魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epic14-Bそれはもうジュエルシードの回収は大変で~StrangE~
†††Sideルシリオン†††
既に時刻は22時少し前。はやてが待っているだろうなぁ、と思いながらも、フェイト達の拠点であるマンションに一度寄ることにし、こうしてリビングで今回の収穫であるジュエルシード2個を眺める。フェイトとアルフの視線を私の髪に感じながら「私がアリサ・バニングスから頂いたジュエルシード。あなたが持ってて」と、シリアル20の方をツンと人差し指で突く。
「え? でも・・・」
「貰っておきなよフェイト。てかさ、あんた。あの戦闘特化で有名なベルカ騎士の一撃を受けてケロってしてるけど、本当に大丈夫なのかい?」
アルフがそう心配してくれる。フェイトもまた心配げな目を向けてくる。とりあえず「大丈夫。素顔を見られたのは最悪だけどさ」と笑みを浮かべて見せる。今の私は仮面を付けず、フードは外套ごと外しているから素顔をフェイト達に晒したままだ。素顔と言っても本来の私のものではなく、私の親友にして戦友であるアンスールの1人、白焔の花嫁ステアのものだが。
(ギリギリ変身魔法が間に合ってよかったな)
イリスの転移には直前で気付けたが、鞘を使っての二段攻撃にはまんまと引っかかってしまった。彼女の剣技にはまず鞘が含まれないため、鞘による攻撃をすっかり失念してしていた。仮面が砕かれ、その衝撃と激痛で追撃を避けることが出来ないと判断した瞬間に、何故かステアの顔へと部分変身、そして騎士甲冑の防御力を一気に引き上げた。そのおかげで、最後の一撃を受け地面に叩き付けられても軽い脳震盪だけで済んだ。
「そう言えばさっきから私の髪を見ているようだけど、そんなに変?」
艶やかなカーディナルレッドのポニーテールとなっている髪に触れる。ステアやセシリスの髪色は、燃える炎のように綺麗だと思っているんだが。
「変って言うか、髪もそうだけど瞳も綺麗だなぁって。まるで炎と水をみたい」
「そうそう。あ、だからあんた、炎の変換資質持ちだったり水を操れるんだね」
「アルフ。たぶんそれ関係ない」
2人のそんなやり取りについ「ふふ」と笑みを零してしまう。小首を傾げて私へと視線を向けてくるフェイトとアルフに「褒めてくれてありがとう。そろそろ帰るよ」と告げ、玄関へ向かう。
「あ、待って。今夜中にもう1つ封印に――」
「ダメ。今日は休むこと。アルフ。主をしっかり休ませるように」
「あいよ。フェイト。休める時に休まないと」
フェイトが無茶をしようとしたため、彼女が言い切る前にキッパリ拒否。次いで、フェイトが今夜のジュエルシード回収にもう出ないよう、アルフに監督を任せる。納得いかなさそうなフェイトに「休みなくして完遂できるような簡単なものじゃないよ。ジュエルシード回収は」と告げる。それくらいは理解しているようで、「判った」と渋々だがコクリと小さく頷いた。それを確認して部屋を出、マンションの屋上へ跳び、縁の段差の上に立つ。
(フェイト達の視線は無いな。周囲にサーチャーの反応も無し)
尾行されては困るため、それだけには細心の注意を払う。周囲警戒を終え、空へと飛び立つ。目指すは、はやての待つ八神家の在る海鳴市。海鳴市に入る直前で人気のない場所に降り立ち甲冑と変身を解除、魔力を管理局に探知されないように魔力炉の活動をギリギリにまで抑える。そしてギリギリ間に合った最終バスに乗って近所まで移動して、最後に徒歩。八神家を視界に入れると、「ふう」ようやく緊張が解けて一息。
(管理局の網に警戒しなければこんな面倒な真似をしなくてもいいのに)
合鍵で玄関扉を開け、はやてが休んでいてはいけないから小声で挨拶、と思ったんだが・・「おかえりルシル君♪」リビングの方から車椅子に乗ったはやてが突っ込んで来た。今日はもうほとんど家を空けていたからな。夕飯すら一緒じゃなかったし。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「ただいま、はやて。すまないな。夕飯、一緒に食べれなかった」
