機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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外伝
外伝1:フェイト編
第3話:新任執務官フェイト
前書き
21歳ゲオルグと13歳ゲオルグの違いが大きすぎて書いてる本人が戸惑っています。
「さあ、行きますよ!」
「はいっ!」
シャングリラ艦内の訓練スペースでは、ゲオルグとクリーグが模擬戦を戦っていた。
ここ数カ月、任務さえなければ毎日のように見られる光景である。
「だああああああっ!」
「くうっ・・・」
クリーグの斬撃をゲオルグが受け止め、甲高い音があたりに響く。
通路に面した窓越しに、何人かが2人の戦いを興味深げに見つめていた。
ゲオルグがシャングリラに来て1年が経った。
姉の死から半年たち、いつものようにトレーニングに励む姿からは
何事もないように見える。
結局、ゲオルグはエリーゼの葬儀には間に合わず、できたばかりの墓に
祈りをささげることしかできなかった。
それでも、何もできないよりは何倍もましだ、とゲオルグ自身は考えている。
ミッドからシャングリラに戻ったゲオルグは艦内の雰囲気が少し
変わったことを感じた。
彼に対する悪意が少し和らいだように感じたのである。
それは、ゲオルグ自身が任務で見せた高い戦闘能力による部分も多少はあるが、
大部分はクリーグの弁舌によるところが大であった。
クリーグが療養を終えて医務室を出た時、艦内のゲオルグに対する評価は
真っ二つに割れていた。
探索任務を殉職者も出さずに終えられたのはゲオルグの力があってのこと、
と高く評価する声と、負傷者を出したのはゲオルグの指揮能力の欠如と
無謀な突撃のせいである、という否定的な声である。
最初はゲオルグ自身が自分に対するこれまでの批判に対して反論や反感を
持ってはいなかったこともあって、クリーグはゲオルグに対する否定的な意見を
無視していた。
しかし、事実も知らずただゲオルグを批判するだけの声にだんだん鬱憤が
溜まっていき、ある日それが爆発した。
それは、クリーグが分隊の仲間と昼食を食べている時のことだった。
近くを通りがかった機関部の乗組員が、ゲオルグの不在は臆病風に吹かれたからだと
揶揄する声を聞いたのである。
クリーグは机を叩いて立ち上がると、その機関部員に掴みかかったのである。
”分隊長はな! お姉さんが殉職したことを知りながら作戦に参加したんだよ。
お前らにそんなことができるか!? あとな、分隊長は俺らが無事に
後退できるように殿を務めてくれただけなんだよ!んなこともわかんねえ
お前らに分隊長を批判する資格はねえ!”
要約すればそのような啖呵を切ったのであるが、この声に食堂の中は騒然となった。
ゲオルグの姉が殉職した事実は一部を除き伏せられていたためである。
ゲオルグが戻ったのちには、”私的なことをべらべらとしゃべらなでください!”
と叱られたのではあるが、クリーグの発言によってシャングリラの乗組員たちの
ゲオルグに対する見方が少し変わったのも事実ではあった。
もちろん、すぐにすべての人がゲオルグに好意的になったわけではない。
むしろ、懐疑的であった人たちが大多数ではあった。
しかし、大多数がゲオルグに対して批判的な目を向け、ありのままのゲオルグを
見ようとしない状況に比べれば、はるかにましではあった。
その後の半年間、真面目に訓練に励み、真摯に任務と向き合うゲオルグの姿勢を
見るにつけ、少しずつ周囲がゲオルグに対して好意的になっていったのである。
かくして、シャングリラに赴任してきて1年。
紆余曲折はありながらも、ゲオルグは大多数の乗組員からの信頼を勝ち得ていた。
模擬戦を終えたゲオルグとクリーグが模擬戦の内容について談笑しながら
訓練スペースを出ると、2枚のタオルが2人に向かって放り投げられた。
「お疲れ」
「それはどうも・・・って、ヒルベルト2尉!?」
「ヒルベルトさんじゃないですか。 ありがとうございます」
