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IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者

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第19話

「二次移行したかもしれない?…分かった。少し待ってくれ」

姉に立ち上がらせてもらった数日後、改めて織斑先生に、自身のISの変化を報告し、判断を仰いでいた。

その織斑先生は、誰かに電話を嫌々ながらかけている。相手は誰なのだろうか?

「…私だ。…違う、例のISの件だ。…何?おい、待て!…切られたか」

受話器を置いた先生は、疲れた様子だ。そんなに面倒な人物なのだろうか?

「すまんな丹下。一番ISに詳しい奴に連絡を取ったが、明確な回答は得られなかった」
「と、言いますと?」
「見てみないと何も言えないと。『アイツ』の事だ、何かしらの手法で丹下の情報は得るだろう。故に、発信してやる必要がある」
「うわぁ…」

やりたくない。しかし、やらなければならない。

「また手の内を大衆にさらけ出すのか?ゼロはまだまだ隠してるのに?」

愚痴りたくもなる。戦うのはいい。発信してやるのも結構。だが割に合わない。

新たな手段を得ても、全て見せてしまえば対策を簡単に練られてしまう。その点、ゼロは恵まれている。

ある程度の武装は披露したが、まだまだ奥の手、とっておきを幾つか隠している。

才能、環境、幸運に恵まれたあの男に思うところは多々ある。

だが、

「ま、いいさ。対策を越えた動きをすればいいだけだ。先生、後はお任せしても?」

俺はヴァンガードを信じる。それで良いのだ、と知ったから。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「またトモは厄介な事に…」
「代わってくれるか?」
「いや、遠慮する」

翌日の放課後、珍しく誰も伴わず、一人の一夏と先日からの出来事を話していた。

「にしても理不尽だよな。だったらゼロも見せればいいのに」
「…一夏。それすっごい馬鹿な発言だからな?」
「…うん、ゴメン」

この世のどこに自分が有利な状況を進んで捨てる馬鹿が居るんだ。

とまあ、すれ違いが重なっていたこともあり、互いの近況を報告していると、

「丹下智春ゥゥゥ!!!」

大きな声と共に騒がしく開けられたドアに背筋が氷る。こ、この、声は…。

「聞いたぞ、復帰したならばなぜ言わん!!」

喜色満面、狩人の眼の我が天敵、自称一夏を嫁にした、ラウラ・ボーデヴィッヒ。クソッ、一番知られたくない人物に知られるとは不覚!どこで流れたんだ!?

「グランツが『偶然』職員室の前を通りかかった際に耳に入ったらしいな!つい先程知ったぞ!」

ゼェェェェロォォォォォ!!お前かぁぁぁぁ!!

もうあの男に一度と言わず幾度か怒りをぶつけてもいいかもしれない。

ただ、自分のハーレムには逐一気を使うが、俺や一夏はどうでもいいような男が耳を貸すかは甚だ疑問だが。

「詳しいことは織斑先生に一任してるんで、俺は連絡待ち。ボーデヴィッヒとは必ずまたやるから、待っててくれ」
「そうか。教官にか。ならば仕方無い。その時まで、私はい、一夏をと、虜にして待っていよう」

ボーデヴィッヒ、頬を赤らめて一夏をちらちら見ながら喋るのは止めなさい。外に篠ノ之達が能面のような表情でいるから!!

先の経験を活かし、遮二無二教室から離脱する。背後で一夏の助けを呼ぶ声が聞こえてきたが、それどころじゃないほど、俺は必死に逃げていた。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

はてさて、無我夢中で走り抜け、どの様な経路をとったかさっぱり記憶にないが、何故か、何故か屋上にたどり着いていた。

屋上と言えば、この学園では憩いの場、昼は生徒で賑わうが、生憎今は放課後、こんな場所に好き好んで来る物好きは…、居るんだな、困ったことに。

先月、俺を辟易させた、妹のお友達がまたもや歌っていた。歌が好きならカラオケにでも行けばいいじゃないか、とは思うが、女の子は色々な事にお金がかかる、と言うことにしておこう。

歌うのに夢中で、向こうも気付いてないし、さっさと退散退散。

ここまで来れば巻き添えになることもない、落ち着きを取り戻した俺は踵を返し、屋上を後に…、出来なかった。

「兄さん?…今日はついてるかも」

妹の真琴に見つかったからだ。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

嗚呼、面倒な人物に捕まってしまった。

「真琴、何で屋上に?」
「放課後は大抵『絢子(アヤコ)』と一緒に屋上に居る。兄さんも毎日来たら?」

来ねえよ。

「まあ、友達と仲良く出来てて何よりだ。さあ、俺は帰ろうじゃ「あっ!丹下智春君!!」帰れないじゃないか…」

歌っていた妹の友達にも見付かりました。

「兄さん、ゆっくりしていってね?」
「……うん」

もう逃げるのを諦め、妹の隣に腰を据える。別に会話するだけだ。満足したら先に帰るだろう。それまでの辛抱だ。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「ソレでね、そこでマコちゃんが!」
「うん…、うん…」
「絢子もそこで…、」
「そうか…、そうか…」

どれだけたっただろうか、既に日は傾き、空は茜色に染まっている。

少女二人の話題は尽きないようで、一向に状況が好転する兆しはない。

昔から女は三人集まればかしましいと言うが、それを声に出して否定したい。

二人でも凄くかしましいと。

もう相槌をうつのも限界だ、そろそろ終わってくれ…!

