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八条学園怪異譚

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第三十三話 踊る本達その一

                   第三十三話  踊る本達
 愛実と聖花はろく子と共に本棚が並ぶ図書館の奥に来た、その図書館の奥はというと席が立ち並ぶ場所よりもしんと静まり返り暗かった。
 その暗い本棚を見てだ、聖花がろく子にこう言った。
「ここは理系のコーナーなんですね」
「はい、医学関係です」
「医学ですか」
「博士もよく来られていますよ」
「そういえば博士はお医者さんでもありますね」
「外科と内科、それに他にも」
 その二つ以外にもだというのだ。
「精神科医でもあります」
「医学関係にも造詣が深いんですね」
「八条大学医学部の名誉教授でもありますよ」
「あれっ、文学部の教授だったんじゃ」
「本来は文学部ですが」
 それに加えてだというのだ。
「医学部や理学部、他にも工学部の」
「名誉教授ですか」
「最初は文学部の教授だけでした」
 あくまで最初の頃はというのだ。
「ですが教授になられて三十年経って。教授になられたのが確か四十二歳の頃でした」
「百年以上前ですよね」
「確かその頃日清戦争か日露戦争がありました」
 日本にとって運命の戦いだったその二つの戦争のどちらかだったというのだ。
「どちらかだったかは私も覚えていませんが」
「一次大戦前からですか」
「そうです、それでなんです」
 それに加えてだというのだ。
「三十年経って」
「それでも大戦前ですか」
 この場合の大戦とは第二次世界大戦である、日本での戦争はこの戦争を差すことが多いがこの場合もそうである。
「その頃から名誉教授ですか」
「大学で三十年教授を務めるとなれます」
 その名誉教授にだというのだ。
「ですから博士もです」
「名誉教授になられたんですか」
「他の学部から贈られまして」
 それでだというのだ。
「博士号を持っておられることが評価されまして、それに論文も書いておられますから」
 この二つによってだというのだ。
「様々な学部の名誉教授も務めておられます」
「しかも現役ですか」
「博士は小柄な方ですので」
 ここでろく子の首がまた伸びた、そのうえで高い本棚の一番上の段を傍に見ながら言うのだった。
「ですからこうして私がいつも一緒に行きまして」
「それで本を探してるんですね」
「そうです、長い首は便利ですよ」
 ろく子はその首を二人のところに持って来て話す。
「動かずに色々なところを見られますから」
「その首ってどれだけ伸びるんですか?」
 愛実は自分達を囲む様にして首を伸ばしているろく子に尋ねた、それはまるで大蛇が獲物を囲む様である。
「前から思ってたんですけれど」
「そうですね、三十メートルは」
「そんなに伸びるんですか」
「はい、頑張れば四十メートルは」
「凄いですね」
「ただ、伸ばし過ぎて千切れるということはないですよ」
 漫画にありそうなことはないというのだ。
「限界がありますから」
「それはないですか」
「人の首も伸ばしてもそれ以上は伸びない長さがありますね」
「ろくろ首もそうなんですね」
「はい、限界があります」
 そうだというのだ。
「そこから先は伸びないです」
「際限なく伸びたり千切れたりはないですか」
「はい、それはありません」
 愛実ににこりとして答える。眼鏡をかけていないと実に優しく見える。 
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