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我が剣は愛する者の為に

作者:wawa
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黒幕

隊を引き連れ、馬を走らせると前方に村と炎、そして黒い煙が漂っているのが見えてきた。
逃げられたかと思ったが、肉眼で村人らしき人物たちが必死に逃げているのが見えた。
憶測だが、まだ賊は襲い始めたばかりなのだろう。
今から全速力で向かえば被害を最小限に押えれるかもしれない。
見慣れない兵士が俺の傍にやってきた。
甲冑を見る限り雲流の兵士だろう。

「関忠様の隊は村を襲う盗賊を正面から叩いてください。
 我らは村を囲い、賊が逃げられぬようにして包囲し援護します。」

まぁ、予想はしていた。
これからの事を考えれば一人でも兵を温存したいと思う。
あちらの方が地位としては上だ。
ここで断れば華琳の印象も悪くなるし、説得して戦法を変える事もできるだろうが今は時間がない。
雲流は俺の性格を読み、今まで作戦を伝えなかったのだろう。
俺は小さく頷くと、兵は軽く一礼して自分の隊に戻る。

「いいのかい?」

胡蝶は雲流の考えを読んだのかそう聞いてくる。
確かに賊の数は多くないとはいえ、こちらも少数で隊を組んでいる。
正面からぶつかれば被害を受けるのは間違いない。
が、目の前で民が苦しんでいるのだ。
時間をかけて作戦を変更している場合ではない。

「時間がないからな。
 胡蝶、お前は兵士に指示を出して被害を出来るだけ小さくしろ。
 俺が先行して出来る限り、数を減らす。」

春蘭の元で厳しい訓練を乗り越えてきた兵士達だ。
胡蝶の指示をしっかりと聞けば、賊なんぞに後れを取らないはず。
村に向けて放った斥候が帰ってきた。

「賊は村に到着したばかりの模様!
 その数、およそ千!」

千の賊で村はそれほど大きくはない。
この数なら三十分もしない内に村は全滅してしまう。
俺達の隊の数は八百。
雲流の隊は約千。
きちっと連携すれば勝てない数ではない。
俺は刀を抜いて、後ろの兵士に号令をかける。

「これより村の襲う賊を討伐する!
 俺が先行し、賊を叩く!
 お前達は胡蝶の指示に従い、雲流の隊と連携しながら続け!」

俺は前へ先行し、村へ単身で突撃する。
少し離れた所で村に松明を使って火を放とうとする賊が見えた。
袖の内からクナイの形をした道具を取り出し、後頭部目掛けて放つ。
無論、腕は氣で強化済み。
弾丸のように飛んだクナイは見事に後頭部に刺さり、貫通する。
松明も地面に落ちたので引火はしないだろう。
さすがに千人の賊が襲ってきただけあって、村は惨憺たる状況だった。
剣で斬られ死体となって転がっている村人。
目の前で親を失ったのか子供が、泣きながら親の死体を必死に揺さぶっている。
血の匂いが充満し、焼けた匂いが鼻をつく。
怒りで歯を喰いしばる。
彼らが何をした?
ただ家族と平和に暮らしたいだけなのに、どうしてこんな目に会わなければならない。
馬から下りて、視界に映る賊に怒りをぶつけようと、彼らの顔を見た瞬間だった。
怒りを忘れ眉をひそめたのは。

「・・・・・・・」

賊は何も話さない。
まるで言葉を忘れたかのような顔だ。
生気は欠け、目は虚ろ。
しかし、彼らは家を燃やし虐殺を続けている。
疑問に感じたが、彼らがしているのを止めないといけない。
足を強化し、一撃で賊を仕留めていく。
ここでも疑問が生まれる。
今まで会ってきた賊は俺が戦うのを見て、逃げたり命乞いをするのが多かった。
また、斬られる瞬間も断末魔を挙げたりしていた。
なのに、この賊達は斬られても断末魔愚か言葉も発さず死んでいく。
誰一人とて逃げようとせず、村人や俺に攻撃してくる。
よく訓練されたのか、熱い結束で作られた集団なら逃げない理由にはなる。
だが、言葉を一言も発さないのは妙だ。

(どうなっているあまりにも奇妙すぎる。)

ちょうど周りから馬の足音が聞こえた。
後続部隊や雲流の部隊だろう。
そこで俺は刀を納刀して、賊を拘束する。

「誰かいるか!」

「ここに!」

俺の声に反応した兵士が近づいてくる。
一応腕の関節を外し、抵抗できないようにして兵士に渡す。

「こいつを拘束して見張っておいてくれ。
 後で尋問する。」

「了解いたしました。」

一人だけではと思い、後三人くらい拘束しておく。
雲流の部隊と胡蝶の指示で賊のほとんどを討伐する事ができた。
兵士には負傷者や村人の怪我の手当て、および火を消したりと村が少しでも速く復興出来るように指示を出す。
そして、俺と胡蝶、数名の兵士と雲流は膝を折り、視線を下に向けたまま何も話さない四人の賊に視線を向けていた。

「さて、何から聞こうか。
 とりあえずお前達の後ろで誰が人を引いているのか教えろ。」

「・・・・・・」

質問を投げかけるが何も答えない。

「答えればお前達の身柄は保障しよう。
 人を殺した罪は重いが、償い、俺達に貢献すれば街で暮らせるように手配する。」

揺さぶりをかけようと餌をちらつかせてみるが、これにも何も反応しない。
雲流の情報が正しければ、賊はどこで人を集めているのかと思わせるくらい、定期的に討伐しても増えてくる。
このご時世、食うに困り追い剥ぎや賊をしざるを得ない状況に陥るのはよくあるが、それを考慮しても明らかにおかしい。
賊の後ろには何かがいると俺は推理しているのだが、情報源である彼らが口を閉ざしたまま。

