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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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幻想御手
  Trick16_サメの腹の中さ



木山と会った翌日、初春が調べた幻想御手(レベルアッパー)の情報から、
様々な場所でスキルアウトが幻想御手の取引をしていることが分かった。
そして白井と信乃が手分けして捜査を開始した。




「すみません・・あの・・・・私も幻想御手が欲しくて・・」

「あん! いいぜ! 金さえ持ってくればな!」

「ほんとですか! あ、でもお金がちょっと足りないかもしれないんですが・・
 何かお手伝いできることがあったら言ってください! 私働きます」

「“手伝い”ね・・いい仕事があるけど来るか?」

「はい!」

スキルアウトと幻想御手を欲しがっている弱気な人物の会話。

物語で考えるならここで白井か信乃の登場だ。


しかし、実は買おうとしている弱気な人物こそが西折信乃だ。

信乃は10件ほどスキルアウトのたまり場を訪れたが、そのすべてが偽物、
もしくは麻薬などを幻想御手として売っている奴らばかりだった。

力づくではあまり効果がないと考えて作戦を変更。
購入者として下手にでて情報を得ようと考えたのだ。
すると一度目の取引で成功。今までの努力が無駄に感じたが、とにかく幻想御手の
事だけを考えることにした。



その後、連れてこられたのは廃工場。

スキルアウトのたまり場としてはお約束の雰囲気をしている。

そこには明らかにスキルアウトではない人たちが男女合わせて5人いた。
工場の隅で地面に直接座っており、一人は気を失っているように倒れている。

その周りにスキルアウトが数人がパイプイス座って何か話していた。

この状況、一般人が捕まっているように見える。

「あの・・何の仕事があるんですか」

「まあ焦るなって。ほら、両手を前に出してみろよ、両手首を合わせるようにしてな」

(手首ってことは拘束するのか・・やっぱりあの人たちは捕まっているんだな)

信乃はスキルアウトを全員倒すことも考えた。

しかし、人質がいるために下手に手出しはできない。相手の人数も30人はいる。

(ここは大人しく捕まりますか・・もしもの時は、“あれ”の使用許可もあるし)

信乃は弱気キャラのまま

「あの、これでいいですか?」

素直に手を出した。

「ああ、それでいいよ!」

スキルアウトの男が急に信乃に手錠をかけた。

予想はしていたのだがそのままキャラを続けてわざと動揺した。

「!! なぁ、何するんですか! 仕事はどうしたんですか!?」

「バーカ!! 嘘に決まってんだろ! いや、仕事をやるのは嘘じゃないな!
 お前は俺たちの実験台になるんだ!」

「実験台!?」

「ああ。パワーアップした俺たちの能力の実験台だよ。ボスが人間で試したいから
 何人か集めとけって言われた。よろこべ、お前もその一人だ」

「あ、いや、助けてください!」

「大人しくしとけ。ボスが来たら始めるから寿命を延ばしたかったら変なことするな」

(ということは、ボスはいないんだな。もう少し情報を聞いとくか)

「幻想御手は嘘だったんだな!」

信乃は泣き声で言った。もちろん嘘泣き。

「嘘じゃねえよ。俺たちはそれでパワーアップしてるしな。
 安心しろ! この“仕事”が無事に終わったボスの持っている幻想御手をあげる
 かもしれないぜ! ひゃはははは!!」

「そ、そんな」

信乃は絶望したように膝をつく。

そんな信乃を男は服の上から適当に触り始めた。
変なものを持ってないかを一応調べているのだろう。

男が背中の方も触ったが“なにもなかった”。

そう、信乃はいつものA・Tのケースを持っていなかった。

もちろん、今履いているのはただの靴。


その後にスキルアウトに引きずられるようにして他の5人の中に入れられた。

(よし、この位置なら俺に向かってくる奴を倒せば人質には手を出せない。
 それに奴らのボスが幻想御手を持っているなら、ここに来るまで待った方がいいな)

