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ストライクウィッチーズ1995~時を越えた出会い~

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第一話 1995年

 
前書き
タイムスリップ系のストパンSSです。
アニメも劇場版も終わったのにいまさら何を、って感じですが、よろしければお付き合いください。
あ、ストパンのラジオはまだやってるんですよ! 

 
 ――1995年4月 扶桑皇国、小美玉市。

 春先の爽やかな風が、満開の桜を吹雪かせて流れてゆく。
 首都東京からそう遠くない距離にある茨城県小美玉市。そこにある、扶桑皇国空軍基地――百里基地。民間機の乗り入れをも認めた珍しい形態で知られるこの飛行場に、目を眇めて満開の桜を眺める少女が一人。

「……うん、いい風だ」

 風に揺れる黒髪を片手で抑えながら言う彼女の名は『沖田和音』
 扶桑皇国空軍第7航空団第305飛行隊所属の航空魔女である。

「今日は気持ちよく飛べそうだな」

 扶桑海事変より半世紀以上、欧州を中心に繰り広げられた第二次ネウロイ大戦から数えても決して短くない年月が過ぎた現在。数々のエースウィッチを輩出してきた扶桑皇国の在り方は、長い年月の間に随分と様変わりしていた。
 扶桑海事変や第二次ネウロイ大戦を戦った人物らが一線を退き、その息子や孫たちが活躍するようになった時代。街並みや服装といった庶民的な面はもとより、既存の陸海軍に加えて空軍が誕生したのも社会の大きな変化であったといえるだろう。
 かつて空を支配した、宮藤理論の申し子であるレシプロストライカーは姿を消し、今や超音速で風を切り裂くジェットストライカーが主流となっている、そんな時代。

「午後はリベリオンとの合同演習だっけ……久々にF-14とかF-18が見られるといいな」

 そしてもう一つ。
 何よりも大きな変化が、ネウロイという脅威が既に過去の物として忘れられかけている事だった。
 無論、ネウロイの脅威は未だ地球上から消えていない。
 しかし、主戦場が扶桑になることなく半世紀以上が過ぎ、積極的な支援を行った第二次ネウロイ大戦もほぼ終結し、今や復興と発展の時代だ。残るネウロイの脅威は、南アフリカの一部地域と、太平洋上の群島に位置する小規模な拠点が数か所。それから南アメリカの一画に小規模な巣があるという程度だ。
 こういう言い方をすべきではないのかもしれないが、扶桑に生きる人間にとっては、たとえ知識として有してはいても、所詮は海の向こうの他人事としか感じられなくなっていたのである。

「そろそろ休憩時間も終わりかな? 急いで戻らなきゃ」

 訓練の合間に設けられた休憩時間もそろそろ終わりだ。腕時計で時間を確認した和音は、芝生の上に置きっぱなしだった愛読書を拾って立ち上がる。午後からは友好国であるリベリオンとの合同演習だ。

「今回は何機撃墜判定を出せるかな……フフン。扶桑の力を見せつけてやるんだから」

 空軍の所属であることを示す軍服をはためかせながら駆ける和音。既に訓練生ではなく一人前のウィッチであるが、未だ実戦の経験はない。それどころか、教官の中にだって実戦を経験していない人間がいる時代なのだ。

『――百里基地第305飛行隊各員へ。本日の合同演習は予定通り行われる。速やかに所定の場所へ移動するように。繰り返す――』

 基地から響くアナウンスが、訓練開始の時刻が迫った事を教えている。
 空を飛ぶ喜びに胸を膨らませながら、和音は基地の格納庫へと駆けて行った。





 ――百里基地 ストライカーユニット格納庫前

 首都防空を主任務とする第305飛行隊は、必然的に要撃任務を意識した訓練が多くなる。しかし、それだけではなく他国の軍とも共同で訓練を行う事がある。
 今回の訓練は、ウィッチ同士による模擬戦闘と、編隊飛行訓練、要撃訓練が主体になる。
 まず、訓練に協力してくれたリベリオン海軍の空母からウィッチが発進。それを百里基地から発進した和音らが迎え撃つ、という形だ。所定高度への到達時間や、編隊飛行の練度、各種兵装の訓練射撃を行った後、実戦的な模擬戦へと移るのである。

「ふむ、沖田少尉は随分とヤル気のようだな、ん?」
「い、いえ! そのようなことは……」

 今や遅しと出番を待っていた和音の隣にやって来たのは、第305飛行隊の隊長であった。厳しくも優しい、細かいことを気にしない彼女を慕う隊員は多く、バレンタインや誕生日ともなれば部隊員のみならず一般の男性兵士からも贈り物が届くという。

