!」
言い放つと、私は踵を返し歩き出す。
「え、エルザ陛下!少々お待ち下さい!!アルビレオ!」
『ハイ、クルト君。私達は身を隠し、事態が好転するのを待ちます。』
「ええ、陛下の仰る通りにするのが賢明です!
戻れば、確実にメガロ…いえ、元老院に拘束されます!!」
『分かっています、ナギの事もお任せを。』
「そなた達には世話になった。礼を言うておく。……さらばじゃ。」
『・・・ハイ。それでは、陛下、クルト君。御武運を。』
『あ、ちょ、待てよ!!エr』―――ブツンッ
ナギが言っている途中で、通信が切れる。
「クルト、行くぞ。」
「陛下、しかしこのままでは……!!」
「民を救えずして、なにが女王か。
……本当ならば、妾がこの手で決着を着けたかったのじゃがな。」
しかし、過ぎた事を言っても仕方ない事。今は、一人でも多くの民を救わないと――!!
(『ナギ………後でお仕置きが必要ね………。まだ耳がキンキンするわ………。』)
・・・・ナギには、二重の意味でもう会えないかもしれないわね・・・。
Side out
Side ??
こうして『千塔の都』と称えられた空中王都オスティアは魔素の雲海に沈み、地図から姿を消した。
残ったのは、島から砕け、僅かに浮かぶ岩群だけ。
「犠牲者数は、一万人を切ったそうです。人口の、実に0.003%未満・・・。
これだけの大災害でこの数は、奇跡以外の何物でもありません。」
全人口約350万人と言う途方もない数が祝杯ムードの中を、
魔法を使える者が5人のみという状況で、これを僅か三時間以内に救助。
「愁磨達も参加してたんだ、奇跡でも何でもねぇさ。」
「だが、そう割り切れる人達ではないだろう。」
「そうじゃのう。むしろ大変なのは、これからじゃな……。」
「………なぁ、エルザも、アリカも、愁磨も……、
何で、誰にも言わなかったんだ……?皆に、言っていれば……。」
先程まで下を向き一言も話さなかったナギが、下を向いたままポツリと言う。
「何故私達に秘密にしたか、でしょう?
・・・そうですね、愁磨が何時か話していました。
『偶然起こる事は必然で、必然起こる事でない事は偶然。
全部同じ事、所詮は予定調和でしかない』と。」
「……俺には、分かんねぇよ。」
「そう、ですね・・・愁磨にも、変えられない事があると言う事です。」
「ハッ、愁磨でも勝てねぇって、神様の書いたシナリオってやつかよ?」
ナギとアルが、自嘲気味な笑みを浮かべながら言う。
そしてナギは笑みを浮かべたまま、目に腕を押しつける。
「惚れた女も守れねぇなんて、弱ぇな……俺は………。」
「……恐らく、愁磨も捕えられたじゃろう。
ノワール殿とアリア殿は『家』に入っておるじゃろうから、無事じゃろう。
しかし、愁磨を……ワシらも、仲間を守れんかった。」
「お師匠……。」
「ああ、そう言えば・・・愁磨から手紙を貰っています。」
「愁磨から?そう言うのは早く出せよ!!!」
ゼクトの言葉に腕を上げ、アルの言葉でナギは体を起こす。
皆がテーブルに集まり、再生が始まる。
『この手紙を読んでるっつー事は、俺は腐れジジイ共に忙殺的な意味で捕まってるだろう。
お前らに伝えてない事も山ほどあるが。』
「「「「山ほどあるのかよ!!!」」」」
「・・・・静かにしてください。」
『今は置いとけ。そのうち話す。
俺はエルザさんと一緒に牢屋に入っておくから、安心しろ。』
「……ま、まぁこれで、エルザさんの身も安全な訳だな。」
「解せねェ………。」
詠春の言葉に頭を抱えるナギだったが、
他の皆はナギが『解せない』と言う言葉を知っていた事で衝撃を受けていた。
『ノワール、アリア、アリカは俺の『家』に入ってるから、エルザさんより安全だから、
もっと安心していいぞ!!』
「・・・待ってください、後でツッコミを入れてください。」
『エルザさん&俺が処刑されんのは、恐らく二年後。
場所はケルベロス…ケロベル……ケロちゃん渓谷。
詳しい日時までは知らねぇから自分たちで調べろ。』
「……一番知りたい所が分からんとはのう……。」
『だからてめェらは、それまで待ってろ。
その間何するかなんぞ、勝手に決めろ。ガキじゃねぇんだ。
ダラダラ待つのも良いし、修業するなり勝手にしろ。
敢て意見を出すなら、数千人殺した俺らが何したら罪滅ぼし出来る?
