【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス
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役者は踊る
番外編 「自慢できない武ユウ伝?」
前書き
ちょっと試験の都合で自重しなければヤバイので更新停止期間を延長します。8月中旬までには帰ってきます。
8/1 誤字が多すぎて泣けたので修正
これは一夏とユウが藍越学園入試に行く数か月前のお話。
そこは町はずれにある薄汚れた娯楽店。地元学校の元不良OBが経営しており、ビリヤードやらパチスロやらゲーセンで子供がするには少々早そうなものが置かれている。店は実質町の不良たちが占拠している状態であり溜まり場となっている。そのお仲間以外は決して近寄ろうとはしないであろうそこに足を踏み入れる一人の青年の姿があった。
少々童顔で茶色がかった髪、身に着けているのはその町の学校である「駅河中学校」の制服。ただしそこいらの不真面目な生徒とは違いボタンはきっちりすべて留めてあるしズボンも裾を引きずらない普通の長さにそろえてある。制服の改造も奇抜なベルトも付けていなければピアスをしているわけでもない、どう見てもこの場所には不釣り合いな真面目そうな青年だった。
入口で友人と駄弁りながら煙草をふかしていた不良の一人がその少年の存在に気付き、その進行を妨げるように道をふさぐ。
「おいおい、ここはてめーみてぇな真面目なガキが来るところじゃねえんだけど?」
その不良は遠回しに「お前みたいなカモが中に入ったら財布ふんだくられても殴られても文句は言えねえし、助けも来ない。それを分かってんのか?」という意味を込めて道を塞いだ。これはちょっとした確認であり、そのまま帰るならそれでよし、帰らないならば中で先輩方に揉まれてくればいいという意思表示だった。別に目の前の優男がどうなろうが知ったことではないが、余り不良でもない人間に来られると騒ぎが起きて店長が怒るかもしれないから部外者らしい人間が店に入る前にはそうするという暗黙のルールがあるのだ。
その不良の問いに対し、青年はさわやかな笑顔で返答する。
「ここにいる僕の”友達”と”かわいい後輩”に久々にお喋りしに来たんだ。そこ、退いてくれるかな?」
瞬間―――不良の第六感が悲鳴を上げて警告を発した。
(な、何だよこの威圧感・・・!何で、こんな・・・こいつ、何もんだ!?)
この男に逆らってはいけない。この男に手を挙げてはいけない。本能が叫ぶ警告が全身の汗腺からいやな汗が噴き出させ、脚が震える。
目の前の男は相変わらずニコニコと笑みを浮かべているが、その体から発せられる雰囲気から微かな苛立ちを放っていた。その苛立ちが、不良にあることを思い出させる。
(この感じ・・・先輩方を怒らせた時と同じ感じだ!そ、そういえばコイツ・・・いや、この人!)
先ほどこの男は後輩に会いに来たと言った。外見からてっきり同じ1年生かと思っていたが、この人は恐らく最低でも2年、ひょっとしたら3年生。そこに思い至ってからの不良の行動は早かった。
「すみません!どうぞお通り下さい!!」
「ん、どうも」
まるでそれが当たり前であるかのように不良の開けた道を通り、店の扉を開ける青年。
不良を動かしたのは本能に沁みついた「先輩に逆らってはいけない」という序列に対する強迫観念だった。かくして青年―――駅河中学校3年生『残間結章』は不良のたまり場へと足を踏み入れて行った。
後にその不良は自分が恐怖した先輩の正体を知り、卒倒することとなる。
~
昨今の不良は女子が増加傾向にある。実際店内のメンツの半数は女子である。
それは何故かというと、いつの時代も多数派を嫌い少数派を選びたがる反骨精神旺盛な若者たちが「女尊男卑」を何となく気に食わないと考えたせいである。
女尊男卑が女性達にもたらしたのは何もいい事ばかりではない。いわゆる「女はこうあるべき」という社会的な風潮がやたらと広がり始めたのだ。それはやがて「男尊女卑」の男女が入れ替わったような成長性の無い内容へと変わっていき、全く根拠のない勝手な風潮に女性が引っ張られ始めた。
男尊女卑とて男性の中に「それはおかしい」と考える人がいたのだから、当然女性にも同じ考えの人が現れる。そしてそれが喧嘩しているのを見た若者たちがマイノリティに流れ始めた結果が不良女子の増加だった。最近は全国で非行少年(無論男女含む)の増加が社会問題になりつつある。
