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東方守勢録

作者:ユーミー
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第八話

正面ゲート付近


「押し始めたわね」

「そうですね」


壮絶な攻防戦が行われていた正面ゲートも、徐々に霊夢たちが優勢に立ち始めていた。

絶えず行われる弾幕攻撃。それにあわせて不意をつく格闘攻撃。革命軍は体力や兵力だけでなく、精神力や集中力までもが失われていた。


「被害甚大! このままでは押し切られます!」

「かまわん! われわれの任務はただの時間稼ぎだ。やれるところまでとことんやりつくせ!」

「了解!」

「負傷者は後ろに下げろ! 衛生兵は治療に当たれ!」

「了解しました!」


窮地に追いやられている革命軍だが、軍としての意地だろうか連携だけは衰えることがなかった。

負傷者は大勢出ているものの、死者だけはでていない。霊夢達が手加減をしながら戦っているのもあるが、この連携力がひとつの要因だろう。

気を緩めては状況を打開されるかもしれない。霊夢達は再び気を引き締めていた。


「しかし……」

「最上階が気になりますね……」


数分前に起きた爆発と瓦礫の落下以来、最上階では何の変化も見られなかった。すでに決着がついているのか、あるいはまだ戦闘が続いているのか、ここからは確認の仕様がなかった。


「俊司さん達無事だといいんですが……」

「それに……紫が言ってたことも気になるしね……」

















それは昨日の夜のことだった。

紫は俊司以外の選抜メンバーを、ある一室に呼んでいた。


「で? 話って何よ。明日の作戦とか?」

「いいえ。俊司君のことよ」

「俊司さんのですか?」

「ええ」


紫はなぜか真剣な表情をしたまま答えた。


「最近……変だと思わないかしら? 俊司君」

「変……ですか?」

「……普段そんな感じはしねぇけどな」

「なにか不自然なのよね。それで……思ったんだけど」


紫は一度間を空けて、再度話を続けた。


「俊司君……復讐でも考えてるんじゃないかしら」

「……」


部屋の中を静寂が駆け巡った。

確かに、幼馴染を殺された俊司なら考えないこともないことだ。だが、あのやさしい性格の俊司が復讐しようとするのも考えがたい。

誰もが言葉を失っていた。


「……あの」


そんな中、口を開いたのは妖夢だった。


「どうしたの妖夢?」

「……紫様の言ってることは……間違っていません」

「!」


妖夢の一言に周囲が凍りついた。

妖夢はまだ言うのをためらっているのか、少し手を震わせていた。だが、大きく深呼吸をすると、覚悟を決めたかのように話を続けた。


「前に俊司さんに復讐ってどう思うか……聞かれたことがあるんです。最初は何がなんだかわからず不振に思っていたんですが、もしかしてと思いまして直接聞いてみたんです。復讐しようとしてるんですか……と」

「それで?」

「……否定はされませんでした」


そういって妖夢はうつむいた。

紫ははあと溜息をついていた。ほかの人もどうリアクションをすればいいかわからず、表情が固まっている。

またしても、少しの間静寂が漂っていた。


「……決意は固かったの?」

「反対しても……意志を曲げようとはしませんね」

「そう……なら、仕方ないわね」


紫は再度を溜息をつくと、再び真剣な表情に戻した。


「このことは俊司君には内緒にしましょう」

「そうね……」

「……彼を全面的にバックアップしましょう。それ以外……私達にできそうなことはないわ。いいわね?」


一同は何も言わずにコクリとうなずく。その後、何事もなかったかのように部屋を出て行くのであった。



















「……」


霊夢は、穴の開いた最上階を見ながら思いふけっていた。


「……霊夢さん?」

「えっ……ああ、ごめん文」

「心配するのはわかりますが、今はここに集中しましょう。中には紫さん達もいるんですから」

「そう……ね。わかったわ」


そういって、再び前を向き札を構えるのであった。






















4階 階段付近


「……」


機械の残骸が散らばる中、妖夢は剣を下ろした状態でたっていた。


「……これで全部ですね」

「妖夢!」


溜息をついていると、3階で奮戦していた紫が敵を全滅させて駆けつけて来た。


「紫様……」

「やっぱり……この階もいたのね……ところで俊司君は?」

「……最上階で交戦中です」

「そう……じゃあ私達も……」


と言いながら階段に足をかける紫だったが、


「きゃっ!?」


例の魔法によって吹き飛ばされていった。


「紫様!!」

「いった……なにが……」

「ここは魔法によって俊司さんしか通れなくなってます。ですので……私達は……」

「……」


これ以上できることは何もない。

二人はただただ最上階に続く階段を見ることしかできなかった。























「うらっ!」

「くっ!?」


最上階では以前と激しい肉弾戦が行われていた。


「まだまだ!!」

「ちっ!」


続けざまに攻撃を続けていく俊司。そんな彼に圧倒されはじめたのか、クルトはひたすら防御に徹していた。


(スピードも威力も増してる? まさか……発動中に感情が変化しても反映されるというのか!?)

