とある星の力を使いし者
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第71話
各クラスに一本ずつ棒が立てられる。
競技開始の合図が聞こえると、麻生を先頭に棒を倒す組は一斉に敵陣目がけて走って行く。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
麻生を除くクラスメイトが一斉に叫びながら走って行く。
運動会の一競技に気合を入れ過ぎだろうと思うかもしれないが、ここは学園都市。
生徒の大半は何らかの力に覚醒した能力者なのだ。
どんな能力が飛んでくるか分からない能力者同士が一〇〇人規模で激突するのだから、気合と緊張の度合いは並大抵のものではない。
お互いの陣営までの距離は八〇メートル前後。
横一線に配置された敵陣営から、キラキラとした光が連続で瞬いた。
応援席のカメラのフラッシュのようにも見えるが、違う。
能力者による遠距離攻撃だ。
おそらく放たれているのは、火炎か爆発系の能力を使って作られた爆圧。
さらに、弾丸状に加工するために圧力系の能力を使って透明の壁で覆っている筈だ。
爆圧弾を作製する過程で弾殻が空気の屈折率を変えてしまう為、透明な風船に陽光が当たったように、光を照り返しているのだ。
それらの爆圧弾が麻生達に向かって飛んできている。
本来なら、この時に後ろから念動能力を主体とした援護で、あの爆圧弾を破壊する筈なのだ。
クラスメイトは先頭で走っている麻生に視線を集める。
ここで、麻生があの爆圧弾を何とかしなければ、麻生のクラスは負けてしまうだろう。
一向に爆圧弾が破壊されない事に、クラスメイト達は一抹の不安を感じた時だった。
「信じろ!!
恭介を信じるんだ!!
だから、びびんじゃねぇ!!」
麻生の少し後ろにいる上条が、クラスメイトを鼓舞するように叫ぶ。
それを聞いたクラスメイト達は覚悟を決めて、前へ進んでいく。
あと少しで爆圧弾が麻生達に当たりそうになった時だった。
「爆ぜろ。」
その言葉と共に、横一線に飛んできていた爆圧弾が一斉に爆発した。
それと同時に一般来場客応援席から驚きの声と歓声が聞こえる。
対する、敵側の能力者達は何が起こったのか全く分かっていないようだ。
麻生は爆圧弾が飛んできた瞬間に、一つ一つに干渉して麻生の意思で爆発させるようにしていたのだ。
それを見たクラスメイト達は一気に勢いに乗る。
「いける、行けるぞ!!」
「キョウやんに続けええええええええ!!」
「キョウやん言うな。」
「僕も頑張るでぇ!!
見ててくれ、学園都市の乙女達とテレビ越し見ている全国の乙女達ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
各々の言葉を聞いた麻生は少しだけため息を吐く。
だが、爆圧弾だけを攻略した所でエリート校に勝つ事は難しいだろう。
だからこそ、麻生はベクトルを変換させ、一気に敵陣に近づいて行く。
敵陣の先頭集団が麻生を止めようとしてくるが、その間をすり抜け、さらに空気を圧縮したモノを置いていく。
麻生が通り抜けた瞬間、圧縮玉が爆発して五人くらいの生徒が上に吹き飛ぶ。
ここからが、麻生の踏ん張り所だ。
出来るだけ多くの敵を倒しつつ、敵陣の棒までの道を作る。
さらに、これは団体競技。
麻生一人が無双しても意味はない。
全員で勝利を勝ち取る事で、あの教師の鼻を折る事ができるのだ。
なので、麻生は衝撃波と体術などを主体とした地味だが、確実に倒していける戦法とる。
麻生を止めようと何十人の生徒が麻生に襲い掛かる。
それらを衝撃波で吹き飛ばし、時には拳や蹴りなどで攻めていく。
「恭介だけじゃねぇぞ!!」
遅れて上条達がやってきて、本格的な乱戦になっていく。
予め、先頭集団を麻生が倒しておいたのが良かったのか、上条達はそれほど怪我をすることなく敵陣の真ん中くらいまで来ていた。
しかし、後方にはまだまだ敵が残っている。
麻生は敵陣の後方から飛んでくる爆圧弾を破壊しながら、叫んだ。
「当麻!