私のシャツの袖をキュッと掴んでいるはやての頭を撫でると、はやては「ううん」首を横に振った。
「ええよ。ルシル君かてやりたいことあるんやしな。とゆうか、そもそもそのためにルシル君は日本に来たんやし。ちょう寂しいけど、こうして帰って来てくれるから、わたしはそれだけで十分や♪」
(良い子過ぎる・・・(涙))
はやてが良い子だというのは十二分と承知していたが、こうして一緒に過ごしてみるとより強く判る。私の袖を掴んでいるはやての手を取り、「ふぇ?」少し驚きを見せる彼女のその手に空いている右手をそっと重ねる。
「あ、あの、えっと・・・ルシル君・・・?」
頬を僅かに赤らめながら私の顔と手を交互に見るはやて。以前から思っていたが、今でこそ強く思う。この子にもっと何かをしてあげたい、と。つい兄心を抱いてしまう。だからはやてに何かしてほしいことがないか訊こうとした時、私の腹がきゅ~くぅ~と鳴ってしまった。
「「・・・・ぷふ」」
はやてと2人して吹き出し、「腹が空いた。夕ご飯、残ってるか?」と訊くと、はやては「もちろんやっ♪」と可愛らしい笑顔を向けてくれた。
(決着まであと数日。その間ははやてを寂しくさせるが・・・)
全てが終わったその後は、そんな寂しさを忘れてしまえるように思いっきり付き合おう。笑顔を浮かべるままのはやてに笑顔で応じ、彼女と手を繋ぎ、私たちはダイニングへと向かう。
†††Sideルシリオン⇒イリス†††
「ムキィィーーー! テスタメント、絶対に許さないんだからね!!」
アースラに戻って来たわたし達は今、医務室で怪我を負ったなのは達に治療を施してる。なのは達に本来治療するべき医務室の主であるはずの本局医務官、そして古代ベルカ式の騎士でもある、ティファレト・ヴァルトブルクの姿は無い。
(ま~たどこかで居眠りしてるな・・・)
ベルカよりフライハイト家に連なる六家、グラシア家、ヴィルシュテッター家、カローラ家、アルファリオ家、トラバント家、そしてヴァルトブルク家・・・のティファ。長所は落ち着ける場所があればすぐに眠れて、回復が早いこと。短所は仕事を放棄してしまうほどに寝つきが良いこと。
そんな医務官が居ないという状況で、わたしや比較的軽症なユーノがなのは達の手当てをする。で、わたしが今手当てをしているアリサなんだけど・・・機嫌がすこぶる悪い。テスタメントにジュエルシードを取られちゃった所為なんだけど・・・。それもこれも「ごめん。わたしがもう少し早く介入してれば・・・」に原因があると思うから、そう謝る。
「い、いいわよ別に。アイツに負けたあたしにも責任があるんだし」
「私も。ちゃんとサポート出来ていれば・・・」
「僕も」「「私たちも」」
「・・・私も・・・」
フェイト達との戦いで負けたからジュエルシードを取られた、って感じななのは達。こう言っちゃなんだけど、確かになのは達はまだまだ弱く、数なんて意味がない程にフェイト達は強い。特にテスタメントが強いんだ。アリサと同じ炎の魔法を使う、あの子が。まずはあの子をどうにかしないと始まらない。管理局でも指折りな実力を備えていそうなあの子を。
「ほらほら。落ち込むのはあとあと! そんなんじゃまた負けるよ!」
わたしはパンパン手を叩いて、ガックリ肩を落とすなのは達を叱る。そう。気持ちで負けていたら勝てるものも勝てなくなる。想いは大事だ。
「みんなの部屋は用意してもらったから、今日はもうゆっくりと休むこと。そして・・・アースラがジュエルシードを探す間、わたしがあなた達を鍛えてあげる」
そう提案すると、なのは達はお互いの顔を見合わせた後「お願いします!」頭を下げた。それにはビックリしたけど、負けてジュエルシードを奪われた悔しさ、そして強くなりたいって思いがハッキリとその目に宿ってるのが判る。
