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駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
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第12話 子供は遊ぶ時は何時だって本気

 突然の襲撃により江戸との唯一の連絡手段でもあった携帯電話を破壊されてしまった万事屋ご一行。完全に孤立無援状態となってしまった銀時達。更なる激動の波が押し寄せる事は、誰の目からも明らかな物なのであった。




     ***




「いや、此処は断然僕の【お前のかあちゃんXX】を謡うべきです!」
「おめぇの歌なんか聞く気にもなんねぇんだよ音痴が! 此処は私の演歌を聞くべきネ!」

 現在、万事屋ご一行は大型の4WDだか3DSだか、とにかくそんな感じのちょっぴり大型な車に乗り込み道を走っていた。
 え? 何故そんなに車が適当かだって? 他の所で詳しくやってるから今更こっちで詳しくやる必要がないので省いてるだけです。詳しく知りたい方が居ましたら【○文字D】とかそこら辺を見る事をお勧めします。
 とにかく、そんな感じでご一行は只今車に揺られて峠道を走っている真っ最中なのであった。
 因みに言うと、車の中に居るのは万事屋ご一行の他に喫茶翠屋を経営していらっしゃる高町家ご一行と以前配達の際に知り合ったアリサと鈴鹿サーキッt……基、すずかとその姉である忍も連れての移動となった。そして、その車内で景気良く歌おうって話になり、いの一番に名乗りを上げたのがこの志村新八と言う事になる。
 が、原作を見て分かると思うが、この志村氏……絶望的に歌がへたくそなのだ。もう殺人レベル的に下手なのでそれを車内で演奏しようものなら確実に人身事故が起こるだろう。しかし、だからと言って神楽が上手いとは言い難いので、どの道人身事故が起こりかねない。

「おい、お前等少しは落ち着け! 誰が歌っても良いじゃないか!」
「ざけんじゃねぇよ! こんな駄眼鏡の歌なんか聞いたら耳腐るアル! それよりは私の天使のボイスを聞く方が良いアル!」

 恭也を黙らせて再度激しい戦いが勃発しだす。しかし、今度は神楽の一方的な暴虐が展開していた。
 大して痛くなかったのだが、江戸での癖のせいか全く反撃出来ずにされるがままな新八が其処に居たのであった。

「良いぞぉ神楽ぁ! やっちゃえぇ!」
「ちょっ、アリサちゃん。幾ら無礼講だからって言う事にも程があるよぉ!」

 何時の間にか仲良くなったアリサが神楽の側につき、神楽の応援をするのに対し、流石に見兼ねたすずかが必死に止めようと促す。そんな光景に便乗するかの様に恭也と美由紀も止めに入るのもあれば、忍みたいに我関せずを決め込むものも居たり、更には銀時に至っては呑気に昼寝を満喫する始末。
 後部座席は正しく世紀末の騒乱時代宜しくとんでもない情勢となっていた。

「はははっ、皆はしゃぎすぎだぞぉ。そんな調子じゃついた頃には疲れ切って眠っちゃうじゃないかぁ」
「良いんじゃないの? 騒ぎたい時は大いに騒ぐのも良い事じゃない」

 後部座席の騒乱時代を前部座席に座っている士郎と桃子が笑いながら見守っていると言う、それはもう何とも微笑ましい光景でもあったりした。




     ***




 士郎の予想は半ば的中していた。此処海鳴市某所にある温泉宿に無事辿り着くや否や、銀さんは泊まる部屋で早速惰眠を貪り始めた。普段から寝てばかりだと言うのに此処でも更に惰眠を貪ろうとする余りの貪欲さに誰もが呆れるばかりなのであったりした。
 そして、そんな銀さんとは全く関係なしに、神楽はアリサやすずかと共に温泉宿を練り歩きまくり、新八はユーノと共に日頃の疲れをとっていたり、士郎と桃子の夫妻は仲睦まじくしていたり、恭也と美由紀は、まぁアレだ。その辺に居るのだろうと過程しておく事にする。
 とにもかくにも、そんな訳で誰もが皆思い思いの時間の潰し方を楽しんでいるのであった。
 しかし、此処にきているのは何も銀さん達だけではなかった。