背中を貸せ!!」
その言葉に上条は反応して、麻生に背中を向ける。
膝を曲げ、腰を若干落として、おんぶするような体勢になる。
敵側の生徒が麻生は危険だと判断したのか、まずは土台となる上条を潰しにかかる。
それをさせまいと、青髪ピアスと土御門が上条を守る。
「貸し一だぜい、カミやん!」
「本当なら、女の子を守った方がええねんけどな!」
「来い、恭介!」
「おおおおおおおお!!!!!!」
麻生は上条に向かって走り出す。
途中、何人かの生徒が麻生の邪魔をしに来るが、他の生徒がそれを阻止する。
そのまま上条の背中を踏み台にして、一気にジャンプする。
敵陣の後方まで飛んだ麻生は足に空気の圧縮玉を創り、着地した瞬間に爆発させる。
その影響で周りにいた、数十人の生徒が吹き飛ぶ。
目標の棒は目と鼻の先だった。
敵側の棒を守る組の生徒が麻生に襲い掛かる。
それらを衝撃波で吹き飛ばし、一気に棒に近づく。
左手で拳を握り、棒に向かって突き出す。
二、三人が棒を支えていたが、それらと一緒に棒が後ろに倒れる。
その瞬間、競技終了の合図と観客席からの拍手と歓声。
最後に自分達の生徒が歓喜の声をあげるのが聞こえた。
競技が終わり、選手用出口から校庭の外に出る。
「やったな、キョウやん!!」
「ああ、大勝利だ!」
「見たか?
あの教師の悔しがる顔を?
俺達だってやる時はやるんだよ!!」
クラスメイト達が麻生を取り囲む。
それを見て、麻生は鬱陶しいそうな顔をする。
「ええい、暑苦しい。
離れろ、お前ら。
あと、キョウやん言うな。」
「いいじゃねぇか。
お前の愛称だよ、可愛いじゃねぇか。」
「お前は一回死ぬか?」
割と、マジで殺気を出す麻生。
それを全く気にすることなく、男子クラスメイトは話しかけ、女子生徒は麻生に見惚れている。
おそらく、競技中の麻生の男らしさに見惚れているのだろう。
そんな中、小萌先生が半分涙目になって救急箱を抱えて立っていた。
「ど、どうしてみんな、あんな無茶してまで頑張っちゃうのですかーっ!
大覇星祭はみんなが楽しく参加する事に意味があるのであって、勝ち負けなんてどうでも良いのです!
せ、先生はですね、こんなボロボロになったみんなを見ても、ちっとも、ちっとも嬉しくなんか・・・・ッ!?」
涙を必死に堪える小萌先生に、麻生が言う。
「俺は先生の為にやったわけじゃないですよ。
あの教師の発言にムカついただけです。」
そう言うと、他の生徒がニヤニヤした表情を浮かべる。
麻生はそれを見て、少しだけ眉をひそめる。
「なに、ニヤニヤしてやがる。」
「いや~、キョウやんはツンデレだな、ってな。」
その生徒の発言に一同全員が頷く。
「てめぇら、一度死んでみるか?」
と、神造兵器を具現化させようと本気で思った時だった。
突然、横から何者かに抱き着かれた。
その人物とは食蜂操祈である。
その光景を見た瞬間、さっきまで笑顔だったクラスメイト達の笑顔が凍りついた。
「さすがは恭介さん♪
私の将来の夫さんだぞぉ♪」
操祈の爆弾発言にクラスメイト達の表情が信じられないモノを見たような顔になる。
対する麻生は抱きつく操祈をうっとおしいそうな顔で見つめる。
「さっさと離れろ。
朝で会った時も言っただろう。
暑苦しいって。」
朝もだと!?、と男子生徒は一斉に叫ぶ。
操祈の後に続くように続々と常盤台の生徒がやってくる。
「女王!他の人が見ているのに止めてください!」
「さすがは元常盤台の生徒である麻生さんですわ。」
「はい、私も見ていてとても驚きましたわ。
麻生さんはやっぱりお強いのですわね。」
「あ、あの、け、怪我はありませんか?」
婚后や湾内や泡浮などの常盤台の生徒達が麻生の元に集まってくる。
それを目の当たりにした男子生徒達は殺意の籠った目をしながら言う。
「ちくしょう!!
やっぱりこんだけフラグを建てたのか、あいつは!!!」
「麻生を常盤台に送るべきじゃなかった!!」
「もうあいつはクラスメイトではない!
