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ネギまとガンツと俺

作者:をもち
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第4話「仕事―裏」



 夜になり、ついに動き始めた。

 なぜかこの世界では、太陽が出ている時間は動くことが出来なかった彼等だったが、日が沈み、夜になればまたいつものように動くことが可能だと判明したのだ。

 そんな彼等が最初に欲したのは食事だった。睡眠は動きのとれない昼に十分にとっている。性欲は彼等に存在しない。雌雄同体であり、各個体で子をなすことが出来たからだ。

 彼等は夜を駆け抜ける。最近見つけた餌を求めて。

 美味で、量も多くて食べ応えのある、しかも大量に生息している、そんな餌。

 そして彼等は今日も食べつくす。

 人間を。




 急に背筋がぞくりとして、まどろみにいたタケルはベッドを飛び起きた。

「……今のは」

 確かに覚えのある感触だった。何かを考える前に慌ててスーツを着込み、制服をその上に。各種武器も装備して強化スーツを目の前に少し考える。

 ――これ、どうするか。

 あまりじっくり考えている暇はないので、すぐに結論を出さなくてはいけないのだが、これを着ていくのは少し躊躇われた。

「……よし」

 とりあえず、敵星人の情報を見てから判断しようと、強化スーツを抱えて、転送を待つ。

「開放されてなかった、か」

 どこか感慨深そうに言葉を呟き、目を震わせるのも一瞬。次の瞬間にはいつもの何の感情も見せない無表情を見せていた。

「……?」

 いつでもこい、と覚悟を決めたはずのタケルだったが、いつまでも始まらない転送に疑問を覚えた。

 ――勘違い……だったか?

「いや、だがそれにしては……」

 不審に思い、特に意味もなく周囲を見渡す。首をめぐらせ、部屋に変化がないことを確認。今度は装備の一つ一つを確認し始める。

 スーツ、変化なし。

 ためしにビー玉を握れば一瞬で粉微塵と化した。

 バイクも点検したが、特に変化は見当たらない。強化スーツを抱えていることが問題だろうか、と考えて、それを手放す。

「……」

 それでも変化が起きないので、今度は各種装備の点検を始める。右足のホルダーにはYガン、左足にはガンツソード。腕にはZガンを所持。

 床にはXガンと、Xライフルが転がっている。本当はこの両者ももって行きたかったのだがあまり大量に荷物を持っていっても使い切れないのだから仕方ない。遠距離の敵ならZガンで潰し、近づかれたらソードで斬る。Yガンは再生したりする特殊な敵用に必要だ。

 特に異常は見当たらない。

 最後にコントローラーに目を配り、

「!?」

 その表情を一変させた。

「……点が4つ?」

 転送されてもいなければ、ガンツの下らない歌も、頼りにならない敵情報もない。ただ、そこに赤い点が表示されていた。

「どうなってる?」

 少し考える。
 なぜか存在しない大きな黒球、ガンツ。持ってきていないはずの各武器。

「ここでミッションか?」

 おそらく制限時間もない。それなら転送もないことに少しは納得がいく。だが、転送がないとすれば、その分怪我をすればアウトということになるのかもしれない。

「……やるか」

 放っておくわけにもいかず、再度敵位置を確認する。

「近いな」

 強化スーツを着ていこうか迷う素振りをみせる彼だったが、首を横に振った。

 ――どうしても敵わないと感じたときでいいだろう。あれは出来るだけ使いたくない。

 ステルスで姿を消し、窓から飛び降りる。寮は4階だが、そんな些細なことを気にする必要はない。見事に着地して、敵の姿を確認するためにも赤点が指す位置へと急いだ。




 一人の女性徒が夜道を歩いていた。

 友人すら連れず、黙々と歩く姿は武道を――特に剣道を経験したことがあるのなら見惚れてしまう程に強烈な存在感をかもし出していた。

 普段の徒歩からして背筋は伸び、よどみのない歩調。片手に掲げられた竹刀袋をいつでも抜き放てるかのような、そんな気配すら感じられる。

 街灯が照らすコンクリートを進む。

 そして、彼女がフと何らかの気配を感じた時、バケモノが目の前に降り立っていた。

「!?」

 反射的に彼女は後ずさり、竹刀袋から真剣を抜き放った。

「私がこんな距離まできづかなかった?」

 呟き、相手をじっくりと観察。

 身の丈4Mはあるだろうか、さらには筋肉質なその肉体をまるで誇示するかのように、上半身は裸、下半身はジーンズという変態全開な格好。それだけでも十分に異常だが、目を引くのはそんな部分ではなかった。

 全体を通して緑の体。背中には大きな甲羅が、腹部にも甲羅らしき部分が見える。両手両足には指といえる形状の部分は存在せず、代わりとして異様に鋭い爪が伸びている。時々見え隠れする口からは歯が見えず、嘴のように顎を尖らせている。皮膚の表面に見え隠れしているのは鱗だろうか。

 いうなれば2足歩行する巨大な亀、とでも言おうか。殺気はゼロに等しい。セツナが接近されるまで気付かなかったのはおそらくそのせいだろう。

 ――式紙か?