「やっぱり、此処からも反応がある……」

 一人、木の上に乗り黄昏てるのはご存知金髪変態女……失礼、フェイトである。木の上に居たのは其処なら目立たないし、高い所の方が探しやすいのもあるだろうし、はたまた単に馬鹿と何とかは高い所が好きだから。と言う理由もあったりする。理由は人それぞれではあるが、どれが真相かは残念ながら本人にしか分からない。
 それに、別に知る必要もなかったりする。

「やっほ~、フェイトちゃぁん」
「あっ!」

 下から声がする。見下ろせば其処には自分に向かい手を振っているなのはの姿があった。実はこの温泉宿に反応があると言うと、なのはは二つ返事で行きたいと言い出したのだ。流石に無碍に断る訳にもいかず、しょうがないと言う感じで一緒に連れて行く事になった。そんな訳でなのは、フェイト、アルフの三名はこうして温泉宿に訪れた次第なのである。

「どう、見つかった?」
「うん、でも今だと目立つから夜にやるよ」

 一応結界を張れば問題はないのだが念の為と言うのもある。誰も居ない夜にやった方が人的被害も少なく済む。出来る事ならこの世界の人間達に危害を加えたくない。そう言う優しさがフェイトにはあったのだ。そして、その優しさの裏返しが前回の坂田銀時襲撃になる。
 そのせいか、銀時からは変態呼ばわりされてしまうなど案外不幸でもあったりする。

「そっか、それじゃ夜までまだ時間あるね。だったら今の内にいっぱい遊ぼうよ」
「え?」
「折角此処まで来たのにそれを集めて終わりじゃつまらないでしょ? 結構色々と遊べる所があったし、この際だから思いっきり遊ぼうよ」

 そう言うなりフェイトの了解など待たず、手を掴み走り出すなのは。こう言う時では彼女は年相応の子供になってしまう。それがなのはの良い面でもあり、また欠点とも言えた。
 しかしながら、その子供っぽさが、今のフェイトには良い薬にもなったと言える。自分の使命に没頭し、暗くなりがちだったフェイトの心は、なのはを通じて徐々に暖かみを取り戻していっているのは明らかとも言えた。




     ***




 そんな訳でなのはとフェイトが最初に遊んでいたのは温泉宿では御馴染みのスポーツであった。
 え? 何だそれは? ですって。
 温泉宿、浴衣、絶景、個室、此処まで言えばお分かり頂けるだろう。
 そう、卓球である。因みに卓球とは英語で言うと「テーブルテニス」と言うらしい。覚えておいて損はないが多分得もないので聞き流しておいて構わない。
 とにかく、その卓球をシングルで遊ぶ事となった。

「なのは、これって……」
「簡単だよ。お互い持ってるこの板でボールを打ち合って相手のコートから外に出した方が勝ちって言うルールのスポーツだよ」
「な、なる程」

 初めて知るスポーツだった。と、言うかフェイト自身こうしてスポーツをする事じたい初めてだったりする。この世界に来てからと言うものずっとジュエルシード集めばかりしていた為か、同年代の子と知り合う事も遊ぶ事も全くしてなかったのだ。そんなフェイトが偶然連れてきたなのはが自分の知らなかったことを色々と教えてくれた。
 正しく天の恵みとも言えた。

「それじゃ始めるよ~」
「え? わ、わわっ!」

 有無を言わさず始めるなのは。それに対し咄嗟に身構えるフェイト。が、初めてのスポーツ故に勝手など分かる筈もなく、最初のサービスショットで見事に場外へ落ちていく球を見送るだけに終わってしまった。
 フェイトの目の前には地面に落ちてコンコンと音を立ててリズミカルにバウンドする球が目に映った。

(は、反応できなかった! スピード戦法なら私に分がある筈なのに……このスポーツが想像以上の反射神経を有すると言う事なの!?)

