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ストライクウィッチーズ1995~時を越えた出会い~

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第二話 タイムスリップ

 
前書き
一話だけでは何とも寂しいので連続投下。
書き溜めてあるとはいえ、諸事情で更新は不定期気味でありまする。 

 
 ――1945年 春

「くっ……! ネウロイ確認! 距離12,000!!」
「さ、坂本さん!」

 欧州ヴェネツィアへと向かう二式飛行艇の中で、坂本美緒と宮藤芳佳は激しい衝撃に歯を食いしばっていた。
ブリタニアでの激しい戦いから約半年。ようやくガリアに平和が訪れたと思った矢先、ヴェネツィア上空に新たなネウロイの巣が出現したのだ。
これを受けた扶桑皇国海軍は、直ちに緊急支援作戦を決定。坂本美緒と宮藤芳佳を乗せた二式飛行艇がロマーニャへと向かっていたのだが、到着目前というところでネウロイに捕捉されたのである。

「くそぅ……奴ら、エンジンを狙ってやがる……!!」
「今は退避だ!! 急降下して振り切れ!」
「やってみます!」

 こちらを獲物と見定めた大型航空ネウロイが執拗に攻撃を浴びせてくる。
 空の要塞と謳われた二式飛行艇であっても、ネウロイの攻撃ではひとたまりもない。
 むしろ、エンジンを一基潰されてなお飛んでいられることが僥倖といえる。

「土方、近隣のウィッチ隊に増援を要請しろ!」
「ダメです! 第504部隊は先日の戦いで戦力を消耗、ヴェネツィアからは航続距離不足との回答が……」
「航続距離不足……だと……!?」

 歯噛みする坂本。このままではジリ貧ではないか。
 ブリタニアでの戦いの折、シールド能力の減衰が顕著となった坂本が空戦を挑むわけにはいかない。小型相手ならいざ知らず、弩級の大型ネウロイが相手では勝負など最初から見えている。
 近隣部隊からの救援は期待できず、飛行艇である二式飛行艇にまともな攻撃力などない。ウィッチである坂本もシールドが張れないのでは満足に戦うことができない――

「坂本さん! 私が行きます!」
「宮藤……ダメだ、お前一人では危険すぎる」
「でも、私は守りたいんです! この力でたくさんの人を守るって決めたんです!」

 依然としてネウロイの猛攻は続いている。必死に機体を振って射線から逃れるのもそろそろ限界に近い。操縦士の腕によって永らえてはいるが、いつ撃墜されるかは分からないのだ。

「……わかった。ただし、無理だと思ったら退け。絶対に……死なないでくれ、宮藤」
「はい! 任せてください、坂本さん!」

 縋るような瞳の坂本に大きく頷くと、宮藤は積んであったストライカーユニット――零式艦上戦闘脚に脚を突っ込み、魔法力を解放する。使い魔を憑依させ、舞うようにして大空へと身を躍らせる。

「行きます!!」

 無骨な20mm機銃を腰だめに構える宮藤。雨のように降り注ぐネウロイのビームをシールドで捌きつつ、隙をついて反撃する。既に一人前といっていい見事な機動も、かなしいかな、如何せん火力が足りない。あれだけのネウロイを相手にするのであれば更なる攻撃力が必要だ。

「守ったら負ける……攻めるんだ!!」

 シールドにかかる重圧を跳ね除け、再度反撃する宮藤。
 背後には無防備な二式飛行艇をかかえた中で、見事といっていい戦いぶりだった。
 しかし――

「――ッ!! 宮藤、後ろだッ!!」
「え!? きゃあああ――――っ!!!!」

 一瞬の意識の乱れを突かれた宮藤は、背後から放たれたビームを捌き切る事が出来なかった。
 正面からまともにビームの直撃を浴び、たまらず宮藤の小さな体が吹き飛ばされてしまう。

「宮藤ィ――――ッ!!!!」

 突風に弄ばれる木の葉のように落ちてゆく宮藤の体を、坂本は背筋が凍りつくような思いで見ている事しかできなかった。何もかもが緩慢で、堕ちてゆく宮藤の顔さえあんなにはっきり見えるというのに、自分は何一つしてやる事が出来ない――

(誰でもいい……)

 ネウロイの巨躯が再生によって回復してゆく。
 驚異的な再生力の前では艦砲射撃ですらただの玩具に成り下がる。

(誰でもいいんだ……あいつを、宮藤を……ッ!!)

 唇を噛み切らんばかりに悔しがる坂本の絶叫が空に響く。

「誰かあいつを助けてくれ――――ッ!!!!!!」





「う……ぁ……」

 耳元で風が轟々と鳴っている。腹の底が抜けたような加速感。
 それは、航空ウィッチが最も嫌う感覚であり状態だった。

(――落ちている!?)

