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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第二三幕 「今こそ立ち上がれ」

 
前書き
実は戦闘シーンの描写に自信がありません。いつも気が付いたら書き終わってるから見直しとか殆どしないし・・・

9/10 ちょっと納得のいかなかった部分を書き足し 

 
前回のあらすじ:普通少女、さり気に閉じ込められる


『何だ!?あれは何処から入ってきた?!』
『分かりません!レーダー、監視衛星、監視カメラ共に機影を捉えていません!高いステルス性を保持していると思われます!』
《緊急事態発生!緊急事態発生!アリーナ内の生徒及び非職員は速やかに避難を―――》
『出入り口の隔壁がロックされてる!?急いで解除を!』
《アンノウン、データ該当なし!危険度Aと認定!制圧部隊の出撃要請を送信しました!》
『駄目です!こちらのアクセスを受け付けません!・・・遮断シールドがレベル4で再起動!?』
『そんな馬鹿な・・・くっ!アリーナ内の生徒は非常口を破って速やかに避難を!扉は壊しても構わない!』
『防護シャッターが作動しません!!そんな、メインシステムとは別系統なのにッ!?』

「何者よ、あいつ・・・あんなIS今まで一度も見たことないわよ・・・?」
「友好的には、見えない」
「世界最高峰のセキュリティを誇るIS学園にこうも簡単に・・・!?」

怒号とサイレンと人工音声が飛び交うのを尻目に、ユウ、簪、鈴の3人は未確認のISと向かい合う。
改めてそのISを見る。―――でかい。全高だけでも平均的なISの2倍以上、5mはあろうかという大きさだ。全身装甲(フルスキン)であることや人型というには余りにもアンバランスなボディ、そして何よりのっぺりとした不気味な頭部が異様な様相を呈している。

彼ら以外に練習をしていた数名の生徒は未だ状況がつかめずに目を白黒させている。そんな中、観客席にいた佐藤さんがいち早く状況を理解し、インカムからオープン・チャンネルで声を飛ばす。

『まずっ・・・!総員退避!!えまーじぇんしーぶろーーー!!』

その言葉に全員がはっとなる。気が付けば正面の未確認ISから高エネルギー反応が検知されていた。蜘蛛の子を散らすように全員がその場から離れた直後、先ほどまで彼女たちがいた場所を特大のビームが通り過ぎて行った。


ズガァァァァァァァァン!!


そしてそのまま外壁の遮断シールドを貫通、アリーナの一角が爆発した。
ビームが通り過ぎた後の地表はガラス化しており、凄まじい熱量だったことが解る。テロリストの類が持つには、余りにも危険すぎる力だ。これでここが市街地なら複数の民家を貫通している所だろう。

「くぅっ・・・早速スラスターに助けられたね!みんな無事か!?」
「ちょっと・・・冗談でしょ、この火力!!」
「・・・信じられない。軍事用ISでも、こんな威力はそうそう出ない・・・っ」

簪の声が少し震えている。アリーナの遮断シールドは強度こそわずかに劣るものの、ISのシールドバリアーと同じ原理を使っているのだ。それを紙きれのように貫通するあれが万が一直撃すれば・・・
死。その明確で恐ろしい一文字が脳裏をよぎる。簪とて更識の家に生まれた以上、命がけの戦いをする覚悟くらいは決めているつもりだった。だが、そんな覚悟は無いも同然だと言わんばかりに未確認ISは攻撃してきた。パイロットの顔は装甲の所為で見えないが、簪にはその顔が嗤っているように見えて仕方がなかった。
視界が白くなる。全身の毛孔が逆立ち、背筋が凍るような感覚に身が竦む。

「・・・簪ちゃん」
「! な、なに?」

不意に隣のユウから秘匿回線(プライベートチャンネル)が入る。未確認ISの放つ威圧感に呑まれそうになっていた簪は我に返った。

「幸か不幸か、今の砲撃で非常出入り口の隔壁が吹き飛んだみたいだ。僕があのISを引き付けるから今のうちに皆を連れて急いで逃げて!」
『ちょ、ユウ君何やってんの!?そこは皆で逃げるところでしょーが!!』
「頼んだよ!」