 フェイトは戦慄を覚えた。幾ら慣れてないからとは言え、全く反応出来なかった事にショックを覚えていたのだ。元々フェイトの戦法はスピード重視の戦法だ。故に誰よりも反射神経に長けていると自負している。それがあの動きに反応出来なかったのがショックだったのだ。

(ううん、今のはまぐれなだけだよ。そうだ、きっと次なら出来る!)

 球を拾い、決意の元フェイトは構えた。目は真剣な面持ちとなり、ギラギラと輝いている。一部の隙も一瞬のチャンスも見逃さない。その覚悟の元にフェイトは構えていたのだ。
 しかし、そんなフェイトに対しなのははと言うと全く動じておらず、寧ろ遊び感覚で球を握っていた。
 まぁ、元々これが遊びなのだからしょうがないのだろうが。

「御免御免。それじゃもう一回行くよぉ!」

 今度はフェイトでも反応出来るようにと合図を掛けて球を放つ。自分のコートで一回バウンドした後、真ん中に張られたネットを飛び越えてフェイトのコートでバウンドし、そのまま再び場外へと飛び落ちそうになっていく。
 今度は見逃すわけにはいかない。

(此処だ!)

 落ち行く球目掛けてフェイトは板をやや斜め上にぶつけた。板にぶつかった球がその反動で跳ね返りなのはのコートへと戻って来る。更にスピンが掛かっていたのか不規則な方向へと飛び今度はなのはのコートの外へと落ちていく。

「ほいっとぉ!」

 されど、それを苦もなくなのはは打ち返してきた。自分の時と同じように板で球を叩き、その反動で球がフェイトのコートに叩きつけられる。軽い音を立てながらピンポン球がバウンドし再びフェイト目掛けてジャンプしてくる。

「はぁっ!」

 今度は横になぎ払う形でそれを打ち返した。コークスクリュー効果により弾丸の様に回転しながら球が再びコートに激突し、跳ね返る。それをなのはもまた同様に跳ね返してきた。
 跳ね返った球にはスピンが掛かり、地面に落ちた際の反動により上方へとジャンプする。だが、そのせいで直進の威力は殺されてしまった。今の球はフェイトのまん前で優雅に上昇を続けている。
 正しく絶好のチャンスボールであった。

(これなら行ける! これで決めてみせる!)

 目の前では板を振り切った為に幼いなのはの体は背中を向けてしまっている。この好機を逃す訳にはいかない。全身全霊の力を板に込める。
 フェイトの体から金色のオーラが現れだし、目が輝く。

「いっけぇぇぇぇ!」

 怒号を張り上げ、全力全開の力で板を振るった。その威力に答えるかの如く、叩きつけられた球は音速のスピードでコートに激突し、その威力が死ぬ事なく遥か前方へと直進して行った。なのはの板は球とは反対方向にある。どんなに急いでもこの一撃を拾う事は出来ない。
 勝負有った! フェイトがそう確信を持てた。だが……

「甘ぁぁぁい!」

 今度はなのはが吼えた。それと同時に急遽その場で一回転しだし、回転の力を加えた板が球を直撃したのだ。フェイトが放った全身全霊の力プラスなのはの回転の力が加わった球がマッハの速度で戻って来た。一瞬の内にコートに地をつけた直後、そのまますぐに大空へと羽ばたく。
 フェイトの頬を高速で球が掠めた。掠った頬からは微かな痛みと熱さを感じた。
 振り返れば、其処には球が壁に少しだけめり込んでいる。凄まじいまでのラリーを行った為か、球からは熱が篭っており、煙が湧き上がっている。その光景を見たフェイトは思わず絶句した。
 まさか、魔法を用いずに自分の反射力に追いつく人間が居たとは。その事実にただただ驚愕するだけなのであった。

「いやぁ、フェイトちゃん始めてなのに結構上手いねぇ」
「そ、そう?」
「うん! やっぱり卓球はラリーをしている時が一番楽しいからね」

 なのはが笑った。不思議と自分も笑っていた。そうだ、自分は遊んでいたのだ。
 つい真剣になってしまい忘れがちだったが、実際には遊んでいたのである。
 その後は遊びと言うなの真剣勝負がその場で展開されている事は言うに及ばずなのではあった。
 互いに一歩も譲らず、激しいまでの勝負が其処にあったのだ。振り放たれる居た。互いに飛びまくる球。
 互いの意地と意地をぶつけあう乙女達。これぞ正に温泉宿の醍醐味とも言えた。

