機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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番外編
番外編3:地上本部攻防戦
第1話
公開意見陳述会を翌日に控え,フォワード陣に先んじて地上本部へと到着した
はやて・なのは・フェイトの3人は,地上本部の警備責任者の元に向かった。
地上本部に入り,エレベーターに乗り込み扉が閉まったところで,
なのはがはやてに話しかける。
「ものものしい警備だね。はやてちゃん」
「そやね。けど,実際にどれだけの高ランク魔導師が配備されとるかは
未知数やから,油断はできんよ。ただでさえ地上本部の魔導師は
本局に比べたら貧弱やから・・・」
はやての言葉にフェイトは頷く。
「そうだね。まして,ガジェットだけじゃなく戦闘機人が襲ってくる可能性も
高いわけだし。いくら数がいても,攻撃が通用しないんじゃ意味ないから」
フェイトがそう言ったところで,エレベーターの扉が開いた。
3人は背筋を伸ばし,目的地である警備本部に向かって廊下を歩く。
途中ですれ違う地上本部の職員は,3人をじろじろと見ていた。
[ねえ,はやてちゃん。私たち,歓迎されてないね]
なのはははやてに向かって念話で話しかける。
[そやね。明らかに歓迎されてないね]
はやてはなのはの言葉に首肯する。
[私たちが本局の人間だからかな?]
フェイトの言葉にはやては首を振る。
[というより,小娘どもがこの忙しいときになにしとんねんって感じちゃう?
一応,陸士の制服を着とるんやし]
そんな会話を交わしていると,警備本部の置かれている会議室の前に到着した。
3人は扉を開くと,あわただしく立ち働く人々の間を縫って進む。
一際大きな声が響くところに来ると,大声で次々と指示を出す警備司令の
姿が見えた。
3人は警備司令に近づくと,揃って敬礼する。
「機動6課の八神2佐です。警備に参加するため参りました。
指示を頂けますか?」
はやての言葉に壮年の警備司令は訝しげな表情で3人を見ると,傍らに立つ
若い女性士官に向かって機動6課の配置を確認する。
「御苦労。機動6課の配置は東側の緑地帯だ。場所は判るな?」
はやてが頷くと,警備司令ははやて達3人に背を向ける。
「すいません。全体の警備計画についても資料を頂きたいんですけど」
はやてがそう言うと,警備司令はいかにも面倒だと言わんばかりの表情で
はやてを見る。
「なぜそのようなものが必要なのだ?貴官らは持ち場を守っておればよい」
警備司令はそう言ってはやて達を追い払おうとするが,はやては食い下がる。
「ですが,全体の警備計画を知らないことには,私たちの役割を十全に
果たすことはできません」
はやての言葉に警備司令ははやてを睨みつける。が,はやても負けじと
警備司令をにらみ返す。しばらく無言の攻防が続いたのち,折れたのは
警備司令の方だった。
警備司令は小さくため息をつくと,先ほどの女性士官に計画書を渡すように
言うと,奥へと歩いて行ってしまった。
女性士官ははやてに計画書を手渡すと,済まなそうな顔ではやてを見た。
「申し訳ありません。司令も普段はあんなことを言う方ではないのですが」
「いえ。これだけ大きな警備の全責任を負われてるんですから,
普段よりも気が荒くなるんは当然やと思いますんで。
では,ありがとうございました」
はやてがそう言うと,3人はそろって会議室を後にした。
再びエレベータに乗り1階に戻った3人は,ロビーの一角で警備計画を
確認していた。
「これは・・・問題アリアリやな・・・」
はやては警備計画を一通り眺めると,ため息をつきながらそう言った。
「そうだね・・・。Aランク以上の高ランク魔導師がほとんど配備されてない」
フェイトも首を振りながらそう言う。
「飛行型ガジェットも来る可能性が高いのに防空隊が全然いないよ・・・」
なのははなのはで,肩を落としながら吐き捨てるように言った。
「地上本部のスタンスとしては,襲撃なんてもんは無いもんとして考えとる
