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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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整備科の学祭準備

 
前書き
2か月ぶりの更新がこれだよ! 

 
「さあさあどうぞさあどうぞ、座って座って。今お茶を持ってくるからねー」

 目の前にいるのは眼鏡を掛けた2年生にして新聞部副部長の黛薫子先輩。今私は新聞部の部室に呼ばれていて、前の騒動で迷惑をかけたお詫びがしたいということで御もてなしを受けています。6時にリース先輩に呼ばれていますけどその時間まではまだありますし、余裕で間に合いますね。

「紅茶? コーヒー? それとも緑茶―?」

「紅茶でお願いします」

「はいはーい」

 黛先輩が紅茶を入れてくれている内に部室内を見渡します。普通の教室の半分くらいのスペースに机が会議室のように中央に4角形になるように並べられていて、上にはそれぞれ部員のパソコン、その周りにはメモや書きかけの記事が散乱しています。奥の中央の机は部長の机なのでしょう。編集長と書かれたプレートとデスクトップ型のパソコンが配置されています。ちなみに私の目の前の机も例に漏れずメモと記事でごちゃごちゃです。
 お茶がおけるスペースを確保するためにメモ用紙を何枚かまとめようとしていると……

「あ、机の上触らないでね。どこに何があるか分からなくなっちゃうから」

 首だけこちらを覗かせていた黛先輩に注意されました。なるほど、これはこれで個人では一応場所が分かるようになっているという……私には理解できませんが……

「ほいお待たせー」

 黛先輩が紅茶の入ったカップをお盆に乗せたまま私の目の前のメモ用紙の上に置きました。これでいいんですか? まあ新聞部の中のことですし私は口を出しませんけど何かいろいろ駄目な気がします。そのまま黛先輩は私の隣の椅子に座りました。

「改めてごめんなさい。私たちのせいでとんだ迷惑をかけちゃったわね」

「いえ、もういいんです。謝罪文もすぐ出してくれましたし皆さんも誤解だってわかってくれたようですから」

「そう言って貰えると助かるわ。まあこれはお詫びだから遠慮しないでどうぞ」

 そう言うとどこからかケーキの乗ったお皿を取り出してそれもまたメモの山の上に置く黛先輩。もう突っ込むのはよそう、きりがないから。
 そういえば新聞部って黛先輩以外見たことありませんね。そう思いながらキョロキョロと目を動かしているとそれを察したのか黛先輩が答えてくれました。

「新聞部は私も含めて5人で活動しているんだ。部長の3年生が一人、2年生が4人、今年は1年生が入らなかったからちょっとピンチかな。号外以外は基本的に週一回学内掲示板に校内新聞を張り出している。見たことあるでしょ?」

「ええ、愛読とまではいきませんけど」

「ありゃ、正直に言うねえ。こりゃ内容を変える必要があるかな。ま、いいや。んで、内容が気に入ったなら直接部室に来てもらえればその週のやつをコピーして渡してるの。ちなみに先週の君と織斑君の騒動は私が所属した2年間で一番取りに来る人が多かった」

「間違いでしたけどね」

「うぐ……面目ない」

 私の言葉に黛先輩が頭を垂れますがこれぐらいの意地悪は許容範囲でしょう。

「で! 部長を編集長として全員でネタを集めて記事を作るの。どう、面白そうでしょ?」

「はあ、まあ」

「なによその返事はー」

 いやまあ勧誘されても私は今のタイミングで部活に入る気はありませんし、いくら黛先輩が目で「入ってください」と訴えてきても今の私には届きませんよ。
 あ、このケーキおいしいですね。
 そんなこんなで新聞部の説明を受けつつケーキとお茶が終わるころ、部室の扉が開いて人が入ってきました。