 間合いを計るように後退し、構える。

「何者だ!?」

 凛と透き通る声にも反応はしない。ただ、涎を垂らし、息を荒くさせ始めていた。

「……ぐる、めし、えさ……ひと」

 意味不明なことを口走るバケモノに、首をかしげたセツナだったが、次の瞬間には動いていた。

「えさ、ひとぉおおーーー!!」

 異様な雄たけびをあげた緑の怪物が大口を空けてセツナに飛び込んできたのだ。単調で、決して早いとはいえない動きだが、それでもその巨体だ。わずかにでも貰えばひとたまりもないだろう。

 咄嗟に飛び掛ってきた相手を飛び越えて、背面を切りつけ、バケモノの背後に降り立つ。

「っ」

 斬りつけた感触は分厚い鉄鋼に近いかもしれない。逆に彼女の腕がしびれそうになった。一方で斬りつけられた方のバケモノはその口をコンクリートにめり込ましていた。頭を上げ、それが人ではなかったことに今更ながら気付いたバケモノは噛み砕いていたコンクリートを吐き捨て、首を回し、セツナを見つけて、向き直る。

「……あれを喰らえばひとたまりも」

 自分でいってゾッとしたのか、慌てて構えを取る。狙うのは甲羅に覆われていない首。またもや何の芸もなく突っ込んできたバケモノを、先程と同じ要領でひらりと飛び越える。伸びきった首に刀を振るう。

 ――もらった。

 そう考えて一瞬だが気の抜けたセツナに、バケモノは恐ろしく異様な反応を見せた。狙われた首を引っ込め、その刀を避けた。それで終わりならばまだ良かったのだが、一旦引っ込められた首が今度は角度を完全に転換させ、セツナに伸びた。しかも、動きの遅い本体とは違い、首だけは異様なまでに早い。

「なに!?」

 はらわたを食いちぎろうと開かれたその大口は、だが、セツナが空中で必死に身をよじったため、かするだけですんだ。

 肉をかすかに持っていかれただけなので致命傷ではない。脇から滲み出した血がその痛みを発信するが無視する。目の前の敵を見据え、再度、刀を構えなおす。バケモノはわずかの肉片をゆっくりと咀嚼し、その滴る血をごくりと飲み干して味わっている。

 ――こうなったら。

 腹を決めて気を集中させる。

「一息に……斬る」

 普通の人間にならそれは不可能の領域。刀はどれだけ切れ味鋭くとも鉄。鉄が鉄に近い物質を斬るなど、並の技量では不可能。しかも、相手の甲羅は分厚い。50センチはあるかもしれない。これを斬るなど達人でも難しい。技を超えた業に近い。

 セツナは中学2年生。たとえ幼少期からその身を真剣においてきたとして、どれほどの修練をつもうと、どれほどの才にめぐまれていようとも。

 たかだか十数年の歳月で達人に至れるほど、その道は簡単ではない。

 だが、彼女にはそれが可能だった。

 ――甲羅は実際には鉄ほど硬い物質ではないから?

 否。

 ――彼女の刀が鉄以上のもので出来ている?

 これも否だ。

 答えは簡単。

 彼女の剣は神鳴流だからだ。

 神鳴流とは、数百年に渡り、京の深山に秘して伝わり、決して歴史の表舞台に出ることはなかった神鳴る剣の流派。

 気を込め、相手を迎え討つ。

 そう覚悟したセツナだったが、不意にバケモノの首が何かに弾かれた。

 ガン

 という鈍い音共にその首が何度もはじける。

 だがダメージはないのか、首をめぐらせて体をセツナに向ける。

 ――来るか。

 とりあえず今のが何だったか、心当たりのある人物がいるが気にしないことにした。




 竜宮 真名はじっと目を閉じ、その気配をたどっていた。今回の仕事は最近人を連続で襲い、無残な殺し方をしているという猟奇犯罪者。

「捕獲。それがむずかしければ始末してもかまわない」という仕事だ。

 どういう経緯かは知らないが、今回の仕事がマナに回ってきたのだった。

 ――……捕獲しようと思っていたが。

 スコープから標的を見やる。そこでは標的と戦う一人の少女がいた。

 桜咲刹那が苦戦している。甲羅も硬いらしく、顎の力も異常なほどに強い。

 ――式紙でも、魔法でもないようだが、あれは一体?

