とある碧空の暴風族(ストームライダー)
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幕間
Trick14_信乃と仲良くしてもらってありがとうございます♪
「腕の関節は外側には曲がりません。ですから、右手ナイフ攻撃は相手の右側に
避けるのが一番効率が良いです。
しかし、いきなり右側に回っても相手が対処する可能性があるので、
始めの数回の攻撃は、わざと後ろの方に逃げてください。
その後に右側に回り込む方が相手の不意を付けます」
風紀委員訓練場。
西折信乃はそこで格闘訓練の指導をしていた。
先日のグラビトン事件から1週間が経ち、信乃の手の怪我も完治した。
信乃が言った通り傷は3日後には治っていたが、その間の信乃は目の下のクマで
信乃本人よりも周りの人間が心配していた。
傷が直った4日目には熟睡できたようで、今では顔色も問題なく健康体になっている。
現在、風紀委員の上からの命令で風紀委員予備軍の少年少女10人を指導していた。
「鉄パイプとか、リーチの長い武器の時はどうしたらいいですか?」
「振りかぶる動作の武器は、懐に潜り込む動作をフェイントにして
すぐに攻撃範囲から出るようにした方がいいです。
何度も振り回させて疲れるのが安全策ですね。
あと他にも・・・」
「信乃さん、教えるのが上手ですね」
「そうだね~、ほんと何でもできる人だよ」
訓練をしているグラウンドの端の方で佐天と初春が信乃を見ていた。
信乃はこの場所に来たことがなかったので、初春が案内役を買って出た。
ついでにその場に居合わせた佐天もついてきたのだ。
「不良も20人以上を相手にして楽に勝てたし、何かの格闘技でもやってたのかな?」
「帰りに聞いてみますか?」
ということで帰り道。
「格闘技というよりは“総合格闘術”を習ってましたよ」
「「総合格闘術?(ですか?)」」
「はい、私の父親が総合格闘術の師範をしてまして、私もそれを習ってました。
8歳からは教えてもらっていないので、今使っているのは8歳までに教えられた
技術と私の実戦経験を合わせたものになります。
総合格闘術は武器や素手など関係なく、相手にどうやって勝つかを極めたものです。
その過程で他の流派の技も多く入れてます、というよりは様々な流派を
ごちゃまぜにした何でもありの流派なんです」
「てことは剣術もできるんですか?」
「はい、もちろんです初春さん。素手、刀、棒。
他にも変わりものとしては鎖鎌まで教えられましたよ」
「「本当になんでもありなんですね・・」」
「それよりも、2人とも今日は本当にありがとうございました。
場所が分からなかったので地図を頼りにしていたら遅れていたかもしれません。
お礼に何かごちそうしますよ」
「いえ! 前もプレゼントしてもらいましたしこれ以上は!」
そう言う佐天の左手首には信乃からもらったブレスレットが光っていた。
「それ、佐天さんのお気に入りですよね!
学校では校則があるから付けてませんけど、最後のHRが終わると
すぐにカバンから出して着けてますよ!
正確には学校以外の全ての時間に着けてますよね!」
「ちょ、初春! なにばらしてるの!」
「気に入ってもらえてよかったです。
あ、ちょうどかき氷が売ってますから、これぐらいご馳走させてください。
値段も高くないですし、今日は暑いですから」
「あ、わかりました。ありがとうございます」
「ありがとうございます。私はあそこのベンチで場所を取っておくので、佐天さんと
2人で買ってきてくださいね! あ、私はイチゴで! それじゃ!」
初春は返事も聞かずに走って行った。
残されて佐天は信乃と2人きりとなった。
(初春の奴、また!)
「それじゃ佐天さん、並びましょうか」
「え、あ、はい!///////」
信乃と佐天はかき氷屋の行列に並んだ。
今日は暑いので、信乃たち以外にも客が数人いたので行列ができている。
「(何か話さないと・・)あ・・えっと・・・し、信乃さんは何味が好きですか?」
「私はメロンが好きですが・・佐天さん、大丈夫ですか?
声が少し裏返っていますよ?」
「あ、いえ、大丈夫です」
(って私意識しすぎ!! 変に思われちゃうじゃない!!)