俺達の敵だ!!」
さっきまで麻生の事をツンデレやら何やらと言っていたのに、一転して麻生に殺意を向けている男子生徒達を見て麻生はため息を吐くのだった。
あの後、操祈ら常盤台の生徒は自分達が出場する競技の為、どこかへ行ってしまった。
操祈だけは離れようとしなかったが麻生が説得してようやく向かった。
次の出場する競技まで時間があるので、街中をブラブラと散歩する。
(そういえば、父さんと母さんが来ている筈なんだけどな。
携帯にも連絡はないし・・・・まぁ、その内連絡が来るだろ。)
適当に屋台でも見て回るか、と麻生が考えていた時、見慣れた女の警備員の姿が見えた。
麻生はその警備員に近づいて声をかける。
「こんな祭りでも警備員の仕事はあるんだな。」
女の警備員こと、黄泉川愛穂は声のする方に顔を向ける。
麻生だと分かったのか少しだけ疲れた表情をする。
「そうじゃんよ。
まぁ、ガチガチの装備で固めるよりかはまだましじゃん。
こんな炎天下の中であの装備は本当に最悪じゃん。」
服装を見ると、正規装備で身を固められている。
だが、ヘルメットなどの装備は外されている。
前にも言ったがこの大覇星祭には一般客やテレビを見ている子供や大人達のイメージを最も大切している。
子供達が学園都市に入学しなければ、学園都市を維持する事は出来ない。
この開催目的の半分ぐらいはイメージ戦略との事だ。
学園都市は基本的は閉鎖環境だが、それにも限度がある。
完全に情報を非公開された施設の中で、得体の知れない科学技術の研究を進めている、という話になれば「外」の人間は簡単に信じるだろうし、反発も避けられない。
もっとも、能力開発を中心とした機密事項には一切触れられないように、研究エリアの警備体制は常より厳重になっている。
その厳重体勢を「一般人に感じさせない」のプロの技らしい。
なので、愛穂にヘルメットなどの装備がないのは、そういったイメージ戦略の一環だろう。
「んで、休みとかないのか?」
「一応あるじゃん。
けど、それほど時間は多くないよ。
何で、そんな事を聞くの?」
「いや、暇だったら一緒に回ろうかと考えていただけだ。」
麻生の言葉に愛穂は一瞬耳を疑った。
眼を何度も瞬きさせながらもう一度確かめる。
「麻生、もう一度言ってくれるじゃん?」
「ああ?
暇だったら一緒に回ろうかと考えていただけだ。
これでいいか?」
その言葉に愛穂は表情を隠す事が出来なかった。
でも、必死に隠そうとしているのでものすごく変な表情になっている。
それに気づいたのか、後ろを振り向いて表情を隠す。
何度も深呼吸して自分を落ち着ける。
傍から見たらものすごく不自然な動きに見える筈だ。
ようやく落ちつたのか、麻生の方に振り向く。
「た、確か、休みは明後日からじゃん。
麻生の方は大丈夫?」
「ああ、俺は最低限の競技しか出ないから時間は結構ある。
時間があれば一緒に回るか。」
「分かったじゃん。」
心の中でガッツポーズをする愛穂。
麻生がそんな誘いをするのは滅多にない
その気がない事は重々承知しているのだが、喜ばすにはいられなかった。
仕事中だが詳しい予定を決めようとした時だった。
麻生の姿が高速でブレた。
理由は簡単。
右から高速で飛び出してきた御坂美琴が麻生の首の後ろを掴んで勢い良く左へと消えて行ったからだ。
「おっしゃーっ!
つっかまえたわよ私の勝利条件!
わはははははーっ!!」
「・・・・・・とりあえず、この行動の理由を教えてくれ。」
急な展開でも冷静な対応をする麻生なのであった。
引きずられる様に麻生は御坂美琴と共に競技場に入り、ゴールテープを切った
先ほど、麻生が棒倒しを行ったのとは別次元の競技場だ。
スポーツ工学系の大学が所有している物らしく、オレンジ色のアスファルトの上に道路に使うような白線が舗装された、公式陸上競技場だった。
客席もスタジアムのような階段式になっていて、報道用のカメラの数や警備に当たる人数も段違いだ。
待機していた運営委員の高校生が、美琴にマラソンのゴール直後のように大きめのスポーツタオルを頭から被せた。
ドリンクの手渡しや小型の酸素吸引用ボンベの使用などもテキパキしているし、それは実用本位のみならず、カメラに映る事すら考慮した動きのように見える。
この後は表彰式と簡単なインタビューがあるはずだ。
後続の選手達が到着するまでは、別の所で待機といった感じだ。
凄く場違いな気がするが麻生は気にすることなく、呑気に欠伸をする。
そこに美琴の世話を終えた運営委員の高校生が、麻生の顔をジロジロと見てきた。
その運営委員の顔をは見知った人物の顔だった。
「・・・(麻生恭介。
一応、「借り物」の指定は間違っていないみたいだけど、よっぽど女の子と縁があるようね貴様は!
