宇宙を駆ける一角獣 無限航路二次小説
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第一章 九話 熱圏突破 後編
前書き
いよいよ今回で大マゼラン〜マゼラニックストリームによって構成される第一章は終了です。
次回からは第二章が始まります。
お楽しみに!
ユニコーン ブリッジ
ユニコーンのブリッジは、大金積んで施した耐熱処理のお陰で大した暑さではなかった。
例えるならば夏の室外くらいの暑さである。
しかし、機関室のような一部施設は熱が篭りやすくある程度の熱中症患者が出る事は避けられなかったが。
「ううむ。暑いな。」
団扇で顔をバタバタ扇ぎながらそう呟く白野。
ちなみにネタでかけたサングラスを気に入ったのか、まだかけ続けている。
「ゲイケット、ヴァナージの熱圏から離れるには後どのくらいだ?」
「そうだな………順調に行けばあと二時間くらいか。」
マゼラニックストリームが難所たる所以は単にこういった厄介な航路があるだけでは無い。海賊もかなりの頻度で出没しているからなのだ。
流石にヴァナージの熱圏では共倒れの可能性があるので向こうも迂闊にしかけてはこないだろうが、一度熱圏から離れれば熱で弱ったところを仕留めるために群がってくるだろう。まさにハイエナである。
「ん?艦長、デプリだ。迎撃するぞ。」
「やってくれ。」
そして、今のように宇宙ごみであるデプリも結構漂っている。展開している放熱板が傷付けられたらコトなのでとっとと艦砲で吹っ飛ばすのだ。
漂っているだけのデプリは砲撃手が狙わなくてもオートで撃つだけで迎撃できる。
「副砲、発射。」
ユニコーンのプラズマ砲が火を吹き、飛んで行った赤いプラズマ弾がデプリを吹っ飛ばしてユニコーンの進路をクリアにした。
「進路、クリア。」
「ご苦労。」
ユニコーンの航海は極めて順調である。
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バウンゼィ ブリッジ
ユニコーンに比べてバウンゼィのブリッジはそういい状況では無かった。
なにせ耐熱処理を施していないのだ。ユニコーンが夏の室外ならバウンゼィは砂漠の真ん中くらいの暑さだった。
「あっちいぜ………」
「艦長、ヴァナージの熱圏を抜けるには最低でもあと二時間はかかります。」
「マジかよ。」
「マジです。」
ギリアス自身は頑強な肉体を持つヤッハバッハ人だけあって暑さ程度ではどうにも無いが、他のクルーはそうでもない。
機関室のクルーは二割が熱中症の洗礼を受けて医務室送りになった。
ブリッジは他に比べていくらかマシだったが、それでもそろそろ危なくなってきた。
「あっ!」
悪い事は続く。オペレーターが何かに気づいて声をあげた。
「なんだ!?」
「熱で第一装甲板が溶け出しました!」
「マジか!」
「だからマジですって!」
バウンゼィ、地味にピンチである。
「仕方ねえ、エンジン全開!とっとと離脱するぞ!」
「ラジャー!」
バウンゼィはエンジンを全開して最大船速でヴァナージの熱圏を離脱し始めた。それでも離脱にかかる時間は一時間ほどに短縮されただけなので、後は時間との勝負である。
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ユニコーン ブリッジ
「ん?バウンゼィが離脱し始めている。」
「そう言えばあの艦は耐熱処理してなかったな。」
ゲイケットと白野は遠ざかるバウンゼィを見送りながら自艦のエンジン出力を調整し、バウンゼィと一定以上の距離を開けないように務めていた。
「よし、このくらいでいいだろう。これで引き離される事は無い。」
ユニコーンは常にバウンゼィを索敵範囲内に捉え続けながら航行を続ける。
話す事がなくなったゲイケットは、白野にある事を聞いて見る事にした。
「ところで艦長、マゼラニックストリームを越えた後はどうするんだ?」
「そうだな………まずはネージリンスを回ってみようと思う。あそこは他の二国に比べて大マゼランとの交流が盛んだから科学技術が独自の発展を見せているらしい。面白い物が見つかるかもな。」
