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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
  欺瞞と陰謀

天地を丸ごと乖離させるかのような、凄まじい音が鼓膜をつんざいた。

数秒膠着していたリーファは、やがてそれが何かの衝撃音だと気が付いた。急いで脇に回されていたカグラの手を振りほどき、制止の声を無視して今来た道を走る。

点を貫くようにそびえる地底都市ルグルーの巨門をくぐると、信じられない光景が眼に飛び込んできた。

後ろから追ってきたキリトとその肩に座るユイも、驚いて息を呑むのが見なくても分かる。


《空間》が、()()()()()


たった今、リーファ達が走って、いや抱えられて来た橋は、跡形もなく見る影もなくなっていた。

一応、《地形》オブジェクトに分類され、本来ならば一般プレイヤーには擦り傷一つ付けられないであろうそこは、あちこちにクレーターができ、さらには中心部でぽっきりと折れている。いや、あの断面からして切断されている、のほうが正しいのだろうか。

そこには、こちらに背を向けて毅然と立つ小柄な影。血色のフードコートに、漆黒のロングマフラー、レンだ。

その向こう側には、空中に線を引いたかのように、縦に亀裂が走っていた。

そう、《空間》というある意味最大のKEEP OUTなオブジェクト。それが、壊されていた。

まるで、強引に捻じ曲げたかのように、そこだけ《空間》が捻じ曲がっている。

驚いて、それをまじまじと見るうちに、リーファは気付いた。

その破壊の権化とも言える中心部に、淡い砂色の輝きを放つ命の残り火(リメインライト)が漂っていることを。

そこでリーファは、はてな?と頭を傾げた。

リメインライトのカラーリングは、その死んだプレイヤーの種族のシンボルカラーになる。例えば、リーファやレコンの種族であるシルフ族のリメインライトは緑、水妖精(ウンディーネ)だったら青という感じにだ。

追ってきたサラマンダーのシンボルカラーは赤。だとすると、あのリメインライトは誰のものなのだろうか。

リーファは頭の記憶を掘り返し、やっと分かった。

砂色のシンボルカラーは、確か土妖精(ノーム)のものである。かなり新米(ニュービー)の時、パーティーを組んだノームのことを思い出しながら、リーファの頭には更なる疑問が浮上した。

ノームは通常、最北にある、ルグルー以上の超巨大地底要塞都市を根城にしているはずだ。そこからアルンにでも目指すのならば、方向もルートも全然違うここに、一体何の用で現れ、レンと戦闘になったのだろうか。

領地を捨てた脱領者(レネゲイド)ということもなくもないが、それにしたってこんな素材だけが良質のところよりも、もっと良い狩場などいくらでもある。

解からない、解からない事が多すぎる。

まず最初に、ただの戦闘でどうやったら《空間》が割れるなんて事態になるのだろうか。

うーむ、とリーファが知恵熱を出している間にも、砂色のリメインライトは軽い揺らめきと共に音もなく消滅した。

今頃、あの主はノーム領へ《死に戻り》しているはずだ。

訳もなく漏れた吐息を聞きつけたのか、レンが閃光のごとき勢いで振り向いた。まぁ、これだけの戦闘を繰り広げていたのだから、気が張って警戒するのは無理もないかもしれない。

そう思って、リーファは強張りかけた顔に必死で笑みを貼り付けて、ひらりと手を振った。

すぐにリーファだとわかったようで、見たこともないような張り詰めた表情は、安堵のため息とともに溶け崩れた。

ひらり、と手を振り返してくれる。

そんな動作にも、訳もなく安堵し、肩の力をほっと抜いていたリーファは、レンが手を振るついでにキラリと空中に輝線を光らせて何かを回収しているのに気が付いた。

あまりに細いので、全く気付かなかったのだ。洞窟内に乱反射する光源がそれを浮かび上がらせてやっと気付いた。

駆け寄ってきたレンに、まずリーファは一番の疑問をぶつける。

「ね、ねぇ、レン君。そのほっそいのは何なの?」

「?」

何を言ってんだ?と言う風に可愛らしく首を傾げるレンに、それそれ、と袖口に吸い込まれていった物を人差し指で指す。

ああこれ、とレンは袖口に手を突っ込んで────

「あ、間違えた」

───…………見てない見てないッ!軽く痙攣してるナニカの足なんて見えてないッ!!

喉元まで出かかった悲鳴を必死に押し殺しつつ、リーファはブンブン首を振った。

だいたい、なんて物を袖口の中に入れているのだ。まさか大昔の漫画にあった猫型ロボット(ただし耳無し)のお腹のとこにあるポケットじゃあるまいし。

しばらくの間、袖口の中をぶつぶつ呟きながらかき回していると、なぜか袖口の中からガラガラガッシャンドッシャンなどという凄まじい音が聞こえてくる。

おかしい、絶対におかしい。

見た目は少し広いくらいなだけのただの袖口なのに、聞こえてくるのは明らかに重いものを運んでいる時のソレだ。

軽く、と言うか結構引いていたリーファだったが、はいこれ、と唐突にレンが差し出してきた黒いはんぺんのようなものに釘付けになった。

「な、なにこれ?」

「んーとね、分かりやすく言っちゃえば、これはメジャーなんだよ」

「メジャー?あの距離を測るときの?」

「そ。そのメジャー。ただし極限まで攻撃に特化したものだけどね」

「???メジャーでどうやって攻撃するの?」

リーファが問いかけると、紅衣の少年は漆黒のマフラーで半分以上隠されている口元を謎の微笑に歪めると、ふいっとリーファの背後に視線を向けた。釣られるように見、ギョッとした。