しかも、同じ常盤台中学の生徒。)」
「(制理か、お前も仕事が大変だな。)」
彼女も運営委員なので、此処にいてもおかしくない。
仕事中なのか声を荒げて絡んでくる事はなかった。
「(皆真剣にやっているんだから、とにかく選手と競技の運営にだけは邪魔しないでよ!)」
麻生に厳しく注意を言うと、ドリンクケースと一緒に地面に置いてあったクリックボードを拾い上げて、何か競技記録らしきものをボールペンで書き込み始めた。
ちなみに麻生達の近くで美琴が少しだけムッとしている事に誰も気づかない。
麻生は自分を勝手に連れてきた、美琴の方に振り向き、話しかける。
「それで美琴。
お前は俺を勝手に連れてきたがルールには第三者の了承を得て連れてくるように、と決められているが俺を連れてくるときに俺の許可を得たか?」
「さぁね、でも事後承諾も駄目って書かれていないわよ。」
美琴の言葉を聞いてため息を吐いた麻生。
さすがに悪いと感じたのか自分の身体を覆っているスポーツタオルを麻生の頭に被せる。
対して汗もかいていないが貰ったので一応頭をふく。
美琴はストローのついたドリンクボトルを手渡そうとしたが、ふと飲み口を見て、手が止まる。
規定では一人の選手に二本以上のドリンクを要求する事は出来ない。
それを知った美琴はしばらく固まっていた。
「ああ~、喉が渇いた。
水でも買いに行くか。」
おそらく、美琴に聞かせるつもりはなかったのだろう。
しかし、ちゃんと美琴の耳に入ってしまい、うっ、と怯んだ。
ブルブルと数秒くらい震えていると、ぐいーっと麻生のほっぺたにドリンクボトルの側面を押し付ける。
「ああもう!!仕方ないからあげるわよ!ほら!!」
無理矢理渡されたドリンクを麻生が手に取ると顔を真っ赤にして、麻生に背を向けると表彰台の方へと消えていく。
余談だが、クラス対抗や学年対抗の競技の場合は大雑把だが、個人種目の場合は三位まできちんと表彰される。
美琴は一位なのでもちろん表彰だ。
そして、表彰されるのは美琴一人である。
まぁ、麻生の性格を考えると頼まれても表彰台には上らないだろう。
(さて、愛穂の話の途中で離れてしまったけど、どうするか。
もうすぐ、次の種目も始まるし・・・・・)
愛穂の所まで戻ってみるかそれとも競技場に向かって移動するか考えていると、風に流されて紙切れが飛んできた。
借り物競技の指令書のようなものだろう、と麻生は適当に考えてその紙を拾い、中を確認する。
そこに書いてある内容を見て麻生は疲れた様なため息を吐いた。
内容は「第一種目で競技を行った高等学生」の一言だけだった。
(あいつ、俺以外にもたくさん人がいるだろうに俺をピンポイントで狙いやがって。
嫌がらせか?)
と、考える麻生だが、美琴もあの棒倒しを見に来ている事に気づいた麻生はやっぱり出なければよかったと思うのだった。
とりあえず、次の競技場に向かう事にした。
愛穂に連絡すると後日会って予定を建てようという話になった。
なぜか、声がとても嬉しそうな声だったが麻生は原因がさっぱり分からなかった。
現在、学園都市内で走っているバスの七割は無人の自律走行バスである。
大覇星祭期間中でしか使われる事はない。
それも旅客機や列車などの乗り物とは違い、車などの自動運転が一番難しいからだ。
何故かというと他と比べて複雑な制御と判断が求められるからだ。
大覇星祭中のような交通制限がある中でしか利用できない。
麻生はバスに乗り込み、競技場に向かう。
バスを降りて競技場に向かう途中、あちこちから競技の放送やデパートの壁や飛行船のお腹にくっついた大画面や、テレビ局が臨時で作った屋外中継スタジアムなど、様々な触媒が利用されている。
トボトボ歩いていると、人混みの中から見知った顔を見かけた。
赤い長髪、耳に着けた大量のピアス、右目の下に彫られたバーコードの刺青に、左右一〇本の指にはめられた銀の指輪に、口の端には煙草がある。
ステイル=マグヌス。
イギリス清教の「必要悪の教会」という部署に存在する、本物の魔術師。
そして、その傍には土御門元春や上条当麻もいる。
麻生は何か嫌な予感がしたので、少し迂回して出会わないようにする。
だが、彼らの話している声が聞こえてしまった。
「この街に潜り込んだ魔術師をどうにかしないといけない訳だ。
僕達の手で。」
予想通りといえば予想通りだった。
こいつらがいる所には何かしらの事件が関わっている。
麻生が答えを出すのにそう時間はかからなかった。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・逃げるか。)
そうと決めると、走るようにその場から離れる麻生だった。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
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