「さて、どうしたのものか。」

「いっその事、拷問でもするかい?」

「それは効果的だろうが、そんな事をすればこいつらは自害するだろうな。」

「こいつらにそんな根性はないよ。
 さて、まずはどいつから・・・」

どうやら胡蝶は拷問をするという意見で話を進めようとしている。
確かに有効かもしれないが、あまりそういうのは俺は好きではない。
彼らは罪を犯したが、拷問と言う苦しみを味わせようとまでは思わない。
甘いかもしれないが。
ともかく俺は胡蝶を止めようと言葉を掛けようとして。
ポタッ、と小さくだが水が落ちる音が聞こえた。
音の方に視線を向ける。
水が落ちる音ではなかった。
賊の口の端から血が溢れ、それが頬を伝い地面に落ちたのだ。
一人ではない。
四人とも全員が同じように口の端からを流していた。

(まさか!?)

急いで駆け寄り、一人の賊の口を開けると、口の中には血が溜まっていてその中には歯で噛み切った舌があった。
他の三人を確かめるが、同じように舌を噛み切っている。
自害した。

「本当に自害するなんてね。」

「どうなってやがる・・・・」

不可解すぎる。
本来、賊になるのは飢えなどの死を恐れて、生を渇望した結果の一つだ。
なのにこいつらは簡単に命を捨てたのだ。
何がどうなっているのかさっぱり分からない。

「謎は残りましたがこのままここに居ても意味がない。
 する事をしたら、部隊を整え、街に戻ろう。」

「・・・・・・分かった。」

雲流の言うとおり。
死人に口なし。
どれだけ彼らを問い詰めても、もう意味がない。
ある程度村人たちを治療し、雲流は村を再建させるために人を寄越すと村人に約束して、俺達は村を後にした。





「よくやってくれた!
 少しの間だが、賊は現れる事はないだろう。」

街に戻った時には夕方になっていた。
賊を討伐したと言う報告を聞いた苑意は大層嬉しそうな顔を浮かべ、今夜は宴会をあげようといいだした。
玉座の間には長いテーブルが置いてあり、豪勢な量が大量に並べられていた。

「明日にはお主達も曹操の元にも戻る。
 これはせめてもの礼を思ってくれ。」

そう言って俺達よりも早く苑意は食事に手をつける。
相当腹が減っていたようで、下手をすれば俺達に労いの言葉を投げかけるもの億劫だったかもしれない。
いただきます、と合掌し近くになる料理を皿に移して、一口分、口に運ぶ。
確かに美味い。
美味いのだが・・・・

(おそらく貧民街では・・・・)

これも彼らが必死に働いて献上した物が含まれているかもしれない。
俺は箸を置いて、席を立つ。

「うん?どぉうしたぁのだ?」

食べ物を口に含めたまま苑意は尋ねてくる。

「いえ、食欲があまりないので。
 これで失礼させてもらいます。」

返事を聞かずに玉座の間を出て、複数の兵士を集める。
ある事を調べるように指示を出して、俺は街に繰り出す。
どの料理屋も賑わっているが、一部の店は廃れ閉店しているように見える。
ある料理屋を見つけ、中に入る。

「いらっしゃい。」

中にはほとんど客はない。
俺は一番近い席に腰を下ろす。
座ると思っていなかったのか、店主は驚いた顔をして注文を聞いてくる。

「お勧めの料理を。」

「か、かしこまりました。」

久しぶりの客だからか、店主は張り切った顔を浮かべつつ厨房に下がる。
と、前の相席に誰かが座った。
顔を見ると胡蝶だった。

「お前も抜けて来たのか?」

「あんな汚い食い方を目の前で見れば、誰だって食欲無くすよ。」

確かに苑意の食べ方は汚い。
俺は同意し、胡蝶も俺と同じ料理を頼む。

「それで何をするつもりだい?」

脈絡もない発言に少し驚いた表情を浮かべた。

「何か目的があってこの街に来たんでしょ?」

「よく分かったな。」

「縁の行動を見てたら勘付くよ。
 さすがに目的までは分からなかったけどね。」

目的までばれたら本気で胡蝶に隠し事ができなくなる。
さすがに一人では手が回らないので、苑意に対しての容疑、そして今までの賊との関連性を教える。

「ふむ、賊が現れるのは私も疑問に思ってたけどね。
 それで縁はあの男に容疑を絞っているんだね。」

「ここで資料を読ませてもらった結果、その線が濃厚になってきた。
 まぁ、まだ確定したわけではない。
 決定的な証拠が欲しい。
 何名かの兵士に調査を依頼したが、まだ一つ頼めていないのがある。」

「それ、私がやろうか?」

内容を聞かずに胡蝶はそう答えた。

「いいのか?」

「あの男、気に入らないからね。」

至極単純な理由だった。
胡蝶は少し動物的な考えを持っているのだと、最近になって気づいた。
調査して欲しい内容を胡蝶に伝え終ると同時に、店主が料理を運んできた。
運んできたのはシンプルなラーメン。
合掌し、食べる。

「うん、美味い。」

「まぁまぁかな。」

そう言いつつも胡蝶は綺麗に食べ、俺は二人分の料金を店主に渡す。

「自信を持ってくれ。
 この味ならきっとうまくやれるさ。」

根拠も何もないただの言葉。
それでも聞いた店主は涙を浮かべながら、お礼を述べた。
店を出て、胡蝶と分かれる。

「それじゃあ、くれぐれも気をつけてな。」

「ああ、分かっているよ。」

俺達は動き出す。
狐の尻尾を捕まえるために。 
 

 
後書き
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