「いやいや、言わない言わない」

 はい、アルフさんのツッコミでした。




     ***




 卓球を満喫し終わった後は宿内にある格安ゲームコーナーへとやってきた。一部の温泉宿のゲームコーナーは意外と結構安いのも多く、中にはレトロなゲームも置いてあったりするので結構狙い目だったりする。
 そんな訳でまず最初に二人が遊ぶ事になったのは皆様も一度は経験した事のあるだろうワニ○ニパ○ックである。ルールは至ってシンプルであり、出て来るワニをハンマーでぶっ叩くと言う極簡単かつ庶民的なルールでもある。
 この遊びの発端は遥か海の向こうにあるアフリカ大陸に住んでいると言うパニパニ族と呼ばれる民族が成人の儀式として木槌を片手にワニの群れに突っ込んで行き、その頭を叩く事が発端であり、それが日本に渡り今のゲームになった。
 勿論嘘である。とにかく、今からそれで遊ぶ事になったのだ。
 
「よぉし、ハイスコア狙うぞぉ!」
「うん! 頑張ろうね」

 二人してハンマーを手にワニが出て来るのを待つ。フェイトは不退転の思いでハンマーを握り締めていた。先ほどの卓球ではお見苦しい結果となってしまった。次で挽回せねばならない。そう、汚名挽回である!
 因みに言うと、正しくは汚名挽回ではなく【汚名返上】である。まぁ、フェイトなので其処は察して欲しい。
 とか何とか言ってるとスタートの合図と同時にワニが飛び出してきた。最初から最高レベルな為に続々とワニが出て来る。

「くっ、この! でやあぁぁぁ!」
「はいはいはいはいはいぃぃぃぃ!」

 何時しか二人共それに夢中となっておりひたすら出て来るワニを叩きまくる事にしか思考が行かなくなってしまった。だが、その時のフェイトの顔はとても充実した顔になっていたのを、遠目から見ていたアルフは悟っていた。

(あぁ、フェイトがあんなに輝いてる。あの子が来る前はずっと死人みたいな顔してたあのフェイトが……うぅ、嬉しくて涙が出てきちゃうよぉ)

 思わずホロリと来てしまったようだ。涙を強引に拭いながら楽しく遊んでいる二人を只じっと遠くから眺めているアルフ。子供同士の遊びに大人が加わるのは野暮だ。そう感じ取ったのだろう。犬なのに空気を読むとは流石である。

(何だろう、今物凄く失礼な事言われた気がするんだけど――)

 さて、アルフの怒りの矛先がこちらに向く前に視点を変えるとしよう。
 ワニワニパニックを遊んだ後は誰でも一度はプレイしたであろう格闘ゲームである。どんな格闘ゲームかと言うのは聞かないで欲しい。色々と問題があるのだ。
 早速対戦で遊ぶ事にした。フェイトは細身の女性キャラを選んだのに対し、なのはは筋骨隆々なレスラータイプのキャラを選んできた。
 スピード対パワーの激突だ。

「スピードなら私に分がある。幾らパワーがあっても、その攻撃に当たらなければ!」

 試合開始のゴングが鳴り響く。先手必勝とばかりにフェイトの操る女性キャラが蹴りを放ってきた。しかし、それを待ってましたとの如くなのはの操るレスラーキャラがその足を掴み地面に叩き付ける。完璧なカウンターであった。
 いきなり出鼻を挫かれたフェイト。すぐさま態勢を立て直そうとしたがその前にレスラーキャラに体を掴まれてしまいその体型を生かした豪快な投げ技に持っていかれた。間髪居れずに起き上がった直後を狙っての投げ技。
 綺麗な流れとも言える位の連続コンボを受けた女性キャラの体力ゲージがみるみる減って行く。