いや、所詮は自己満足だけどな。じゃ、そう言う事で。二年後また会おう。』
シュウン、とそこで再生が終わり、顔を見合せた皆の意見は一つにまとまる。
「てきと―だな。」
「適当ですね・・・。」
「適当だなぁ、オイ。」
「適当過ぎるだろう……。」
「適当じゃのう。」
「でも、やるこたぁ決まっただろ!!」
バッ!とナギが立ちあがり、皆もそれに続く。
「最初は……オスティア周辺か?」
「ええ、分かっていましたけれど。鳥頭ですね、あなたは。」
「今行ったら、捕まるだけだろうが……。」
「幾らなんでも普通、先ずは身を隠すじゃろうて……。」
「流石の俺様でも、その答えは駄目だって分かるぜ?」
「あーあー、悪うござんしたね!じゃあ隠れ家に行くとするか!!」
そう言って背を向けるナギに、皆は苦笑しながらも付いて行った。
Side out
Side 愁磨
みたいなやり取りをあいつ等がしたであろう二ヶ月後、つまりオスティア崩壊から二ヶ月後。
俺は今、エルザさんと共にメガロの元老院議事堂に居る。
理由は―――
「ですから!この様に我が国の民の窮乏を訴えているのです!!」
要求は二つ、元オスティア民の受け入れ、最低限度の住居・食料提供。
・・・三つか。
「故に――――」
「仰る事は良く分かりますが、自国を滅ぼし、
彼らを現状に追い込んだのは陛下自身ではありませんかな?」
エルザさんの言葉を遮り、元老院の一人が話す。
同時に、壁に待機していた重装兵もこちらに近づいてくる。
「更に言わせて頂ければ……彼らは既に貴女の民ではありません。」
ズシャ、と重装兵が俺達を囲む。
「畏れながらエルザ陛下、な、並びに『白帝』殿。」
「何かな?」
二コリ、と底冷えする笑みを発言した兵士に向ける。
「お、御二方を、逮捕させて頂き…たいと、思います。」
おいおい、確認になってんぞ?―――良い判断じゃないか。
「ハハハハハハ!!良かったね、君。」
「な、何がでしょうか……?」
「いや、なに。」
兵士の肩に手を置き、魔力を(南栄生弁で)ちょろっと出しながら言う。
「立場を弁えていない様なら、切り刻んでやろうと思ってたからさ。」
取り囲んでいた兵士は全員尻もちをつき、真正面に居た人は―――
「ありゃ、気絶してるよ。こいつの渾名今日から弁慶で良いな。
――と、ンなこたぁどうでも良いな。
で、罪状は何になるんでしょうか?元老議員の皆さん?」
クルリと振り向くと、ジジイ共は揃って明後日の方を見る。
てめぇら・・・・。
「エルザ陛下には、父王殺し及び『完全なる世界』との関与、
オスティア崩壊時・周辺の状況報告の虚偽・改竄の疑い。
『白帝』にh「様を付けろ、戯けが。」ヒィ!し、白帝様には、
これら全てへの関与、実行の疑いが………。」
「あっそ、御苦労さん。嘘乙嘘乙。
ほら、さっさと牢に連れてってくれたまえ。職務怠慢はいかんよ?」
再度振り返り、今度は兵士共に言う。
「ック……!さっさと来い!!」
「あ、痛――!」
――と、一兵士が、エルザさんの腕を掴んで無理矢理連れて行こうとする。
バン! ズドォォン!!!
一撃目で掴んでいた手を叩いて吹き飛ばし、ニ撃目で大理石に首まで埋める。
「美女・美少女・幼女への敬意と男としての責務を忘れてオイタしたら、こうなるからね?
―――ワカッタカナ?」(ニィィィッコリ
「「「「「「sir.yes sir!!」」」」」」
ビシィ!と俺に敬礼をする兵士諸君。
「ならばよし。エルザさん、大丈夫?立てます?」
尻もちを付いて腕を押さえてるエルザさんに、手を差し出す。
「あ、ありがとうございます……。」
「さ、牢屋に案内してくれたまえ。」
「「「「こちらであります!!」」」」
兵士四人が先頭に立ち、一糸乱れぬ動きで歩き出す。
俺とエルザさんもそれに続き、地下の石造で出来た牢まで来た。
兵士が鉄格子を開け、再度敬礼する。
「ここであります!!」
「エルザさんからどうぞ。」
「?え、ええ……。」
疑問を抱来つつもエルザさんが入り、続いて俺が入ろうとする。
「お、お待ちください白帝様!別々の牢に入って頂かないと……。」
「いやだ、って言ったら………どうする?」
「も、問題ありません、sir!!それでは!」
バタンガシャンガチャガチャガチャ!!
兵士は急いで格子を閉め、鍵を掛ける。
「「「「「「失礼致します!!」」」」」」
整列・敬礼・逃げ足を迅速にこなし、兵士達は去って行った。
後に残ったのは、俺とエルザさんのみ。
「あ、あの、愁磨さん……。なぜ逃げないのですか?私に構わずとも……。」
「いや、俺がやりたいだけだから気にしないで良いよ。
それに、こっちの方が面白いしね。」
「……捕まっているのに、ですか?」
そうだよ、と言い天窓を見上げる。
後先考えないでとりあえず入って来てしまったが、二年間は長いよなぁ・・・・。
今まで暮らした1/400とは言え。今頃あいつ等は、どっかに隠れながら作戦でも立ててるのかね?
俺が牢屋入りしたのは介入可能か調べる為と言うのもあったが、
これが果して過去の介入結果なのか、始めから介入出来たのか・・・。
「はてさて、鬼が出るか蛇が出るか……。」
今は何も分からないが、とりあえず今は―――――――
「どうやって、二年間暇潰そう…………?」
それだけが、気がかりだった。
Side out
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