【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス
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役者は踊る
第二二幕 「サプライズ・エンカウント」
前書き
た だ い ま
37名のお気に入り登録者の皆さん+推定80人前後の定期読者のみなさん方、お待たせいたしました。更新再開です。
一応言っておくともう一つの連載小説の更新にかまけていたわけではないのでその辺勘違いのございませんよう。
前回のあらすじ:東西南北中央不敗スーパー佐藤さん
遂にあの日が迫ってきた。何の日か?もちろんクラス対抗戦である。クラス代表総当たりで試合をするこの戦い、見事1位に輝いたクラスにはデザート半年フリーパス券が、逆に最下位になったクラスには罰ゲームがあるらしい。まさに5月の1大イベントなのである。
学園中が少し浮かれているそんな中、ユウは第2アリーナでようやく調整の終わった“風花”の試運転をしに来ていた。メンテを手伝ってくれた簪も訓練がてらと付いてきている。
「ここまで長かったな・・・」
「まさか、姿勢制御のプログラムを組み直すのに、丸3日かかるとは・・・思わなかった」
「スラスターとバーニアの出力調整にも死ぬほど苦心したし・・・これで前より動きやすくなってると良いけど」
この数日間の苦労を思い出し、どこか遠い目をするユウ。
代表決定戦の後に開発元である最上重工で再メンテを受けた風花は、エネルギー周りは確かに改善され、“投桃報李”は扱いやすくなっていた。そして、それと同時にある新機能が追加されていた。
渡しに来た開発者曰く、俊敏性を補うために新しく“フィンスラスター”というものを増設したらしいのだが、このフィンスラスターが曲者だった。
これはバーニアと兼用であり、必要なときに機体の装甲の一部がスライドし、内部から推力を噴射するというもの。その噴射によって機体を瞬時にスライド移動させたり緊急回避などに使える。装着場所が背中以外になるので少々慣れが必要だが、普通の機体に積まれれば空中での戦闘にさぞ重宝するだろう。
・・・が、そもそも風花は唯でさえ直線加速力に特化しておりPICと連動する推進翼がほとんど存在しない。簡単に言うと、フィンスラスターを吹かした後の姿勢制御が凄まじく難しいのだ。驚くことなかれ、試しに使ってみたら優秀なISオート制御でも全く対応しきれずに激しく転倒してしまった。
だがフィンスラスターを使いこなせれば確かに風花の機動力は上昇する。まともに空中戦が出来ないこの機体にとってこれは間違いなく回避の命綱となる。
だからこそユウは機体制御用のプログラムを後付で開発する必要があった。幸い開発元も同じことを考えたのか姿勢制御のプログラムを用意してくれていたのだが・・・実働データが極端に少ないためかかなり不具合が多く、結局細かい調整は自分でやることになってしまった。いくらユウが優秀だからと言って流石に全くやったことのない分野の作業をするのは無理がある。だれか、手伝ってくれる人間がいないと・・・
そこで現れた救世主こそが更識簪である。彼女は日本の代表候補生であるため頭脳は申し分なく、しかもユウにとって幸運なことに彼女はプログラム弄りに明るかった。簪は「姉と和解できたからそのお礼だ」とユウの頼みを快く承諾し、二人はそれから数日間メンテ室にこもってひたすら機体の調整をしていたのだ。・・・なお、そんな二人を茶化そうとした者も多くいたが、何故か誰もいないはずの物陰から扇子をパチンと閉じるような音と指の関節がゴキゴキと鳴るような音がしたため近寄らなかったそうだ。
「本当に簪ちゃんには感謝してもしきれないよ・・・今度何かお礼させてよ」
「別にいい。その代わり、弐式の訓練に付き合って・・・」
「そりゃもちろん。でもいいのかい?僕は1組だから君のISの情報を勝手に漏らしちゃうかもよ?」
「ユウは、そんなことしない」
「・・・そう言われると何も言い返せないなぁ、ハハハ・・・」
天使と見紛うほどの眩しい笑顔で返され、思わず苦笑するユウ。
クラス代表を務める簪は、本来ユウの手伝いなどせずクラス対抗戦に備えて自主練習でもしているべき時期だった。それでも訓練時間を削ってユウの手伝いをしたのは、彼が人付き合いの苦手な彼女に学園で出来た初めての友人だったからである。そんな簪の態度にユウは一抹の疑問を覚えずにはいられなかった。
(嬉しいんだけど・・・友達の接し方としてはやりすぎじゃないかな?)