 目を開けるよりも早く自分が自由落下していることを悟ったのは、まさしく空に生きる者の本能であったと言えるだろう。もっとも、辺り一面雲だらけで、ここがどこなのかは全く分からなかったのだが。

「ここは……一体……!?」

 ストライカーのエンジンが停止している。装備状態が勝手に解除されないよう緊急装置が働いたらしい。が、このままでは姿勢を立て直すことすら叶わずに墜落死するだけだ。

「魔道エンジン再始動!! 緊急停止装置を解除、制御を使用者に移行!!」
 
 叫ぶように言い放つと、自身の両脚を包む愛機が息を吹き返してくるのを感じた。
 和音の頭が覚醒し始め、同時に冷静さが戻ってくる。ユニットがまだ生きているのであれば、絶対に希望を捨てないこと。訓練生時代に叩きこまれた鉄則である。

「お願い……動いて!!」

 その願いを聞き届けたのか、和音の愛機であるF-15Jが頼もしい唸りを返してくれる。魔道エンジンの再始動に成功したのだ。これで墜落の心配はない。魔法力によって形成されたシールドが風圧を和らげ、体に活力を与えてくれる。

「それにしても、此処は一体どこなんだろう……?」

 見たところ雲の上のようだが、と和音は首を捻る。今回の要撃訓練では事前に天候のチェックが行われていて、雲はないと伝えられていた筈だ。だとするなら、自分が訓練空域からはみ出したのか。それならそれで基地からの通信があっていいようなものだろうに……

「ダメだ……通信もGPSも軒並み使い物にならなくなってる……」

 正確には、通信は生きているものの拾える周波数が送られてきていないようであり、GPSは信号をキャッチできていないようなのである。レーダーは一応のところ機能しているようだが、現在位置を特定するには情報不足だった。

「ユニットは問題なし、武装と火器管制もオールグリーン……ダメなのは電装系? でも機体コントロールと火器管制に異常はないし……」

 ともかく、一刻も早く訓練に戻らねば。仮にここが民間人の住宅街の上空だとしたら後々面倒である。和音は耳元のインカムを片手で抑え、周波数を全周波に切り替えて通信を飛ばす。

「こちら、扶桑皇国空軍第7航空団第305飛行隊所属、沖田和音少尉。百里基地、聞こえますか?」
『………………………………』
(おかしい……応答がない? そんな馬鹿な)

 基地の無線が捉えられないような場所にいるとでもいうのだろうか?
 訝しげな表情を浮かべた和音は再度通信を試みる。

「こちら、扶桑皇国空軍第7航空団第305飛行隊所属、沖田和音少尉。百里基地、聞こえますか? リベリオンウィッチ隊、応答してください」
『……ら、扶桑……軍…所属、坂……少佐……在、ネウロイ……救援を……』
「っ!?」


 耳元のインカムに途切れ途切れな通信が届く。しかし、この切迫した雰囲気は何だ?
 和音が眉を寄せたのも無理はない。途切れがちな通信の中で、相手ははっきりと『ネウロイ』という単語を口にした。これではまるで本当にネウロイが攻めてきているみたいではないか。ネウロイ大戦など既に終結した過去の記録に過ぎず、いかに演習とは言えそこまでの演出をしようものなら逆に文句を言われるはずだ。
おまけにいったいいつの時代の通信機を使っているのか、音質も最悪だ。1940年代ならいざ知らず、ニュー・ミレニアムを目前とした90年代のウィッチとは思えないほどお粗末だ。倉庫で埃をかぶっているような訓練機だってもう少しマシな筈だ。

(いったいどこの訓練生なの? まさか訓練中に空域に入ってきた?)

 機位を逸したどこかの訓練生が、合同演習の空域に紛れ込んできたに違いない。いらだちも露わにした和音が、魔道エンジンを大きく吹かして急降下する。
 雲の上では一向に位置がつかめない。ともかく、周囲を見渡せる雲の下に出なくてはどうにもならない。依然として耳に響く通信を聞き流しながら、和音はぐんぐん高度を下げていった。

 ――そして彼女は出会う事となる。
 遠い時の果てに忘れられた、儚くも勇敢で美しい、伝説の魔女たちと。
 
 

 
後書き
【設定・用語解説】 今回は主人公のお話

主人公:沖田和音(おきたかずね) 
年齢:14歳 
使い魔:オオワシ
所属:扶桑皇国空軍第7航空団第305飛行隊所属
固有魔法:魔眼(感知系魔法の一種。遠距離視と夜間視の複合型)
使用ユニット:F-15J


……とまあこんな感じでございまする。 
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