としか思えんくらいの穴だらけの計画やね。人数だけは揃えたみたいやけど
いざ戦闘になった時に使える要員が少なすぎるわ・・・。
確かにこれまで地上本部を襲撃しようなんてもんはおらんかったけど,
昨今の状況を考えたら,甘すぎる判断やで・・・」
「どうするの?はやて」
フェイトがはやての方を見ながら尋ねる。
「どうするも何も,私らかて使える戦力は限られるからな・・・。
とりあえず今日のところはみんなで各所をチェックして,気になるところには
サーチャーを設置するぐらいやろうね。明日になったらリインが来るから
戦闘になったら,リインに索敵をやってもらうつもりやけど,それにしたって
限界はあるからな。今のうちに打てる手は打っとかんと」
はやての言葉になのはとフェイトは頷く。
「そうだね。じゃあ私は地下の方を見て回ってくるね」
「じゃあ,私は地上本部の周辺かな」
「頼むわ。私は会場の中をチェックするから・・・。
はあ,今日は徹夜やね・・・」
そうして,3人はそれぞれの場所へと散って行った。
翌朝早く,再び地上本部のロビーに戻ったなのはとフェイトは,いずれも
疲れた表情でソファに座りこんでいた。
「・・・どうだった?フェイトちゃん」
「地下の方は特に警備が薄い・・・というか何にも対策が取られてないから
地下水道とか配電網に近いところは念いりにサーチャーを仕掛けてきたよ。
おかげでちょっと疲れちゃったかな・・・。なのはは?」
「私の方はそれなりに地上本部も監視網は整ってるからね,警備の死角とか
そういうところを見つけてはサーチャーを置いてきたよ」
なのはとフェイトがお互いの状況を報告しあっていると,はやてがやってきた。
「なのはちゃんもフェイトちゃんもお疲れさんやね。どないやった?」
はやてに尋ねられた2人が先ほど2人で報告しあったのと同じ内容を
はやてに話すと,はやては小さくため息をついた。
「地下はやっぱりなんも対策なしか・・・。なのはちゃんの話を聞いてる
限りでは地上の警備もお粗末みたいやし・・・。
ごめんな・・・要らん苦労させてしもうて」
はやてが肩を落としてそう言うと,なのはとフェイトは首を振った。
「別にはやてが悪いわけじゃないよ。それに要らない苦労だとは思ってないし。
昨夜の苦労はきっと報われるんじゃないかな」
「そうだよ,はやてちゃん!それにはやてちゃんだって,中でいろいろ
見え回ってたんでしょ?」
「ま,そうやけどね。中は中で問題だらけやったよ・・・。何より問題なんは,
会場内にデバイスを持った魔導師が一人もおらへんことやね」
はやての言葉になのはは目を見開いた。
「一人も!?それでどうやって警備するつもりなの!?」
「なのはちゃんの言うとおりやねんけどな・・・。地上えらいさんらの
考えることはようわからへんわ・・・」
はやては肩をすくめてそう言うと,何かを思い出したかのように手を打った。
「そういえば,さっきこんなんもろたんやけど,2人とも要る?」
はやてはそう言って,昨今ミッドで盛んに宣伝されている栄養ドリンクの
ボトルを3本取り出した。
「うぅ・・・。私たち,まだ二十歳にもなってない女の子なのに・・・」
「ん?じゃあなのはちゃんは要らんねんな?」
はやてはなのはの言葉に対して,悪戯っぽい表情を浮かべながらそう返した。
「い、要るよ!」
なのははそう言うと,はやてからひったくるようにボトルを1本掴むと
キャップを開けて,一気に飲み干した。
「うん!だいぶ元気になったよ!」
「それはよかったけど,さっきのなのはちゃんの姿をゲオルグくんに
見せたりたいわ・・・」
「だ,ダメだよ!はやてちゃん!」
そんな風になのはとはやてがじゃれている横で,フェイトは我関せずと言った
表情で,どこからとりだしたのかボトルにストローを差し,栄養ドリンクを
吸っていた。
「こんなふうに今日が終わればいいのに・・・」
フェイトは栄養ドリンクを飲み終わると,相変わらずじゃれているなのはと
はやての方を見ながらつぶやいた。
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