クリーグとゲオルグはヒルベルトに対してそれぞれに反応する。
「どういたしまして。それはそうと、お前ら最近よく2人で模擬戦やってんな」
「そうですか? まあ、僕たちは戦い方が近いですからね。
お互い勉強になっていいんですよ」
「なるほどねぇ」
ゲオルグの答えに納得したのか、ヒルベルトは深く頷く。
「すいません。 シャワーを浴びたいので、失礼します」
「お、そうか。引き留めてすまんな」
「いえ、失礼します」
上官二人に挟まれて居心地が悪かったのか、クリーグはそそくさと退散した。
「では僕もシャワーを浴びに行きますね」
そう言ってクリーグのあとを追おうとしたゲオルグの肩をヒルベルトが掴む。
「何するんですか?」
「まあ、一緒にメシでもどうだ? ちょっといい情報を仕入れたんだよ」
「・・・仕方ないですね」
ゲオルグは肩をすくめるとヒルベルトとともに食堂へと歩き出した。
2人が食堂についた時間は夕食には少し遅く、ちらほらと夕食を食べる人影は
あるものの、ピーク時間帯に比べればガランとしている。
ゲオルグとヒルベルトはそれぞれの夕食を手に、向かい合って座った。
ゲオルグが夕食に手をつけ始めたところで、ヒルベルトが口を開く。
「そういえばお前とクリーグの模擬戦な、何人か熱心に観戦してるやつがいたぞ」
ヒルベルトはそう言って何人かの名を挙げる。
いずれも、近距離戦を主体とする魔導師である。
「そうなんですか? 気づきませんでした」
「だろうな。 結構派手にやりあってたからな」
「ええ。 デバイスで魔力負荷をかけてますから」
「そうなのか? じゃあ、ガチンコでやったら・・・」
「僕が負けるわけありませんよ」
淡々とした口調のゲオルグにヒルベルトは苦笑する。
「ところで、ちょっといい情報ってなんですか?」
ゲオルグが尋ねると、それで思い出したのかヒルベルトはポンと手を打つ。
「そうだった。 ちょっと小耳にはさんだんだけどな、どうも
新しい執務官が来るらしい」
「執務官・・・ですか? 新しいも何も、この艦に執務官なんか居ましたっけ?」
「はぁ? 居ただろうがよ、役立たずが」
「ああ、あの引きこもりの方ですか。 そう言えば彼も執務官でしたね」
これまでシャングリラに配属されていた執務官は30過ぎの男性だったのだが、
特に積極的に犯罪捜査に手を出すでもなく、特に魔導師としても秀でておらず、
最低限の法務をこなすだけの人物だった。
「それで、その新しい執務官っていうのはどんな方なんです?」
「なんでも、若い女で新任らしい」
「新任・・・ということは、執務官試験に合格して研修を終えたばかり
ということですか?」
「そうだ。 どう思う?」
「そうですね。 まあ、あの引きこもりの方よりひどいということはないでしょう。
そう言う意味では安心です」
「・・・それ、評価になってねえぞ」
「会ったこともない人の評価をしろなんて無理ですよ。
それでは、失礼しますね」
ゲオルグは自分の食器を持って立ち上がる。
その様子を見てヒルベルトは慌てて自分の皿に乗った肉をほおばった。
「ゆっくり食べててください。それじゃ」
ゲオルグはヒルベルトに向かって悪戯っぽい笑顔を向けると、食堂から出て言った。
ヒルベルトは、口の中いっぱいの肉を咀嚼しながら、その背中を見送る。
(ま、ああいう表情が出るようになったのはいい傾向だわな)
ヒルベルトはゲオルグの背を見つめる目を細めた。
翌日・・・
ゲオルグが待機室で書類仕事をしていると、館内放送のウインドウが開いた。
『おはよう諸君。艦長のグライフだ。 このたび本艦に新しく執務官を迎えることに
なったので紹介する』
グライフがそう言うと、画面は金髪ツインテールの少女に切り替わった。
『えっと、フェイト・T・ハラオウンです。 よろしく』
画面の中の少女がその外見に相応の少し幼さを残した口調で最低限の
自己紹介を終えると、画面は再びグライフに切り替わった。
『彼女は執務官試験に合格したばかりの新任の執務官ではあるが、
優秀な空戦魔導師でもある。 強力なメンバーが本艦に加わったことを