「ネージリンスといえばネージリッドの兄弟国だったな。エーヴァさんの故郷の。」
歴史の話になるが、ネージリンスはかつて大マゼラン、ネージリッド共和国がスターバースト現象によってその領土の大半を失った際に生き残った一部の人間が新天地を求めてマゼラニックストリームを突破し、小マゼランにて建国した国なのだ。
「そうだな。だが、ネージリンスの人間は金にがめついらしいぞ。あの業者やクー・クーの婆さんみたいにな。」
ネージリンスには全ての判断基準に金を用いるという特異な文化がある。感謝の気持ちを金額で表現するのだ。他の国の人間にはいい顔をされないらしいが。
「おいおい………先が思いやられるな。ネージリンスを出る頃には身ぐるみ剥がされるかもしれんぞ。」
「お前も金の扱いには注意しろよ。」
「ハハハ、違いない。」
そうして笑い合う白野とゲイケットであった。
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バウンゼィ ブリッジ
その頃、最大船速で飛ばしていたバウンゼィは遂ににっくきヴァナージの熱圏を突破していた。
「ヴァナージの熱圏、突破しました!」
「よおし!装甲板の被害は?」
オペレーターはモニターに表示されている数値を確認して報告する。
「………第一装甲板はほとんど持ってかれましたが第二装甲板は健在です。」
「チッ!やってくれるぜ、ヴァナージめ!」
罵るギリアス。だが、悪い事は更に続く。
ブリッジにけたたましいアラートが鳴り響く。
「これは………!九時方向から未確認艦の襲撃です!20秒後に会敵!」
「ちくしょう、このクソ忙しい時に!仕方ねえ、迎撃する!45度回頭!全砲門開口、牽制砲撃、撃てぇ!」
ギリアスの砲撃指令を受けて、バウンゼィが回頭。恐らくはこちらに狙いを定めているであろう敵艦に牽制砲撃を加え、戦いの火蓋が切って落とされた。
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ユニコーン ブリッジ
バウンゼィへの襲撃はユニコーンの方でも察知していた。
「前方に交戦反応!バウンゼィと………データに無い艦だ。」
「未確認?いや、それは後だ。援護に行く。エンジン出力50パーセントから80パーセントへ。」
ユニコーンも戦列に参加すべくエンジン出力を上げ、交戦宙域へと進んで行く。
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バウンゼィ ブリッジ
牽制砲撃で先手を取り、対等な位置関係にバウンゼィと未確認艦を並べる事に成功したギリアスだったが、ヴァナージで受けた装甲板の損害はいかんともし難く苦戦を強いられているだ!(集中線)
そして、バウンゼィのブリッジを振動が襲う。
「うおっ?当たったか!」
「左舷前方に被弾。第二装甲板中破!」
「やっぱりヴァナージの負担が………」
未確認艦の正体はどうやら相当改造を施した黒塗りのファンクス級戦艦であるようだった。
本来船足の早いファンクス級に更にエンジン改造をしているらしく、ズバ抜けた早さでヒットアンドアウェイを繰り返してバウンゼィを翻弄している。
これでは白野に教わったヒットアンドアウェイ戦法も意味をなさない。
「なんとか近づけねえのか!?」
「無理ですよ!相手が早すぎます!」
迂闊に近づけばみすみす相手の射程内に飛び込むようなものである。今のバウンゼィにできることといったらひたすら相手の砲撃を避け続けることだけだった。
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ユニコーン ブリッジ
ユニコーンも遂に交戦宙域に到達していた。
「見えた。バウンゼィだ。」
「だいぶ苦戦しているようだな。」
「それにあの艦、ファンクス級をベースに相当改造してあるな。船足はユニコーンより上だろう。」
「ヒットアンドアウェイされると厄介だ。回避軌道を取りつつ一気に詰め寄る。」
「了解!エンジン全開!敵を逃がすな!」