ユウは簪との付き合いはまだ短い。知っているのは共通の悩みがあることとISに詳しい事くらい。誰に対してもそうなのだろうか?いや、彼女の同級生の反応を見る限りそうは思えない。むしろ消極的で内気な子だと聞いている。ひょっとして、人との距離の取り方が分かっていないのだろうか?・・・今度楯無さんに聞いてみよう。
「あれ?ユウじゃない。アンタもISの訓練しに来たの?」
上空からの声に顔を上げると、そこにはISを纏った鈴の姿があった。韓紅花色と黒を基調としたその機体、“甲龍”はデザインの細部から力強さが滲み出ている。大型の非固定浮遊部位についている棘も相まって禍々しい印象を受ける機体だ。どうやら馴らしに空中を飛び回っていたようだ。
「ちょっと違うよ、鈴」
「何が違うのよ~・・・って、その子この前も一緒にいた子よね?アンタ達本当に付き合ってないワケ?」
「そういうのじゃないってば・・・」
年相応にそういうことが気になって仕方がないのか、将又単純に友達を弄りたいだけなのか。多分後者だろう。鈴の中での優先順位は「一夏>>>ジョウ・母親>父親>その他友達←ユウはここ」位の感じだったと思うし。・・・実の父親より兄さんを信頼しているというのもある意味問題だが。
「それはそうと、丁度いいから一緒に訓練しない?アンタのISがどんなものか気になるし」
「・・・・・・」
「・・・あれ、簪ちゃん?」
「・・・・・・好きに、すれば」
(あれ?簪お嬢のご機嫌が急降下してらっしゃる!?)
さっきまでの優しい表情は一変、鈴の方を玩具を取られた子供のような目で睨んでいる。で、鈴は鈴でその目を明らかに間違った解釈をしたのかこちらを見ながら「おアツいね~♪」とでも言わんばかりの目でニヤニヤしている。(リア充を憎むしっと団ではなくなっているようで何よりだが)
ちなみに簪は確かにユウの事が好きだがそれはあくまで「Like」の方であり、今回のこれは所謂“女の嫉妬”とは違うもっと単純なものであるが。
「え、ええっと・・・?」
「・・・・・・(不機嫌オーラ噴出中)」
「で、練習のお誘いはどうするのぉ~?」
かくして第2アリーナ内は、どう機嫌を取ればいいか分からず焦って右往左往するユウ、後から来た女の親友をとられたと思っている簪、そしてそれを見てにやにや面白がっている鈴という何とも言えない構図が出来上がっていた。
一応、決して3角関係と呼べるものではなかったことをここに明記しておく。
= = =
そして、そんな三人を見学席から観察している見物客が一人。
「可愛い女の子だと思った?残念、佐藤さんでした!」
だれとはなしているのだ。ちなみに佐藤さんは顔も胸も普通の容姿をしているが、普通という事は逆を言えば欠点がないという事なので一般の尺度ではそれなりに可愛い部類に入っている。(というかいつぞや代表候補生のスカウト条件には容姿もある程度含まれているのだが佐藤さんはそのことを忘れている)
「さぁて・・・爆発オチとパクリで有名なちゅーごく製の性能とやら、見せてもらおう!ついでに弐式と風花もね!」
サラッと中国を侮辱した発言をかます佐藤さんだがそこまで間違っていないのが悲しい。とはいえそこが中国の強みとも言えるかもしれないし、ISに関しては爆発オチはないだろう・・・と信じたい。
不確定要素と何故かもう打鉄弐式が完成している簪、そして鈴が原作とどれくらい違う人物になっているのかを確かめるための調査の一環だ。特に今回はおりんりんの声を拾っておきたい。そのためにISの通信を傍受するためのインカムまで用意したし。授業で先生方が使っているインカムと大体同じものだ。
お菓子良し!お茶良し!メモ帳良し!双眼鏡も準備良し!・・・何だか漫画のネタを探す人みたいだなこれ。 どれどれ、覗いてみよう。
『と、とりあえずフィンスラスターの調子を確かめてから決めよう!』
『・・・確かに、そのために、ここに来たようなもの』
『何?アンタそのISあんまり使ったことない訳?』
『いやね、風花はここ何日かずっと調整を・・・』
う~ん・・・聞いたところによると鈴ちゃんの性格は原作と相違ないように思える。食堂でも一夏と一緒にいる事が多いし・・・しかし原作ほどの積極性がないというか・・・毎日酢豚事件も結局起きなかったみたいだからフラグが微妙だなぁ。・・・気のせいか一夏のフラグが悉く有耶無耶になっているような気がする。