背後にいたキリトが、これまでに見たこともないほどの険しい顔で睨みつけていたのだ。その視線の先は、リーファを通り越して、レン。

硬く引き結ばれていた口元が薄く開き、そこから抑揚のない声が漏れ出た。

「レン……。お前は…、もしかして……………」

虚ろな声が空中に溶けるように消え去った後、キリトは軽く首を振ると、いやいい、と言った。

微妙な空気が流れた場の空気を入れ替えるように、キリトの肩に腰掛けていたユイが大きく咳払いをした。

「と、とにかく、これで任務(ミッション)完了ですね!早くルグルーに入りましょう!」

「あ、いや、ちょっと待って。ユイちゃん」

その声に、レンが待ったをかけた。

訝しげな顔をして結いとリーファ、カグラまでもがレンを見る。皆を引き止めた紅衣の少年は、強敵を倒したと言うのに浮かない顔をしていた。

「ちょっとリーファねーちゃんに頼みたいことがあるんだ」

「へっ?あたし?」

戸惑うリーファが視界の中に入っていないがごとく、レンは淡々と言葉を紡いだ。

「サラマンダーに追われるちょっと前に、メッセージが届いてたでしょ?あれを確認してもらいたいんだ」

「…………あ」

リーファは思わず口をあんぐり開けた。すっかり忘れていた。

いや、まぁこんなイレギュラーな事態の真っ只中に放り込まれて、友人からの些細なメッセージをいちいち覚えているほうがおかしいとは思うのだが。

慌ててウインドウを開き、履歴を確認する。

レコンからのメッセージは、しかし改めて読んでもさっぱり意味が読み取れない。回線がトラブって途中で切れたのかとも思ったが、それにしても続きが届く気配もない。

ならばと思い、こちらからメッセージを打とうとすると、フレンドリストのレコンの名前はグレーに消灯している。すでにオフラインになっているようだ。

「何よ、寝ちゃったのかな」

「一応向こうで連絡とってみたら?」

キリトの言葉に、ううむと考え込む。

正直、現実世界にアルヴヘイムのことを持ち込むのは好きではなかった。

ALOのコミュニティサイトにも一切出入りしていないし、レコン────長田慎一ともリアルでゲームの話はほとんどしていない。

しかし、謎のメッセージにはどこか引っ掛かるものがあるのもまた事実だった。

「じゃあ、ちょっとだけ落ちて確認するから、とりあえずルグルーの中に入ろうよ。安全とは言っても、まだここは圏外なんだし」

リーファの言葉にわかった、とレンは頷き、すたすたと歩き出した。

眼前には、巨大な石造りのゲートが遥か地下空洞の天井までそびえ立っている。鉱山都市ルグルーの城門だ。

思いがけない大規模戦闘で時間を取られ、リアル時刻はすでに深夜零時近い。

並んで城門をくぐると、BGM代わりのNPC楽団の陽気な演奏と、幾つもの槌音が一同を出迎えた。

街の規模はそう大きくはない。だが、中央の目貫通りを挟むようにそびえる岩壁に、武器防具や各種の素材、酒や料理などを商う店やら工房が積層構造を成して密集している様は見事なものだ。

プレイヤーの数も思ったより多く、普段出会うことの少ない音楽妖精(プーカ)族や鍛冶妖精(レプラコーン)族といった種族のパーティーが談笑しながら行き交っている。

「へえぇー、ここがルグルーかぁー」

リーファは、初めて目にする地底都市の賑わいに思わず歓声を上げると、早速手近な商店の店先に飾られた剣の陳列棚に取りつ────

「リーファねーちゃん!」

────こうとして、レンに引き止められた。

「わ、わかってるわよ」

慌てて目線を魅力溢れる剣達から引き剥がしたが、レン達のジト目が突き刺してくるように感じられる。

うぅ、と反省し、近くにあったベンチに座って早々に退散することにした。

左手を真下に振り、現れたメニューウインドウの一番下にあるログアウトボタンを押し、目眩に似た感覚を味わいながら遥か彼方のリアルワールドに向けてリーファは意識を浮上させていった。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「ルグルー編も終わって、次は襲撃阻止かな?」
なべさん「そだね。ALO編全体から見たら、やっと半分くらいかな」
レン「いやー、半分もいかないでしょ。ヨツンヘイム編があんだから」
なべさん「あー、そっかそっか。あれがあったか、んじゃあ三分の一ってとこか」
レン「まぁ、そだね」
なべさん「よし、なら残り三分の二ちゃちゃっと書こう」
レン「ちゃちゃっと書くなよ。きっちり書けよ」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいー!」
──To be continued── 
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