「お疲れ様―」

「あ、部長。お疲れ様です」

 聞き覚えのある声に振り替えると……そこには整備科3年生の神月先輩が立っていました。

「か、神月先輩!?」

「あら、カストちゃんじゃない。久しぶりね」

「あれ、部長とカルラさんって知り合いですか?」

「うん、まあ一学期にちょっとね」

「え、部長ってまさか神月先輩が?」

「そう、意外だった? あ、いいわねケーキ。黛さん、私のある?」

「はいはい、今お持ちしますよっと」

 黛先輩はそう言うと神月先輩に席を譲って台所へ。入れ替わりで神月先輩が私の横に座ると頬杖をついて私の方を見て話しかけてきました。

「なに、入部希望? 歓迎するわよ?」

「ち、違います。そのー、この間のお詫びってことで……」

「この間? ああ、あのキス騒動の。悪かったわね、私がチェックしなかったせいで」

 あれ、部長ってことは編集長ってことだから神月先輩が原稿のチェックするんじゃないのかな?

「私は今年卒業だし、一回いい機会だから号外を後輩に任せてみたの。そしたらいいネタがあったから思わず飛びついちゃったのね」

「そうだったんですか」

「まあ今年は一年生が入らなかったし、その上その一年生が一番記事になるっていうのにそれをネタに出来ないから焦っちゃったんだと思う。許してあげて」

「ええ、それはもう大丈夫です。気にしていませんから」

「そう、ありがとう。私としては優秀な一年生が入ってくれたらこれほど心強いこともないんだけどね」

 そう言って神月先輩が私の瞳をまっすぐ見つめてきました。いや、ですから私はこのタイミングでは部活には入りませんってば。私は愛想笑いをしつつ残りの紅茶とケーキを胃袋におさめます。このままここにいたら流されて強制入部させられちゃいそうですし退散するに限りますね。

「お待たせしました部長」

「遅い。カストちゃん食べ終わっちゃったじゃない」

「あら、これは失礼を」

「あの、私のことは気にせずお二人で……」

 ちなみに私の席の隣には神月先輩がいるので扉への道を塞がれている状態です。これはまさか……

「あら、いいじゃないもう少しゆっくりしていけば。バックナンバーでも読んでいきなさいよ」

「はいこれ今までのバックナンバー。去年の今頃とかのがお勧めね」

 やられた! これは食べ終わるまで勧誘され続けるパターン! お詫びなんて言葉に吊られなければよかった……
 黛先輩から新聞部のバックナンバーを渡されて逃げ道は完璧に塞がれました。もうしょうがないです。新聞読んで時間を潰しましょう。今まで校内新聞なんて読んでいませんでしたしいい機会です。新聞部には入りませんけどね!
 一応今年の記事からチェックすると、内容はやはり一夏さん絡みのことがほとんどです。「IS学園初の男性生徒入学! その名も織斑一夏!」、「織斑一夏VS英国代表候補生クラス代表決定戦!? その結末は如何に!」、「織斑一夏に次いで現れた男性IS操縦者」、「世界初のIS男性ペア。織斑&デュノアペアの真相」等など、今年の物はほとんどがこんなタイトルとなっています。内容は即物的なものから対戦内容のまとめ、第3者観点から見たものと非常に様々な書き方がされています。毎回の最後には編集長、つまり神月先輩の一言みたいなコーナーがあり、時々他の部活の宣伝なんかも書かれている結構真面目な新聞。うーん、これは結構楽しめるかも。ただ内容がほとんど一夏さんよりのせいでほぼ知っている内容なんですよね。そこが惜しいというかなんというか。1年1組で読んでいる人は見たことがありませんが他のクラスだと結構人気あるかもしれません。
 一通り今年の新聞に目を通した後去年の物に手を伸ばします。
 卒業時の代表候補生一覧、試合結果、行事、様々なことがまとめられています。ただ先ほどの物と違って文章が落ち着いていて同一人物が全て書いているような印象を受けるのは何故でしょうか?

「去年の記事はほとんど神月部長が書いたんだって」

「その頃は3年生が忙しかったんだ。文章がつまらないのは勘弁してね」

「いえ、つまらないなんてことはありません。むしろ読みやすいくらいで」

「そう? ありがと」

 私の読んでいるのが気になったのか黛先輩と神月先輩が教えてくれました。ふーむ、新聞部も色々大変なんですね。
 そうこうしている内に神月先輩のケーキも無くなり、拘束理由が無くなったためようやく私は新聞部の外に出ることが出来ました。長く苦しい戦いでしたが私は無事勝利しましたよ!