 彼女なら大丈夫だろうと、スコープから観戦していたマナが、事態は一変した。彼女の脇をかすめ、肉を食いちぎったのだ。

 傷としては浅いようだが、彼女の覚悟を決めさせるには十分な一撃だったらしい。なにやら気をこめ始めている。

 確かに、甲羅が硬い上に、あの首の尋常ではない動き。それに加えて顎の力。難敵といえる。

 ――だが。

「こんな街中では……感心しないな」

 誰かに見られては証拠を消すのに一苦労してしまう。何せ彼女の仕事には証拠隠滅も含まれているのだから。

 なぜ、とは聞かなかったし、必要もない。それが彼女の仕事のやり方だから。

「……やれやれ」

 ライフルを構え、おそらく射撃としては超長距離といえるほどに離れた位置から異物の頭部と思われる位置をねらう。

 といっても狙いは一瞬。

 何の躊躇も見せずに放つ。約3キロメートルは離れているであろう距離から放たれた銃弾は的確に頭部の、しかも急所の一部であるこめかみを撃ち抜いた、に見えた。

「なんだと?」

 ありえない、そう言いそうになってぐっと堪える。スコープを覗き込むが全く効いた様子はない。衝撃に首が弾かれただけのようだ。

「なら」

 小さく呟いた言葉は、そのまま銃撃となって放たれた。

 ピスピスピス

 3発ほど続けて放たれた狙撃は狙い通りに全て眉間に。

「……む」

 それでも効いた様子はないようだ。それどころか、楽しんでいるようにも見える。顔をしかめて、スコープから目を離す。

 この銃が効かないとなると――

「――あれか」

 いつも以上に少しだけ残酷な笑みを浮かべ、準備のためにその場を離れようとした時、それは起こった。



 
 カメ星人―ガンツからの情報はなかったのでタケル命名―の3体目の首をガンツソードで切り飛ばし、再びレーダーの確認に移った。

「数も戦闘力も下の上クラスか」

 点数としては4点前後だろうか。

「あとは……」

 少し顔を顰める。最後の一体はいつの間にか結構な距離を移動していたらしく、学園の近くにまで迫っている。しかもその位置から動いていない。

 ということは獲物を見つけたか、はたまた既に捕食中か。

「急ぐか」

 全力で駆け出した。所詮は同じ街だ。ガンツスーツなら一分とかからず到達できる位置にあった。

 屋根に飛び移り、乗り越え、また飛び移り。そしてカメ星人を見つけた。どうやら獲物をまだ捕食できていないようだった。

 小さくホッとしたのも束の間。その襲われている少女に見覚えがあった。

「桜咲……さん」

 一瞬だけ葛藤が生まれた。この星人たちのことを話すわけにはいかない。なぜなら。もしかしたらまだ頭に爆弾が残っているかもしれないのだから。

 先程試しにエリア外に移動しようとしたところ頭の音はならなかった。もしかして、と思いそのまま外に出ようとしたのだが、見えない壁でもあるのか、どうしてもその先に進めなかったのだ。爆弾はないと確定したいが、勝手にそう決め付けたせいで頭が吹き飛んでしまっては意味がない。

 病院にいって確認したいとも思ったが、もしそれで爆弾が残っていて、そこからばれてしまっては頭を吹き飛ばされてしまうので、それもムリだ。

 現状の彼には頭を確認する手段がないのだ。
ともかく、そういうわけでこういった狩りをしていることがばれるわけにはいかない。

 躊躇っている間にも、気付けばセツナの脇からは血が滲んでいる。

「……っ!」

 適当に誤魔化す!