不良女子は全体的に男女平等を正しい在り方と考えていることが多い。社会の歪みと呼ばれる彼女たちが実は一番まともな考えを持っているとは皮肉な話である。
そしてユウはその甘いマスクと腕っぷしから妙に不良女子に好かれているわけで。
「ユウさん!!何よ何々?超久しぶりじゃないですかぁ!!」
「ユウさんちーっす!!」
「お久しぶりです、先輩!!この紅茶どうぞ。安物の上に飲みかけですけど」
「止めーや馬鹿たれ!さり気に間接キスを狙おうとするんじゃないわよ!!」
「久しぶり、とは言っても学校で会ってるメンツもいるけどね」
こうなる訳である。あはは、と苦笑するユウに近づいてくる後輩たち。男子で寄ってきているのもいるのだが、女子連中のエネルギーに押されて後方へ追いやられている。さながら韓流スターを追いかけるおばちゃまたちの如く。口に出したらリンチ確定だが。
「おい、あれ・・・」
「ユウって言えばあの・・・!?」
「馬鹿、敬語をつけろよデコ助野郎!」
「ナマで見るの初めてだけど・・・正直想像できんなぁ」
「何で同じ男なのにあんなにモテるんだ・・・くやしいのう、くやしいのう・・・」
その他の親しくない方々は尊敬若しくは畏怖の目でユウを見る不良たち。約一名殺気と怨念の篭った目でハンカチを噛んでいるが気にしてはいけない。
~
さて、そろそろ何故ユウがこんな不良のたまり場に来たのかを説明しておこう。
前にも何度か語ったことがあるが、ユウは小学6年生から中学1年の後期辺りまで非常に荒れていた。理由は目標である兄に全く追い付けない事へのいら立ちと自分の弱さ。そんなユウは1年生まではバリバリの不良だったわけだ。
元々難癖をつけてくる先輩を殴り飛ばすなどの行為をしてればそうもなるだろうが、ユウが完全に周囲からも不良と見なされたのはある事件が切っ掛けとなっている。その事件以来ユウはこの店に良く足を運び、そして兄と和解して不良から足を洗った後もこうして時々様子を見に来ているというわけだ。
「いやー今でも思い出しますよ、ユウさんのユウ姿を!」
「さみーんだよてめぇのギャグは!!」
「先輩、死んでください」
「そこまで言うか普通!?・・・ああ、武勇伝と言えば、この前あの人がすげえ久しぶりに店に来たんすよ」
突然同級生である不良の一人―――御手洗数馬が思い出したように言った言葉にユウは首をかしげる。
「あの人って・・・誰?」
「ほら、ユウさんの武勇伝の始まりを飾ったあの鼎先輩ですよ!」
「・・・・・・あ、ああそうなんだ」
完全に引き攣りかけた頬の筋肉を無理やり捻じ曲げて笑顔を作るユウ。喋った本人は気付いていないようだが、その名前はユウにとってある意味もっとも聞きたくない名前だった。それは彼が中学に入学して3か月ほど経ったある日にまで遡る、今でも後悔している事件。
・・・と言っても内容は自業自得なのだが。
~
「ねーねーそこのキミぃ、おねーさんとイイコトしなぁい?」
そんな猫なで声が休み時間の教室内に響く。声の先には腕を枕代わりに机で寝ていた男と、その机の横に立つ美少女。少女はスタイルも抜群で顔もモデルのように整っている。これで声を開けられたのが弾あたりだったら奇声をあげて「喜んで!」等とのたまうだろう。
声の主はこの駅河中学で最も有名な女生徒、二年生の鼎だった。
それを横目で見ていた御手洗は、内心で声を掛けられたユウに同情していた。
(あーあ、お気の毒に・・・”お嬢”に目をつけられたか)
お嬢とは鼎の渾名である。実家が大企業、自身も容姿端麗で非常にわがままな鼎は親の権力を盾に校内で自分勝手なふるまいをしていることで有名だった。気に入らない女生徒を虐めるよう指示を出すのは良くあること、気に入った男を目に入った端から無理やり連れて行き自分の求める行為を強要、抵抗したり飽きるとつるんでいる不良たちに暴行を加えさせ、時には「乱暴された」と虚偽の申告をして退学に追い込むこともあるほどであった。周囲は男も女も教師でさえも彼女に逆らう者はいない。無論彼女も女尊男卑の風潮を良しとしている女性の一人であり、悪い意味で「強い女」の象徴だった。
そんな女に目をつけられたら残る道は唯二つ、飽きられるまでずっと彼女の奴隷に成り下がるか、不良と権力で身も心もボロ雑巾のようにされて立ち直れなくなるかの2択である。
だからこそ―――
「・・・うるさいなぁ、近寄るなよ」
「・・・・・・・・・へぇ?」
(あっちゃー・・・)
そのあからさまに不機嫌そうな声を発したユウを見た御手洗は頭を抱えたくなった。こいつ、ひょっとして相手が誰だか分かっていないのでは?