「ふーむ、カストちゃんには入部してほしかったけど仕方ないわね」

「部長、無理強いしちゃだめですよ。そんなやり方じゃ長続きしませんから」

「そうね。まあ気が向いたらまた遊びに来て」

「はい、ケーキご馳走様でした」

 私は一礼すると新聞部を後にします。新聞部の場所は部室棟の入り口のすぐ近く。外に出るのもすぐです。
 時間はもうすぐ6時。部活が終わる時間ですね。早めに部室棟に引き上げてくる人と何人かすれ違いながら私も寮へと戻ろうとして、ふと近くにある建物、道場が目に入りました。確かまだ箒さんがいるはずですよね。ちょっと見てみましょうか。
 最近箒さんはよく部活に顔を出すようになりました。夏休み前はずっと一夏さんのISの練習に付き合っていたのですが、今は2日か3日に一回のペースで部活に行くようになっています。部活単位で一夏さんを取り合うんですからそれらの準備も必要なのでしょう。
 おっと、もう時間が……箒さんの様子を見たいですけどそれはまた今度ですね。今はリース先輩に会いにいかないと。
 待ち合わせに指定された第1整備室の自動ドアを潜ると、前期と同じくらいの喧騒と指示が飛び交っています。えっと、リース先輩が言っていたのは第3ブースだから……通路を通りながら壁にかかっている番号を見て進みます。あった、3番。

「リース先輩。お待たせしました」

 ブースの外から声をかけて反応を待ちます。ですが何も反応がありません。時間的にはぴったりのはずですし、いないって言うことはないと思うんですけど……とりあえず入ってみましょうか。
 ブースの中に入るとやっぱり誰もいません。あれ、時間間違えたかな? とりあえずここで待っててみようかなと考えた途端……

「確保ぉ!」

「っ!」

 叫び声と共に私の背中に誰かが飛びかかってきました! 反射的にその飛びついてきた右手を私は両手で掴んで右足で相手の足を払い一本背負いを掛けます。その人は上手く受け身を取って背中を強打しないように落ちました。それでも動きを止めることは出来たのでその間に私は右手を捻りあげ……

「何してるんですかリース先輩……」

「おま……! もうちょい手加減と言うものをだなあ!」

 私が捕まえていた右手はリース先輩のもので、つまり襲い掛かってきたと思ったのはリース先輩がただじゃれついて来ただけと……そういうことですか。私は呆れながらリース先輩の右手を離します。

「痛ったいなー……ていうか弥生! フィアナ! お前ら先輩を援護しろよ!」

「嫌っすよ。後輩に襲い掛かるなんて格好の悪いこと」

「しかも複数人でなんて……」

 リース先輩が私の後ろに声をかけると、ブースの壁の向こうから2人の2年生が姿を現しました。どうやら整備科のようですね。前に言っていたマヤさんとフィリさんなんでしょうか?

「会うのは初めてっすね。初めまして、整備科二年の松本(まつもと)弥生(やよい)っす。以後よろしく」

「同じくフィアナ・リアス。よろしく」

「あ、はい。カルラ・カストです。よろしくお願いします」

 松本弥生先輩は肩に掛かるかかからないかくらいの黒髪少し日に焼けています。で今まで作業していたのか上はアンダーシャツのみで、ジャージの上着は腰に巻きつけています。一応スポーツブラはしているらしく透けてはいないのですが……男性がいないとは言え目に毒な格好です。
 フィアナ・リアス先輩は小柄で白髪。ジャージではなく普通の制服ですが、頭には作業用のゴーグルをつけて、両手で小型のデバイスを落とさないように大事に抱えています。
 うーん、見た感じ松本先輩は作業班でリアス先輩は計算とか設計とかなのかな? でもマヤとフィリ……ああ、マツモトヤヨイとフィアナリアスの頭文字取ってるんですね。

「それで、リース先輩のご用件は?」

「ああ、それなんだけどねー」

 リース先輩はおもむろに立ち上がると何も言わずに近づいてきました。いつになく真面目な顔だったので思わず後ずさるとブースの壁に背中が当たりました。リース先輩はそのまま近づいてくると私の頭の右側に左手を付けてそのまま顔だけを私の顔に近づけてきました。あ、あの……そのー……

「さきっちょだけ、な! さきっちょだけでいいから!」

「真面目な顔して何を言ってるんですか!」

 何か言ってることがただの変態ですよ! 顔が真面目なだけ冗談言っているように聞こえないですよ! いや顔が真面目で右手にドライバー、左手にスパナ持って迫ってくる人は世間一般では変態と言うんでしょうけど!