喜んでいる。 なお、彼女は3尉待遇となる。以上だ』
画面の中のグライフがそう言うと、ウィンドウが閉じた。
直後、待機室の中にいる分隊員たちがフェイトの容姿について騒ぎたてた。
ゲオルグはその喧噪の輪には加わらず、書類仕事で凝った身体をほぐすように
伸びをしながら黙考する。
(ハラオウン執務官・・・ね。 歳は僕と同じか少し下くらいかな。
執務官試験といえば難関だし、あの歳で合格したっていうんだから
能力としては大したもんなんだろうね。
それに空戦魔導師としても優秀って言ってたよね。
まったく、才能がある人ってのはなんでもできるんだなぁ・・・)
ゲオルグが自分のことを棚に上げてそんなことを考えていると、
先ほどまで待機室の中央付近で騒いでいた分隊員たちがゲオルグの周りに
集まってきた。
「分隊長、分隊長。 フェイトちゃんって多分分隊長と同じくらいの年齢ですよね。
どう思います?どう思います?」
その中の1人が興奮した様子でゲオルグに話しかける。
ゲオルグはその様子に少しヒキながらも冷静に答える。
「そうですね。 あの歳で執務官試験に合格するぐらいの才女ですし、
空戦魔導師というくらいですから戦闘も結構強いのでしょう。
頼れる人物なんじゃないかとおもいますけど」
「そうじゃなくて! 女の子としてどう思うかって聞いてるんですよ!」
「ああ、そういうことですか。 そうですね・・・かわいいと思いますよ」
淡々と答えるゲオルグに興奮していた隊員もだんだんと落ち着いてくる。
というか、テンションが下がってくる。
「あれ? 以外と脈がなさそうですか?」
「そんなことはありませんよ。 あんな娘とお付き合いできればいいとは
思いますけどね」
「おっ! 告白しちゃいますか!?」
「するわけないでしょう。 いいから仕事してください!
昨日の訓練日報は? この前の作戦の戦闘詳報もまだ全員分集まってませんよ!
早く出さないと・・・訓練メニュー、増やしちゃいますからね☆」
ゲオルグが最初は声を荒げて、最後はにっこりと満面の笑みでそう言うと、
周りにいた隊員は一斉に青い顔をして下がって行った。
ゲオルグは深いため息をつくと、先ほどの会話を思い出す。
(女の子としてどう思うか・・・か、ピンとこないんだよね・・・)
机に頬杖をついてぼんやりとそんなことを考えていると、不意に通信ウィンドウが
ゲオルグの前に現れた。その中のミュンツァーを見てゲオルグは慌てて姿勢を正す。
『シュミット。 これから分隊待機室にハラオウン執務官をつれていくが構わんか』
「ええ、かまいませんよ。 挨拶ですか?」
『ああ。 直接戦闘に関係するお前らとは一緒に仕事をする機会も多かろうからな。
では、5分後に行くからそれまでに全員を集めておいてくれ』
「了解しました」
ミュンツァーとの通信を終えると、部屋の中の分隊員たちに声をかける。
「これから、ミュンツァー隊長がハラオウン執務官を連れて挨拶にくるそうですけど
全員揃ってますか?」
「揃っています」
そう答えたのはゲオルグの右腕であるルッツ曹長であった。
「それでは整列して新しい執務官殿をお迎えすることにしましょうか」
「はい。 B分隊、1列横隊で整列」
ルッツの号令に従い、分隊全員がドアに向かって横一列に整列する。
ゲオルグは椅子から立ち上がると分隊員たちを背にして、ドアの方を向いて立つ。
そのまましばらく待っていると、ドアが開いてミュンツァーとフェイトが
入ってくる。
「おっ、準備万端じゃないかゲオルグ。 それじゃあ、ハラオウン」
ミュンツァーに背中を押されてフェイトが一歩前に進み出る。
「えと、ご存知とは思いますけど、フェイト・T・ハラオウンです。
今度、この次元航行艦シャングリラに執務官として異動してきました。
執務官になったばかりなので、ご迷惑をかけるかもしれませんが、
よろしくおねがいします」
フェイトは緊張しているのか少し硬い表情で挨拶すると、ちょこんと頭を下げる。
「僕は、次元航行艦シャングリラの魔導師隊B分隊の分隊長をしている
ゲオルグ・シュミット3尉です。戦闘任務で一緒になることも多いかと
