戦国異伝
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第百二十九話 一月その六
「御主は勘十郎と共に都におれ、しかしじゃ」
「いざという時はですか」
「御主が都の兵の一部を率いて動け」
そして乱を収めるなり何なりをしろというのだ。
「兵を動かすのは御主の方が上手じゃかなら」
「畏まりました」
「勘十郎には出来るだけ都にいてもらいたい」
これは彼の資質故である、彼は政の者であり文には長けている、しかし戦については不得手だからなのだ。
「これまで通り都を守れ」
「兄上に何かあった時もですか」
「御主は御主の責を果たせ」
都を守れというのだ。
「よいな」
「では都は必ず」
「流石に都を任せられる者は少ない」
人材の多い織田家においてもだ。
「御主か爺位じゃからな」
「平手殿は岐阜ですからな」
信広が言う。
「岐阜城で留守を、ですな」
「うむ、出来るなら爺も越前に連れて行きたいがな」
だがそれでもだった、留守役も必要だからだ。
「岐阜を空には出来ぬ」
「だから、ですな」
「ここは」
「都は御主達に任せ岐阜は爺に任せる」
そのうえでだというのだ。
「わしは十万の兵を率い家中の主な者達と共に越前に入る」
「そして朝倉を、ですか」
「降しますか」
「兵を動かしたのを受けて戦わずに降ってくればよいがな」
戦わずして勝つ、これが最上だというのだ。
しかしそれが今は可能か、その是非はどうかというと。
「朝倉家も意地というか誇りがあるからのう」
「あくまで戦うでしょうな、あの家は」
「そうしますな」
信行、信広もこう見ていた。
「そして戦いますな」
「そうしてきますな」
「うむ、まあ金ヶ崎を抜いてじゃな」
それからだった、信長は既にその頭の中に越前の地図も入れていた。要衝である金ヶ崎を抜ければというのだ。
「朝倉家の本城一乗谷じゃ」
「あの城ですな」
「一気に囲み」
「流石に一気に攻めれば朝倉もそこで降るであろう」
観念するというのだ。
「十万の兵でな」
「鉄砲も持って行かれますな」
「たんまりと持って行く」
織田家にとって鉄砲は最早絶対のものだった、だからだった。
「少なくとも二千はな」
「それだけあれば充分ですな」
「より多く欲しいところじゃがな」
このことは信長の欲と言ってよい。
「鉄砲はあればあるだけよい」
「では堺にも声をかけ」
「国友でも作らせよう」
そうしようというのだ。
「そしてより多くな」
「どれだけ必要だとお考えでしょうか」
「一万あればよいな」
大きく出たと思われるものだった、普通の者が聞いては。
しかし信長はこのことをあえて言ったのである。
「それだけな。それに巨砲もじゃ」
「国崩しですか」
「あれをですか」
「うむ、あれも欲しいな」
鉄砲だけではなくそれもだった。
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