そう言うや否や、佐藤さんの静止を無視してユウは未確認ISの元へ突撃していった。しばらく呆然とした簪は、遅れて状況を理解する。
非常出入り口はIS一機が入れるギリギリの大きさをしている。万が一皆が逃げる途中にあのビームが非常口に向けば、脱出中の人間はひとたまりもない。あの大火力だ、下手をすればシールドエネルギーを根こそぎ持って行かれて死亡、なんてこともありうる。
だからその間彼はあのデカブツを引き付けておくというのだ。

「あの馬鹿っ!アンタ・・・簪だっけ!?後ろの子たちを頼んだわよ!あたしはユウのフォローしに行くから!!」

続いて中国の代表候補生もアンノウンへと突っ込んでいく。あちらを見れば、既にユウは懐に入り込みアンノウンへ攻撃を叩き込んでいる。が、重量の差もあってかあまり有効打は与えられていないようだ。風花は反応速度こそ通常のISを大きく凌駕しているが、純粋なパワーでは打鉄と大差がない。重装甲型ISは風花にとって最もダメージが与えにくい相手なのだ。

『鈴ちゃんまで・・・あーもうこの戦闘民族共め!みんな今のうちに脱出して!二人がアンノウンを引き付けている今がチャンスだよ!!』

金縛りにあっていた生徒たちは佐藤さんの声にようやく体を動かし、悲鳴を上げながら我先にと非常口へ殺到する。だが、簪は足をそちらに向けなかった。いや、向けられなかった。

だって、あそこで友達が戦っているのに。

自分たちの逃げる時間を稼ぐために、あんなに大きな敵と戦っているのに。

――私は逃げて良いの?本当にこのまま逃げて、いいの?



 = =



「このっ・・・!素手じゃ分が悪いか!」
「何やってんの!そう思うならさっさと武器を展開しなさい!」
「鈴・・・!?」
「見くびらないでよね!アンタ一人置いてコイツに背を向けるなんて真っ平よ!てりゃぁぁぁ!!」

ユウに追いついた鈴操る甲龍(シェンロン)が青竜刀“双天牙月(そうてんがげつ)”を力いっぱい叩き込む。元々パワー型の機体である甲龍の一撃は流石に効いたのか、アンノウンは距離を取るように後退する。

「鈴!そのブレード一本貸してくれない!?使い勝手のいい武器がないんだ!」
「はぁ!?・・・もう、仕方ないわねぇ・・・えーと使用許諾(アンロック)は・・・よし、受け取りなさい!」
「助かる!ついでに増援が来るまで一緒に闘ってくれると嬉しいな!」
「手伝ってほしいなら最初からそう言いなさい!水臭いっての!!」
「そこはホラ、一応僕だって男の子だし?最初から女の子に頼り切りは嫌だったの・・・さ!」

再び懐に飛び込もうとし、アンノウンが本格的に二人にターゲットを絞り始めたため中断する。アンノウンの両腕からはビームが通常では考えられない連射速度で放たれ、二人は回避に専念する。雨霰と発射されるレーザーは、一発一発には大した威力がないものの連射性と密度は非常に厄介だ。

「この・・・調子に乗るなぁ!!」

甲龍の非固定浮遊部位にエネルギーが収束し、そのエネルギーが一気に放たれる。

ッドウ!と、空気を切り裂く独特の異音が響く。空間そのものを歪めて砲身を生成、砲身内で超圧縮した衝撃波に指向性を持たせて打ち出す兵器、“衝撃砲”だ。さらに立て続けに6発を叩き込む。
砲身射角にほぼ制限なし、連射も効くし弾そのものが不可視な上に弾速も非常に早い強力な射撃武装である。
発射の予期も非常に難しい、とても優秀な飛び道具なのだが・・・

ガァン!!ガァン!!