思いますので、よろしくお願いします」
「B分隊、ハラオウン執務官に対し、敬礼!」
ゲオルグの挨拶に続いてルッツが号令を下すと、分隊の全員がフェイトに向かって
挙手の礼をとる。
フェイトは予想していなかったのか驚きで目を見開く。
しかし、自分が歓迎されているのを感じとったのか、笑顔で挙手の礼をした。
「歓迎ありがとうございます。よろしくお願いします」
「こちらこそ!」
ゲオルグはフェイトに向かって笑いかけた。
その日の夜・・・
ゲオルグはヒルベルトと夕食を共にしていた。
「それで、ハラオウン執務官に実際会ってみてどう思ったよ?」
「会ったといっても挨拶だけですからね、なんとも言えませんよ。
まあ、見た目がカワイイのは間違いないですけど。
それより、僕としてはヒルベルトさんの意見をお聞きしたいですね」
「基本的にはゲオルグと同じだよ。
まあ、人物評は一緒に仕事をしてみないと判らんだろうな。
それにしても、ゲオルグが同年代の女の子を評するにカワイイとはね。
シュミット3尉もそういうお年頃ってことか?」
「そんなんじゃありませんよ。ただ、うちの分隊の人たちがやたらと煽るので
妙に意識しちゃいまして」
ニヤニヤと笑いながら訊くヒルベルトに対して、ゲオルグは苦笑しながら
答えを返す。
「ほほう。こりゃちょっとは可能性があるかな?」
「茶化さないでくださいよ!」
ゲオルグは少し不機嫌そうにそう言うと、目の前の夕食に手をつける。
その様子をヒルベルトは興味深げに見ていた。
(ちょっと前までは歳に似合わない淡々としてるヤツだったけど、
最近は年相応に感情が出るようになってきたな。
こっちが本来のゲオルグ・シュミットなんだろうが・・・)
思考を巡らせながらゲオルグの方に目を向けると、ちょうど目線を上げた
ゲオルグと目が合い、ゲオルグが不思議そうな表情を浮かべた。
ヒルベルトはなんでもない、と苦笑しながら手を振る。
(周りの目がニュートラルになったのが大きいな。
そう言う意味ではクリーグのヤツが果たした役割は大きいか・・・。
しかしなぁ・・・)
「なあ、ゲオルグ。ひとつ訊いてもいいか?」
「・・・なんですか?」
ヒルベルトが話しかけた時、ゲオルグは口に入れた魚を咀嚼している最中だった。
それを飲みこむために少しタイムラグがあって返事をする。
「お前ってお姉さんを亡くしてから、まだ半年しか経ってないだろ。
その・・・平気なのか?」
「平気・・・ではないですよ。 ふとしたきっかけで姉のことを思い出したら
胸が苦しくなることもありますし、姉を殺した犯人に対しては
恨みはありますから」
「そうなのか。 でも、あんまりそういうところを見たことないけどな」
「それはそうですよ。 見せないようにしてますから」
「大丈夫か? あんまり一人で抱え込みすぎるなよ」
「ありがとうございます。 抱え込みきれなくなったら相談します」
ゲオルグは心配するヒルベルトを安心させるように笑った。
翌朝・・・
少し早く眼覚めたゲオルグは、まだ人影も疎らな食堂で一人朝食を食べていた。
「おはようございます。 あの・・・隣、いいですか?」
不意に話しかけられたゲオルグが振り返ると、そこには朝食の乗ったトレーを持つ
フェイトが立っていた。
「どうぞ」
「失礼します」
フェイトはゲオルグの隣に腰を下ろすと、自分の朝食を食べ始めた。
2人は特に会話もなく黙々とそれぞれのペースで食事を続ける。
やがて、先に食べ始めていたゲオルグが食べ終わり、フェイトに断って
先に席を立とうとした時、フェイトが声を発した。
「あの・・・シュミットさん、でしたよね?」
「ええ、そうですよ」
「よかった・・・。昨日、挨拶に回った時に同年代の人がいたから
お話できればいいなって思ってたんです。迷惑でしたか?」
「いえ。僕もお話ししてみたいと思ってましたから。ハラオウンさん」
「私のことはフェイトでいいですよ」
「じゃあ、僕もゲオルグって呼んでください」
「うん、わかったよ。ゲオルグ」
フェイトはそう言って笑った。
フェイトが朝食を食べ終わると2人は揃って食堂を出て、
