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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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崑崙の章
  第3話 「治療できないからです! 少し黙って!」

 
前書き
いろんな専門用語と知識がでてきますが、あくまでこれらはフィクションです。
絶対に真似しないでください。 

 




  ―― 盾二 side 白帝城 城下街 ――




「す、すぐにも……」

 話を続けようとする女性の顔色の悪さに、あまり時間がないことを感じた。

「すいませんが、お話はそこまでで。黄忠さん、このままでは彼女が死にます」
「え!?」
「……っ、なにをいっと……」

 女性がふらっ、と倒れかける。
 その身体を黄忠さんが、慌てて受け止めた。

「桔梗!?」

 俺は、倒れかけた女性の手に触れる。
 かなり冷たい。
 まずいな……

「灯りをもっとたくさん用意して。それと水とお湯……確か今日は風呂を沸かすと言っていましたね? 薪はまだ大量にありますか?」
「は、はい!」
「ならばちょうどいい。沸騰させたお湯を用意してください。滅菌消毒に使います」
「め、めっき……?」
「いいから大量にお湯を沸かして!」
「は、はいぃぃぃ!」

 俺が矢継ぎ早に店主に言う。
 店主は、慌てて厨房へと走っていった。

「黄忠さん、すみませんが彼女を風呂に運びます。まずは泥を落とさないと」
「でも……」
「そのあとは俺の部屋で治療します。貴方の部屋には璃々ちゃんがいる。血で汚すのはまずい」
「……わかりました」

 黄忠さんが頷く。
 俺は彼女を抱き上げようとして――

「ま、待て! なにをする気じゃ!」
「治療します。多少ですが、医術の心得があります」
「か、かまうな、これぐらいの傷――」
「全身の傷に大量の出血。おまけに川縁で戦ったであろう泥が、傷口に入り込んでいる。破傷風になりたいんですか!?」
「は、はしょう……?」

 俺の叫びに、彼女が理解できない顔で呟く。
 横にいる黄忠さんは、俺の言葉に顔を上げて青ざめた。

「場合によっては死に至ります。すぐに治療します」

 俺はそう言って彼女を抱えあげる。
 AMスーツの力を出していないので、多少重いが……なんの!
 俺は男の子!

「わっわっ……こ、このわしが、こんな若造の男に……」
「ごちゃごちゃ言わないでください! 黄忠さん、すいませんが俺の部屋の寝台に綺麗な敷布を敷いておいてください!」
「わ、わかりましたわ!」
「終わったら風呂に来てください!」

 俺の言葉に頷き、黄忠さんは急いで自室に入り、荷物の中から大きめの布を持って俺の部屋へと入る。
 俺の腕の中にいる女性は、顔を赤らめながらもごもご動いている。

「風呂はどこです!」
「こ、こっちだよ」

 宿にいた他の客が案内する。
 この騒動で風呂に入っていた客がいないのが幸いだった。

「すいません、服を脱がします」
「な、なに!? 貴様、こんなときにわしを――」
「泥を洗い落とさないといけないんです! 文句なら後でいかようにも!」

 そう言って、ほとんど破れかけている腕と足の部分の服を千切る。
 さすがに胸や腰の服は取らない。

「あとはどうし……なにをしているのです!?」

 風呂に入ってきた黄忠さんが、彼女の様子を見て声を荒げる。
 決まっているだろう、時間を短縮しているんだ!

「下着を脱がせて、全身の泥を洗い落としてください。できるだけしっかりと少しも残さないように。ただし、擦ってはいけません。俺は外に出ます。終わったら布を羽織らせてください。また俺が運びます」
「……わかりました」
「出来るだけ急いでください。血が流れすぎると失血死する恐れがありますから」

 そう言って風呂を出る。
 部屋に戻ってオリハルコンナイフと、小さな木工用に仕立てたナイフを取り出し、厨房へと向かう。
 火で炙って消毒するためだ。

「親父さん、火を借ります。あと、できるだけ綺麗な針と糸はありませんか?」
「あ、ああ……針なら母ちゃんが。糸は……絹糸があるが」
「どれです……よし、いける」

 かなり太いが、編んである糸だ。
 こよりのように編んであるのをほぐして、細い糸にする。
 糸をばらし終えると、宿の女将さんが針をいくつかもってきた。
 畳針みたいなのもあったが……衣類補修用の小さい針があった。