「ん。とは言ってもわたしに出来ることは、格上として戦って、あなた達に経験値を積んでもらうこと。推測だけど、あなた達って模擬戦形式の練習はするけど、相手が友達だからつい手を抜いちゃうって感じじゃない?」
すごく仲良さそうだし、ケンカくらいはするかもだけど、本気で戦うなんてことは出来ないと思う。魔法なんて無い、こんな平和な世界でならなおさら。だから必要だと思った。本気でぶつかってくる相手が。
「えっとぉ・・・」
「まぁ、その・・・うん」
「なのはもすずかも、セレネ達も優しいからさ、やっぱ。限界があるのよね」
格上の強者との戦闘は、どの鍛錬よりも成長することが出来る。実際にわたしがそうだった。管理局に入る前、というか今でもシャッハや父様のご友人である管理局の騎士、ゼスト様と模擬戦をしていたりする。対ベルカ式の騎士戦は教会の仲間に担当してもらって、対ミッド式の魔導師戦はクロノやリーゼ姉妹に手伝ってもらってる。
「それで十分よ。フェイトやテスタメントに一撃入れたあんたと戦えば、アイツらの動きに慣れることくらいは出来るはず」
「決まり。なのはとすずかもそれでいいよね?」
「「うん」」
なのは達の決意を確かめて、ユーノ達スクライアにも確認を取ると「うん、それでお願い」強く頷いた。今日はそれで解散することになって、アースラスタッフとの顔合わせは明日に。なのは達を居住区画へ案内しているところに、「イリス」前方の角から出て来たクロノに呼び止められた。
「こうして直接顔を合わせるのは初めてか。時空管理局・執務官、クロノ・ハラオウンだ。高町なのは、アリサ・バニングス、月村すずか。そしてスクライアのユーノ、セレネ、エオス。此度のジュエルシード回収への協力、感謝する」
クロノに真っ直ぐ見詰められたアリサを除くなのは達がちょっと怯えた風に「はじめまして」ってそれぞれ自己紹介を始めた。最後にアリサが「アリサ・バニングスよ」堂々と名乗りを上げた。さすがアームドデバイスの持ち主、まるで騎士のようだ。
「クロノ。みんな疲れてるんだ。話は明日にしてほしいんだけど。それともそんな気遣いが出来ないような男の子だったっけ?」
クロノの様子から何か尋問のようなことを始めるんじゃないかって思えて先手で封殺。
「判っている。彼女たちにただ挨拶をしに来ただけだ。モニター越しで顔を合わせたんだ。それなのに明日まで挨拶無しで済ますなんて、なんか居心地が悪いじゃないか・・・?」
「律儀だよね~ホント」
「「エイミィ・・・」」
エイミィが笑顔を振りまいて「やっほ~♪」って角からヒョコッと出て来て、なのは達に駆け寄ったと思えばみんなの手を取って握手しながら自己紹介を始めた。
「はじめまして。イリスちゃんと同じくクロノ君の補佐をしてる、エイミィ・リミエッタです♪」
なのは達も応えるように今日で何度目かの自己紹介。あー、だから明日、スタッフ纏めて自己紹介させようと思ったのに。
(1日に何度も自己紹介って、なんか可哀想じゃん)
自己紹介を終えたクロノとエイミィがブリッジの方へ歩いて行くのを見送って、わたし達も居住区へ向かう。で、これから無期間、なのは達が過ごすことになる部屋の前に辿り着いたんだけど・・・
「えっと、ごめん。一人部屋の方が良いとは思ったんだけど、そんなに空きがなくてさ。二人部屋を三部屋ってことに。部屋割りに関してはみんなの意思を尊重するから、何でも言って」
わたしは目の前に在る3つの扉の前でそう説明する。なのはを除くアリサ達の目が一斉にユーノの方に向いた。唯一の男の子だからね。女の子からの視線を一手に受けたユーノは「ぼ、僕はえっと・・どうしよう」超戸惑ってる。
そうなんだよねぇ。ま、わたしとしては、なのは・アリサ・すずか、セレネとエオス、そしてユーノの一人部屋って割り方かなぁって感じ。そう提示しようとした時、そこに別の救世主現る。セレネとエオスが「はい。いいアイディアがあります」って挙手。