 そう決めた彼はZガンを置き、ソードを手に取った。Zガンで一気にケリをつけてしまいたいが、彼女が範囲内にいるので、そういうわけにもいかない。

「ふっ」

 小さく息を吐き、空中で力を溜めて、標的へ。

 いくつもの死で染められたその黒塗りの刃を振り下ろした。

「あ」

 小さな声が聞こえた気がした。

 直前に気付いたカメがタケルの存在に気付き、首を甲羅に引っ込める。だが、それは無駄なこと。タケルにとって、狙いは首ではない。

 たとえ、甲羅が鋼鉄のように硬くても。実際に鋼鉄の硬さを持っていたとしても。

 ガンツソードはそれ以上の切れ味を誇る。

 ガンツスーツはそれ以上の腕力を発揮する。

 よって、結果は当然に。

 それを引き起こした。

「な」

 セツナが信じられないモノを見たような顔をしている。

 彼女の目の前には甲羅ごと両断されたカメ星人の姿

 ――こいつが血をもってない星人でよかった。

 両断されたカメ星人と、いきなり現れた黒タイツのタケル。交互に見比べて言葉を失っているセツナを見て、タケルは何となくそう思った。


「……なるほど」

 マナは呟き、踵を返した。

 あの身のこなし、太刀筋、動きのそれ。どれをとっても一流のものだ。いや、一流とは少しちがうのかもしれない。第一、先程の太刀筋も一般的な剣術家のそれと比べても余りに拙いものだったといえる。だが、それは確実に鋭く、無駄は一切ない。いうなれば実戦のみ、死と隣り合わせでこそ会得できる経験という名の太刀筋だ。

 身のこなしも、なにもかもが、実戦でのみ鍛え上げられたものなのだろう。

 拙い。だが、確実に強い。

 初めて見たときから気にかかってはいた。一体いくつもの血を乗り越えてきたのか、それを思わせるほどの目。だというのに身のこなしも雰囲気も、気配の察知もド素人のそれだ。

「……そういうことか」

 普段のそれは彼のカモフラージュ。誰よりも一般人であることを匂わせ、それでいていざ仕事となったら噛み付く。

 正に仕事人。

「まさか、あそこまで徹底した同業者がいるとは――」

 ――面白い。

 くくと喉で笑い、遠いタケルに一度だけ目を送る。彼は彼でなにやらセツナに何かを話しているようだ。

「……問題は解決したな」

 呟き、そのまま闇にまぎれる。

 問題とはカメ星人のことか、それとも――

 ――もはやそこには誰もいない。




「……大和先生」

 少し聞き覚えない名前かもしれないが、大和とはタケルの苗字である。セツナが驚いた表情でタケルの名を呼んだ。

「……先生は一体?」

 彼女の質問に答えようと口を開いたタケルは、突然顔を赤くさせて、あさっての方向をむいた。

 タケルが顔を赤くさせた原因。それはセツナの服だった。

 先程の戦闘で脇をかすかに食いちぎられた時に、当然だが服も破られていたのだ。血は既に止まっているようで、カサブタが出来始めている。肉を食い破られたのはわずかでも、服は30cmほどが破れ、その結果として服がはだけている。

 まぁ、つまりは腹部がはだけて、その綺麗な腹を顕著に見せていたのだ。女性に耐性がなく、童貞暦=年齢のタケルには刺激が強いといえる。

「とりあえず、コレを羽織ってくれ」

 そう言って彼が上着として着ていた詰襟型の学生服―いわゆる学ランと呼ばれる制服―を彼女に手渡す。

「え? ……あの――」

 どうして? と彼女が質問する前に「腹を」と簡潔にタケルが言う。

 腹部に何かあるのか? セツナが自分の腹部に目をやって、そして今更ながらに気がついたのか。彼女もまた顔を赤くさせて慌てて「ありがとうございます!」と礼を言いつつもしっかりとその服を受け取り、羽織る。少しぶかぶかで、それがまた元々から美少女の彼女を、より可愛らしく引き立てている。

「……っく、しまった。そこまではさすがに考えていなかった」

 少々親父臭い趣向を発揮したタケルが一人で焦っていると、「タケル先生?」と首を傾げて見せたセツナと目があった。

 その仕草は彼にとって、どストライクだったらしい。

「……う……ぐう」

 と、苦しそうに顔を伏せる。 

「せ、先生?」

 純粋に心配しているだけなのだろうが、ツツと近寄ったセツナ。それがまたタケルを追い込んだ。

「……あ」
「あ?」
「アウトォォォォォォ!!」

 Zガンはしっかりと回収し、屋根に飛び乗り、そのまま物凄い勢いで遠のいていった。

「ちょ、先生!?」

 だが、セツナの声が彼に届くことはなかった。なぜなら

「おちけつ! ……違う! 餅をつ……じゃない! おおお落ち着けェェェェェェ!」

 と叫びながら去っていったから。

「……?」

 とりあえず、セツナは置いてけぼりを食らったのだった。



 
 翌日、タケルの上着を返そうとしたところ、会った瞬間に土下座をかまされ、それがまた教室内で小さな波紋をおこしたことは、彼女にとって災難以外のなにものでもなかったであろうことは想像に難くない。




 こんな感じで、気付けば彼女の質問を適当に誤魔化すことに成功したのは、『不幸中の幸い』だった。

 とでも言っておこう。
 
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