「本当に大丈夫ですか? 顔がかなり赤いですけど・・・」
「大丈夫です!! ほら、順番が来ましたよ。早く注文しましょう!!」
信乃は不思議そうな顔をしたが、佐天がそこまで言うのでこれ以上は聞かないようにした。
「・・じゃあ、佐天さんの注文は?」
「わ、私も信乃さんと同じメロンで!!」
「はい。すみません、メロン2つとイチゴ1つ下さい」
「あと、レモン1つとイチゴ2つも追加でお願いします♪」
「「え?」」
いきなりの声は後ろから聞こえてきた。
2人は振り返ってみるとそこには1人の少女が立っていた。
少女を視認した直後、信乃は驚きで目を見開き、すぐに睨むように目を細めた。
「ひさしぶりだね信乃♪」
そこには大きな淵のメガネをかけた少女が笑っていた。
「え~、はじめましての人もいますので自己紹介を♪
私の名前は"西折 美雪"(にしおり みゆき)♪ 長点上機学園に
通っている高校一年生、よろしくお願いしますね♪」
謎の少女と信乃と佐天はかき氷を持って初春が待っているベンチへと向かった。
そこには御坂と白井もいて、謎の少女が注文した3つのかき氷は自分と2人の分だった。
ベンチに座った後に少女は自己紹介を明るく話した。
美雪と名乗った少女は、大きなメガネと小さな身長が特徴的だった。
服装は名門高校、長点上機学園の制服。美雪は最低でも15歳のはずだが
中学1年生で12歳の初春たちとほとんど身長が変わらない。
そして特徴的なメガネの奥はかなりの美少女であった。
メガネのせいで一目見た時には気付かないが、不釣り合いで大きなメガネでは
隠しきれないほど、とてもかわいい顔をしている。
メガネがなければ10人が10人、いや、100人が100人振り向くだろう。
「私は初春飾利といいます。よろしくお願いします。
あの、“西折”と言うことはもしかして・・」
「はい、そこにいる信乃の家族です♪」
「あ、私は佐天涙子です! 信乃さんにはいつもお世話になっています!」
「いえいえ、こちらこそ信乃と仲良くしてもらってありがとうございます♪」
「雪姉ちゃん、それじゃお母さんみたいだよ」
「別にいいでしょ、家族だしね♪」
「まったく・・」
御坂と美雪仲良く話した。
先日、会話の中で出てきた≪雪姉ちゃん≫という人物は彼女のようだ。
「そういえば、御坂さんと白井さんはどうしてここに?」
佐天は先程から思っていた疑問を言った。
答えたのは御坂。
「元々、私は雪姉ちゃんと会う予定だったのよ。信乃にーちゃんが風紀委員になった
ことを教えるためにね。黒子も風紀委員は休みだったみたいだから
3人で買い物しようと思ってたのよ。
そしたら、ちょうど公園で3人を見かけたから」
「私が1人で信乃を驚かそうと思って後ろについてたってわけ♪」
「そうだったんですか」
「ちなみに、わたくしと美雪お姉様はお姉様の紹介で前に何度か会ったことがありますの」
「そう♪ その時も同じように『琴ちゃん仲良くしてもらってありがとう』って
言ったら今みたいにお母さんみたいだって言われちゃった♪ あははは♪」
美雪は笑って、つられて御坂と佐天、初春と白井も笑った。
だが、信乃だけは先程から無表情で何もしゃべらないままだ。
美雪が現れてからずっと。
「ほら♪ 信乃もそんな無愛想な顔しないで笑ったら♪」
「・・・俺の勝手だろ・・」
信乃はめずらしく敬語を使わずにつぶやいた。
「・・すみません。私、用事があるのを思い出しました。
今日はこれで失礼させてもらいます」
「あ、信乃さん」
佐天の呼びかけも言い終わる前に信乃は背を向けて歩き出した。
空になったかき氷のカップも握りつぶし、ゴミ箱を見ずに投げ入れる。
普通であれば格好良い仕種だろうが、今の信乃には不機嫌さを強調する行動となった。
「雪姉ちゃん・・・避けられてるって本当だったんだね」
「ね、すごい避けられてるでしょ・・」
美雪には今までの明るいしゃべり方ではなかった。
「避けられてますの? もしかしてお2人は仲が悪いですの?」
「仲は悪くないですけど・・いえ、今は仲が悪くなるほど付き合いを持っていない
というべきかな、4年ぶりに再会して3度しか合ってないし。あははは・・」
美雪は乾いた笑いを浮かべた。
「どういうことですか?」
「そうですよ、信乃さんがあんな態度をとるなんで何かあったんですか?」
初春と佐天が続けて質問をしてきた。
「あんな態度の理由は、なんとなくわかるよ。
そうだね、うん。みんなは信乃と仲が良いみたいだし、知ってもらった方がいいね」
「でも、雪姉ちゃん・・・・みんなに話すのはちょっと重すぎないかな?」
「む・・・たしかに」
「だ、大丈夫です! 信乃さんは私達の大事な仲間です。
ちょっと重い話ぐらい平気です!」
「・・・・そっか」
美雪に返事をしたのは初春だったが、白井と佐天も同じ表情をして頷いている。
「わかった。話すよ。
信乃、西折信乃の過去の話をちょっとだけね・・」
美雪は静かに語り始めた。
「私と信乃はね、本当の兄弟じゃなくて幼馴染なの。
けど、8歳の頃に私達の両親が同じ事故に巻き込まれて、同じ孤児院に預けられた。
昔からよく私の相手をしてくれたけど、孤児院に入ってからは相手というよりも
世話をしてくれて本当のお兄ちゃんみたいだった。
あ、重いって話はここじゃないからね。