お嬢は非常に機嫌屋であり、気に食わないことがあるとすぐさま暴力に訴える。以前、彼女の機嫌を損なった女子生徒が警棒で顔面を滅多打ちにするという事件があったほどだ。
そして男の言葉は思いっきりお嬢の機嫌を損ねていた。
鼎が懐から悪趣味なピンク色の警棒を取り出す。スタンガン機能付きの特注品らしいそれは、護身用の名の下に罪もない人を殴りつけてきた彼女の武器だった。
それ以上反応を示さず、眠るように顔を伏せたユウの後頭部に、鼎は躊躇なく警棒を振り下ろした。彼女の持つ警棒は先端がしなり、どちらかというとムチに近いものだ。そしてムチというのは使い慣れた人が使えば先端の速度は音速を超えて衝撃波を発生させる。それが生み出す痛みたるや、喰らった日には何故ムチが拷問の道具筆頭なのかを体で理解することになるだろう。
ッパシィィィィン!!
痛々しい音が教室中に響き、室内の面々が息を呑む。その瞬間、御手洗は信じられないものを見た。
ごっ、と骨と骨のぶつかる鈍い音が教室に響く。
警棒を頭部に叩き込まれたユウが凄まじい速度で立ち上がり、学園の誰もが手を出せなかった鼎の顔面を全力で殴り飛ばしたのである。
殴った位置は鼻に近い顔の中心部。細身に見えるその体から繰り出されたパンチはそのまま鼎を数メートル吹き飛ばし後ろの机をなぎ倒した。相手が鼎であることも女性であることも先輩であることも、その一切の事情を省いた本気の一撃だった。
「近寄るなって言ったよねぇ・・・人の言葉も分からないほど馬鹿なのかな、君は!?」
その時のユウの顔ときたら阿修羅も躊躇うほどに怒っていた。
皆は知らなかったが、その日のユウは寝不足で、朝練中にしつこく一夏に付き纏われ、朝に兄にしつこく話しかけられ、登校途中に馬鹿な男子が道を塞いでおり、教師に授業中しつこく当てられてとこの上なくイライラしていた。鼎は自ら虎の尾を踏んでしまっていたのである。
「・・・う、うう・・・こ、こんなことして・・・カハッ!?」
殴られたダメージと机に叩きつけられたダメージに呻きながらも立ち上がろうとした鼎の顔面を、ユウは何のためらいもなくもう一発殴り飛ばした。余程後頭部に喰らったムチが痛かったのだろう、普段なら一発で済ませるものをもう一発叩き込まれた鼎は完全に意識を刈り取られた。
からん、と固いものが転がり、近くに偶然居合わせた少女の上履きに当たる。それを反射的に見下ろした少女は、次の瞬間悲鳴を上げた。それはユウの拳によって折られてしまった、彼女の血液が付着した奥歯だった。
生々しい暴力の痕跡とそれを為したユウへの恐怖はあっという間に教室中に伝播し、やがて彼らは悲鳴を上げながら教室を出て行った。
やらかした当の本人は、意識を失った彼女を一瞥すらせずに自分の机に戻り・・・
「漸く静かになった・・・・・・ぐぅ」
そのまま眠りについてしまった。残されたのは顔面が真赤に膨れ上がった無残なお嬢とそれを気に入らなかった連中の胸がすっとした顔、そして事態についていけずにポカンとしている御手洗だけだった。
~
「あれから大変だったよな!鼎先輩に惚れてた不良の元締めが怒り狂って全高の不良が集まってよぉ、お前が一人で喧嘩おっぱじめたって聞いた一夏と弾が俺を無理やり引き連れて喧嘩に乱入!挙句反鼎派とジョウさんまで参加しての校内紛争に勃発したんだからなぁ~!」
「センパイすごーい!!真・結章無双だね~!」
「しかも元締めを殴り飛ばした結果ユウが番長になっちまって・・・こいつ何を思ったか番長の称号を俺に押し付けたんだぜ!?おかげで当時の番長が退院するまでの一か月間俺が番長代理をやらされたんだからな~」
「・・・あれ?ユウ先輩どうしたんですか?」
「何でもないよ。ただ、あれだね。若いって怖いね」
今になって思えばどうしてあそこまで馬鹿をやらかしていたのか、思い出しただけでも恥ずかしくて顔から火が出そうである。横にいる後輩の一人が「恥ずかしがっちゃってカーワーイーイー♪」と言ってきたのででこピンをかましておいた。
「そうそう、その鼎先輩なんだけどさぁ・・・お前宛てに手紙を預かってるぞ」
「手紙・・・かい?」