信乃は人質ごっこを続けることに決めて体を震えて待つことにした。










「少々やりすぎてしまった感はありますが、元々取り壊す予定だったみたいですし・・」

白井の目の前にはガレキになったビルがあった。

信乃とは違い、幻想御手を持っているスキルアウトを探し回り、交渉(ぼうりょく)
で情報を手に入れようと白井は走りまわっていた。


そして数か所を回った先に、スキルアウトに捕まっている佐天を見つけた。

そのスキルアウトと戦闘となって倒す手段としてビルを破壊していまいにいたる。

「さ! 幻想御手をいただきますの!」

白井の左手には襟首を掴んで引きずる状態の男がいて、襟首を強く引っ張った。


白井と先頭になった男の能力は偏光能力(トリックアート)
周囲の光の屈折を変化させて自分の位置を錯覚させる能力である。

白井のテレポートは攻撃範囲が狭く、鉄矢の攻撃も外れて手の打ちようがなかった。

しかし、ビルを破壊という荒業で建物内はすべて攻撃範囲にしてこの男に勝利した。

そして現在にいたる。


白井は男の襟首を引いた。

「はぐあ!」

変な声を出したが、すぐに白井のお願いを聞いてポケットからあるものを出した。

一応、崩壊前に男をテレポートで外に出したので体に怪我はないが、崩壊の恐怖で
精神外傷(トラウマ)のガクブル状態で、白井に抵抗する気力はない。

偏光能力の男が出したものは音楽プレーヤーだった。

「ただの音楽プレーヤーではありませんの。ふざけないでくださいな」

「ち、ちがう! 幻想御手は曲なんだよ!」

音楽プレーヤー。先日、信乃が持ってきた(正確には信乃の知り合いが渡した)
幻想御手の答えと同じだった。

(それでは、信乃さんが持って来たものは本物でしたの?)

白井は疑念を持ちながらも、男の言うことを信じることにした。

「まあとにかく、警備員(アンチスキル)に連絡を」

そう言ってポケットの携帯電話に手を伸ばした瞬間


「まちな、こいつがどうなってもいいのかよ」

いきなり声を掛けられた。

声の方を見てみると、一人の男がいた。

外見はコーンロウのヘアスタイルに筋肉質で長身、そして肌は色黒。
見るからにスキルアウトと分かった。

しかし問題は男ではなく、男が左腕に捕まえている人物。

「ご、ごめんなさい・・白井さん」

「佐天さん!?」

そう、先程スキルアウトに捕まっていた友人がいた。

戦っていたスキルアウトの仲間は全員倒していた。
戦いから時間がたっているから、もう逃げていると思ったが佐天は白井が心配で
近くに隠れていたところをこの男に捕まってしまった。

「ほう、知り合いか。そこに隠れてたから利用しただけだが、トレビアン!
 正解だったみたいだな。そいつを離しな」

「高千穂さん!!」

男、高千穂が現れたことで、偏光能力の男が白井から逃げた。

「高千穂さん! 助けに来てくれたんですか!?」

「そんなんじゃね~よ。散歩してたらビルが崩れる音がして、お前が風紀委員に
 捕まってるからな。一応助けておこうと思ってな、感謝しろよトリック」

「は、はい! 一生ついていきます!」

「にしても派手だな」

高千穂はカレギになったビルを見た。

「あ~これじゃあすぐに警備員が来るな。移動するぞ、トリック。
 常盤台の風紀委員、お前も来い。もちろん逆らわないよな?」

「うッ!」

掴んでいる佐天の首を少し締めた。佐天が苦しそうにうめいた。

高千穂の腕力では、白井の攻撃よりも早く佐天に危害を加えることができる。

しかも、今の白井は戦いの直後で充分には能力を使えない。

「・・わかりましたわ」

しかたなく白井はついていくことにした。

「ほらお前も行くぞ、トリック。あと、アジトに着くまでこの常盤台の奴には手を
 出すなよ。下手に暴れられても面倒だし、アジトなら存分に可愛がれるぜ」

「へ、へへ! わかりましたよ、高千穂さん!」

白井は大人しくついてことしかできなかった。



・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・





「ボスから連絡あった。もうすぐここに来るらしいぜ」

「く~高千穂さん、早く来ないかな! 能力を試したくてうずうずするぜ!」

「だめだ。我慢できない! あの女をいただくぜ」

スキルアウトが見た女は常盤台中学の制服を着ていた。
捕まっている6人の中で一人だけ意識を失っている。

「おいおい、怒られるぜ。でも、レベル3以上しかいない常盤台の女でも
 幻想御手は欲しんだな」

「いや、こいつは“おいしそう”だから俺が連れて来たんだよ。こいつで」

スキルアウトはスタンガンをポケットから出した。

「なんだ、そういうことならボスも怒らないだろ。みんなでおいしくいただくか」

「俺が連れて来たんだ。おれが最初だぜ。グヘヘヘヘ」

歩み寄ってくるスキルアウト達。他の人質は自分の身のことしか考えておらず、
助けようとはしない。

唯一人を除いては

「はい、ストップ」

西折信乃が立ち上がった。手錠をされているだけなので立つことはできた。

「あ~あ、あんたらのボスがくるまで大人しくしているつもりだったのに、
 台無しじゃねえかよ。」

呆れたようにぼやいた。

「なんだ、邪魔すんなよ!」

「痛い目あいたくなけりゃ引っ込んでろ!」

「邪魔するにきまってるだろ。一人の女の子が大変な目にあうのに、何もしないわけ
 にはいかない。ということであなたたちは地面を味わってもらいます」

「あん? なに言ってんだ?」

「つまり、地面に這いつくばっとけっつってんだよ」

「はは、この人数を相手に、しかも手錠付きで何ができるんだ」

「そうだぜ! 俺ら全員レベル2以上はある! 勝てると思ってるのかよ?」

「逆に俺からも一つ聞きたい。いいのか?」

「あ? 何がだ?」

「たった30人で、手錠のハンデだけでいいのかと聞いてんだよ」

「ふざけんじゃね!!」


(さて、これ使っていたのは特殊飛行靴暴走対策室だったし、
  特殊飛行靴暴走対策室 → 室長の“鰐島” → “鰐島”と言えばあの人
 っていう連想ゲームで組み込んだ道もアレだし、手加減してやってみますか)

