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戦国異伝

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第百二十八話 促しその三

「そうするぞ」
「畏まりました」
「まあ、戦にならねばよいな」
 信長は腕を組み己の望みを述べた。
「兵を動かすのはあくまで最後の最後じゃ」
「動かさずに済めばですな」
「人も死なぬし銭や飯も使わぬ」
 だからいいというのだ。今度は森に話す。
「御主達の褒美も政で見るしな」
「だからですな」
「さて、朝倉がどう出るか」
「おそらくですが」
 池田が畏まって言ってきた。
「朝倉義景の気質を考えますと」
「織田家には従わぬな」
「とかく誇り高き御仁、ましてや格下の織田家になぞ」
 従わぬというのだ。
「そうなるでありましょう」
「そうじゃな、まあそれでもじゃ」
「上洛を促して」
「越前の守護に任ずる」
 義明がするが実は信長がそうするのは明白だ、そしてそれは即ち義景が信長に臣従することに他ならない。
 そしてそれからだ。
「公方様との文のことも問い詰めよう」
「それもですな」
「そうすれば公方様も今後かなり動きが弱まる」
「してそれから」
「あの妖僧共も佞臣として一気に幕府から追いやり」
 妖術を使うことが考えられる、それではだった。
「それからその時点で妖術の破り方がわかればよい」
「それがわからねば」
「わかってから追っ手をやり成敗する」
 ここまでが信長がこの時点で考えている段取りだ。
「ではな」
「早速越前に文を送りましょう」
「そうするとしようぞ」
 こうして信長は即座に朝倉家に向けて文を書いた、それはすぐに越前一乗谷城にいる義景のところに届いた。
 瓢箪の様な頭をしている、やけに後ろに長い。そして全体的に白くひょろ長い感じだ、その彼が信長の文を見て言うのだ。
「何じゃこれは」
「織田殿の文は何と」
「何と書いてありますか」
「わしを愚弄するにも程があるわ」
 その瓢箪の様な顔のこめかみをぴくぴくとさせて言う。
「わしは誰じゃ」
「はい、この朝倉家の主です」
「朝倉義景様です」
「そうじゃ、朝倉家は斯波氏の直臣の出ぞ」
 主である彼も強く意識していることだった。
「それがどうして神社の神主風情に従えようか」
「ですが殿」
 義景の傍らに控える老人が言って来た、見れば宗滴である。
「今や織田家は二十国を領有しその石高は七百六十万石ですぞ」
「大叔父上、そう仰るか」
「はい、とても相手になりませぬ」
 あえてこう義景に言うのだ。
「相手が悪過ぎます」
「ではどうしろと言われるのじゃ」
「ここは従いましょう」
 こう言ったのである。
「そうすべきです」
「しかしじゃ」
 義景はまだ言う。
「それはのう」
「出来ませんか」
「無理じゃな」
「しかしです」
「大叔父上、何度も言うが」
「織田家にはですか」
「朝倉家は膝を屈することは出来ぬ」
 これはどうしてもだというのだ。 
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