「このほぐした糸を沸騰したお湯につけてください。そのまましばらく煮込みます。この針も同じにしてください。その後、きれいな……そうですね、皿にでも乗せて俺の部屋に持ってきてください」
「い、いいですけど……一体何に使うんで?」
「治療です。縫合するんですよ」
「ほう……?」

 主人は俺の言っていることがわからないみたいだ。
 そう言えば、この時代に傷を縫い合わせる技術はなかったか?

「それより酒はありますか? できるだけ強いやつ」
「ええと……白酒(ぱいちゅう)ならあるが」
「どれです……う、これは強そうだ。これなら大丈夫そうですね。一瓶ください。お金は後で払います」
「は、はあ……どうぞ」

 最初に渡した金払いの良さを信じたのだろう。
 どんなものでも簡単に融通してくれるようだ。

「あとは綺麗な布を出来るだけ多く……寝台の敷布で綺麗なのがあれば用意してください。買い取ります」
「ええ……と。わかりました。どうするのです?」
「それをこれぐらい……そうです、人差し指の長さでいいです。それぐらいに切って下さい。長ければ長いほどいいです」
「あいよ。あたしがやるわ」

 親父さんが何か言う前に、女将さんがすぐに応じた。
 なるほど、女性上位の世界だったな。

「あとは多めの布を俺の部屋に……綺麗な台の上においてください。それと部屋に大量の灯りを用意してください。油灯でも蜜蝋でもなんでもいいですから」
「は、はい。すぐに用意させます……おい!」

 主人は従業員らしき人に、俺の部屋に大量の灯りと持ってこさせる。
 よし、あとは針を乾かして……糸を通して、針の先端を軽く焼いて再度消毒させておく。

「終わりました!」

 風呂から黄忠さんの声がする。
 よし!

「そっちの今冷ましているお湯はそっちの瓶に……そう。できれば何本も用意してください。後、塩! 食塩を俺の部屋に置いてください!」

 そう指示して厨房を出る。
 風呂へと戻ると、背中から血を流して、ぐったりした様子の彼女がいた。
 お湯で洗い流して、泥と血小板で止まっていた血が流れ出したのだろう。

「もうしばらく我慢してくださいね……よっと!」

 俺は彼女を抱え上げて部屋へと運ぶ。
 寝台の上には綺麗な敷布が用意してあった。

「よっと。降ろしますよ」

 できるだけ静かに彼女を降ろす。
 彼女はぐったりとして何も答えない。

「傷は……見えるだけで十八。全て槍や刀傷ですね……矢は喰らいませんでしたか?」
「……矢は、ない。十人がかりで一度に攻められての。さすがに捌ききれんかったわ」
「背中の傷が一番酷いな……まずはここを綺麗にしましょう。黄忠さん、彼女の口に何か布を噛ませてください」
「布……ですか?」
「はい。かなり痛みますから、舌を噛まない様にするんです」
「……では、これを」

 黄忠さんが懐からだしたスカーフのような布切れ。
 かなり複雑な刺繍がしてある。

「……いいのですか? ぼろぼろになりますよ?」
「桔梗の……厳顔のためです。惜しくはありません」

 厳顔……この人の名前か。
 黄忠と呼ばれる人が、高価なものを惜しくもないというほどの相手……名のある武将なのだな。

「では、彼女の口に噛ませて……しっかり身体を固定させてください。えっと……厳顔さん! これから白酒で背中を消毒します。かなり痛みます。歯を食いしばって耐えられますか!?」
「もご……当然じゃ!」
「その意気やよし……頑張ってくださいよ!」
 
 俺は酒と水で手を洗った後、用意してある湯冷ましの瓶に、食塩を少量混ぜていく。
 詳しい分量?
 一リットル中に九グラム。詳しい計りなんてないが、そこは慣れで覚えた感覚だ。
 出来上がった生理食塩水を用意して……先程手を洗った酒瓶を再度とり、厳顔さんの背中の傷に沿って少量ずつ垂らしていく。