「アリサ、すずか、なのは。ユーノは私たちと同じ部屋でいいよ」
「そうそう。この世界に来るまでは一緒に寝た仲なんだし」
「へぇ、そうなんだぁ」「「おお!」」
それが2人にとってのグッドアイディアらしい。それを聴いたなのはは「仲が良いんだねやっぱり」と微笑ましそうに、アリサとすずかは色んな意味で楽しそうだ。そしてユーノは「ちょっ、セレネ、エオス! なんてこと言うんだ!」って顔を赤くして、2人の口を塞ごうとしたけど、軽やかに避けられた。その上ユーノは2人に両腕を掴み取られて、
「「じゃあ今日はお休み~♪」」
「うわっ、ちょっ、ああ、えっと、お休みぃぃーーー!」
部屋へ連れ込まれた。それはまるで天敵に捕まって、巣の中に引っ張り込まれる獲物のよう。そんな光景を黙って見ていることしか出来なかったわたし達は互いに顔を見合わせた後、
「じゃああたし達3人は同じ部屋でいいわよね」
「うんっ。1人溢れちゃうし」
「3人なら寂しくないし、それに旅行みたいで楽しそう♪」
「そう。部屋割りはそれで決定ってことで」
ユーノ達の事は見なかったこと――というか即忘却の彼方へ吹っ飛ばした。なのは達に明日の大まかな予定と「おやすみ~」の挨拶を交わして、わたしも自室へ向かう。部屋に戻ってすぐにジャケットにブラウス、スカートを脱いで下着だけになって、ベッドにダイブ。今日はもう休むことにする。明日からはハードそうだしね。
(シャワーは朝起きてからでいいや)
部屋に備え付けてあるシャワー室に向かおうにももう起きるだけの気力が無い。すごい眠い。まぶたが閉じていくのに抵抗できず、そのまま眠りにつくことにした。
†††Sideイリス⇒なのは†††
アースラで迎えた朝。食堂でシャルちゃんやリンディさん達と一緒に朝ごはんを食べた後、私たちはミーティングルームってところに集合した。そこでアースラで働くスタッフのみなさん(一部だけど)と顔合わせをして、自己紹介。それが終わると、ここに集められた理由の1つ、私たちの持つ情報を全部お話しすることに。そう、フェイトちゃんとアルフさん、そしてテスタメントちゃんから聞いた目的とか色々。
「――彼女たちの目的は、誰かの為、か。フェイトのは曖昧だが、テスタメントは誰かの命を救うためと」
「それが嘘偽りでなく事実としても、ジュエルシードを奪うなんてことは許されないわ。それに、ジュエルシードは願いを叶えると言われているけど、実際は歪んだ形でしか叶えないし」
リンディさんの言うようにジュエルシードって変なことばかり起こす。クロノ君もそれに賛同して、「アレははた迷惑な破壊兵器です」って大きく溜め息を吐いた。
「目的に関しては追々本人に問い質すとして。セレネとエオスの話にはちょっと警戒しなければなさそうだ」
私たちの目がセレネちゃんとエオスちゃんに向く。ゲームセンターでのアルフさんとテスタメントちゃんの話を聴いていたっていう2人が話した、テスタメントっていう部隊。0thから10thまでの11人のテスタメントが居て、テスタメントちゃんは4th――4番目だってこと。
「というか、あのテスタメントの実力が下から3番目って。どんだけふざけた連中」
シャルちゃんが頭を抱える。私たちもそれを最初に聴いた時は同じ反応だった。もしテスタメントちゃんより強い人が来たらと思うと、どうなっちゃうんだろうって思う。クロノ君が「エイミィ。テスタメントの映像を出してくれ」って言うと、エイミィさんは「りょ~か~い」って半透明なキーボードを手元に出して操作。テーブルの中央に球体上のモニターが浮かび上がって、テスタメントちゃんの昨夜の戦闘が映し出された。
「術式はミッドだね。炎熱変換は割とメジャーだから珍しくないけど、火力は結構強い。デバイスは十字架・・・かな? バリアジャケットだけど、かなり特殊なデザインだよね」
「ああ。テスタメントの共通デザインだとすれば、調査がし易いんだが・・・。とりあえずテスタメントという名前を、犯罪組織関連のデータベースで調べた方がいいな」