腕を翳してその砲撃をあっさりガードされ、碌に効いた様子が無い。装甲の固さと重量で衝撃が完全に殺されている。恐らく皮膜装甲(スキンバリアー)を発展させたものを表面装甲に貼っているのだろう。生半可な衝撃はそのバリアに吸収されて無効という訳だ。鈴は苦虫を噛み潰したような顔をする。

「くぅ・・・!何てパワーなの!?衝撃砲を食らっても吹き飛ばないなんて・・・!」
「効いていないことは無いはずだけど・・・この調子じゃ“鳴動”を使っても火力不足か!」

そう、衝撃砲は1発1発の火力に乏しいという欠点があった。そしてその欠点は防御重視の機体相手の時ほど顕著に表れる。正直、今回のアンノウンとの相性は最悪だった。
一向に現れない制圧部隊を充てにする訳にはいかない。もしも最初に放たれたものと同じビームが観客席に当たれば死人が出かねない。かといってこちらには有効打がない。アンノウンはこれだけ攻撃しても一向に倒れる気配はない。

「・・・ッ!!左腕に高エネルギー反応よ!!」
「させるかぁ!!」

先ほどのビームを放つ気であることは明白。咄嗟に掲げられた左腕を蹴り上げて射線を無理やり上に向ける。シールドバリアー越しにでも感じられるほどの熱量が行き場を失い空を貫いた。万が一にでも観客席に当たったら大事だ。ヒットアンドアウェイですぐさま後ろに下がり、鈴と合流すると、アンノウンはしばし動きを止めた。


「・・・こちらが攻撃を仕掛けないときは余り攻めてこない、か・・・あれのパイロットは何考えてるんだ?」
「心なしか動きに人間らしさが感じられないような・・・何ていうか、まるで人が乗ってないみたい・・・」

不気味そうにつぶやく鈴の言葉を聞きながら、ユウは内心で別の事を考えていた。
目的も読めない、倒すことも出来ない。そして攻撃すればするだけこちらのエネルギーは減少する・・・このままではエネルギー切れでこちらが負ける。何か突破口を見つけなければ。
だが、どうやって突破する?

(せめてもう一人、誰かがいれば・・・)

その脳裏に意図せず中学時代からの親友の背中を思い浮かべながらも、ユウは鈴から受け取った双天牙月の片割れを握りしめ再びアンノウンに肉薄した。



 = =



一度生まれた葛藤は、瞬く間に私の心を満たしていった。
私だって専用機という力を持っているじゃないか。日本の代表候補生を任されているではないか。でも―――怖い。あのISが怖い。あのISと戦って傷つくのが怖い。もしかしたらこの戦いで死んでしまうかもしれないと思うと、足が竦んだ。

ふと、観客席から真剣なまなざしで戦いを見つめる佐藤さんが目に映る。
佐藤稔。日本の代表候補生の座を自ら蹴った変な人。簪との成績の差は殆ど無く、むしろ類稀なるIS適性の高さがある点では簪の方が劣っているとさえ言えた。だからこそ、彼女がその話を蹴った際にはスパイ疑惑まで浮上したものだ。

そんな彼女は全く逃げるそぶりを見せない。他の観客席にいた子たちは出入り口がロックされている所為で出られずに物陰で怯えているのに、佐藤さんは隠れるどころか戦いから目を逸らそうともしない。彼女は専用ISなどを持っていない。故にもし先ほどのビームが彼女へと向かえば、彼女の命は木の葉よりも簡単に散ることとなるだろう。なのに、彼女の顔に恐怖は無い。

「・・・怖く、ないの?」
『え?』

訊かずにはいられなかった。彼女は力を持っていない。なのに、力を持っている私でさえ怯えているのに―――

「死ぬのが・・・怖く、ないの?」
『・・・ちょい怖いかな?』
「じゃあどうして、そんなに平気な顔を・・・」
『ははっ、買いかぶらないでほしーな?こう見えても足が震えて冷や汗が止まらないんだから』