「---------っ!!」

 ビクンッ、と跳ね回る厳顔さん。
 痛いよね、うんわかる。
 でも耐えてくれ……これからもっと痛いんだ。

「手が足りない! 誰か彼女の足を抑えてくれ!」
「あたしにまかせな!」

 扉の前で覗き込んでいた野次馬の中から、宿の女将さんが手伝いを申し出る。

「アンタもいい年なんだからそれぐらい我慢しな! こんなの子供産むのに比べりゃ全然痛くないだろ!」
「もごーーーっ! もご、もごっ、もごも!」
「何言ってんだかわかんないよ!」

 女将さんがはっぱを掛けながら足を押さえる。
 ありがたい。
 こういうときにどっしりと声を掛ける人の存在は、患者とって何よりの力だ。

「傷のなかに泥や石はなし……」

 暴れたことで流れ出る血を丹念に拭き、体の内部の出血は先程作った生理食塩水で洗い流す。
 このままでは傷口が小さすぎて血管を出せないため、火で消毒した小刀で傷を少しだけ大きくする。

「ど、どうして斬るのですか!?」
「治療できないからです! 少し黙って!」
「もごっ……!」

 背中の傷を少しだけ開く。もちろん血管や筋肉などには傷をつけない様にだ。
 背中の筋肉を優しく素手で掻き分け、出血の原因である太い血管を見つける。

 筋肉や血管が断裂しているわけではなさそうだ。
 しかも出血場所は一箇所だけ……運がいい。

 縦に裂けた血管から血が流れないように、血管の上下を糸で縛る。
 血を生理食塩水で洗い流して……針で縫合する。
 急がないと壊死してしまうから、時間は掛けられない。

「もー! もごーっ! もごぉっ……!」
「まさか研修で行かされたラムディのじいさんに、無理やり覚えこまされた医療術がこんなところで役立つとはな……」

 思わず呟く。
 『神を宿す手を持つ男』スプリガン屈指の殺し屋であり、世界一のドクターでもある男、パーカップ・ラムディ。
 彼のところで一刀と共に働かされた二ヶ月は、すさまじく実践的で。
 どこかの無免許医並に手術もやらされた。

「十代の若者に何十という外科手術させる違法医師なんて、いねーよ……ったく!」

 まあ、そのおかげで多少の怪我なら、自分で簡単に処置できるようになったんだが。
 血管を縫合するときは……繊細かつ大胆に! そしてしっかりと絞る!
 でないと、縫合部位から漏れるからね。

「何ブツブツ言ってるんだい?」
「なんでもありません……よっと。よし、出血は……ないな。縫合します」

 結索していた糸を解いて血を流して出血の有無を確認。
 出血がないことを確認して、生理食塩水で傷口を洗う。
 本当は完全密封した生理食塩水が欲しいところだが……そんな便利なものはない。

「さてと……まだ痛みますよ。しっかり身体を押さえて置いてください」

 何しろ今度は表皮を縫合するんだ……しかも埋没法で。
 麻酔なしだと、めっちゃ痛いぞ、これ。

「では……」
「もごっ!」
「出して……」
「もごっ!?」
「また刺して……」
「もごぉっ!?」
「で、これを繰り返し……」
「もごぉぉぉぉぉぉっ!?」

 うんうん。
 肉に刺してー出してーまた刺してー……

 麻酔無しでやっているのだからそりゃ痛いよな。
 俺も何度かやったことあるが……大丈夫だ。
 そのうち痛みが快感に代わればいいと念じて……気絶するから。

「き、桔梗……ほん、ほんとにこれ、治療なんですか?」

 黄忠さんが恐々としながら尋ねてくる。
 かなり顔が蒼白になっている……無理もないか。
 この時代に縫合技術なんてあったかどうか。

「大丈夫……こうしないと失血死します。ただでさえここにくるまでに大量に血を流した様子……人間ってね、全身の血の三分の一も減ると危ないんです。しかもこの世界じゃ輸血も出来ない……血を失うのは非常に危険なんですよ」