「つ、強い! それに早い……なんで? スピードならこっちが有利な筈なのに……」
「ふふぅん、スピードキャラを選んだ人が陥りやすい落とし穴だねぇ」
「ゑ?」
「スピード重視キャラを選ぶと大抵の人はすぐに攻撃してくるんだよ。だから格闘ゲームに慣れた人にとっては絶好の鴨なんだよねぇ~」

 余裕の声であった。浅はかだった。スピード戦法に自信があったからスピードキャラを選んだが故の落とし穴だった。そして、それと同時に目の前の女性キャラも決め技のスクリューパイルドライバーを食らい昇天した。圧倒的敗北であった。その証拠にフェイトの画面にはデカデカと完敗の文字が刻まれている。
 ガックリと項垂れてしまうフェイト。まだまだ経験値が足りなかったご様子だ。
 
「あ、浅はかだった……世界って広いんだなぁ」

 今更ながらそんな事を認識しだすフェイト。格闘ゲームの奥は深いのだ。とまぁ、そんなフェイトはさておき、お次は昔懐かしのテーブル形式のゲームを遊ぶ事になった。
 先ほどの格闘ゲームとは違いちゃちな音声と画面のゲームだ。
 画面上部から迫り来るエイリアンを画面下部に居る戦車みたいなので狙い打つと言うシンプル過ぎるゲームである。しかし、それ故に嵌ってしまうと言う人間の深層心理を突いた何とも小憎らしい作品と言えた。
 早速フェイトとなのははそれに挑戦してみた。
 先ほどの格闘ゲームのお陰かゲームのコツを掴んで来たフェイト。敵の放ってくる球を華麗に回避し、逆にこちらが打つ球は百発百中! 正に向うところ敵なしであった。
 そんな感じで1面を楽勝でクリアする。

「おぉ! 凄いよフェイトちゃん。何時の間にそんなに上達したの?」
「えへへ、こんなの簡単だよ」

 等と言いつつも嬉しそうに鼻を持ち上げるフェイト。何とも清清しく嬉しい気分だった。されど、それも1面だけの事であった。2面に行くと今度は敵の移動速度や放ってくる球の量が半端なく増大しだす。ゲーム初心者のフェイトにはそれは難関と言えた。
 
「んな、いきなり難易度が上がりすぎ! くっ!」
「昔のゲームって殆どがユーザーに媚びない仕様だからねぇ」

 それが昔のゲームの良さとも言える。ともかく、そんな訳で1面は楽勝だったフェイトも2面で見事に撃沈してしまったのであった。ガクンと項垂れるフェイト。そんなフェイトの肩をそっと叩き静かに激励するなのはが居たりするのであった。





     ***




 ゲームコーナーで遊び終わった次は温泉宿では恒例とも言えるカラオケボックスであった。個室に入り、用意されたマイクを片手に得意な歌を得意げに謡う場所である。まぁ、中には【何でこんな謡い方しているのにそんな得意げなの?】と思いたくなるような歌もあるが、其処は遭えて触れてあげず拍手をするのが大人の対応と言える。

「歌かぁ……私まだあんまり歌知らないんだけど」
「じゃデュエットしようよ」
「デュエット?」

 説明しよう。
 デュエットとは、二人同時に歌うと言う片方が片方の歌の下手さをカバーすると言う被せみたいな事である。勿論嘘である。
 そんな訳で歌の初心者でもあるフェイトが謡える曲をチョイスする。選曲が終わると、機械から歌のイントロが流れ出してきた。心なしか、このイントロを聞いただけで胸の奥が熱くなってくるのを感じてきた。

「なのは、この曲って……」
「勿論、【不思議魔女っ娘とと子ちゃん】のオープニングテーマの【燃えろ!とと子ちゃん】だよ」

 いきなり難易度の高い奴で来た事にフェイトは驚愕した。しかし、なのはの事だからきっと其処は考えてのことなのだろう。意を決してマイクを手にする事にしたフェイト。
 そして、歌が始まった。



【燃えろ!とと子ちゃん】  作詞・作曲:ほしがき


1.東の空から太陽が昇るとき 其処からやってくるのは誰だ! 誰だ! 誰だ!

