とある星の力を使いし者
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第184話
ミサイルの爆発により、周りの建物が倒壊し砂煙を巻き上げる。
煙のカーテンに覆われ肉眼では麻生がどうなったか確認できない。
が、レギンスが装着し改造した駆動鎧には、高性能なレーダーが搭載されている。
もちろん、元の駆動鎧にそんなレーダーは搭載されていない。
レギンスの魔術で改造した際に搭載させたのだ。
駆動鎧の内部から見える彼の視界には、砂煙の中で膝を折っている麻生の姿を正確に捉えている。
このレーダーは姿を捉えるだけでなく、相手の体温や魔力量や怪我など細かい所まで把握する事ができる。
さらにはいかなる結界で探知を逃れてもこのレーダーを誤魔化す事ができない。
ちゃんとした理由があり、このレーダーにはこの世界にはない技術と法則が適応されているからだ。
麻生の周りには半径一メートルほどの円形が覆っているのが確認された。
(咄嗟に星の力を展開して盾にしましたか。)
武器を生成して銃口を麻生に向けて、近づく。
教皇であるバルドから教えられた麻生の能力について、考察する。
(教皇様の話だと能力使用時間は三〇分。
また星の力をうまく使いこなせず、反動も大きい。
おそらく円形に星の力を展開するのも慣れていないはず。
ミサイルの爆撃も少なからずは通っている筈ですね。)
レギンスの考察は正しかった。
麻生の身体は傷つき、爆撃の影響か火傷なども負っている。
直前に身体に掛かる負担を無視し、慣れない星の力で円状に防壁を張ったが、如何せん咄嗟なのと星の力で防壁を作った事がない経験不足で完璧な物は創れず、ミサイルの爆撃を受けた。
(おそらく、あいつは俺の居場所を見つけるレーダーか索敵魔術を使っている。
それもかなりのだ。)
結界を張っているのに居場所がばれたのはそれしか考えられなかった。
未だに砂のカーテンが覆っているが、眼を強化し、武装をしたレギンスがこちらに向かってくるのが見える。
(ここまでか・・・こんな所で俺は、死ぬのか?)
悲観的な考えだが、身体の疲労やこれまでの戦いを考えるにもはや手はない。
(俺は・・・ここで・・・)
ふっと意識が遠のく。
身体は疲労困憊で精神力だけで奮い立たせていた。
だが、目の前には『死』という敗北しかない。
力が抜け、前に倒れ、眼を閉じた瞬間。
彼女達の顔を思い出した。
「ッ!?」
両手にない力を振り絞り、支える。
(そうだ。
そうだったな。)
まだ死ぬ訳にはいかない。
自分の帰りを待ってくれている人達がいるのを思い出した。
(全く死ぬまで足掻くとか言っておきながら、あいつらに助けられるなんてな。)
絶望的な状況ではあったが、彼女達の顔を思い出してふっと笑みが浮かんだ。
満身創痍だが、彼女達の顔を思い出すと力が湧きあがってきた。
しかし、現実は残酷である。
力が湧きあがっても、レギンスに対する対抗手段がない。
再び打開策を考える。
(普通に戦っても勝てない。
この星の力を使った有効な手段は・・・・)
そこで何かに引っ掛かった。
(『星の力』・・・・)
眼を閉じる。
余計な情報をカットして、深層領域に入り込み記憶を探る。
誰かがこの力について話していたのを思い出す。
『星の力とは単に身体能力を爆発的に向上させるだけではない。
このように術式や霊装と連携させる事で、さらに進化する。
この力で武器を創るのもありだが、その場合確固たるイメージを持ってやらなければ、中途半端な武器になり本来の性能を引き出せない。』
あれはオッレルスが学園都市に襲撃を仕掛けてきた時だ。
彼は星の力を扱う魔術に乗せて使っていた。
(確固たるイメージ・・・術式や霊装との連携・・・・)
どれも今の麻生では行った事のない技術。
下手をすれば自身にかかる負担は大きいものかもしれない。
でも、レギンスを倒すにはこの方法しかない。
(やるしかない。)
眼を開け、近づくレギンスに視線を向ける。
彼は律儀に眼を開けるのを待っていたのか、数メートル離れた所で銃口を向け、佇んでいる。
「お祈りは済みましたか?