「せんぱーい、それじゃただの変態親父っすよー」

「主語もない、述語もない。伝わると思う方がおかしい」

「ああ、うん。すまんすまん。つい興奮しちゃってなー」

 リース先輩がようやく私の前から離れてくれました。ああ、もう。リース先輩って世間一般で言うかっこいい女性なんですからああいうのやめて下さいよ。

「えっとな。あー、何て言ったらいいか……とりあえずISを弄らせろ! 話はそれからだ!」

「先輩話進まないっすよ」

「私が話します。実は毎年学園祭では整備科にもIS整備、装備品を展示っていう出し物があるの。各班に一機ISが貸し出されて、それぞれの腕を外部の人や学園内の人に見てもらうって言う内容なのだけど、貸し出されるIS以外にも専用機持ちのIS操縦者の許可を得ればその専用機を展示に回しても構わないっていうルールがあって、ウチの班長はその専用機にカルラさんのISを使わせてくれって言ってるの」

「な、な? ええやろカルラちゃん。お礼はたんとするから、な?」

「だからそれじゃ変態っす」

 リース先輩のキャラが崩壊しています。

「できれば私たちからもお願い。この展示は内外に整備科の能力を知らしめることが出来る数少ない機会なの。できれば先輩が最も能力の発揮できる豪州のISがいいのよ」

「まあでもその時間は私たちの方に拘束されちゃうし無理は言えないっすけどね」

 う、うーん……協力したいところですけど、私のISは『デザート・ホーク・カスタム』じゃなくて第3世代の『デザート・ストーム』に変わっているわけですし、リース先輩だけならともかく他の人に弄らせるわけには……
 あ、そうか。

「豪州のISならいいわけですよね?」

「ん? まあそうっすね」

「何か当てがあるの?」

「当日だけでよければ一応……」

「当日だけか……ふむ、朝一番に来てもらって展示時間を夕方にずらしてもらえばギリギリか? 弥生、フィアナ」

「うーっす、可能な限り空けておくっす」

「はあ、今年は学園祭周れませんね……」

「すまんな。じゃあカルラちゃん。頼んだ」

「あ、はい」

 リース先輩復活しましたね。さっきまでとは打って変わって非常にまじめになっています。最初から真面目でいてくださいよ。
 リース先輩はそのままスパナをクルクルと手の上で回しながらブースの外に出ていきました。松本先輩とリアス先輩は私に軽くお礼を言ってその後に続いていきました。

「クロエ来れるかなあ……」

 IS学園の学園祭は生徒一人につき学園外の人を一人招待できる招待状を配られます。IS会社関連の人はまた別ルートみたいですけど代表候補生は駄目って書いてありませんし、たぶん大丈夫。後はクロエの都合だけかな。後で連絡しておかないと。
 そんなことを考えつつ私は第1整備室の外に出るために扉へ向かいます。

「あ……」

「へ?」

 扉があいて外に出ようとしたところ、簪さんが立っていました。どうやら彼女も整備室に用があるようですね。私が出るのと入れ替わるように簪さんは中に入っていきました。そう言えば簪さんのISって学年別トーナメントの時は不参加だったんですよね。今思えばあれって強制参加のイベントだったのにどうして不参加だったんでしょう?
 うむむ、簪さんのISに対する謎が深まるばかりです。整備室に入り浸っているリース先輩なら何か知っていますかね? 今度聞いてみましょうか。
 
 

 
後書き
大変お待たせしました。申し訳ありませんでした!

次回は学園祭編です。

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