あの事件の後、鼎は暫く学校に来なかった。詳しい事情は分からない。だがその間報復がなかったこと、その後学校に戻ってから急に大人しくなったことから顧みても彼女の心境に変化があったのは確かだろう。
あの後ユウは不良から足を洗った後に彼女に直接謝罪しようとした。だが彼女は近づいた途端に逃げ出してしまい、結局謝ることは出来なかった。だから彼女はてっきり自分の事を思い出したくないのだとばかりユウは思っていた。(時々一夏と親しげに話しているのを見かけたが、あの男何時の間にフラグを立てたのだろうか)
「ほれ、こいつだ」
「わぁ、可愛らしい便箋!ラブレターだったりして!」
「それなら卒業する前に渡せばよくない?」
「そんなことより中身見よーぜユウさん!」
「・・・そうだね」
中を見るのは少々勇気がいる。何せ自分の奥歯を折った男への手紙なのだから呪いの言葉がぎっしり書かれている可能性も十分ある。つばを飲み込み覚悟を決めたユウは、その便箋の中に入った手紙を取り出した。
『 拝啓、残間結章様
初春の候、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
さて、このたび私が筆を執った理由は、在学中貴方にどうしても伝えられなかった言葉をせめて手紙で伝えようと考えたためです。
私は貴方の拳を受けて気を失った後、目が覚めた時にこう思いました。
一方的に力を振るわれるのはあんなにも怖い事なのか、と。
そのことに気付いてからというものの、私は今まで好き勝手に行動していた自分自身が怖くなり、震えから部屋を出る事さえ苦しく感じるほどに心が弱ってしまいました。
家族や友達の声で何とか立ち直れた私でしたが、自分の弱さと向き合うにはまだ勇気が足りなくて、貴方から逃げるという愚行を繰り返してしまいました。
そんな折、貴方のご友人でもある織斑君に偶然出会い、その際にこう言われたのです。
他人に誇れる自分になれば、貴方とも向き合えるはずだ、と。
私はその言葉に深い感銘を受けるとともに、貴方に誇れる自分とは何かを考えました。
そしてつい最近、私は「夢」が、他人に誇れる自分の像がおぼろげながら見えてきました。それは、一方的に力を振るう自分のような存在を止める警察官になるということです。
何をいまさら調子のいいことを、とお思いになるかもしれませんが、私は昔の自分のような人間を止めたいという自分の思いに気付いたからこそ、この道を目指したいと思ったのです。
まだスタートラインに立ったばかりで第一歩を踏み出したにすぎませんが、貴方に誇れる自分に一歩近づいたことをどうしても伝えたくてこのような手紙を送りました。
いずれ貴方にとあっても恥ずかしくない自分になった時は、今度こそ逃げずに貴方と直接会って話をしたいと考えています。それまでどうか、私の事を心の隅に置いておいてもらえれば幸いです。
貴方様の今年一年のご多幸をお祈りいたしております。
敬具 』
人はいつでも間違いを犯す。ユウは道を見失い暴力を振るい、彼女は自身の力に奢り瞳を濁らせた。それでも、そんな二人でも今はこうして昔の自分と向き合うことが出来ている。
ユウはまた一つ、『人間やってできないことはない』という持論に確証を得た。
そして―――
『追伸 もしあなたが道を間違えるようなら、その時は私が責任を持って豚箱に放り込ませていただきます。』
「・・・・・・・・・あ、あははははは」
「先輩を逮捕・・・ごくり」
「いやなんでそこで生唾を呑みこむ?」
「良かったな、美人の先輩が逮捕してくれるってよ!」
―――やっぱり自分は未だに恨まれているのではないだろうかという疑念も、また一つ深めた。
これは卒業前の少年の、ちょっとした縁のお話。
後書き
ユウの不良時代の話を紹介する暇が全然なかったんでこんな回を設けさせていただきました。
ISが全く絡んでないにも拘らずこの長さ・・・ついでに弾よりも早く御手洗くんの出番が来るとはこのリハクの目を以てしても見抜けなんだ・・・
駅河中学校は現実にも原作にも存在しない学校です。適当に思いつきました。
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