加速したユニコーンは、バウンゼィの船体の各所から被弾の際に飛び散った装甲板の破片を弾き飛ばして一直線に黒塗りのファンクス級に突撃して行った。
当然黒塗りのファンクス級もユニコーンに気付き、迎撃行動に移る。
既にボロボロのバウンゼィよりも新手のユニコーンの方が手強いと確信したのだろう。
「敵艦砲門の開口を確認!」
「艦を信頼しろ。このまま突っ込め!」
黒いファンクス級から次々にレーザーやミサイルが飛んでくる。
ユニコーンはそれを紙一重で躱しながら全砲門の射程圏内にファンクス級を捉える。
「敵に隙を与えるな、各砲交互射撃用意!」
「了解!左右各砲、イターバル2で連射用意、両舷砲班撃て!」
黒いファンクス級の懐に潜り込むことに成功したユニコーンはその全砲を叩きつけた。
砲撃手のルートンの腕もあり、放たれたプラズマ弾は狙いたがわず黒いファンクス級を破壊する………かに思われた。
「なんと。アレを避けたか。」
恐るべき事に、黒いファンクス級はそれをほとんど回避して見せたのだ。実際に命中したのは二発だけ。だいぶ損傷は負わせたが、動けなくなったり撃沈するほどでは無い。
そして、黒いファンクス級は一気に後退する。
「早い!」
「………もう射程外に逃げたか。だが。」
ユニコーンには射程を無視して相手を狙えるメテオプラズマが装備されている。あまりに離れていると使えないが、少し射程外に出た程度ではまだ狙える。
「メテオプラズマ、用意!」
「了解!エネルギーチャージ開始!」
ユニコーンの主砲にプラズマの光が集中する。
「撃て!」
「メテオプラズマ、発射!」
凄まじく大型のプラズマがユニコーンから放たれ、かなりの距離があるにも関わらず黒いファンクス級に迫る。
が、したたかな黒いファンクス級は回避軌道をとっていたようだ。飛んできたプラズマ弾を事もげなく躱して交戦宙域から離脱して行った。
「逃げられたか。」
「レーダー索敵範囲内から出た。これでは追撃不能だ。」
かなりの強敵だった。もしかするとランカークラスの実力者だったのかもしれない。
「ゲイケット、バウンゼィの様子は?」
「かなりてひどくやられたみたいだが、航行に問題はなさそうだ。」
「そうか。よし、通信を繋いでくれ。」
「了解。」
白野はギリアスと通信を始めた。
『よう。てひどくやられたみたいだ。』
『クソッ!情けねえ。あんたに教えてもらったばっかりの戦法をそのままやられちまった。』
『気に病むな。お前はまだ生きている。生きているという事はリベンジのチャンスはまだあるという事だ。次に奴にあった時にリベンジできる実力を身につけていればいいのだ。』
『すまねえ。少し気が楽になった。』
通信をそこで切ると、白野はユニコーンを動かして再び小マゼランへと向かい始めた。
バウンゼィもその後につづいていた。
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マゼラニックストリーム ボイドゲート付近
手強いファンクス級の襲撃を乗り切ったユニコーンとバウンゼィは遂にゲートの付近に到達していた。
「ここをくぐればいよいよ小マゼラン。楽しみだな。」
「ああ。そうだな。」
「よし、ユニコーン、微速前進。ゲートへ進入せよ。」
ユニコーンはゆっくりとゲートを通る。艦首がゲートの青白い面に接すると、電光が走りその銀色の巨体は遥か離れた小マゼランへと少しつづ転送されて行った。
それに続くバウンゼィも電光と共にゲートに進入して行った。
続く
後書き
マゼラニックストリームにあるボイドゲートは作中ではアーヴェスト宙域に繋がっていましたが、アレはどうもユーリが事象揺動宙域で確定した宙域のようなので、ここではまだ存在していない事と解釈しています。
その代わりに、あのゲートの行き先は作中には登場しなかったネージリンス本星の宙域という事にしました。
出てくる惑星は名前だけ出てきた首都星のアークネージ星以外はオリジナルのものですのでご了承ください。
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