なんて言うか場違い感がすごいんだけど、私たち。私の隣に座るアリサちゃんとすずかちゃん横目で見る。そんなことを思ってると、『ちょっと退屈かもだけど、もう少し頑張って』上座に座るリンディさんの左隣に控えてるシャルちゃんから念話。
『えっと、ううん。大丈夫だよシャルちゃん』
『気にしないでいいわよ。まぁ、居たところで役に立つかどうか判んないけどさ』
『そうだよ。出来るだけ協力しないといけないって思うし。それに、協力することでフェイトちゃんやアルフさん、テスタメントちゃんを助けることが出来るって思う』
『『私たちはもう限界かも』』
『セレネ、エオス! ちゃんとして!』
その念話は私たち協力組全員に送られていたようで、私たちはなんにも問題ないんだけど、セレネちゃんとエオスちゃんは退屈だからかあくびを噛み殺してて、ユーノ君に注意されちゃってる。そんなやり取りをしてるところで、「今さらでなんですが、なのはさん達に大事なお話があります」私たちに向けられたリンディさんの厳かな声は、念話の中断と居住まいを正すには十分だった。
「ユーノさん達が発掘したジュエルシードを管理局の本局へと運搬していた船は、何者かに襲撃を受けてしまい、その結果、ジュエルシードがなのはさん達の世界に散ってしまったの」
「「「えっ!?」」」
それに驚くのはユーノ君たち。そういう私たちもそうなんだけど。その話を聴いて、どうしてか私は「あ、まさか・・・」その話が何を意味するのかすぐに解ってしまった。ジュエルシードを回収を目的としてるフェイトちゃん側かテスタメントちゃんの部隊のどちらかが・・・その船を襲ったのかもしれないって。
「襲撃を受けた船にはジュエルシードやその他の物品を護衛する局員が居た。魔導師ランクとしては僕やイリス、君たち以上の強者なんだが、ものの見事に敗北した」
「ねえ。魔導師ランクって何?」
「ん~と、一般的には保有資質や魔力量の多寡なんかで決まるランクのことなんだ。あと管理局内で言うランクは、既定の課題行動を達成できる能力を示すもの、かな。前者のランクで言えば、フェイトが1番、なのはが2番、クロノが3番で、わたしとテスタメントは同じくらい、そしてすずかとアリサって感じ。んで、後者でいうランクでは、わたしとクロノはAAA+で、なのはとフェイト、そしてテスタメントは推定AAA、アリサとすずかは推定AA+」
アリサちゃんにそう答えたシャルちゃん。複雑な感じだけど、これだけは判るよ。ランクが同じでもフェイトちゃんには及ばなくて、どっちのランクでも私はテスタメントちゃんに勝ってるのに、負けるのはどうして。決まってる。戦うために身に付けた技術の差なんだ。
「その局員は、僕たちAAAクラスのさらに上であるSクラスの最上位のオーバーSランク。だが相手はそんなもの関係ないとでも言うように・・・」
「みんな。もしこの魔導師と対峙した時は、戦おうとはしないですぐに連絡をちょうだい」
シャルちゃんがそう言って、エイミィさんが出した静止画に映る女の人を見て、私とアリサちゃんとすずかちゃんは「あ!!」思わず立ち上がる。だって、その顔も名前も知ってる人だったから。だから信じられなかった。
「ちょっと、ねえ、なのは、すずか・・・!」
「見間違い、じゃないよね・・?」
「う、うん・・・。間違いない・・・。レーゼフェアさんだ・・・」
ジュエルシードの運搬をしてた船を襲って、管理局の人を倒した魔導師。紫色の髪、深紅の瞳、猫のような目に口。それは間違いなく以前、翠屋で会ったレーゼフェア・ブリュンヒルデさんだった。クロノ君に「知っているのか!?」って大声で訊かれてビクッとしちゃう。そんな私を見たリンディさんが「クロノ」って窘めると、クロノ君は渋々だけど「はい」って頷いて引いた。
「なのはさん達は、この魔導師とお知り合いなのかしら・・・?」