では、さようなら。」
有無を言わさず両肩と腰にあるマシンガンのような銃口は火を噴く。
何百という弾丸が一秒間に発射され、麻生に向かって飛んでいく。
片目を瞑り、左手を突き出す。
脳内で熾天覆う七つの円環の思い浮かべ、そこに星の力を練り込ませる。
そして。
「熾天覆う七つの円環!!」
麻生の前方に七つの花弁が展開される。
蒼い炎を纏わせながら。
最初に一秒程度しか持たなかった熾天覆う七つの円環だが、星の力を練り込ませた蒼い熾天覆う七つの円環は全ての弾丸を受け止めながらも、その花弁を一枚も削られる事はない。
何千と言う弾丸を撃ち、これでは花弁を突破できないと判断したレギンスはマシンガンを止める。
麻生は慣れない事をしたせいか、息を切らしているが。
「なるほど。
これなら・・・戦えそうだな。」
顔は笑っていた。
ようやく一方的な戦況が動き始めた。
足に星の力を纏わせ、レギンスの横に移動する。
高性能のレーダーでも麻生を捉えれらず、肉眼でも影を追うので精一杯だった。
「ちぃ!?」
初めて苛立ったような舌打ちをしながら、麻生の攻撃を受け止める。
当然、突き出された左手には星の力が纏わせてある。
右手でそれを受け止めた瞬間、腕を覆っていた駆動鎧がボロボロに腐敗するように装甲が剥がれていった。
「なにっ!?」
すぐさま手を払い、足裏からジェット噴射のような炎を出し、大幅に距離を開ける。
剥がれた装甲はグチュグチュと肉を喰うような音を立てながら、補強されていく。
麻生は驚きながら自分の手を見つめている。
まるで、ここまで上手くいくとは思っていなかったかのようだ。
(急にここまで成長するとは。
いやはや、教皇様が危惧する訳ですね。)
(妙に馴染む。
疲労でばてると思ったが、何となく纏っているよりかは調子がいい。)
今まで麻生は星の力をただ何となく纏って戦っていた。
そもそも、彼はこの力を扱い方を誰かに教えて貰った訳ではなく、独自に編み出した戦闘方法なのだ。
実際に真面なアドバイスを聞いたのは、あのオッレルスが初めてである。
道具や術式など、人が扱うあらゆる物には正しい使い方や手順がある。
間違った扱い方やただ何となく扱っていては、その物の本来の力を発揮できないばかりか、使用者に負担をかける場合もある。
麻生がまさにそれだ。
無論、例外があり一般的に正しいと言われる使い方や手順に合わず、自己流で扱う者もいる。
(調子に乗られるとまずいですね。
ここは・・・・)
三つの眼から異質な魔力が放出され、それが中央に集まっていく。
あの兵器を使うつもりだ。
一発目より魔力量が少ないが二発目より確実に威力は上。
「避けるなら避けて構いませんよ。
あなたが避ければ、後ろの建物で頑張っているお友達はあの世行きですがね。」
軽く視線を後ろに向ける。
離れた位置だが、教皇庁宮殿が見える。
今頃は上条と五和がC文書を破壊する為に、神の右席と戦闘しているだろう。
「充填完了。
今さら私を攻撃しても遅いですからね!」
不利になりつつある状況を、必殺の兵器で打開しようとしている。
それも麻生が確実に避けないように人質を取るような真似をして。
左手を強く握りしめ、星の力を左手に纏わせる。
イメージはナックルグローブのように人を殴るに最適の武装を。
さらに強化の魔術に星の力をブレンドさせる。
ありったけの星の力を!
足に力を込めレギンスに殴りにかかる。
それに応じて波動砲を麻生に向けて発射させる。
二つの異なる力はぶつかり合い、拮抗する。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
その拮抗は速くに崩された。
勝敗を決した原因は供給されるエネルギーの量と相性。
レギンスが放った波動砲のエネルギーは、レギンスが改造した駆動鎧から供給される。
故にそれ単体では限界がある。
だが、麻生は違う。
彼には星と言う無限ともいえるバックアップが存在する。
星が死滅しない限り、星の力は彼が求める限り供給され続ける。
レギンスの波動砲は徐々に押され、遂には。
(エネルギーが持たない!?)
甲高い警告音とDANGERという赤い警告文字が画面を埋め尽くす。
波動砲はエネルギーが切れ、収束していき、最後には消えていった。
消えた瞬間の隙を麻生は見逃さない。
ナックルグローブを解除し、既に頭の中で描いていたイメージを現実に創り上げる。
創ったのは麻生の身体よりも二回りくらい巨大でゴツゴツした斧剣。
それはギリシャの英雄ヘラクレスが使っていたとされる本来なら弓の形状をした宝具。
麻生は弓ではなく敢えて剣として創った。
弓による宝具ではレギンスに時間を与えてしまう。
だからこそ、彼は神速の領域まで昇華した剣撃を繰り出すのを選んだ。
斧剣に星の力を注ぐ。
腕を補強する、これから行う攻撃を完璧に放てるように。
「行くぞ。」
レギンスは後ろに下がる。
新たなエネルギーとなる人間を捜すために、レーダーに目を走らせる。
その前に懐に麻生が飛び込んだ。
脳裏には八つの斬撃をイメージしてある。
後はそれを現実へと形にするだけ!