  長い髪に燃える瞳を携えて 手には杖を腰にはフリルのあの姿 

  来たぞ、あいつだ! みんなのアイドルとと子ちゃんだぁ!

  世界の平和を守る為 愛と勇気を携えて みんなに平和の押し売りだぁ!

  「押し込み、強盗、当たり前! 世界の平和の為なら例え火の中水の中」

  敵は悪魔のヒビビンガー帝国 倒せ悪の首領プロフェッサーハブ!

  燃えろ! 燃えろ! 燃えろ燃えろ燃え上がれ! 僕等のとと子ちゃん

  「とと子ちゃぁぁぁぁぁぁん!」 「は~~い」


  ect……


 とまぁ、こんな感じの歌であった。それを歌い切った後のフェイトは偉く疲れていたと言える。

(は、ハードだった。歌のテンポが速い上に歌自体が何か滅茶苦茶と言うか悪ふざけから出来たみたいで凄く歌い辛かった)

 等とまぁ、作詞作曲した人に対して無礼極まりない事をほざくフェイト。そんなフェイトを他所に次なる曲を入れだすなのは。まだまだ元気爆発中であった。




     ***




 そんなこんなで辺りはようやく暗くなり出し、外を歩く人も殆ど居なくなった頃、フェイトとアルフは外を歩いていた。因みになのはは居ない。散々お昼の内に遊びまくった為に夜になった時には疲れて眠ってしまったのだ。返ってその方が都合が良い。下手に一緒に居ると危険に巻き込んでしいたくないからだ。
 それに、戦闘経験の無い彼女がうろついていると返って闘い難い。

「どうだった。あの子と遊べて」
「うん、とっても楽しかった……あんなに楽しかったの、多分初めてだよ」
「そうか、そりゃ良かった」

 その時のフェイトの顔は今まで見た事ない位に輝いていた。この世界に来て恐らく初めて見る顔だろう。今までジュエルシードを集める使命を優先にしていたが為に他の事には全く手が回らないのが常だった。その為、食事もほぼ出来合いので済ませる毎日で、同年代の子と遊ぶ時間すらない。そんな日常が当たり前だと思っていた。
 だが、なのはが来てからその日常が覆されたのだ。そのお陰かフェイトの顔色も日に日に良くなっているのが分かる。
 アルフにとっては嬉しい事でもあった。

(あの子が来てからフェイトはどんどん元気になっていく。本当、あの子には大助かりだよ)

 内心なのはには大いに感謝していた。自分で出来なかった事を半ば無理やりだがやってくれたのだから。だからこそ、あの子を……なのはをあんな駄目人間に渡す訳にはいかない。どんな手を使っても守り通さなければならないのだ。

「行くよ、多分此処にある」

 二人が降り立ったのは温泉宿の庭にある小川をまたぐ橋の上だった。其処に降り立つなり、フェイトは手を翳し呪文を唱え出す。
 川に魔方陣が浮かび、水しぶきが舞い上がる。その水しぶきと共に姿を現したのは青い宝石ことジュエルシードであった。

「ビンゴ! 流石私のご主人様」
「良かった、まだ起動してない」

 どうやら間に合ったようだ。安堵し、それをバルディッシュで封印する。これでもう此処には用はない。後はなのはを連れて此処を離れるだけである。

「あ!」

 が、そう上手く行く筈もない。いざ去ろうとした矢先、フェイト達の姿を見つけて声を放つ者が居たのだ。
 誰かに見られたのか? 焦りながら振り向く。其処に居たのは最早御馴染みのメンバーであった。

「あんたらは……」
「んだよ、またお前等と鉢合わせちまったのかよ。何か負の運命かなんかで結ばれてんのかぁ俺達ってよぉ」
「誰がお前みたいな駄目人間と結ばれるもんかぃ!」

 そう、其処に居たのは御馴染み万事屋メンバーとユーノを入れた三人と一匹であった。




     つづく 
 

 
後書き
次回【早起きは三文の得、夜更かしは三文の損?】 
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