私たちは頷いて、お父さんとお母さんの経営する翠屋での出来事を話す。ケーキが大好きで、面白い旅話を聞かせてくれて、とても優しいお姉さんのような人。お勘定の時、お金がなくて困っていたこと。そして、知り合いのシュヴァリエルさんっていう男の人が迎えに来たこと。それに、何か探し物をするために日本に来たこと。今ならその探し物がジュエルシードなんだって判る。
「――えっと、また近くに来たら、また翠屋に寄ってくれるって言ってました・・・」
あ、なんて言うか・・・私、レーゼフェアさんを売った・・・? そんな後ろ暗い感情が胸の奥に広がる。そこに『しょうがないわよ、なのは』アリサちゃんから念話が届いた。
『真実や事実がどうであれ、レーゼフェアが魔導師で、ジュエルシードを奪ったってんなら・・・その理由とかを聴くためにもさ、今はアイツを止めるしかないでしょ』
『そうだね。そうだよ、なのはちゃん。レーゼフェアさんを止めよう』
『・・うん』
レーゼフェアさんのした事は悪いことなんだと。
「お手柄だぞ君たち! 艦長!」
「ええ。クロノ執務官。レーゼフェア・ブリュンヒルデ、およびシュヴァリエルの広域指名手配の申請を」
「はい!」
「カイエン捜査官、ケイマン捜査官。喫茶翠屋の張り込みを。私たち管理局の介入を察知してすでに離れたかもしれないけど、レーゼフェアの仲間である可能性のあるテスタメントさんが来るかもしれないわ」
「「了解です」」
「エイミィ。テスタメントについての情報を集めて。あと、レーゼフェア・シュヴァリエルとテスタメントの関連の有無の調査を」
「はい。判りました」
リンディさんが次々と指示を出していって、そして会議はこれで解散となった。スタッフのみなさんが出て行くのを見送った後、リンディさんが私のところに来て、翠屋に迷惑をかけないことを誓ってくれた。だけど私は始めからそんな心配はしてなかったから、「大丈夫です」笑顔で応えた。リンディさんとクロノ君、エイミィさんが出て行って、最後にシャルちゃんが私たちの所へ来た。
「そんじゃ会議も終わったことだし、全員、トレーニングルームへ!」
私たちはもっと強くなるための特訓をするため、シャルちゃんに連れられてトレーニングルームとかいう場所に向かう。
†††Sideなのは⇒イリス†††
「ま、こんなもんかなぁ~。ていうか、大丈夫?」
トレーニングルームでまずはわたし対なのは・アリサ・すずかで模擬戦をやってみた。アリサが先頭を切って斬り合いを仕掛けてきて、なのはが射砲撃で援護や牽制、すずかがバインドやシールドでわたしの妨害をしてくる。
(チーム戦としては最高のメンバーなのは間違いないんだけど・・・)
一度崩してしまえば脆いのなんの。まぁ、魔導師歴1ヶ月も満たないんだから、高望みはしない。アリサの剣技は炎熱変換のおかげで威力は高く、一撃必倒を狙える。けど剣筋が粗すぎて簡単に切り崩せる。
なのはの砲撃能力は凄まじく、その上防御力は馬鹿みたいに高くて、今まで出会ってきた魔導師の中でも上位クラス。でも懐に入ってしまえば終わりだ。障壁破壊に優れた騎士の一撃の前じゃ、その障壁も意味は無い。
すずかは珍しい氷結魔法の使い手で、補助特化の魔導師。けど前衛と中衛を墜としてしまえばそれで終わり。
「はぁはぁはぁ・・・シャル・・・あんた・・つ、強すぎ・・・」
「これが・・・シャルちゃん、の・・・本気・・・」
「あぅ~~~・・・」
ちょっと本気出し過ぎちゃったかも。床に倒れ伏してるなのは達を診るユーノ達を眺めつつ「ごめんね~」と謝りながらも、みんなの課題を思い描いていく。3人の課題を確かなものとしたところで「そんじゃ3人に課題を与えま~す」と告げると、なのは達は上半身を起こして座る。さすがに立ち上ることは出来ないみたい。やっぱやり過ぎちゃったな~。
「まずは、なのはからね。なのはには2つの魔法を習得してもらう。1つは短距離の高速移動魔法。懐に入られた時、防御だけで乗り切れない場合がある。操作弾での迎撃もいいけど、そんな集中できるような状況がいつもあるとはありえない。だから緊急回避用の移動魔法が要る。