その時は両親がいなくなった寂しさよりも信乃に構ってもらったうれしさの方が
強く思い出に残ってるから、孤児院育ちとかは別に気にしないでいいからね。
孤児院の院長もいい人だったし、信乃も同じように辛い思い出じゃないと思う。
そして9歳の時、孤児院の院長さんが知り合いの教授に信乃を紹介してね、
信乃が学園都市に行くことになったの。
信乃は頭良かったから、その教授も『優秀だ!』ってかなり気に入っていたみたい。
私が学園都市に来たのも信乃が行くっていうからついてきたの。
そして、私達が11歳の時。
信乃は学園都市ですごい功績を出してね、そのことでヨーロッパに講演に行くために
飛行機に乗ったの。
そして、その飛行機が事故で落ちたの」
「「「え・・」」」
美雪と御坂以外の3人が息をのんだ。
御坂は当時のことを知っていたから反応は薄いが、それでも苦しそうな顔をして俯く。
「救助隊の話では生き残りは誰もいない。私にもそう教えられた。
もう、泣いて泣いて泣き喚いた。
今生きているのは琴ちゃんと鈴姉ちゃん・・琴ちゃんのお母さんの2人の励ましが
あって立ち直ったおかげなの。
あ、話がそれてごめんね。
死んだはずの信乃が今いるってことなんだけど、実は救助が来る前に信乃は
墜落現場からいなくなっていて、それで生きてると思われてなかったの。
墜落現場は内戦地域で、現地の人が乗客の物をいろいろ盗んだみたい。
身元を判別するための物もなくなっていたから子供一人がいなくなっても
気付かなかったのも当然かもね。
そして信乃は・・
墜落現場からいなくなった後、半年間は・・“いろいろと大変”だったみたい。
内戦地域で一人で生き残るために・・・手段を選べなかったって言っていた。
でもその後に偶然救助されて、その時に助けた人の援助で社会に戻れたみたいなの。
それで世界を回って事故から4年後の今、学園都市に用があって戻ってきたみたい」
美雪は話を止めて、4人に笑いかけた。
でも、4人はどう反応したらいいかわからない、そんな表情をしている。
「信乃は用事がなかったら学園都市に、私達に会いに来るつもりはなかったみたい。
信乃の性格だと、今更死んだ人間が出てきても迷惑かけるだけだと思ってるんだよ」
「そんなことないですよ! 死んだと思っていた人が生きていたら誰だって嬉しいに
決まっているじゃないですか!」
「・・ありがとう、佐天さん。でも、信乃は無駄に人に気を使うところがあるの。
そして、大切なものを失くすことをとても怖がっているんだよ・・」
「失くす、ですか?」
「うん。今さら死んだ人間が現れたら、驚いて迷惑かけて、それが理由で嫌われて
私達がいなくなったらって変なこと考えるのよ、あのバカは。
嫌われるくらいなら元から会いに行かない方が良いって思って、私にも琴ちゃん
にも会う気はなかったみたいだよ。
それに私を避けているのも、私が必要以上に信乃に関わってくるからなのよ。
琴ちゃんくらいに適度に、兄妹みたいに関わっていれば逃げないと思う。
それ以上で関わったら、4年間で変わった自分の嫌なところを見られて
嫌われるってね。
ほんと、バカだよ・・」
美雪はそう呟いて俯いてしまった。
「・・ってごめんね。こんな暗い話しちゃって。でも、友達って関係なら離れることも
ないと思うから、大丈夫だよ♪」
美雪は途中から明るい調子でしゃべった。
「ん・・そうだね。私もしゃべっていたら避けられたってことはなかったし、
避けられているのは雪姉ちゃんだけだし」
「あ~、ひどいよ琴ちゃん♪ でも、諦めないわ私は♪
信乃にいくら逃げられようと地の果てまで追っていくわよ♪」
「あはは、本当に信乃に―ちゃんのことが好きだね」
御坂と美雪はふざけたようにしゃべり、場の緊張が少しだけ弱くなった。
「ってことで皆様♪ 私の信乃をよろしくお願いします♪ 今の話を忘れてとは
言わないけど、出来れば今まで通りに相手してあげてください♪」
美雪は右手を伸ばして額に、敬礼してみんなに言った。
「・・ええ、わかりましたわ。昔は大変だったみたいですけど、今の信乃さんは
少しふざけた方ですので話しやすいですし問題ありませんの」
「そうですね! 信乃さんは信乃さんです! これまで通り話していきます!」
「うん! 私もそうする!」
「3人ともありがとうね♪ 琴ちゃんも再会直後みたいに緊張していないみたいだし、
たまにしか会えない私の代わりによろしくね♪」
「うん。任せて」
「私は私で信乃に会えるように、逃げられないようにしていくのでご心配なく♪
琴ちゃん、白井さんも信乃について何かあったら今度会う時にいろいろ教えてね♪」
「わかりましたの。4年間の溝を埋めるために協力しますわ」
「ありがとうね、白井さん♪」
5人にはもう暗い空気はなく、昔からの友達のように笑いあっていた。
つづく
「ちなみに、幼馴染なのに信乃と同じ名字なのは信乃が死んで泣いた後、立ち直る時に
私が勝手に名前を変えたの♪ 信乃のことを忘れないようにね♪」
後書き
オリキャラ登場。
作中で不明、疑問などありましたらご連絡ください。
後書き、または補足話の投稿などでお答えします。
皆様の生温かい感想をお待ちしています。
誤字脱字がありましたら教えて頂くと嬉しいです。
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