――嘘。ISのハイパーセンサー相手にそんなごまかしは通用しない。彼女は汗一つ垂らしていないし足も震えていない。彼女はこの状況でも、全く怯えてはいない。
どうして、そんな平気な顔をして立っていられるの?その意を込めて今一度視線を送ると、佐藤さんは後ろ頭を軽く掻きながら、言葉を続けた。

『でもね簪さん。私、こう思うんだ』
「・・・?」
『自分に結果を変える力がなかったとしても・・・だからってそれはずっと震えて怖がってる理由にはならないんだ。人生だってそうでしょ?最後は死んじゃうってのはもう確定事項、どうあがいたって結末は変わらない。だからって“生きててもしょうがない”って皆自殺しちゃうってわけじゃないよね?』
「・・・・・・」
『だからさ。私は私に恥じないように・・・私に自分らしさや人としての在り方を教えてくれたモノ達に恥じないようにありたい。だから、私は怖くても強がりを続けたいんだ』

そういって佐藤さんはこちらに笑いかけた。思わず見とれてしまいそうなその笑顔は、私の短い人生の記憶の中でも、一番の輝きを放っていた。

『簪ちゃんはどう?』
「・・・わ、私、は・・・」

――私に自分らしさや人としての在り方を教えてくれたモノ達――その言葉を聞いたとき、彼女の脳裏にあるものが思い浮かんだ。それは趣味で見漁ったヒーローものの特撮やアニメ・・・どこにでも駆けつけて困っている人を救ってくれる画面の向こうの英雄(ヒーロー)達だった。

「私、は・・・」

簪は昔から内気で臆病だった。周囲から何を言われても耐える事しか出来ず、言い返したりする勇気がない・・・そんな中、彼女が夢中になったのがヒーローものだった。画面の向こうにいる彼等は――格好良かった。時にくじけそうになったら、負けそうになったりしながら、それでもあきらめずに敵を討ち破る。他人を助けるために命を懸ける彼らに簪は夢中になった。いつか自分の下にも、こんな格好いいヒーローが駆け付けてくれれば・・・そんな思いを抱くほどに。

「私は・・・」

そうだ、私にいつも希望や勇気を与えてくれた彼等こそが、“人としての在り方を教えてくれたモノ”ではないか?彼らは困難に陥った時、自分の様に臆病風に吹かれて進めなくなっていたか?否、断じてそうではなかった。たとえ一度立ち止まっても、最後には必ず勇気ある一歩を踏み出していたではないか。その姿に、何度も心打たれてきたではないか。その在り方に何度も憧れを抱いたではないか。

「私は・・・!」

逃げたくない。私の心の中で輝くヒーローたちが与えてくれた熱く優しい“魂”を、消したくはない。

アンノウンと戦う二人を見る。たった今、アンノウンから再び放たれようとしたビームをそらさせ、熱量と閃光がアリーナを照らした。二人とも悪戦苦闘しながらも、一歩も引こうとしていない。優しく諭してくれたユウも、そのユウを手伝う凰さんも、取り残された生徒たちを守るために必死になっている。その姿を見て、私の心の奥底にある炎が燃え上がった。心臓が燃えたぎる様ように熱い血液を全身に送り込む。

「私は!!」


・・・ああ、そうだったんだ。どうしてヒーローが私の前に現れなかったのか、ようやく分かった・・・それは―――




「私は、戦う!!佐藤さんも、逃げ遅れた皆も、戦ってる2人も死なせない!!」




―――それは、“もう既にいた”からだ。私の心の中に、最初から“ヒーロー”はいたんだ。




「だからお願い、打鉄弐式!私と一緒に・・・魂を燃やして!!」


その言葉に応える様に、打鉄弐式が唸りを上げる。その姿にはもう先ほどの臆病な彼女の面影は無い。それは、この世に大切なものを守るために戦う新たな“ヒーロー”が誕生した瞬間だった。 
 

 
後書き
簪の早すぎる覚醒?だが彼女はまだ変身を残しています。
薄々気づいてる人もいるかもしれないけど、この回はとあるISの二次創作小説を結構イメージしてたり。 
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