転生者拾いました。
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蒼風の谷
解放
前書き
もうご存知のことと思いますが、新番組「転生者になりました。」がスタートです。
サイモンを下しやっとのことでエリザの部屋にたどり着いた。
お姫様ってのも大変だな。
「セリナ。」
「うん、カズヤ。」
気絶しているサイモンを脇にやって扉に手をかけセリナと力一杯押す。見た目以上に重い扉は疲れた身体にはくる物があるが、あえて言うならば愛の力でここまで来たのだ。ならばやり通さねば。
次第に扉が動きその間から光が漏れ出す。そして少女特有の高い声が聞こえてくる。
だが、いきなりそれが怒声に代わり、魔力の収束を感じた。この感じは大規模射撃魔法、所謂砲撃魔法。
「Licht・Magier!Sparkle eiskaltem(冷たき氷の輝き)!」
この声はエリザか。それでもって拡散砲撃魔法か。
※魔法の種別に関しては後日詳しく解説。
途端に強烈な冷気が扉の間から吹きすさびオレ達を震え上がらせた。
そのお蔭でさらに体力が奪われ意識まで朦朧としてきた。
「大丈夫?」
「……ああ、なんとか。」
寒さに震えつつも扉を押し開ける。
中には二人の少女がいた。一人は後ろを向いているが髪色からエリザであることが分る。もう一人に顔がエリザの頭とかぶって見えないが、あの銀髪は見覚えがあった。
「エリザ。」
「カズヤ様、セリナさん。」
ハーフエルフの姫が応えてくれた。彼女の目が少し赤らんでいる。泣いていたのだろうか。
その陰から銀髪が立ち上がる。
「お久しぶり、と言えばいいですか?死神さん。」
「おまえは……!」
こいつは、蒼風の谷であったあの女。シルバ・ミラー。オレたちを殺そうとした敵。
自然と身を構えて相手の出方をみてしまう。
「待ってください、カズヤ様!彼女は敵ではありません!」
「エリザ、退いてくれ。」
シルバ・ミラーとオレの間にエリザが両手を広げて立ちはだかる。
「いいえ、退きません。どうか彼女を……。」
「あいつはエリザたちを殺そうとしたんだぞ!」
「彼女は改心しました!あたくしたちを殺そうとしたことを。」
「だが、あいつは白光教会の人間なんだ。人間至上主義を掲げる危険な組織だ。ハーフエルフのエリザが擁護する必要はない。」
「しかし……。」
「もういいのです。エリザ様。」
シルバ・ミラーがエリザを脇に押しやりオレの前に出てきた。
「ワタシは断罪されるべき者。幾千の命を刈り取りました。」
「だめです!シルバさん!」
「罪は償う必要があります。」
銀髪の少女がオレの前で頭を垂れる。
「どうぞ、斬るなり犯すなりしてください。」
「シルバさん!カズヤ様、どうか彼女のお許しください!彼女は罪を強いられていたのです!」
エリザがシルバ・ミラーの隣で膝を突いて懇願する。
「……無抵抗の女性を斬る趣味も犯す趣味もない。消えろ。」
「はい。では。」
シルバ・ミラーは窓に向かって歩いていき、こちらを一瞥して窓をすり抜けていった。
どういう原理かわからないがあいつの魔法の一つなんだろう。仮に落下死しても俺は知らない。
「……どうしてですか、カズヤ様!彼女──!」
「彼女は敵だ。それ以上でもそれ以下でもない。」
「ねえカズヤ。」
いままで黙っていたセリナが口を開いた。
それに応えて振り向くと言葉ではなく手が飛んできた。
パンッという乾いた音が部屋中に響き首があらぬ方向を向く。
「なんで……。」
「え?」
「なんで話も聞いてあげないの!?確かにあの子は私たちを殺そうとした!でも、あの子泣いてた。目が赤かった!」
「そうです。なぜ、シルバさんのことを知ってあげないのです!彼女は苦しんでいるんです。強いられた罪に、自分の運命に。」
「だが……。」
「カズヤ様のバカ!」
セリナに打たれた反対側の頬をエリザの右手が炸裂し、オレは床にはり倒された。床から見上げると彼女たちの肩が震え、唇が何か言いたげに震えていた。
だが、事実を曲げることはできない。オレは認めない。犯罪者は犯罪者だ。
その後、オレたちは大事なく城から脱出し、南部王国の関所に向かう。どうせこの国にいても反逆者として捕まるだけだ。幸いオレたちのギルドカードはサイモンのポケットに入っていたので身分を証明する分には問題ない。家にもサイモンの手が回っているだろうから、身一つでの出奔だ。
後書き
凍てつく夜、氷れる家
暖をとる火は確かに暗く
次章 濁り銀
次回用語解説入れます。
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