「もういっちょ!!」


俊司の攻撃を間一髪でよけるクルト。だが、すこしずつ劣勢に向かっているのはたしかだった。

だが、優勢なはずの俊司ですらあせりの色を浮かばせていた。


(もうすぐスペルカードがきれる……そしたら残されたては……)


スペルカードの発動がきれる時間まで来ていた。

スペルカードの能力がなければ、肉弾戦での勝機は薄くなる。それに、残っているスペルカードも『コンバートミラー』と『科学で証明されし弾薬』の二つ。

残されたチャンスは少ない。心臓の鼓動が徐々に早くなっていった。


(肉弾戦では次でラストか……ここで決めれば……)

(時間的にそろそろか……次で決めてくるだろうし……ここで決定打を加えれば!)


1秒2秒の間が10秒にも20秒にも感じ取れる。あたりを静寂が埋め尽くした。

チャンスをうかがう二人。緊張感があふれ出してくる。


「……くっ!!」


先に動きだしたのは俊司だった。


(右からフェイント入れてたたく!!)

「……」


予定通り、俊司はクルトの右側からフェイントを入れると、即座に切り替えて顔面を攻撃しようとする。


(もら……!?)

「ここでフェイントはアマチュアだな」


きれいに顔面を捉えたはずのこぶしは、そのまま宙をきった。

さっきまで目の前にいたはずのクルトは、すでに残像となっていたのだ。背中から冷や汗が吹き始める。

それと同時に背後から重い衝撃が駆け巡った。


「あ……っがあ!?」


そのまま思いっきり吹き飛ばされる俊司。


「軍人を甘く見ないほうがいい。少なくとも俺はな」

「くそっ……」

「時間だな。これで君の身体能力は元に戻る」

「……」


絶望的だった。

もはや俊司に打つ手はほとんどない。だが、魔力が残っているクルトはまだ攻撃ができる。


「さあ! 終わりにしよう!!」


そういってクルトは俊司に向けて走り始める。


















だが、俊司はこんな絶望に直面しても、なぜが笑みを浮かべていた。












「!?」


変換『科学で証明されし弾薬』


「いけっ!!」


俊司はスペルカードを発動させた瞬間、地面に向けて発砲する。それと同時にフラッシュバンの爆発と同じくらいまぶしい光が、クルトの目を襲った。


「しまっ……くそっ!!」


即座に魔方陣を描き地面に設置する。10秒後、神秘的な光とともに、クルトの目に視界が戻ってきた。

















同時に、懐に少年の姿を映しながら。











「!!」

「もらったあああ!!」


俊司はそう叫びながら右手に持ったナイフを突きつける。











そのまま、銀色のナイフはクルトの腹部を貫いていった。








「あがっ……」

「はあ……はあ……」


脱力したクルトを、ナイフを突き刺したまま思いっきり突き飛ばす。


「紙一重の戦い……だった」

「まだ終わってないけど?」

「!?」


地面に倒れたクルトは、安堵の溜息を漏らす俊司に向けてそういった。痛むはずの体に鞭を入れるようにしながら、クルトはゆっくりと起き上がる。

だが、もう抵抗できるはずがない。そう思っていた。


「僕はまだ死んでないよね?」

「ああ……でも、それだけ深く刺したら抵抗なんてできるわけがない。あきらめたほうが……」

「……ふっ」

「何を笑って……!?」


一瞬笑みを浮かべたクルトの背後から、青白い光が発せられた。俊司は何が起きたのかわからず、ただただ呆然としている。


「想定内だな」

「なっ!?」


そういって再び笑うクルト。俊司は何か危険を感じ、臨戦態勢を整えていた。

















そんな彼の四方八方から、半透明の触手が近づいていたにもかかわらず。










「えっ! うわあ!?」


突如体に異変が起きたかと思うと、急に手足が動かなくなっていた。何度も力を入れるが、びくともしない。

そんな彼に、クルトはゆっくりと近づいていった。


「もとより死ぬ覚悟だった。だが……ただで死ぬつもりはないんだよ」

「くそっ」

「僕をしとめたら君は油断する。そう思って仕込んでおいたんだよ……見事にはまってくれたね?」


クルトは俊司の目の前に立つと、自分の腹部に刺さっていたナイフを無理やり引き抜いた。


「あ……」

「そう……旅は道連れ世は情け……だろ?」


クルトは刃先をゆっくりと俊司に向ける。

俊司の額から一気に冷や汗が噴出していった。


「これで……正真正銘のチェックメイトだ!!」

















クルトがそう叫んだと同時に、俊司の体にナイフが突き刺さっていった。 
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