お?練習が始まったようだ。地上から2メートルほどの高さまで風花がゆっくり上昇する。
人間で言う腰のあたりの幾つかの装甲が小さくスライドし、バシュッ!という小気味のいい音と共にエネルギーを噴出し、それに押されて瞬時にISが2,3メートル横に移動した。あれが話に聞くフィンスラスターのようだ。機体を停止させたユウ君は満足げな表情だ。簪ちゃんも心なしか誇らしげ、鈴ちゃんはスラスターの性能に感心している。
『推力、仰角、制動共に誤差コンマ0,01以下・・・成功』
『うん、きっちりバランスが取れているね』
『そんな小さいスラスターでも意外と推力あるのね?』
ふんふん。そういえばユウ君にそれとなく聞いてみた所、風花というISは加速以外の空中動作が壊滅的に遅いらしい。つまり加速しているとき以外は空中では単なる的になるという事だ。だからこそあのスラスターが必要だったのだろう。
それにしても、と私はユウ君を見つめる。
果たして彼とジョウさんが起点になっているのか将又別の要因か、原作ISと現状は主に人間関係で相違点が多い。
ワンサマーはいつものほほんさんと一緒にベル君と友達になるための作戦を練り続けているし、モッピーは暇なときは剣道に打ち込んでおり、原作で一夏に見せた不器用な乙女心は感じられない。というか彼女の真剣な表情で素振りしている姿は何だか同性まで惹きつけているらしく、おかげで剣道部は見学者が絶えないとか。セッシーはつららさんに付き纏われながらも、所々で精神的に熟成した態度を垣間見せている。2組は詳しくは分からないけどシャルも原作とは随分と違うようだ。この調子だとラウラたんも何か変化が起きているだろう。会長は相変わらずだったけど。
どうしてここまで違いが出ているんだろうか?人物も名前も大体同じなのに、やっていることは私の知っている彼らとあちこち違う。
まるでISの世界の筈なのに、『インフィニット・ストラトス』とは全然違うみたいだ。
パラレルワールド、というやつなのかもしれない、いやそうだろう。もしもこんな人物が居たら、もしもこんなことが起きていたら、もしあの人がこう考えていたら。その大小様々で一見脈絡のない乱雑な分岐が複雑怪奇に絡み合い、違う分岐や新たな分岐をなぞる様に進んでいった結果が今の私が生きるこの世界。
いや、それともひょっとすると―――
「私が思い込んでいるだけで、実は似てるだけの全然違う世界だったりして!そりゃないか・・・・・・って、んん?」
自分で自分の考えに苦笑した佐藤さんは上を見上げ・・・その雲一つない青空にポツンと黒い点があることに気付いた。目を凝らすと飛行機やヘリとは明らかに形状が違う。
その黒点は少しずつ大きくなっていき――
――そのままアリーナのバリアを貫通し、内部に侵入してきた。
「・・・・・・・・・は?」
轟音と大気を揺るがす衝撃。アリーナ内に流れる緊急放送も、警報機のあげるけたたましいサイレンも、まして出入り口のモニターに表示された『管理者権限で扉がロックされました』という機械的な報告も、私の耳には入らなかった。
ただただ、アリーナ中央に現れた巨大な鉄の塊を食い入るように見つめ、どうにか乾ききった喉から声を絞り出す。それは今というタイミングでしか自然に発することのできない言葉。
「バカな・・・早すぎる・・・!」
連中は待つことを知らないようだ。一度言ってみたかった中二台詞ナンバー1!(※あくまで佐藤さんの私見です)まさか本当に言う日が来るとは思わなかったぜイエーイ!・・・じゃなくて!そんなことを言っている場合ではない。
その鉄の塊は、紛れもないISだった。そしてそのISの名前に彼女は心当たりがある。その異様に肥大化した腕、人型でありながら人間離れしたフォルムをした歪な意匠のそれは――
「どう見てもゴーレムⅠ・・・だよねぇ、あれ」
佐藤さんの予想と原作より1日早い、望まれぬ来訪者だった。
後書き
執筆中に急に脳内にゴーレムが降臨したので本編でも降臨させました。思い立ったが吉日って言うよね!そして佐藤さんは今日も佐藤さんです。
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