信乃はジーンズの裾を上げた。

見えたのは足首。そして足首に巻きついている装置と、2つの車輪。


A・Tが流行していた頃、A・T使用者の天敵がいた。

特殊飛行靴暴走対策室、つまりA・T対策の警察。

信乃の足首に付けているのは、特殊飛行靴暴走対策室が使用していた道具。

A・Tを付ける犯罪者を追いかけるには同じようにA・Tを付ける必要がある。

それで作られたのがこの覆面パトカーならぬ≪覆面A・T≫

A・Tを着けていないと偽装することができる。今の信乃がまさにそうだった。

足首の装置が起動、車輪が靴の裏に移動してA・Tとなった。

「行くぜファ○ク共!! テメーらのミソッカスを食い散らかしてやる!!」

調子に乗って“牙の王”の口調を真似て死刑宣告した。






「ずいぶん人気のないところに来ましたのね」

「ああ、ここならどんなに叫び声をあげても誰も気付かない。いい場所だろ?」

「最悪の場所ですの」

4人、トリックと白井、高千穂と捕まったままの佐天がアジトへと向かっていた。

白井と高千穂はたまに軽口をしゃべっているが、佐天は恐怖で全くしゃべらない。

白井の「きっと大丈夫ですの」という励ましにも返事をしなかった。

そして4人は、とある工場に到着した。

「ほら、着いたぜ。この工場だ。トリック、開けろ」

「はい!」

トリックが工場の扉、トラックが入ることを想定した大きな引き戸を開けた。

「ようこそ! ここが俺らのアジトだ!」

高千穂が高らかに言った。


だが、

「残念」

工場の中から高千穂の知らない声がした。

「ここはもうお前のアジトじゃなぇ


 サメの腹の中さ」


そこには西折信乃が一人だけ立っていた。

周りには倒れ伏した男達。工場の梁にも動かない数人もぶら下がっている。

地面や壁には深くえぐる幾つもの斬撃の跡。

まさしく地獄絵といった状態だ。

高千穂も含めて4人は驚きのあまり無反応だった。


しばしの沈黙。だが高千穂がこの沈黙を破った。

「これはお前がやったのか・・?」

「ああ」

短く答える。もちろん倒されたスキルアウトは全員が死亡どころか重傷を負っていない。
ただ、今からやってくる高千穂(ボス)への挑発と警告のために派手に倒した。

信乃の返事を聞き、高千穂の体は震えてた。そして笑顔で信乃を見た。

「おい女」

「え?」

高千穂はいきなり捕まえてた佐天を離して背中を押した。

「あそこに集まっている連中の所に行け」

高千穂が指を向けた先には手錠をした5人が座っていた。

さっきまでは気絶していた常盤台の少女も目を覚まし、全員が茫然としている。

信乃も見ると笑顔で頷いたので、佐天は駆け足で5人の元に行った。

人質が解放されて自由になった白井だが、自分が下手に動いて均衡状態が崩れると
考えてすぐに動かずに信乃と高千穂の湯巣をうかがう。


「トレビアン!」

高千穂が急に叫んだ。

「トレビアンだぜお前! ただのスキルアウトなら、ともかくこいつらは全員が
 能力者だ。それなのにこの状況! ははははははは!」

「それはどうもありがとう」

信乃がそっけなく返す。

高千穂が一歩前に出た。

「ゲームをしようぜ」

「は? 高千穂さん?」

「あなた何を言ってますの?」

「うるせぇお前らは黙ってろ」

トリックと白井の疑問は一蹴された。高千穂が見ているのは信乃だけ。

「ルールは簡単。そこの風紀委員とお前か組んでの2対2。先に全滅した方の負け。
 勝者はあの人質どもを好きにしていい。」

「・・なぜこんなことをする?」

「理由なんてどうでもいいだろ? いや、大事な理由があるな・・」

高千穂はニヤリと笑った。

「お前が俺に一撃を入れられる人間だと思ったからだ! それ以外の楽しい
 理由はねぇ! どうだ受けるか!?」

信乃は返答する前に白井を見た。

白井は頷き、アイコンタクトであることを伝えてきた。

「いいぜ。その話乗った。血痕の道(ブラッディ・ロード)をお前に刻んでやる」

信乃が走り出す構え、スタンディングスタートを構えて

「風紀委員はお前が相手しろ、トリック」

高千穂が指示を出してボクシングの構えを取った。

あとは開始の合図を待つだけ





つづく

 
 

 
後書き
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後書き、または補足話の投稿などでお答えします。

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誤字脱字がありましたら教えて頂くと嬉しいです。
 
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