『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』
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第二十九話
結局のところ、伊丹は首を縦に振らなかった。
それもそのはずである。性根が腐っている伊丹でも日本帝国陸軍軍人なのだ。
命令違反をすれば軍法会議ものだ。銃殺刑など嫌なのだ。
本音を言えば行きたくない。西洋の本を読んでいるからある程度の事はドラゴンについては分かっている。
分かっているから行きたくない。だが、上からの命令であれば行くしかない。
それが今の伊丹の気持ちだ。
「おとうさん♪」
伊丹はここ三日程、仮設住宅と基地を往復している。それはテュカのためである。
伊丹自身もこのような事をしていてはテュカのためにならないのは分かっている。
「……はぁ……」
どうしようもない事に伊丹は溜め息を吐くのであった。
――特地派遣司令部――
「では準備は完了しているのだな?」
「はい、何時でも行けます」
今村司令官の言葉に柳田大尉はそう報告をした。
炎龍の写真は既にある。これは偵察のためにエルベ藩王国に飛び立った十三試艦爆(後の彗星)がたまたま写真撮影に成功したのだ。
この十三試艦爆は試作機の三号、四号機が特地に派遣されていた。
「戦力はどれくらいかね?」
「歩兵は三個師団で海軍陸戦隊も三個大隊、二個戦車連隊、二個砲兵大隊です」
第三偵察隊の戦訓として師団には九二式歩兵砲や四一式山砲を多数携帯している。
戦車連隊はチハやハ号が主体であるが本当の主体は一式自走砲である。
この一式自走砲は全部で二十両が完成して特地に派遣されていた。中にはチハの車体を特地に持っていき、現地で九〇式野砲とくっ付けた車両もある。
砲兵隊は九六式十五サンチ榴弾砲、九一式十サンチ榴弾砲、九〇式野砲、三八式野砲である。砲兵隊は遠距離からの射撃となる。
また、エルベ藩王国との国境付近には臨時飛行場が設営されて海軍航空隊が進出していた。
「エルベ藩王国には言っているな?」
「勿論です。デュラン殿の工作のおかげで通行は可能です。まぁそのために部隊を派遣しないといけないのが難点ですが……」
今村司令官とデュランとの会談でデュランは王子に乗っ取られたエルベ藩王国の救出を願い出た。
勿論、ただでとは無く、代わりに金銀銅等貨幣に用いる鉱物以外の地下資源一切と免税特権を日本側に取り付けた。
日本側も悪い話ではないが、お家騒動に巻き込まれるのは嫌だった。
が、大本営は味方が増えるなら大丈夫だろうと判断して新たに特地に二個連隊と戦車一個中隊を派遣した。
これはエルベ藩王国のお家騒動のための部隊でもあった。
「まぁ仕方ないだろう。炎龍を退治するのは利害一致しているのだ」
今村司令官はそう言った。
「ところで、先に現地へ先行隊を向かわせたいのだが……あの部隊でいいだろう?」
「……伊丹大尉の第三偵察隊ですか?」
「そうだ。今、派遣軍の中で現地人と仲が良いのは伊丹大尉だからな」
「分かりました、そう伝えておきます」
「それと糧食は五人分増やしてくれ」
「……司令官、まさかとは思いますがあの五人を……」
「うむ、第三偵察隊に特別に組み込ませる。本人達からの願いでな」
「宜しいのですか?」
「現地の判断だ」
今村司令官はそう言ったが、実際に五人の願いではなくロゥリィの脅しであった。
「私達ぉ、仲間外れにするつもりぃ?」
流石の今村も断ろうとしたが、ハルバートに突きつけられては首を縦に振るしか出来なかった。
「(八百万の神々までには匹敵するかは分からないが、神であるからな。天罰など受けたくない)」
そう思う今村司令官であった。
「第三偵察隊は準備が出来次第、直ちに出発せよ」
「分かりました」
柳田は今村に敬礼をして退出をした。
「伊丹大尉以下、第三偵察隊は案内人と共に出発し炎龍討伐隊の先行偵察をせよ」
「命令ですか?」
「命令だ」
「……分かりました。直ちに出発準備をします。明朝0530に出発します」
「今村司令官にはそう伝えておく」
柳田はそう言って部屋を出た。部屋には伊丹と樹がいる。
「第三偵察隊の中にはロゥリィやヒルダ達もいますな」
「……一枚噛んでたかもな。摂津、悪いけど準備頼む」
「了解です大尉」
樹は伊丹に敬礼をして退出して水野達を召集する。
「炎龍討伐の先行隊ですか……」
「あぁ、恐らく炎龍と戦闘するかもしれない。二人とも、今のうちに遺書を認めた方がいい」
「………」
「どうした水野?」
水野の表情は浮かなかった。
「いえ、何でもありません。中尉、自転車を借りてもいいですか?」
「構わんよ。では解散」
三人はその場で解散し、水野は自転車を借りてアルヌス共同生活組合の仮設住宅へ向かった。
「こんにちわ」
「あら、ミズノさん。いらっしゃい」
とある一軒の仮設住宅のドアをノックして(ノックした方がいいと伊丹から説明された)、中からあの時に保護したエルザさんが出てきた。
「……お話があります」
「……分かりました。どうぞ中へ」
真剣な表情をした水野にエルザは水野を中へ招いた。
「それで話とは……」
コップに入った水を水野に差し出す。【BGM:防人の詩】
「……自分は炎龍討伐隊の先行偵察隊への配属となりました」
「ッ!?」
水野の言葉にエルザは驚愕した。
「この事は軍機ですので誰にも喋らないで下さい」
「……行くのですか?」
「……はい」
「お願いです。生きて……生きて帰ってきて下さいッ!!」
エルザはそう言って水野に抱きついた。対する水野もエルザを抱き締める。
「……そういう事か……」
「……水野を外しますか?」
外では樹と片瀬が聞き耳を立てて聞いていた。何か怪しいと思った二人が尾行していたのだ。
「いや、外しても水野は言うことを聞かん。行かせるよ」
「まぁ……偵察だけですからねぇ」
片瀬はそう言った。そして明朝0530に第三偵察隊は案内人であるヤオと共にアルヌス基地を出発したのであった。
後書き
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