「是・射殺す百頭!」
八つの斬撃を急所に向けて放つ!
「ッ!?」
危険と感じたレギンスは斬撃が身体を斬り裂く前に、あるボタンを押す。
瞬間、背中の装甲が開き、強制的に後ろに吹き飛ばされる。
その後、麻生から繰り出された八つの斬撃で駆動鎧が粉々に斬り裂かれた。
瓦礫の上に吹き飛び、身体中に鈍い痛みを感じる。
駆動鎧による反射神経の強化がなければ、あのまま無残に斬り裂かれただろう。
「咄嗟に脱出したか。
抜け目ない奴だ。」
声を聞いて顔を上げると、麻生が目の前に立っている。
手には先ほどの斧剣はなく、代わりに一般的な西洋剣が握られていた。
かすかに星の力が含まれているのが分かる。
「私をどうするつもりですか?」
「ダゴン秘密教団、お前達の魔術。
聞きたい事は山ほどある。
一緒に来てもらうぞ。」
と、胸ぐらを掴んで強引にでも連れて行こうと、腕を伸ばした。
すると、ピシリと何かひびが入る音が聞こえたと思ったら、レギンスと麻生の伸ばした指の間の空間にひびが入っているのが確認できた。
小首を傾げた時、ひびは瞬く間に周囲に広がり、空間が割れた。
割れた空間から見えた風景は何一つ変わらない。
ただ目の前で尻もちついていたレギンスの姿が見えない。
辺りを見回し、すぐに見つける事ができた。
少し離れ半分ほど倒壊した建物の屋上にレギンスと、隣には藍色の長袖の通ったマントを羽織り、同じ色の長ズボンを履いた長身の男が立っていた。
髪はうなじ辺りまで伸びていて、眼は氷のような冷たさを感じる。
「サイキ・・・貴方が来てくれるとは思いませんでした。」
「バルド様が勝手に出て行った貴様を助けて来いと命令されたのでな。」
視線を麻生に向けたまま二人は会話をする。
サイキと呼ばれる男からは身を凍らせるような殺気を向けられている。
(こいつ、強い。)
だが、引く訳にはいかない。
剣を握り直し構える。
「少しだけ相手をする。
その間に戻る準備をしていろ。」
「分かりました。
任せますよ。」
サイキはゆっくりを手を振り上げる。
振り上げた手に沿って半径二〇センチ程度の丸い円が幾つも浮かび上がる。
それらは一瞬光ったと思うと、レーザーのようなのが発射された。
横に移動してそれらをかわす。
レーザーを受けた地面は綺麗にレーザーの形をした穴が空いている。
「貫通力は凄まじいが、当たらなければな。」
レーザーを避けながら麻生は確実にサイキに近づく。
サイキはそっと手を倒壊した建物に触れる。
瞬間、建物は一瞬で塵になった。
奇妙な現象に麻生は足を止める。
塵はサイキの周囲に漂っている。
(あれも魔術なのか。)
サイキが右手を麻生に向けると塵は凄まじい勢いで麻生に近づいてくる。
星の力を斬撃として飛ばすが、塵は周囲を万遍なく覆い尽くす。
「捉えよ。」
呟くと塵は麻生を中心に集まり、黒い球体となって麻生を封じ込めた。
(何だこれは!?)
星の力を纏おうにも封印術式なのか、上手く纏う事はできない。
内側からの脱出は不可能と考えた麻生は外からの攻撃で破壊する。
自分の身体を斬らないように鎌鼬を発生させ、球体を切断する。
球体から脱出したころにはサイキとレギンスの姿はどこにも見当たらなかった。
「逃げられたか、くそ!」
堪らず地面を強く踏む。
あと一歩で貴重な情報を得られるはずだった。
(けど、この力を少しだけ扱えるようになった。)
得られる物も少なくはない。
能力使用時間は残り少ないが、今から教皇庁宮殿に向かい上条達を援護するか、と考えていた時。
「キョウやん!