「ははあ、さてはまた相手を叩きのめす気だな?」
「もちろんです! 扶桑皇国魔女の力を見せてやります!」

 模擬戦での勝率が高いのはウィッチとして優秀な証だ。少なくとも和音はそう思っている。
 実戦経験こそないものの、和音の訓練における成績は優秀であった。
 使用するユニットは『F-15J』である。元々はリベリオン製のジェットストライカーであり、それを扶桑の実情に合わせて改修したものだ。開発から二十年近い年月が経つにもかかわらず、堅実かつ拡張性の高い設計と、優秀な基本性能が評価される傑作機である。

「威勢が良くて結構。だがしかし、油断と慢心は命取りだぞ? それを忘れるな」

 この隊長も実戦を知らない世代だが、自身の祖母が扶桑海事変以降の大戦でその名を轟かせたエースであったのだという。彼女の口から語られる教訓は、他の教官や上官以上の説得力があった。

「空を飛ぶ人間は常に空を畏れるべきだ。それを忘れたら最期、無惨に地面へと叩きつけられる」

 どこぞの蝋の翼と同じさ、と付け加えると、隊長はほおを緩めて語りだす。

「だが、ウィッチにとって空は第二の故郷だ。自分の体で風を切って飛ぶあの感覚は、それは気持ちいいものだ。陽光に煌めく海の蒼など、もう言葉では言い表せないな」

 不意に照れくさそうな笑みを浮かべて隊長は言う。

「……コホン。まあ、なんだ。常に油断せず、思いっきり飛んで来いと言う事だ。期待している」
「はい! ありがとうございました、隊長!」
『沖田少尉! 発進準備!』

 格納庫中に響き渡る指示に、和音はあわてて愛機に飛びつく。
 魔法力が体の内を駆け巡り、大切な相棒たる使い魔を憑依させる。和音の使い魔はオオワシだった。魔法力の発現とともに、側頭部からは雄々しい羽が、臀部からも可愛らしい尾羽が飛び出てくる。
 基地の人間は和音の事を指して〝オオワシ使いのF-15乗り〟と呼んでいるが、なかなかにうまい表現かもしれない。

「さあ、待ちに待った出番だ。行ってこい、沖田!」
「はい!」

 開け放たれた格納庫の扉から滑走路に進入し、所定の位置につく。
 すでに相手のウィッチは発艦してきている。つまりはスクランブルを想定しているわけだ。

「こちら沖田。発進準備完了。いつでも行けます!」

 管制官に無線を送る和音。スクランブル発進はスピードが命だ。

『了解。沖田少尉、発進どうぞ』
「行きます――――ッ!!!!」

 魔道エンジンに目一杯魔法力を流入させ、蒼海を臨む滑走路を滑り出す。
 かかる加速に歯を食いしばり、十分に機速を稼いだところで一気に上昇に転じた。

「はあぁぁッ!!」

 気合の叫びも高らかに上昇し、先に発進した隊の仲間と合流する。そのまま編隊を維持し、発艦してきたリベリオンのウィッチを迎え撃つ。ここからが――本番だ。

『所定高度への到達を確認。両ウィッチ部隊は模擬戦闘を開始せよ』

(――来た!!)

 要撃訓練である以上、当然〝迎え撃つ〟ことも要求される。
 つまり、模擬戦闘というワケだ。

(扶桑魔女の力を見せてやる!!)

 和音がそう勢い込み、主武装である『JM61A1』を構えようとした、まさにその時だった。

「あ――れ……?」

 おかしい。体に力が入らない。
 視界がグルグルとまわりだし、酷い吐き気がこみ上げてくる。
 チカチカと視界が明滅し、眩暈に体がふらついてしまう。

(そんな、体調不良はなかったはずなのに……)

 緊張の所為だろうか? いや、違う。
 眩暈はますます酷くなり、目を開けている事すら辛くなってくるほどだ。
 不意に、和音の意識が遠のき始めた。その感覚はちょうど、眠りに落ちるというべきか、はたまた水底に沈むようなというべきか、ともかく全く奇妙な感覚であった。
 しかし、飛行中に意識を失うことは死に直結する。如何なウィッチといえど、上空から真っ逆さまに落下して無事でいられる保証などあるわけがない。
 だというのに、文字通り真っ逆さまに落ちてゆく和音の頭にそんな危機感は欠片もなかった。むしろ安らかさと優しさを感じるほどだ。何故だろうか、恐怖感など微塵も感じないのだ。

(ああ……なんて、気持ちいい……)

 ――最後に。
 視界を埋め尽くす空の蒼に恋い焦がれながら、和音はゆっくりと自らの意識を手放した。


 それが、和音にとって大きな運命の分かれ道であるとも知らずに――
 
 

 
後書き
【設定・用語解説】 作中における設定などを解説しようかなぁ、と。

『F-15J』
お察しの通り元ネタは空自のF-15J。
ここではリベリオンのジェットストライカーをライセンス生産した、という扱い。
ミサイルの類はユニット内部の異空間に格納しているという設定です。 
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