そしてもう1つ。近接用の直接打撃魔法。これもそう。射砲撃は避けられた後、術者はやっぱり無防備になるからね。そこを狙ってくるの奴もいる。フェイトがそう。あの子のように高速近接戦を得意とする相手には、少なくてもこの2つの魔法を習得しておかないとキツい」
フェイトの動きを思い返しているのか俯いてしまったなのはに「頑張れる? なのは」って声を掛けてみる。するとなのはは「もちろん! 頑張って覚えるよ!」そう強く頷いて応えてくれた。
「次はアリサ。アリサは・・・魔法っていうかまずは剣の扱い方からね。剣を使っているというか剣に使われてる状態。剣を持つにも振るうにも力が入り過ぎ。あんなんじゃすぐに疲れるよ。だから・・・わたしが、剣騎士イリス・ド・シャルロッテ・フライハイトが直接剣の使い方を教えるから」
「うっ。・・・よ、よしっ。いいわよ、やってやるわっ!」
やる気を漲らせるアリサ。そして最後は「すずか」への課題を告げる。
「少なくとも射撃魔法の1つは習得して。攻撃魔法が何1つ無いなんてビックリだよ。あと、カウンター効果の障壁や結界なんていうのも好いかも。相手の攻撃を反射させるってヤツ」
同期にして友人でもある、結界魔法のエキスパートが管理局に居る。騎士であるわたしを完全封殺したミッドチルダ式の魔導師で、顔や性格に似合わず使う結界魔法のどれもがえげつない効果を持ってる。この場に居てくれればすずかの良い先生になるんだけどなぁ、歳も同じだし。
「カウンター系の補助魔法は組み立てるのにも結構な知識が要るから、今はとりあえず射撃ね。んで。偉そうなこと言っておいてなんだけど、わたしって射撃系に疎いから、ユーノ達に師事して」
「うん、判った。じゃあユーノ君、それにセレネちゃんとエオスちゃん。お願いします」
「うん。任せて」
「「それくらいの手伝いはするよ」」
ユーノ達にも了承を得たことで、ジュエルシード発見の知らせが来るまで特訓と行こうか。すずか達がトレーニングルームの端に向かうのを横目に、わたしの元に残ってるなのはとアリサを見る。
「とりあえずはっと。レイジングハート。あなたの機能で、どれくらいの時間でなら試験魔法を組み立てられる?」
≪高速移動系は以前より組み立てています。打撃系は、貴女のお話をお聞きした時に開発開始。試験的に1つ完成しています≫
「「すご・・・」」
持ち主であるなのはと一緒に驚く。“レイジングハート”の優秀さと高性能にはホント舌を巻く。
「よし。じゃあ、なのは。レイジングハートが組んだ魔法を実戦方式で完璧な物へと昇華させていくから、これからは試験魔法のみ使うこと」
「う、うんっ!」
「アリサ。アームドデバイスを持つ以上、魔導師としてじゃなく騎士として育てるからそのつもりで」
「騎士・・・。ふふん、何度聞いてもあたしにピッタリな響きだわ」
アリサがアームドデバイスを手にするに至った経緯は本人から既に聞いてる。魔導師に可愛いじゃなくてカッコ良さを追求したアリサは、杖じゃなくて武器をイメージ。剣や槍に棍、それに銃とか。で、最後まで残ったのが剣と銃。でもどっちも捨てがたい。その結果、剣と銃身を合体させたアームドデバイスを、ベルカのデバイスと知らず登録した、と。あと、カートリッジは使用済みを拾って、再利用しているとのこと。
「じゃあ、そろそろ始めようか。キルシュブリューテ」
長刀型のアームドデバイス、“キルシュブリューテ”を起動させて、騎士甲冑へと変身。なのはとアリサにもバリアジャケットへと変身させ、わたし達は打倒フェイト&テスタメントの特訓を始めた。
後書き
ギュナイドゥン。メル・ハバ。イイ・アクシャムラル。
今話は延々と喋るだけとなってしまいました。すぐに飽きさせてしまったかもしれません。
次回から、残りのジュエルシード回収へと両陣営が乗り出します。
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