無事か!?」
「土御門。」
足を引きづりながら土御門は麻生の元に駆け寄る。
「何があった。
台風クラスの風は発生するわ、雷は落ちるわ、おまけには山も消し飛んで。」
「お前が言っていた奴と戦っていただけだ。」
麻生の言葉に土御門は眼を見開いた。
周りを見渡す。
周囲は戦争でもあったかのように荒れ地になっていた。
消し飛び、未だに轟々と燃える山を見つめながら土御門は言う。
「キョウやん、お前は一体何と戦っているんだ?」
「・・・・・・・・さぁな。
俺も知りたいくらいだ。」
この件に関しては麻生も何も言えないと悟った土御門は、何も追及はせずに教皇庁宮殿に向かおうと提案した。
麻生も元から向かうつもりなので、否定はせず能力で土御門の足を治し、急いで教皇庁宮殿に向かう。
土御門の話だと、複数の超音速ステルス爆撃機HsB-02が特殊なブレードを使い、アビニョンを切断したらしい。
戦いに必死で全くそんな事を知らなかった麻生だったが、学園都市が何をしたいのか意図が読めないでいた。
近くには幅二〇メートル、深さ一〇メートル以上の溝が生まれ、そこにはオレンジ色に溶けて崩れていくマグマのような地質が煮えたぎっていた。
溝は街を取り囲むように正方形で切り裂かれている。
「なるほど、街にいる住民を閉じ込め、駆動鎧隊で住民を強引に気球で避難させ、ゆっくりとC文書を回収するつもりか。」
「こんなもん引かれたら外からも入れないしな。
強引な手段を使いやがるぜ、上層部は。」
悪態吐きながら、教皇庁宮殿に視線を向けた。
一機の超音速ステルス爆撃機HsB-02が、教皇庁宮殿を漆黒のブレードで切り裂くのはほぼ同時だった。
それを見た二人の表情が強張る。
「急ぐぞ!」
麻生はそう言って、土御門を腰から捕まえ能力を発動して、一気に教皇庁宮殿に向かう。
中はあの溝にマグマのような地質が引かれている。
「カミやん達はどこに・・・・」
「むっ・・・そこだ。
五和!」
槍を構え震えている五和と傍で気絶している上条を姿を確認し、駆け寄る。
上条は気絶しているが怪我はそれほどひどくはない。
五和はひどく怯えたような顔と、全身から汗を噴き出している。
視線は前方のマグマがある溝に集中していた。
「五和?・・・・五和!」
「は、はいッ!」
肩を揺さぶってようやく麻生達に視線を向けた。
麻生の顔を見て、ようやく五和の表情に少しだけ落ち着きを取り戻す。
「何があった。」
「し、C文書はおそらく上条さんが破壊しました。」
「神の右席相手によくやったぜい。」
「それで、お前は何に怯えていたんだ?」
もしかしたらレギンス達がここに来たのかと、最悪の結果を想像したが、そうであれば五和と上条は生きていない。
五和は何かを言おうとしたが。
「だ、大丈夫です。
何も・・・何もありませんでした。」
寸での所で躊躇い、愛想笑いを浮かべた。
追及する事もできたがした所で意味はない。
何より五和は思い出したくないようなので、とりあえず聞かない事にした。
「そうか。
ともかくここを離れるぞ。
俺達はここに居たらまずい。」
上条を抱きかかえ、教皇庁宮殿を後にする。
「これからどうする。」
「カミやんが起きるのを待ってられない。
俺達は親船が用意した飛行機に乗ってすぐさま、学園都市に戻るべきだな。」
「五和はどうする?」
「わ、私はもうすぐ天草の本体が到着するので、それまでは身を隠します。」
「そうか。
なら、ここでお別れだな。」
麻生は五和の頬を軽く触れる。
突然の行動に五和は顔を赤くし、テンパるが今まで身体を襲っていた痛みが消えた。
「治療しておいた。」
「あ、ありがとうございます!」
ペコリ、と素早く深々とおじぎする。
「そ、その、できればまたお会いしましょう。」
「縁があればな。」
と、複数の人間ではない足音を麻生の耳が聞きとった。
生き残った駆動鎧隊だろう。
五和と麻生達はその場で別れ、三人は麻生の能力で空港に向かう。
親船の息がかかっている人物に誘導され飛行機に乗り込み、三時間ほど経って離陸した。
待っている間に上条は目覚め、状況の説明を伝えると疲労からか、上条と土御門は席に身体を沈め深い眠りにつき、麻生は視線を外に向けていた。
後日、ニュースの発表によるとレギンスが行った数々の騒動は、全て学園都市によるものだという事が報道されていた。
レギンスの魔術で改造されたとはいえ、あれは駆動鎧。
学園都市の仕業と言われても何も言い返せないのが現状であった。
第三次世界大戦の空気が徐々に浸透しつつあった。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています
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