 なにしろ血液型もわからないのだ。
 判別方法がない。
 点滴は何とかなるかもしれないが……

「そうだ……(こうじ)か酒粕、甘酒ってありますかね?」
「甘酒? 今はないけど……酒粕ならあるよ」
「あ、あるんだ……なら問題ないか」

 甘酒って……いつの時代からなんだろうな。
 まあいいか。

 きゅっとしばって……よし。

「ふう……背中の縫合終了っと。後は消毒して……さて他の傷をって、あれ?」

 気がつくと、厳顔さんが動かなくなっている。

「桔梗? 桔梗!?」

 黄忠さんの声が響く。

「死なないで、桔梗ーっ!」
「いや、死んでないから」

 女将さんは、ピクピクと動く足を押さえてそう呟いた。




  ―― 黄忠 side ――




 桔梗の手当てが終わった翌日。
 気がつくと、寝台で目が覚めた。

「あら……わたくし、いつの間に」

 確か昨日は、桔梗の手当てが終わった後。
 後……どうしたのかしら?

「ええっと……」

 少し重い頭を振り、起きようとする。
 と、胸の服を引っ張る手があった。

「むにゃ……おかあさん」

 あら。
 璃々が、私の服を掴んで眠っている。

「ということは……ここは昨日泊まった部屋?」

 窓から外を見れば、すでに陽は高く昇っている。
 わたくしは、璃々の手を静かに掴んでいる服からはずすと、寝台から起き上がった。

 衣服は昨日のまま……どうやら気を失ったか眠り込んでしまったらしい。

「! そうだわ、桔梗……」

 昨日、あれだけのことがあったのだ。
 桔梗は無事かしら……?

 急いで部屋から出ると、北郷さんのいる部屋の扉を軽く二、三度叩く。

「はい」

 中から男の人の声。
 これは……宿の主人かしら。

「すいません。黄忠ですけど……入っても大丈夫です?」
「ああ、黄忠様ですね……どうぞ」

 その声に扉を開けると……
 寝台の上に細い布で作られた包帯で、ぐるぐる巻きにされた桔梗の姿があった。

「桔梗……?」

 顔色は若干青いものの、呼吸もしっかりしており、時折痛みにうなされているようだ。
 よかった……生きてる。

「このお客さんの話じゃ、傷に比べて思ったより出血が少なかったので、助かったのではないかと……」

 そう言う宿の主人が視線を向ける先には、北郷さんが壁に背を預けて眠っていた。

「北郷さん……」
「大した方ですね……先程まで起きていたのですが、家内に甘酒作る様に指示して、市場が開くまで寝るとおっしゃってからすぐに寝ちまいました。相当疲れたんでしょうな」
「……そう、ですか」

 見ず知らずのわたくしの友人のために、そこまで……
 にもかかわらず、不覚にも眠ってしまった己を恥じた。

「ん……む……わしは……」
「桔梗!?」

 目覚めた桔梗に、わたくしが縋りつく。

「ああ……よかった」
「紫苑……お主か。うっぐ……」
「……まだ痛む?」
「……かなりの。あの小僧め……治療する前より痛むではないか」

 桔梗がニヤリとしながらも顔をしかめる。

「えっと……すいません」

 宿の主人が、申し訳なさそうに声を掛けてくる。

「その小僧……お客さんから伝言です。貴方がもし起きたら、少しだけ甘酒を飲ませろと」
「甘酒じゃと……そんなものより酒を」
「あ、お酒は絶対に飲ませるな、だそうです」
「な、なん、じゃと……」

 さすが桔梗。
 こんなときでもお酒を飲みたがるなんて……

「本当は麹から作る甘酒の方がいいんですけど……うちには酒粕しかないので、砂糖を少しだけ入れたものが作ってあります。すぐにお持ちしますね」

 そういって宿の主人は、部屋を出て行った。

「むう……い、痛みが酷いのに好きなものを飲ませんとは。儂の体が動けるならば、轟天砲で穴だらけにしてやるものを……」
「桔梗……助けてもらった恩人に、そんなこと言ってはダメよ」
「し、しかしの、紫苑。わしはあんな治療など見たことも聞いたこともないんじゃぞ?」
「破傷風については、わたくしも知っているわ。全身痙攣して……最後は死んでしまう」
「な、なんじゃと……」