居住区画に向かって通路を並んで歩きだした。
夜直から昼直への切り替わり時間帯に入りつつあることもあり通路を行く人は多い。
また、フェイトは赴任したばかりということもあって注目されやすい立場にある。
かくして通路を歩きながらお互いのことについて話す2人は、すれ違う人々の
好奇の目を集めていた。
「フェイトさんは今何歳なの?」
「12歳だよ」
「へぇ、じゃあ僕より2つ年下なんだ。 それで執務官なんてすごいね」
ゲオルグが感心しながらそう言うと、フェイトは少し顔を赤くする。
「そんなことないよ。私の兄さんは11歳で執務官試験に合格してるし・・・」
「それはまた・・・すごいね・・・。って、あれ?」
ゲオルグはフェイトの話に唖然とし、次に違和感を覚えて声を上げる。
(11歳で執務官になった? ハラオウン? フェイトさんのお兄さんって
ひょっとして・・・)
「えっと・・・どうかした?」
難しい顔をして考えこんでしまったゲオルグに、不安そうな表情を浮かべた
フェイトが声をかける。
その声で我に返ったのか、ゲオルグはパッと顔をフェイトの方に向ける。
「ひょっとして、フェイトさんのお兄さんの名前ってクロノ?」
「え!? 何で知ってるの?」
ゲオルグが尋ねると、フェイトは自分の兄の名前を一発で当てられた驚きで
目を丸くする。
「やっぱりか・・・」
ゲオルグはフェイトの答えを聞き、複雑な表情を浮かべて頷いた。
「ねえ。なんでゲオルグがクロノのことを知ってるの?」
ゲオルグの顔を覗き込みながらフェイトが尋ねると、ゲオルグはひとつ咳払いして、
その口を開いた。
「うーんと、僕も直接お会いしたことはないんだけど、僕が士官学校に入った時に
先輩から聞いたんだよ。”去年の卒業生ですんごいのが居た”って」
「そうなんだ。 どんな評判だったの?」
「えっと・・・」
フェイトに問われ、ゲオルグは答えに窮する。
というのも、ゲオルグが聞いた評判というのが、”少年の皮をかぶった鬼”だの
”頭の中は完全に電子化されいるに違いない”だのといった、碌でもない噂が
ほとんどだったからだ。 畏敬の念を込めての表現とはいえ、妹であるフェイトに
そのまま伝えるのはさすがに憚られたのである。
「僕もスゴイ人だったっていうことしか聞いてないから・・・」
「そっか・・・残念」
フェイトは肩を落とし、目線を床に落とす。
再び目線を上げた時、その目線が通路の脇にある訓練スペースを捉えた。
「あ、ここって・・・訓練スペース?」
「そうだよ」
ゲオルグの答えを聞いているのかは定かではないが、フェイトの目は
訓練スペースの中に向いていた。
「ゲオルグって魔導師だよね。 ランクは?」
「陸戦Bだよ」
「そっか・・・」
フェイトは小さく声を上げると、ゲオルグの方に向き直る。
「ねえ。 今から私と模擬戦しない?」
「え? 今から?」
さすがに時間がないと思ったゲオルグが時計を確認すると、
今日に限って早く起きたせいか、勤務開始時刻には十分余裕があった。
「別にいいけど、フェイトさんのランクは?」
「空戦AAAだよ」
「それじゃあ勝負にならないよ。僕には良い経験だけど、フェイトさんにとっては
トレーニングにもならないんじゃない?」
ゲオルグはあまりのランク差にしり込みしてそう言うのだが、フェイトは
首を横に振った。
「そんなことないよ。 それにここ何日か身体を動かしてないから、思い切り
身体を動かしたいなって思って。 ダメかな?」
首をちょこんと傾げて訊くフェイト。
ゲオルグは少し顔を赤らめると、小さく頷いた。
「フェイトさんがそれでいいなら、お相手するよ」
かくして出会って2日目の朝、今後何度となく行われることになる
ゲオルグとフェイトの模擬戦の第1回目がここに行われることになったのである。
後書き
3話目にしてようやくフェイトを登場させることができました。
次回は、ゲオルグVSフェイトの模擬戦がメインです。
戦闘シーンは苦手なのに・・・。
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