「そう言えば、兄さん。次のISの試合、放映されるって本当?グランツさんが言ってたけど?」
「…あの男は…、何処まで俺を困らせるのか…!」

本人に悪気はまったくないのだろう。それどころか、アピールの好機とでも考えているのだろう。

いつだったか、前にゼロとの考え方の相違を痛感した出来事があった。

俺の戦い方を、『地味』と称したのだ。

訳を聞くと、ISは魅せる戦いをする必要があり、派手な能力や武器が一つはあった方が良いと言った。

ここに、俺とゼロの決定的な違いが出る。

ゼロにとってはISの戦闘は能力の高さを示すパフォーマンスであるが、俺からすれば、互いの意地と誇りをぶつけ合う、外部の思惑を一切排除した純粋な真剣勝負だ。

故に、見かけや派手さを徹底的に排除し勝利を求める俺の戦法は、ゼロにとって地味で面白味のない戦い方に見えるのだろう。

が、『軍事兵器』としても運用されているISに派手さは不要だと俺は思う。

結局、その話は平行線のまま解決せず、今に至っているのだが。

「あの銀髪君、また人に迷惑かけてるの?懲りないなぁ…」
「…?真琴、彼女はゼロの事好きじゃないのか?」
「好きになる訳がない。絢子、あの手の男は大嫌いだから」

これは珍しい。あのイケメンフェイスに心を囚われない少女が居たとは!世間は狭いようで案外広いものだ。

そこからは酷かった。

やれ、自分は正しいと思い込んでいるのがいけない、やれ一夏や織斑先生を敵視し過ぎているのがいけない、女にだらしないのがいけないと、次々とゼロを批判し始めた。

「最悪なのが、我が儘で自分勝手なこと。他人の都合を考えない、何がなんでも押し通そうとする、都合が悪いことには目を向けない。まるで子どもそのもの」

不愉快そうに、絢子と呼ばれている少女は溜め息を吐いた。彼女も、ゼロに何かしらの関わりがあるのだろう、無闇に踏み込まず、妹の意見を聞いてみる。

「真琴はゼロをどう思ってる?」
「許されるなら今すぐ八つ裂きにしたい」

物騒だな我が妹!

「ただでさえ兄さんに散々苦労をかけて、あげくの果てに一方的な暴論で兄さん達を痛め付けたのに、許せると思う?前々から嫌いだったけど、より一層嫌いになった」

妹の目に光彩がありません、誰か助けてください。
「あれでよく女の子達が離れないよね」
「あの男は自分のハーレムには優しいから。他はおざなりだけど」

俺そっちのけでゼロ叩きに盛り上る美少女二人。但し目に光彩はなく、全身から冷たいオーラが滲み出ている。

ゼロは人気が高いが、嫌う生徒も少なくないらしい。満遍なく好かれる一夏とはエライ違いである。

俺はあまり話題にならない。話しかければ返してもらえるし、然程嫌われている訳でもない。まあ、例外はあるが。

少女二人は矢鱈物騒な会話を続けていて、俺に気を向けていない。今が好機と屋上を後にし、ようやく自由を得た。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

その夜、一夏と今度の戦闘の相手は誰なのだろうか、ととりとめのない会話をしていると、ドアがノックされ、返事をすると織斑先生が入ってきた。詳細が決定したらしい。

「丹下、多少面倒な事態になった。日程は二週間後。相手は…、『木之本葵(キノモトアオイ)』、二週間後の理由は木之本のISの調整の遅れ」

織斑先生によると、先生は最初同学年の代表候補生、つまり一夏達のいずれかを考えていたが、新鋭の企業が開発したISのアピールの為にと名乗り出たのだとか。

世界のどこに先生の言う一番詳しい人がいても良いよう、世界中に戦闘の映像は配信されるから、またとない機会と踏んだのだろう。

利権と思惑の混じった、大人の世界を垣間見た気がする。

「不満や文句はあるか?あるなら言って構わん」

織斑先生が労るように俺を見る。

「俺は…、どんな相手でも…、全力で戦います。それが、俺に出来る事だから」
「…そうか。ならばいい!丹下、存分に戦え!」

俺の返答に満足した織斑先生は、肩を強めに叩いて出ていった。

「二週間後か…、一夏!ヴァンガードの性能を改めて再確認したい、付き合ってくれるか?」
「あ、ああ!任せてくれ!」

二週間後の戦いに向け、一夏の協力を取り付け、今後を吟味する。

未知の相手に不安を感じそうだが、不思議と今の俺は、ワクワクしていた。 
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