 そう……彼が言った言葉。
 『破傷風になりたいんですか!?』 この言葉がなかったら、わたくしも北郷さんに全てを任せるようなことはしなかった。
 破傷風。それこそが原因で死んだ……あの人の死因なのだから。

「お待たせしました」

 宿の主人が甘酒を持って戻ってくる。
 熱々なのかと思ったら、かなり冷ましてあるようだ。

「熱すぎるとまずい、とのことで人肌に冷ましてあります。ゆっくり、一口ずつ飲ませろ、とのことです」
「私がやりますわ……さあ、桔梗。あーんして」
「あ、あーんって……いつつ、そ、そんな歳ではないのだぞ、まったく……」

 桔梗は顔を真っ赤にしながら、一口だけ飲み……さらに顔を真っ赤にさせていた。




  ―― 盾二 side ――




「もし……北郷さん……」
「ん……あ?」

 誰かに揺すられて目を覚ます。
 眠りが浅かったため、すぐに目を覚ました。

「ああ……黄忠さん」

 目を覚ました俺の前にいたのは黄忠さんだった。
 疲れて眠ってしまったので、部屋に運んだはずだったんだが。
 俺が窓の外を見ると、日は昇ってしばらく経っていたようだ。

「すいません……起こしていただいて感謝します」
「いえ……こちらこそありがとうございました。桔梗を救っていただいて」
「ふん……助かったのならば、この痛みもどうにかせんか……つつつ」

 寝台の上から別の人の声もする。
 どうやら厳顔さんも目を覚ましたらしい。
 俺は、身体を起こして立ち上がる。

「やっぱり痛みますよね……何とかできるかわかりませんけど、しばらく我慢してください。俺は市場にいきます」
「市場に?」
「ええ……できれば手に入るものを探したいのですが。人手が欲しいんです。親父さん、手伝ってくれませんか?」
「ええと……まあ、しかたありませんね」

 宿の主人は、渋々頷く。

「すいません。もろもろの費用は全てお支払いします。お礼もはずみますので……」
「はあ……」
「ま、まてい!」

 厳顔さんが声を上げる。

「わ、わしのための治療じゃろう。儂が払うわ……つつっ」
「……わかりました。最終的にまとめてということで。とりあえずの代金は私が出しますから」

 昨日の黄忠さんの件もある。
 武人のプライドを傷つけないように、明言は避けておく。

「わたくしもお手伝いしますわ」

 黄忠さんが申し出てくれる。
 ありがたいんだけど……

「では厳顔さんを看ていてください。絶対に起こさないように。あと、甘酒を少しずつでいいので飲ませてください。点滴の代わりです」
「てん、てき?」
「えっと……栄養をとるために必要なんです。治りを早くしますし、甘さは痛みを緩和しますので……」
「ああ、わかりました」

 甘酒の成分は点滴とほぼ同じ。
 経口摂取なのが問題だが……仕方がない。
 未熟なヤシの実で点滴の代用も出来るそうだが……危ないからやるなとラムディ爺さんが言っていたな。

「女将さんには麹を手に入れて、それで甘酒作るように伝えてください。そちらのほうが甘みも出ますし、栄養素も豊富です。あとは……」

 台の上においておいた竹簡を渡す。

「昨日のうちに書いておきました。ここに書いてある食材を手に入れて、それでかゆを作ってください」
「わかりました」

 主人はすぐに部屋を出て行った。
 書いてあるのは、血の元になるほうれん草や動物のレバー、この辺じゃとれないかもだが、ひじきに海苔なども書いてある。
 あとは牛乳に梅干……流通しているかは微妙だが。

「さて……こっちの問題は、あれの球根があるかどうか……あれば楽なんだがなあ」

 よく知られる麻酔の元だ。
 この時代の市場……花屋とかにあるだろうか?
 
 

 
後書き
繰り返しますがフィクションです。
ただ……筆者は、血管の縫合を間近でしっかりと見たことがあります。
額の血管の縫合でしたが。 
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